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介護施設の感染対策委員会の役割とは?運営ポイントも解説

2024.11.11


介護施設の感染対策委員会に関するコラムのイメージ画像

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令和3年度(2021年度)の介護報酬改定で、施設系、通所系を問わず感染対策委員会の設置の義務化が決定し、令和6年3月に経過措置も終了しました。令和6年からは、感染対策向上加算が高齢者施設で取得できるようになりました。各施設でも感染対策委員会の活動が始まっていることと思いますが、活動内容や役割が曖昧なケースもあるのではないでしょうか。しかし平時の対策が不十分では感染症の発生を予防できないばかりか、感染症の発生時に対応が遅れて感染者を増やしてしまう恐れもあります。

今回は特に、特別養護老人ホームや介護老人保健施設など、施設系の介護施設における感染対策委員会の役割や運営する際のポイントなどについて紹介します。

【PROFILE】監修者:
四宮 聡(しのみや・さとし)

箕面市立病院 感染制御部 副部長
感染管理認定看護師
箕面市立病院で手術室勤務後、感染管理認定看護師の資格を取得。その後、チーム医療推進部に異動。2013年に東京医療保健大学大学院感染制御学修士課程を修了。
2012年より地域の病院へ訪問支援を開始し、その後、高齢者・障害者施設へ対象を拡大。COVID-19パンデミックでは、のべ100施設以上を訪問し、感染対策を支援してきた。
現在は、行政と協力して箕面市内の高齢者・障害者施設を対象とし、感染対策リーダー育成事業を展開し人材育成に注力している。モットーは、「感染対策をみんなのものに」。
著書に「介護保険施設のための できる!感染対策改訂版」(リーダムハウス)などがある。

介護施設の感染対策委員会とは

感染対策委員会とは、介護施設内での感染症の発生を予防するとともに、万が一発生してしまった場合の拡大を防止または小規模に抑えるために、感染管理活動を行う組織です。災害対策委員会など施設の他の委員会とは区別して設置・運営しなければなりません。

イメージ〉介護施設における位置づけ(例:障害福祉サービス事業所)

介護施設における感染対策委員会の位置づけ(例:障害福祉サービス事業所)

感染対策委員会の構成メンバーは、施設長、事務長、医師、看護職員、介護職員、栄養士、生活相談員などで、施設の実態に合わせて幅広い職種で構成します。また構成メンバーの役割分担を明確にし、感染対策担当者を決める必要があります。感染対策担当者は、ケアの仕方によって施設内の感染拡大・防止を左右する存在であることから、看護師が望ましいとされています。

〈例〉感染対策委員会のメンバー構成と役割

職種 感染対策委員会における役割
施設長 施設全体の管理
事務長 事務関連、会計関連
医師 検査・診断・治療などの専門的知識の提供
看護職員 看護ケア、専門的知識の提供と同時に生活場面への展開
介護職員 介護場面における専門的知識の提供
栄養士 栄養管理、抵抗力や基礎体力維持・向上
生活相談員 ご入所者からの相談対応と援助
ご入所者の生活支援全般にわたる専門的知識の提供

感染対策委員会の設置は令和6年度から義務化

令和3年度(2021年度)介護報酬改定では「感染症対策の強化」が改定事項に含まれています。その具体的な取り組みとして、感染対策委員会の開催や結果の周知徹底を含む以下の3つが令和6年度(2024年度)から義務化されたため、確認しておきましょう。

(1)感染対策委員会の開催・結果の周知徹底

感染対策委員会を定期的に開催し、そこでの検討結果をスタッフに対して周知徹底すること。通所系はおおむね6カ月に1回以上開催、施設系(介護老人保健施設、特別養護老人ホームなど)はおおむね3カ月に1回以上開催。

(2)指針の整備

感染症の発生予防と、発生時のまん延防止のための指針を整備すること。また指針は平常時・発生時それぞれで規定する必要がある。詳しくは次の「感染対策委員会の役割」で解説。

(3)定期的な研修・訓練の実施

スタッフに対して、感染症の予防・まん延防止のための定期的な研修・訓練を実施すること。実施の方法は各施設に任されており、机上・実地での訓練を適切に組み合わせることができる。

感染対策委員会の役割

感染対策委員会の役割は「感染症の予防に関する対応」と「感染症発生時の対応」の大きく2つに分けられます。

感染症の予防に関する対応

施設内での感染症発生を防ぐために、感染予防の計画・運営を行います。
詳しく見ていきましょう。

■指針・マニュアルなどの作成

感染症の発生を予防するための指針・マニュアルなどを整備します。感染症に関する最新情報を記載する他、研修や訓練を通して把握した自施設の課題を基に内容を更新するのが望ましいとされています。施設の構造や運営方針を踏まえ、現実的な内容にする必要があります。内容更新の頻度は特に定められていないため、「感染対策委員会の開催時」「1年に1回」など自施設に合ったタイミングで行いましょう。

■スタッフへの施設内感染対策に関する研修

スタッフが感染対策や衛生管理の基礎知識を習得するための研修を実施します。研修の回数は令和3年度介護報酬改定で規定されており、通所系は年1回、施設系は年2回実施する必要があります。
研修内容も「感染対策の適切な知識を普及・啓発するもの」「事業所の指針に基づいた衛生管理の徹底や衛生的なケアの励行につながるもの」と規定されているため、施設の状況や課題に合わせて実施できるよう準備する必要があります。座学だけでは実践につなげることが難しいため、演習・実技を組み込むのが効果的です。

参考文献:

■発生時を想定した訓練の実施

感染者が発生した際に迅速に対応できるよう訓練を実施します。訓練を企画する際は、自施設の方針やマニュアル、研修とのつながりを意識することが重要です。感染症が発生した状況をシミュレーションすることで、施設内で感染リスクのある場所や改善が必要なプロセスを特定できることや、スタッフが緊急対応時の手順を実践的に学ぶことができ、実際の対応が円滑になります。
通所系は年1回、施設系は年2回、全スタッフを対象に訓練を行います。訓練についても令和3年度介護報酬改定の規定を確認しましょう。

■ご利用者・スタッフの健康管理

感染症の発生を防ぐには、ご利用者やスタッフの日常的な健康管理が重要です。現状行っている健康管理が適切かどうか定期的に見直しましょう。
具体的には、健康管理のために収集している体調情報などの項目が、施設の方針やマニュアルなどに沿っていることを確認しましょう。入力や記載内容が形骸化しないよう責任者を任命しておくことも大切です。
また体調不良者が出た際に、どのようにスタッフに情報共有し対応するかも事前に明確にしておきましょう。

■各部署での感染対策実施状況の把握と評価

現状の感染対策状況を把握し評価することで、改善点を洗い出し、対策を検討します。評価のためには基準とする項目を事前に明確にすることや、実際に現場に赴いて観察することが必要不可欠です。評価シートやラウンドシートなどをあらかじめ作成し、定期的に確認するようにしましょう。

■決定事項などの周知

委員会の決定事項はスタッフ全員に周知徹底します。その際、問い合わせ対応のために、委員会側で窓口担当者を決めておきましょう。また、スタッフから積極的に質問や意見が出るように各部署で推進担当者を決めておくのも良いでしょう。そうすることで、委員会側からの一方的な伝達を防ぎ、相互にコミュニケーションを取ることができます。さらに、内容の緊急性によって伝達方法を分けるのも効果的です。その際は、スタッフが情報を確認したことを確認する方法もルール化しておきます。メール、情報共有アプリや掲示版の利用など周知方法もあらかじめ決めておき、いざというときに「知らなかった」、「聞いていない」が起こらないようにしましょう。

【ワンポイント】感染対策委員会の活動にチーム制を導入する

感染対策委員会の役割は幅広く、メンバーの専門分野・知識・スキルも異なるため、チームを組んで役割を振り分けている施設もあります。一人のスタッフが複数の委員を担っている場合も少なくありません。そのため、活動を実のあるものにするために、小グループのチーム制とし、役割・責任・目標を明確にすることが有効と考えられます。

チーム分けの例:教育・啓発/マニュアル整備/物品の衛生管理/排泄介助/手指衛生

感染症発生時の対応

感染対策委員会は、施設内で感染症が発生した際に指揮者の役割を担います。
詳細は以下でご紹介します。

■発生状況の把握

感染者(感染の疑いがある人)が発生したら、感染者の症状と他のフロア・エリアも含めた状況を把握します。同時に、他のご利用者・スタッフに同様の症状が出ていないかを確認し、該当する人がいれば発症日を確認します。

■感染の拡大防止

まず医療関係職が、感染者(感染の疑いがある人)の症状や発生状況に応じたケア、ゾーニング・コホーティングなどの対応方法を確認し、速やかにスタッフへ周知・指導します。
感染者(感染の疑いがある人)へは感染(疑い)の事実を伝えるとともに対策の協力依頼を行い、接触した関係者の体調確認・必要な対処をします。この時、体調確認や体調観察をいつまで行うのかについても同時に伝えましょう。さらに施設内の消毒頻度を上げるなどの対策を強化します。

■関係機関との連携

感染症の種類や感染者数(規模)によっては、感染対策の専門家がいる医療機関に支援の協力を依頼したり、保健所からの指示・指導内容を確認したりします。関係行政機関には感染状況の報告や指示の確認を行います。

感染対策委員会を効果的に運営するためのポイント

感染対策委員会には、多職種が連携して感染症の予防や発生時の対応を行う体制を構築するという難度の高い役割が求められます。効果的に運営するために以下のようなポイントを意識してみてください。

指針・マニュアルの定期的な見直し

指針・マニュアルが既にあるとしても、定期的に見直しを行い、施設やご利用者の実態に合わせて最適化することが大切です。実態に合っていないと現場では受け入れられにくく、効果も薄れてしまいます。常に、最新の情報に基づいた対策に更新するよう心がけましょう。

スタッフの意識向上

感染症の発生予防や発生時の対処は感染対策委員会メンバーだけでなく、施設のスタッフ全員で取り組まなくては効果がありません。研修・訓練の実施や、感染対策委員会で議論した内容をスタッフに共有すること、現場の意見を吸い上げて委員会で報告することも、現場とのギャップを防いでスタッフの意識を向上させる上で重要です。施設内で感染症が発生した場合は、できるかぎり感染対策を振り返る場を設け、記録に残しておくと次の対応に活かすことができます。

外部機関との積極的な連携

感染対策委員会の役割には専門性が求められます。施設内のメンバーで活動を無理に完結させようとせずに、地域の保健所や専門機関と連携しながら取り組むことが重要です。
特に感染症発生時は迅速に相談できるよう、日ごろから連携体制を構築しておく必要があります。感染症予防の取り組みとして研修を行う際に、外部の専門家に講師を依頼するのもいいでしょう。

―まとめ

今回は感染対策委員会の役割や運営時のポイントについてご紹介しました。感染対策委員会は、平時から施設の感染予防を行うだけでなく、感染症の発生時に対策を監督するという重要な役割があります。
介護施設は感染症に対する抵抗力が弱い高齢者が多く集まる場であり、感染症の拡大のリスクが大きい環境です。感染対策委員会が適切な感染対策を主導することで、ご利用者やスタッフを守ることにつながります。
感染症の予防は継続的に行う必要があることや、緊急時に備えた訓練・研修が求められることなどから、事前に活動計画を作成しておくと実効性が高まるでしょう。

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