情報誌 花王ハイジーンソルーション No.21
(2020年8月)

特集2 消毒の基本

東邦大学  名誉教授
辻 明良先生

 病原体が宿主に侵入、定着、増殖することを感染という。感染しても、すべての微生物が病気を起こすわけではない。宿主側の抵抗力が弱いときや病原体側の力が強いときに発病(発症)する。このように、感染が成立するためには、①病原体(感染源)、②宿主、③感染経路の3つの要因が必要である。このうちの1つでも防御できれば感染は成立しない。そのため、感染対策として、①病原体(感染源)を殺滅すること、②感受性のある宿主を正常化させること、③感染経路を遮断することである。

 感染制御(Infection Control and Prevention)とは、感染症の発生を未然に防ぐこと、発生した感染症を制圧することを意味する。すなわち、感染予防と感染治療である。
 感染予防として最も重要なことは、①病原体を持ち込まないこと、②病原体を持ち出さないこと、③病原体を拡げないことである。すなわち、病原体(感染源)の排除と感染経路の遮断が重要である。感染を未然に防ぐ方法として、①感染の危険性が高い場合は、滅菌処理を、②危険性が中間の場合は、消毒処理を、③危険性が低い場合は、洗浄処理となる。
 
 2020年に入り、新型コロナウイルス感染症による世界的流行が起こり、その対策としての消毒薬の使用が高まっている。これまで、コロナウイルスによる感染症としては、2002年中国・広東省で起こったコウモリによりコロナウイルスがヒトに感染し、ヒト・ヒト感染した「SARS(重症急性呼吸器症候群)」が、また、2012年アラビア半島でヒトコブラクダからヒトに感染した「MERS(中東呼吸器症候群)」が報告されている。
 今回、2019年12月、中国・武漢市から世界に拡がった肺炎は、新型コロナウイルスであることが判明し、日本では、「新型コロナウイルス感染症」と命名、感染症法の指定感染症に指定されている。この新型コロナウイルス感染症に対する消毒について、アルコール消毒や次亜塩素酸ナトリウム消毒の需要が増している。
今回、消毒用エタノールと次亜塩素酸ナトリウムについて解説する。

1.消毒用エタノール

 消毒用エタノール(76.9~81.4vol%)は、一般細菌、結核菌、真菌、ウイルスに有効で、広域の抗微生物スペクトルを有する消毒薬である。しかし、芽胞には無効である。また、糸状菌やエンベロープを持たないウイルスには、作用時間を長くする必要がある。適応として、手指消毒(擦式・清拭)、皮膚消毒(清拭)、医療器材の消毒(清拭)、ドアノブ・取っ手(清拭)として使用する。

①作用機作
 菌体蛋白の変性、代謝機構阻害、溶菌作用により殺菌する。
 
②使用濃度
 76.9~81.4vol%が使用されている。
 
③使用時の注意点
  生体消毒として使用するが、粘膜刺激性が強く、粘膜や損傷部位への使用はさけることである。
 また、脱脂作用による手荒れや蛋白凝固作用のため、医療器具内部まで十分浸透しないことがある。
 引火性があるため、火気には十分注意することが必要である。

2.次亜塩素酸ナトリウム

 次亜塩素酸ナトリウムは、細菌、真菌、ウイルスなどに広域の抗微生物スペクトルを有する消毒薬で、ウイルスに対しては、エンベロープの有無にかかわらず、有効である。

①作用機作
 細菌の細胞膜、細胞質内の有機物を酸化分解して殺菌作用を示す。
 またウイルスの構成蛋白などを酸化することにより不活化する。

②使用濃度

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注意点

  • 血液・排泄物・分泌物など処理では、必ず手袋を着用し清拭する。
  • 床上のウイルス汚染血液の処理には、5分間以上作用させる。
  • 排泄物の処理には、0.5~1%液を5分間以上作用させる。
  • 金属腐食性があるため、金属製用具への使用は避ける。
  • 酸性の洗浄・漂白剤と混合すると塩素ガスが発生し危険である。使用しないこと。

③留意点

  • 有機物による影響:次亜塩素酸ナトリウムは、蛋白などの有機物の存在下で容易に不活化され、殺菌効果が低下する。
  • 哺乳瓶の消毒にも使用されるが、よく水洗し、使用前には確実に乾燥させることが必要である。また、塩素ガスを発生させることもあり、注意が必要である。
  • 手荒れなど起こすことがあるので、生体には使用しないこと。
  • 頻回の使用により、プラスチックやゴム類を劣化させることがあるため、注意すること。

 なお、消毒用エタノールおよび次亜塩素酸ナトリウムについて、1)抗微生物スペクトルと適用対象、2)対象物による消毒方法について、追記した。

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辻 明良:感染制御のための消毒の基礎知識,ヴァンメディカル,2009,一部改変

図1 消毒薬の抗微生物スペクトルと適用対象

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「高齢者介護施設における感染対策マニュアル
 改訂版 2019年3月」
厚生労働省ホームページ
 (検討委員長:辻 明良)

図2 対象物による消毒方法

1) 辻 明良:感染制御のための消毒の基礎知識 ヴァンメディカル 2009
2) 辻 明良(編集):微生物学・感染制御学. 看護学全書・メヂカルフレンド社 2019
3) 辻 明良:改訂2版 感染制御の基礎知識. メディカ出版 2004
4) 辻 明良:消毒薬の進歩と変遷. Circles for the future of quality care: 8(3): 2006 
5) 辻 明良:消毒薬 今昔. 化学と教育 58巻11号:514-518, 2010
6) 辻 明良:3)アルコール・4)手指消毒薬・5)粘膜消毒薬. 実践的消毒マニュアル(Lister Club 30周年記念冊子. 発行:リスタークラブ 2014
7) 編集/小林寛伊:補訂版 消毒と滅菌のガイドライン. へるす出版 2014
8) 辻 明良:感染制御のための微生物の基礎知識. 薬剤師のための感染制御マニュアル 第4版 監修:日本病院薬剤師会 薬事日報社 2017
9) 辻 明良:特集 真菌と消毒. かびと生活 vol.5, No.1 : 2012
10) 辻 明良:医療および介護施設における感染対策. クリーンテクノロジー 2018.11
11)「高齢者介護施設における感染対策マニュアル 改訂版 2019年3月」 厚生労働省ホームページ (検討委員長:辻 明良)


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