コラム

2018年4月25日更新

排泄の個別ケア

 
個別ケアとは?

個別ケアの歴史を見てみると、1990年代にイギリスの心理学者トム・キットウッド氏が提案した認知症介護の考え方であるパーソン・センタード・ケア(その人を中心においたケア)にあるといわれています。
それは、施設介護は、食事、排泄、入浴といった一斉一律の集団的ケアになりがちになるところを、ご利用者様一人ひとりに目を向け、その人が今、何をどのように感じ、何を求めているかを理解して、「その人らしい暮らし」を支えるケアというものを中心にして考えるというものです。
例えば、ご利用者様がみんな同じ時間に起きて、同じ時間に食事をし、一定の時間になったらおむつ交換をするといったケアは、本当の意味でご利用者様の暮らしを支えることにならないかもしれません。
業務優先のあまり、ご利用者様に残されている機能(残存機能)を使わせないことや、こども扱いすること、無視や強制、後回しにすることなどは、ご利用者様の尊厳を傷つけることにもなりかねないということを理解する必要があります。

 
ユニットケアは個別ケア実現のための手段

施設において個別ケアを実現するための手段として導入されたのがユニットケアです。
ユニットケアとはご利用者様を10人程度のグループ(ユニット)に分けて固定のスタッフ様を配置し、ご自宅に似た居住環境を整えてケアをすることです。
ユニットケアの原点は、「介護が必要な状態になっても、ごく普通の生活を営むこと」です。あくまでも個別ケアを実現するためのハードウェアであって、個別ケアで大切なことはソフトウェアの部分なのです。

 
個別ケアに取組むにあたって大切な5つのこと

①ご利用者様一人ひとりにあった介護が提供できるよう、スタッフ様一人ひとりも介護技術を高める
②ご利用者様一人ひとりが施設の中で、自立した暮らしを送ることができているか考える
そういった疑問をスタッフ様一人ひとりが持つことで組織として実践できることが出てくるはずです。
例えば、排泄ケアに関しても定時排泄は必要なのだろうか?寝起きの時間は全員同じなのだろうかといったことです。
もちろん、施設の中での一定のルールはありますから、そのこと自体を変えるものではありません。少しだけスタッフ様主体の管理になっていないだろうか?と考えていただきたいのです。 
③ご利用者様が少しでも自立できる環境づくり
施設は、言うまでもなくご利用者様にとっての生活の場です。入所前は、寝室・食事をする場・くつろぐ場があり、トイレ・お風呂・台所がその周りにあるという生活を送ってきたはずです。しかし、施設において、認知力や足腰の力が低下しているご利用者様は、トイレまで距離があると、トイレに行こうとしても実行することが困難になります。トイレで排泄しようという意思があっても間に合わなかったばかりに失禁をしてしまった、ということがあればご利用者様の自尊心を傷つけてしまうこともあります。トイレまで時間がかかるようであれば早めの声がけを試みたり、夜間であればポータブルトイレを利用してみるなどの工夫が必要です。
④ご利用者様の生活をサポートできるチームづくり
ユニットケアに代表されるように少人数でのケアをしようと人数だけにこだわってしまうと、本来の意味での個別ケアとは程遠いものになってしまいます。ご利用者様は、排泄をしたい時にトイレへ行きたいはずですし、眠たくなった時間にベッドに入りたいはずです。スタッフ様のシフトの関係や人員配置によってそれが叶わないとなれば、ご利用者様とスタッフ様の信頼関係も築けないことになってしまうかもしれません。仕事分担等を柔軟に考慮しながらチームとして取り組むことが大切になります。
⑤施設様全体として個別ケアの意味を理解し、ご利用者様一人ひとりの尊厳を守るという意識付けが必要です。自分たちのペースで業務を展開するのではなく、ご利用者様のペースでサポートするという意識をもつことが、「その人らしい暮らし」を支える施設となるために大切です。

 
排泄の個別ケアが生活全体を見直すきっかけに

まずは、排泄の個別ケアからはじめてみてはいかがでしょうか。それが、ご利用者様の生活全体を見直すきっかけになるかもしれません。ご利用者様一人ひとりのお身体や排泄の状況を把握し、残存機能を活かして何ができるか、ご利用者様は何を望んでいるのかをチームとして考え、取り組んでみましょう。
望んでおむつに排泄したいと考えているご利用者様は少ないはずです。排泄したいタイミングでトイレまで行けて、座ることができるならば、トイレで排泄したいとお考えになるでしょう。
例えば、尿失禁があれば、その症状を把握することから始めます。また要因を取り除くことで改善できるかどうかを見極め、連携している医師と相談をして治療や薬を使います。特にご高齢者の場合、尿路感染症などによる残尿感から頻繁に尿意を訴えたりすることもあります。治療をすることでご利用者様のQOL(生活の質)が改善することもあります。
失禁のタイプを見極めるのに有用な方法は、24時間の排尿時間、排尿量を2~3日記録することです(排泄記録表のダウンロードはこちら)。1日の飲水量、飲水の時間、種類なども一緒に記録すると排尿量との関係が見えてきます。また、トイレに誘導する時間設定にも大変役にたちます。
ご利用者様の中には、既往症からお身体に麻痺があったり、尿意があってもうまく伝えられなかったりすることもありますから、記録から見出した排尿時間の少し前にお声をかけてトイレにお誘いします。
トイレに座り、座位を保持することが難しいようであれば、施設内の理学療法士(PT)の方と連携して体を動かすリハビリや訓練の協力を仰ぎ、多職種連携のチーム力でご利用者様の思いを少しでも叶えることができると、更にスタッフ様とご利用者様の信頼関係が深まると思います。
もし、このようにご利用者様と向き合った結果、トイレで排泄したいという思いが叶った場合は、必ずご利用者様に関わるスタッフ様全員で情報を共有することが大切です。
関わるスタッフ様によって対応が違うと、ご利用者様が混乱してしまうためです。

 
【事例】ユニット内の連携 カンファレンスを活かす

あるご利用者様は、30分に1回の頻度でスタッフ様にトイレに連れて行って欲しいと訴えていましたが、実際にトイレに座っても排尿がないこともありました。
しかし、ご本人の大好きな歌手の歌番組を見ている間は、トイレの訴えがないのです。
カンファレンスの中では、何かに熱中している間は、トイレのことを考えずにいられるようだという意見がありました。日中ただ居間で車椅子に座っているだけだと、スタッフ様に関わってほしいという思いと、失禁してしまうかもという不安から、このような行動につながっているのではないかという意見もでてきました。そこで、日中は何か熱中できることをご提案して、少しずつトイレに行く間隔を長くしていこうということになったのです。ご家族からの情報で、入所前は、園芸が大好きだったということでしたので、園芸に関する写真の多い本を準備しました。また、時には大好きな歌の番組をご覧いただくといった工夫を、ユニットのスタッフ様で実践しました。その結果、少しずつトイレ時間の間隔を長くすることができたのです。
このようなちょっとしたスタッフ様の気づきや工夫で、ご利用者様のQOL(生活の質)向上につながることもあります。
ご利用者様一人ひとりを中心に置いたケアを、是非みなさまの施設でも実践してみてください。

執筆:花王プロフェッショナル業務改善ナビ【介護施設】編集部

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