情報誌 花王ハイジーンソルーション No.22
(2021年2月)

花王ハイジーンソルーションNo22 特集1 高齢者施設における新型コロナウイルス対策   無料ダウンロードはこちらをクリックしてください。フォームにご入力後、ダウンロードができます。

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特集1 高齢者施設における新型コロナウイルス対策 

沖縄県立中部病院
感染症内科・地域ケア科 副部長
高山 義浩

1. はじめに

2019年12月に中国武漢に端を発した新型コロナウイルス感染症は、世界各地へと感染を広げながら1年が経過した。日本国内では、春と夏に引き続き、本稿執筆時点では第3波に見舞われている。
 感染経路や潜伏期間、感染可能期間など、おおむねウイルスの正体は見えてきたが、それでも世界はウイルスを制御できているとは言い難い。とりわけ高齢者が集団生活している介護施設において集団感染が多発しており、高齢者は重症化しやすいこともあり、被害が拡大し、医療現場への負荷を高めている。まさに、現代社会の脆弱さを突いた流行と言える。
 本稿では、筆者が対策に従事している沖縄県における経験をもとに、高齢者施設における新型コロナウイルス対策について解説する。なお、それぞれの施設における医療資源や人員配置には違いがあると考えられるため、あくまで目安としていただき、施設ごとの状況に応じて具体的な対応を検討いただければと思う。 

2. 発生予防と早期探知 

 新型コロナウイルスは、施設外から持ち込まれる。具体的には、面会者、納入業者、職員、医療機関を受診する入居者によって、ウイルスが持ち込まれることを想定する必要がある。 

❶ 面会の中止および業者の立ち入り制限

 地域において新型コロナウイルス感染症の発生を認めている状況では、原則として施設内での面会をすべて中止とする。納入業者による物品の搬入なども玄関先で行う。どうしても立ち入る必要があるときは、玄関先でアルコールによる手指衛生を行ったうえで、トイレも含め共用の場所には立ち入らないように求める。
 なお、入居者の外出については、屋外の散歩程度であれば制限する必要はない。ただし、外出先では人の集まる場所に立ち入らず、できるだけ公共の物に触らないなど注意する。また、家族など親しい人と屋外もしくは指定された場所で面会することも構わないが、面会者に発熱や咳嗽などの症状がないことを確認したうえで互いにマスクを着用するようにする。いずれの場合にも、施設に戻ったときの手指衛生を心がけるようにする。

❷ 職員の健康管理と就業制限 

 地域において新型コロナウイルスが流行している状況では、施設内で働くすべての職員は、標準予防策を徹底するとともに、常にサージカルマスクを着用して業務にあたる。
 職員は出勤時に玄関先で手指衛生を行い、検温と症状確認をする。発熱や咳嗽などの症状を認めた場合、仕事を休むのが原則だが、あわせて新型コロナウイルスのPCR検査を早めに受けさせる。
 検査結果が陽性であった場合には、発症日から10日間が経過し、かつ症状消失後72時間が経過するまで就業停止となる。一方、陰性だったとしても、感染を否定できるものではなく、発症日から7日間が経過し、かつ症状消失後72時間が経過するまでは休ませるようにする。
 さらに、職場に復帰した後も発症から14日間までは、マスクを常に着用させるとともに、可能であれば、食事介助など入居者との密接なケアは避けることが望ましい。

❸ 入居者に求める感染対策と健康管理 

 施設内において新型コロナウイルス感染症の発生が疑われる状況でなければ、入居者に対して特別な対応を求める必要はない。すなわち、症状のない入居者であれば、デイルームで他の入居者と一緒に過ごしていただくことは可能であり、食事や入浴についても通常の対応で構わない。
 入居者についても、共用エリアではマスクを着用するように求めるが、正しく着けられない高齢者も少なくなく、厳格に求めることはできない。自分でマスクを外すことができない入居者については、吐物による窒息などのリスクを考慮して、マスク着用の可否を慎重に判断する必要がある。なお、入居者は布マスクで良いが、鼻までが覆われるようにすること。
 何らかの経路でウイルスが持ち込まれ、施設内で発生する可能性は常にあると考える。そこで、すべての入居者について、毎日2回、発熱や咳、倦怠感などの症状の有無を確認する。もし、複数の入居者や職員に症状を認める場合には、施設内における新型コロナウイルス感染症の発生を疑って、かかりつけの医師等に相談するとともに、必要な検査等が速やかに受けられるよう調整する。

❹ 入居者の外出時における感染予防 

 地域で新型コロナウイルスが流行しているときは、入居者の不要不急の外出は控えることが望ましい。ただし、医療機関を受診するなど必要な外出はあると考えられる。こうした際には、とくに感染予防を本人と支援者ともに注意する必要があり、できるだけサージカルマスクを着用して、公共の物に触れたあとの手指衛生を徹底する。
 なお、慢性疾患の状態によっては、流行している時期に医療機関を受診しなくてよいように、長期処方を受けることも検討する。また、電話による診療でファクシミリ等による処方箋発行が受けられることがあるため、状態が落ち着いていると考えられるときは、かかりつけ医に相談するとよい。

❺ 施設内の換気と消毒 

 入居者が集まる共有エリアは、いつも風通しを良くしておく。寒冷に配慮しつつ「定期的に換気」ではなく、「常に少しだけ換気」を心掛ける。たとえば、食べ物や線香の匂いがずっと残るようであれば、室内の換気が悪いと考える。食事やカラオケなど、とくに感染リスクが高まると考えられるときは、換気の効率を上げる工夫が求められる。
 施設内で共用している手すり、ドアノブ等の高頻度接触表面については、アルコールや抗ウイルス作用のある消毒剤含有のクロスを用いて、1日3回以上の清掃と消毒をする。発熱や咳などの症状がある入居者の室内清掃など、とくに汚染が疑われる場所の環境清掃を行うときは、手袋、サージカルマスク、ガウン、フェイスシールド(またはアイゴーグル)を着用する。

3. 濃厚接触者の判定 

 施設内で感染者が確認されたときは、感染連鎖を阻止することに最大限の努力をする。このためにも濃厚接触者を適切にリストアップすることが重要である。このリストを保健所に報告することで、行政検査が受けられるようになり、職員への就業制限がかけられる。もちろん、必要な感染対策を効率的に実施し、発症しないかを見守ることもできる。 

❶ 職員の感染が判明したとき 

 職員が発症した日から2日前まで遡り、職員がマスクを着用せずにケアを行った入居者を濃厚接触者と判定する。このとき、入居者がマスクを着用していたかどうかは問わない。短時間であっても、マスクを着用しない状態でケアが行われたのであれば、濃厚接触者と判定すべきである。職員がマスクを着用していても、手指衛生が適切に行われていなかった場合も、ケアが行われた入居者を濃厚接触者と判断した方が良い。これは、ケアの頻度や時間によって判断する。
 加えて、感染が判明した職員と互いにマスクを着用することなく、手で触れることのできる距離で過ごしていた他の職員も濃厚接触者と判定される。代表的な状況として、マスクを着用せずに休憩室でお茶を飲んだ、食事をしたなどが考えられる。

❷ 入居者の感染が判明したとき

 入居者が発症した日から2日前まで遡り、マスクを着用せずにケアを行った職員を濃厚接触者と判定する。このとき、入居者がマスクを着用していたかどうかは問わない。また、入居者がマスクを着用していない状態において、フェイスシールド(またはアイゴーグル)を着用せずにケアを行った職員についても濃厚接触者と判定する。さらに、職員がマスクを着用していたとしても、手指衛生が適切に行われていなかった場合には、その職員は濃厚接触者と判断した方が良い。これは、ケアの頻度や時間によって判断する。
 加えて、少なくとも同じフロアの入居者についても、感染した入居者と共用エリアで一緒に過ごす時間があったのであれば、濃厚接触者と判定することが望ましい。

表1 介護現場におけるリスク評価と対応 

介護現場におけるリスク評価と対応の表。 介護従事者、入居者共にマスクなしの場合。高リスク。最終暴露日より14日間の就業制限。 介護従事者マスクなし、入居者マスクありの場合。中リスク。最終暴露日より14日間の就業制限。 介護従事者目の保護なし、入居者マスクなしの場合。中リスク。最終暴露日より14日間の就業制限。 介護従事者ガウンなしの場合、低リスクだが、身体密着あるときは中リスク。

介護現場におけるリスク評価と対応の表。 介護従事者、入居者共にマスクなしの場合。高リスク。最終暴露日より14日間の就業制限。 介護従事者マスクなし、入居者マスクありの場合。中リスク。最終暴露日より14日間の就業制限。 介護従事者目の保護なし、入居者マスクなしの場合。中リスク。最終暴露日より14日間の就業制限。 介護従事者ガウンなしの場合、低リスクだが、身体密着あるときは中リスク。

介護現場におけるリスク評価と対応の表。 介護従事者、入居者共にマスクなしの場合。高リスク。最終暴露日より14日間の就業制限。 介護従事者マスクなし、入居者マスクありの場合。中リスク。最終暴露日より14日間の就業制限。 介護従事者目の保護なし、入居者マスクなしの場合。中リスク。最終暴露日より14日間の就業制限。 介護従事者ガウンなしの場合、低リスクだが、身体密着あるときは中リスク。

  • 接触時間は「15分以上」を目安とするが、双方がマスクを着用していないときは、「3分以上」でも感染するリスクがあると判断する。
  • 日本環境感染学会:医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド(第3版)をもとに作表 

❸ 職員と入居者に対するPCR検査の実施 

 高齢者施設の入居者は、新型コロナウイルスによる死亡リスクが高く、また周囲への伝播を最小限に食い止めるためにも無症状の段階から早期(判定から24時間以内)にPCR検査を実施する必要がある。症状を認める場合には抗原検査で代用することも可能だが、抗体検査を使用すべきではない。
 生活の場である高齢者施設では、感染経路を完全に把握することは困難であり、前項までに紹介した濃厚接触者の基準を厳格に適応したとしても、それ以外から感染者が発生することがある。また、最初に診断された職員や入居者が第一例だと思い込まないことも大切である。このため、PCR検査については、濃厚接触者に限らず広範に実施しなければならない。また、施設内で感染が持続している可能性があるときは、繰り返し実施することが望ましい。
 図は、当院で推奨している集団感染が疑われる施設におけるPCR検査の流れを示している。この方針は一律に決められるものではないため、保健所のほか、かかりつけの医師、感染症を専門とする医師の意見に基づいて検討していただきたい。

図1 集団感染が疑われる施設におけるPCR検査

集団感染が疑われる施設におけるPCR検査の図。 職員もしくは入居者に陽性者を確認。24時間以内に接触者に対する検査を実施。濃厚接触者以外にも陽性者ありの場合、同一フロアもしくは施設全員に検査を実施。濃厚接触者以外にも陽性者ありの場合、陽性だった者の全員に再検査を実施。陽性者を認める場合は繰り返し再検査を実施。各検査後、全員陰性だった場合、症状を認める入居者に検査を行い発生なしの場合終了。

4. 濃厚接触者への対応 

❶ 濃厚接触者と判定された職員 

 濃厚接触者と判定された職員は、最後に濃厚接触があったと考えられた日を0日目として14日目までを就業制限とする。なお、同居する家族が感染者であった場合にも、職員は濃厚接触者と判定される。この場合は、一緒に暮らした最後の日(多くの場合、家族が入院した日)を0日目とする。
 一方、同居する家族が濃厚接触者と判定されている職員について、就業制限をかける必要はない。ただし、サージカルマスクを必ず着用し、手指衛生も心がけながら業務にあたらせる。そして、経過中に家族が発症するなどしたときは、その検査結果を待たずに就業停止とする。

❷ 濃厚接触者と判定された入居者 

 濃厚接触者と判定された入居者は、特に感染している可能性が高いため、最後に濃厚接触があったと考えられた日を0日目として14日目までの注意深い観察が求められる。できるだけ個室で療養いただくが、個室が確保できないときは、ベッド周囲のカーテンを閉める、他の入居者とのあいだに衝立を置くなどの飛沫感染予防を行う。
 食事についても、できるだけ個室内で行うことが望ましいが、介助する人員が十分でない状況等においては、症状のない入居者に限って共用エリアでの食事介助も考えられる。ただし、食事テーブルは固定して、名札を貼っておくなどの工夫も考える。
 可能であればトイレを専用とするが、それができない場合にも、できるだけ指定されたトイレを使用するように求めて、不特定多数が同一のトイレを使用することがないようにする。ポータブルトイレの活用も検討する。
 入居者相互に交流するレクリエーション等は中止として、必要なリハビリテーション等は個室内で実施する。ただし、一定の距離を空けたうえであれば、テレビを観るといったことは可能と考えられる。他の入居者と近距離で会話したりすることがないようにする。
 ケアにあたる職員は、サージカルマスクを必ず着用する。さらに、本人がマスクを着用できない、または食事介助など飛沫をあびる可能性があるときはフェイスシールド(またはアイゴーグル)を着用する。身体密着するケアが想定されるときは、あらかじめガウンを着用することが望ましい。
 なお、サージカルマスクは入居者ごとに交換する必要はないが、マスクの表面を手で触ってしまった場合には速やかに手指衛生を行い、少なくとも1回の勤務ごとに廃棄する。フェイスシールド(またはアイゴーグル)については、当該職員専用としていれば、翌日以降も再利用することができるが、使用が終わったらアルコール等で毎日消毒する。

5. 症状を認める入居者への対応 

 濃厚接触者と判定されているかによらず、新型コロナウイルスの感染者が発生している施設において、入居者に発熱や咳などの症状を認めたときは、保健所に連絡して受診方法について指示を受ける。
 結果が陽性であった場合には、原則として入院措置となるが、結果が陰性だったとしても、感染が否定されたわけではなく、発症日から10日間が経過し、かつ症状消失後72時間が経過するまでは以下の対応とすべきである。
 まず、1日4回の状態確認を行って、症状が長引いている場合、呼吸苦を訴えている場合、意識レベルの低下を認める場合、水分や食事がとれなくなっている場合など、重症化の兆候を疑うときは、医療機関へ搬送する等の速やかな対応を行う。搬送先等については、事前に保健所と調整しておくことが望ましい。
 軽微であっても発熱や咳などの症状がある入居者には、できるだけ個室管理としてトイレも専用とする。専用化できないときはポータブルトイレを活用する。部屋のドアは閉めておき、屋外への風の流れがあるときを選んで換気する。個室が確保できないときは、ベッド周囲のカーテンを閉め、他の入居者とのあいだに衝立を置くなどの飛沫感染予防を徹底する。やむを得ず室外に出るときは、マスク着用と手指衛生の徹底を求める。
 食事については、個室内で介助することが原則である。入浴は、個室における専用の入浴以外は中止して、身体清拭とする。
ケアにあたる職員は、サージカルマスクと手袋、ガウン、フェイスシールド(またはアイゴーグル)を必ず着用する。ネブライザー吸入、吸痰など、一時的にエアロゾルの発生が疑われる状況では、換気を徹底した環境で行うか、N95マスクを着用する。担当する職員については、できるだけ有症状者のみの対応とするなどして、症状のない入居者へのケアと業務が交わることがないようにする。
 使用したタオル等については、原則として他の入居者とは別に洗濯する。どうしても一緒に洗う、もしくは共用する必要がある場合には、熱水で処理(80°C10分間)もしくは次亜塩素酸ナトリウム溶液(0.05~0.1%)に浸漬してから洗濯する。

6. おわりに 

 本稿執筆の2020年12月現在、日本は第3波と言える流行の最中にある。筆者が対策に従事している沖縄県では、介護従事者を含めた感染対策への努力が重ねられ、集団感染の頻度も規模も少しずつ縮小してきている。今後も高齢者施設における被害を最小化すべく、地域での連携を強化していきたい。
 現場で続けることができず、破綻することが明らかな対策を専門家として提案すべきではない。介護の現場に挫折感や罪悪感を残すことがないよう、施設ごとに「継続して実施可能な感染対策」と「対策疲れに陥らない期間」を見極めることも必要である。とくに、感染が広がってしまったときに、「誰かのせい」にならないよう説明しておくことが大切である。
 また、あまりに感染対策による介入を活発にしすぎると、施設におけるストレスを増加させ、利用者の不活発を高める可能性もある。高齢者が直面する健康課題は新型コロナだけではない。そもそも、健康は管理すべきものだが、他人から管理されるべきものではない。高齢者自身の視点で感染対策の内容を検討し、自律した生活のなかで豊かに暮らせるように支援していきたい。


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