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情報誌 花王ハイジーンソルーション No.24
(2021年12月)


花王ハイジーンソルーションNo24 特集1 介護に用いられるサージカルマスクの規格と使い方 ~マスクの種類、JIS T 9001規格に注目して~ 無料ダウンロードはこちらから

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特集1 医療、介護に用いられるサージカルマスクの規格と使い方
~マスクの種類、JIS T 9001規格に注目して~

独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所
吉川 徹

1.はじめに

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行を機に、かつてないほど世界中で感染対策用マスクへの関心が高まっている。これまでに、マスクの感染予防効果、用途や選び方、性能や規格、適切な利用方法、不足時の対応等に関する多くの知見が公開されている1-3) 。一方、マスクは一見装着すると効果があるようにみえるが、N95レスピレーターや不織布マスク、布マスク等、その形状、性能が多様で、その利用場面も効果も異なる3)。特に、これまで健常人のマスク着用に否定的だった欧米のマスク使用者に、感染対策のために、診療場面や公共の場で常にマスクを着用する「ユニバーサル・マスキング」の考え方が広がった4-6)。 
 このような背景の中、2021年6月には日本産業規格(Japanese Industrial Standards:JIS)のJIS T 9001:2021「医療用マスク及び一般用マスクの性能要件及び試験方法」が公開された7)。これまで国内では統一した規格のなかった医療用マスク(サージカルマスク)と一般用マスクについて、その品質基準確保のための検査項目が定められた。
 本稿では、感染対策において今後もますます重視されるであろう医療・介護用に用いられているサージカルマスクに注目し、マスクの種類と感染対策における役割、JIS規格と国際規格、着用が必要な医療・介護場面、手術室で利用するサージカルマスクの着脱方法等について概説する。

2.マスクの種類と役割

❶ マスクの形状と素材

 一般的にマスクとは、人体のうち顔の一部を覆ったり、または頭部全体に覆い被ったりするものを指す。このうち、着用者の鼻と口を覆う形状のものは「フェイスマスク」と呼ばれる。健康関連に用いられているフェイスマスクには、一般用マスク(市販向け)と医療従事者向けマスク(医家向け)とがある。2018年のマスクの市場規模は450億で、市販向けが約400億、医家向けが50億強と推計されている8)。2020年からのCOVID-19パンデミック以降、国内のマスク市場が数倍以上の規模に拡大しているという推計もある。
 市販向けは、「家庭用マスク」と一部の「産業用マスク」に分けることができる。家庭用マスクには、小学校の給食係が着用するようなガーゼ(布)マスクや、スポーツ等で利用されるウレタン製マスク、衛生マスクとして風邪・花粉症対策用の不織布マスク等がある(表1)。最近では本体材料が織編物であるガーゼマスクは減少し、ほとんどは不織布マスクが主流である。医家向けは、20年ほど前まで手術用マスクとして滅菌・再生利用が可能な布製マスクが用いられていた時代もあった。近年は、感染対策やコスト等を考慮して、ほとんどのマスクはシングルユースデバイス(SUD)、使い捨ての不織布マスクに変わっている。

表1 家庭用マスクの素材と特徴、主な形状

ガーゼ製(布製)。主に綿織物を重ね合わせたマスク。古くから利用され、高い保湿性と保温性がある。布に特殊なフィルタを縫い込み、花粉などの通過を防ぐなどの工夫がされている製品などがある。主な形状は平形マスク。 ウレタン製。フィルタのセイン異素材や形状保持にポリウレタンを使用。洗って繰り返し使用できる。色やデザインも多様で、ロゴなどの表示なども容易なので、ファッション性を高くしたものもある。主な形状は立体型。 不織布製。外側の表面不織布、内側の頬に触れる不織布、中間に挟んだフィルタ機能を有する不織布の多層で構成。フィルタ不織布は、熱的、機械的、化学的作用により石油などを原材料とした遷移を薄いシート状に加工したものを利用している。フィルタ性能を高める様々な工夫あり。主な形状はプリーツ型、立体型もある。

ガーゼ製(布製)。主に綿織物を重ね合わせたマスク。古くから利用され、高い保湿性と保温性がある。布に特殊なフィルタを縫い込み、花粉などの通過を防ぐなどの工夫がされている製品などがある。主な形状は平形マスク。 ウレタン製。フィルタのセイン異素材や形状保持にポリウレタンを使用。洗って繰り返し使用できる。色やデザインも多様で、ロゴなどの表示なども容易なので、ファッション性を高くしたものもある。主な形状は立体型。 不織布製。外側の表面不織布、内側の頬に触れる不織布、中間に挟んだフィルタ機能を有する不織布の多層で構成。フィルタ不織布は、熱的、機械的、化学的作用により石油などを原材料とした遷移を薄いシート状に加工したものを利用している。フィルタ性能を高める様々な工夫あり。主な形状はプリーツ型、立体型もある。

ガーゼ製(布製)。主に綿織物を重ね合わせたマスク。古くから利用され、高い保湿性と保温性がある。布に特殊なフィルタを縫い込み、花粉などの通過を防ぐなどの工夫がされている製品などがある。主な形状は平形マスク。 ウレタン製。フィルタのセイン異素材や形状保持にポリウレタンを使用。洗って繰り返し使用できる。色やデザインも多様で、ロゴなどの表示なども容易なので、ファッション性を高くしたものもある。主な形状は立体型。 不織布製。外側の表面不織布、内側の頬に触れる不織布、中間に挟んだフィルタ機能を有する不織布の多層で構成。フィルタ不織布は、熱的、機械的、化学的作用により石油などを原材料とした遷移を薄いシート状に加工したものを利用している。フィルタ性能を高める様々な工夫あり。主な形状はプリーツ型、立体型もある。

❷ 医療用マスク、一般用マスクの種類と用途

 口と鼻を覆うマスクには、N95(米国)やFFP2(欧州)、DS2(日本)、KN95(中国)等各国の防じんマスクの規格に相当する性能の微粒子用対策マスク(レスピレーター、呼吸用保護具または呼吸用防護具)と、一般的にフェイスマスクと呼ばれている不織布マスク、布・ウレタンマスクがある(表2)。防じんマスクは性能の高い不織布フィルタを備え、マスク面体への漏れ込みが少なくなるようマスクの構造等を含め、各国でその規格が定められている9)。布・ウレタン製マスクの呼吸器防護性能は不織布マスクに比べ低いため、医療用として用いられることはほとんどない。表2には、防じんマスク、フェイスマスクの区分と共に、医療用マスク、一般用マスクの名称や種類、防護性能、除染と再利用等の情報をまとめた。
 不織布マスクのうち、医療関係者の着用が想定されるマスクは、国内では2021年に公開されたJIS T 9001規格で「医療用マスク」と呼称が統一された。別名として「サージカルマスク」と呼ばれる。一般用マスクとの違いは、人工血液バリア性の評価の有無で、血液や体液の浸透性等が評価される(後述)。また、一般用マスクは、一般的に用いられる衛生用の不織布マスク全般を指すことが多く、JIS T 9001規格では、一般用マスクでは、花粉粒子を評価対象とした検査項目が設定されている7)

表2 医療用マスク、一般用マスクの種類と用途9)

防じんマスク(N95/DS2マスク)、フェイスマスク(不織布マスク、布、ウレタンマスク)の用途、性能等の表。

防じんマスク(N95/DS2マスク)、フェイスマスク(不織布マスク、布、ウレタンマスク)の用途、性能等の表。

防じんマスク(N95/DS2マスク)、フェイスマスク(不織布マスク、布、ウレタンマスク)の用途、性能等の表。

  1. *1
    「防じんマスクの選択、使用等について」(基発第0207006号、平成17年2月7日) 
  2. *2
    呼気弁付きのものは吐き出しに対して防護性能はない。
  3. *3
    JIS T 9001:2021「医療用マスク及び一般マスクの性能要件及び試験方法」(令和3年6月16日制定)

❸ フェイスマスク(サージカルマスク)の効果

 表2で各種マスクの特徴や防護性能について概要を示したが、フェイスマスクの着用は、着用者の近くにいる他者を守るとともに、着用者も感染から守ることができる3, 10)
これまで、医療・介護職場での感染病原体の重要な伝搬経路は、①空気感染(airborne transmission)、②飛沫感染(droplet transmission)、③接触感染(contact transmission)に分けられ、感染経路別予防策のガイドラインに従った対策が推奨されてきた11)。特に呼吸器系疾患の患者からの飛沫やしぶき等による飛沫感染の防止のために、医療従事者が患者に1m以内に近づく場合にはサージカルマスクを着用すること、患者の移送時にもマスクの着用等が必要である等である11)。また、米国CDCの隔離予防策の改定(2007年)では、呼吸器衛生/咳エチケット(respiratory hygiene/cough etiquette)が明確に位置づけられ、咳・くしゃみ等のある患者は布やマスクで口を覆うことが必要で、病原体の周囲への拡散を最小限にするフェイスマスクの利用が推奨されている11)。なお、同ガイドラインでは空気感染対策に呼吸器防護性能が高いN95マスクの着用が推奨されているが、空気感染に関してRoyとMiltonによるエアロゾル感染に関する新分類が引用され12)、飛沫の粒子径が小さく、遠くまで浮遊する微小粒子(飛沫核)によるエアロゾル感染には、絶対的経路(結核)、優先的経路(麻疹、水痘)、日和見的経路(SARS、インフルエンザ等)があるとしている。
 今回のCOVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2は、患者が発熱や呼吸器症状を発症する前から唾液や気道分泌物に感染性があることがわかり、これまでの呼吸器防護におけるサージカルマスクの利用の方法に少なからず混乱が生じた。いままでは、症状のある人がフェイスマスクを着用することが基本だったからである。

表3 フェイスマスクの防護効果

A.着用者の近くにいる人のために

  • 鼻と口の両方をフェイスマスクで覆うことで、感染者からのウイルスを含んだ呼吸器飛沫やエアロゾルの放出を抑えることができる。
  • SARS-CoV-2(COVID-19の原因となるウイルス)は、症状がない人や体調不良を自覚していない人からも感染する可能性があるため、今日では、公衆でのフェイスマスク着用が広く推奨され、一部の国では義務化されている。

B.着用者のために

  • フェイスマスクは口や鼻から吸い込むウイルス粒子の数を減らす。
  • 吸入した空気を効果的にフェイスマスクでろ過するためには、マスクの種類と装着方法が重要となる

 SARS-CoV-2の感染に関連したフェイスマスク着用効果の研究が多く報告されている13-15)。鼻と口を覆うフェイスマスクを利用する目的は、着用者の近くにいる人のためと着用者自身のための2つの役割があり、相手からのウイルスを吸い込むのを防止する効果よりも、自分からのウイルスの飛散、拡散を防ぐ効果がより高いことが確認されている(表3)4)
 フェイスマスクは、着用者が(口や咽頭、気道を含む)呼吸器からの飛沫を外部へ拡散させてしまうのを減らすだけでなく、外からマスクの内側に入り込む粒子数を減らして着用者を守る17)。マネキンを用いたある研究では18)、完全に顔面に密着したマスク(例えば、N95レスピレーター)と、マスクの上部や側面に隙間のあるマスク(例えば、サージカルマスク)が比較され、N95レスピレーターはすべての条件で97%以上が保護され、サージカルマスクは30%から100%であった。国内での類似した実験では19)、相手だけがマスクを着用(布マスクで17%減、不織布マスクで47%減)するより、自分だけがマスクを着用(布マスク又は不織布マスクで7割以上減)する方が、より効果が高いこと、自分と相手の双方がマスクを着用することで、ウイルスの吸い込みを7割以上(双方が布マスクで7割減、不織布マスクで75%減)抑えるという研究結果等が報告されている。
 フェイスマスクは、①N95レスピレーター/DS2マスクに比べ、吸排気抵抗は低く呼吸時の負担は軽い、②エアロゾル粒子(飛沫核)からの防護性能は低い、③血液や体液からのばく露リスクに一定の防護性能がある、④フィットテストのような明確な密着性(フィット性)に関する要件はない。したがって、感染対策としてフェイスマスクが選択されるのは、空気感染の可能性がなく、抜管や気道吸引、救命救急措置等のエアロゾル産生手技ではない医療・介護場面での利用が想定される11)

❹ サージカルマスクの素材と構造

 不織布製のサージカルマスクの口、鼻を覆う不織布本体は、外側の表面不織布、内側の頬に触れる不織布、中間に挟んだフィルタ機能を有する不織布で構成されるのが一般的である。図1にはサージカルマスクの構造と性能について概要を示した16)
 サージカルマスクは、中間層のフィルタ不織布に捕集機能を発揮する加工(帯電加工)がなされていて、外側布、内側布等の各マスク素材には、最新技術を採用した多種の不織布で構成されている。また、マスクと鼻の隙間を埋めるノーズクリップ、耳にかけるイヤーループ等もサージカルマスクの構成パーツである。原材料としては、ポリプロピレン、ポリエチレンといったプラスチック素材が主に利用される。ノーズクリップ等部分的にアルミニウム等の金属素材が用いられていることもある。また、防曇加工処理をしたフィルムをマスク本体上部に取り付けた「アイプロテクターフィルム付きマスク」、樹脂製のワイヤーをマスク本体中央部に挿入した「カップキーパー付きマスク」等、血液・体液防護性とマスクとを一体化させたり、装着性を高めたりする製品も市場に投入されている。
 また、低品質の素材等による皮膚障害等のアレルギー症状にも留意したい。マスクは直接顔面と接触するため、着用者の体質、体調、長時間着用等により、皮膚に炎症が生じる場合がある。最近、快適性に注目した新しい不織布素材を用いたマスク等の開発が進んでいる17)

図1 サージカルマスクとは何ですか?

サージカルマスクの説明図。着用者は、ウイルスのばく露から保護され、着用者の近くにいる人は、着用者から排出されるウイルスから保護されます。最も効果的なマスクは、飛沫や体液が表面まで浸透しない液体防護性のある外装を備えている、通性を高めながら粒子を保捉する静電気ろ過層がある、顔にフィットするように曲がるノーズピースがあり、ウイルス粒子がマスクに出入りする可能性のある隙間を減らすなどの機能があります。マスクは、ウイルス粒子がマスクに出入りするのを減らすために、あごを覆う必要があります。

サージカルマスクの説明図。着用者は、ウイルスのばく露から保護され、着用者の近くにいる人は、着用者から排出されるウイルスから保護されます。最も効果的なマスクは、飛沫や体液が表面まで浸透しない液体防護性のある外装を備えている、通性を高めながら粒子を保捉する静電気ろ過層がある、顔にフィットするように曲がるノーズピースがあり、ウイルス粒子がマスクに出入りする可能性のある隙間を減らすなどの機能があります。マスクは、ウイルス粒子がマスクに出入りするのを減らすために、あごを覆う必要があります。

サージカルマスクの説明図。着用者は、ウイルスのばく露から保護され、着用者の近くにいる人は、着用者から排出されるウイルスから保護されます。最も効果的なマスクは、飛沫や体液が表面まで浸透しない液体防護性のある外装を備えている、通性を高めながら粒子を保捉する静電気ろ過層がある、顔にフィットするように曲がるノーズピースがあり、ウイルス粒子がマスクに出入りする可能性のある隙間を減らすなどの機能があります。マスクは、ウイルス粒子がマスクに出入りするのを減らすために、あごを覆う必要があります。

  • N95DECONの資料を元に職業感染制御研究会が翻訳・加筆・修正

3. サージカルマスクの規格

 2021年6月に日本産業規格(Japanese Industrial Standards:JIS)から品質基準となる検査項目規格JIS T 9001:2021「医療用マスク及び一般用マスクの性能要件及び試験方法」が公開された7)。JIS T 9001では、サージカルマスク(医療用マスク)及び一般用マスクの品質基準をクラスIからIIIの3段階に分類している。これまで、国内における標準規格がなかった日本では、米国ASTM(米国試験材料協会)が定めるASTMインターナショナル(ASTM International)の品質基準等が参照されていた18)。JIS T 9001 の主要な検査項目の基準値は、ASTM F2100と同等である(表4)。JIS T 9001の試験項目の解説を表5に示した。

表4 日本と米国のサージカルマスクの品質基準の検査項目の比較7, 18)*1

日本と米国のサージカルマスクの品質基準の検査項目の比較をまとめた表。微小粒子補修効果(PFE)、バクテリア飛沫補修効果(BFE)、ウイルス飛沫補修効果(VFE)、圧力損失(呼気抵抗)、人工血液バリア性、可燃性、遊離ホルムアルデヒド、特定アゾ色素、蛍光の項目で比較している。

日本と米国のサージカルマスクの品質基準の検査項目の比較をまとめた表。微小粒子補修効果(PFE)、バクテリア飛沫補修効果(BFE)、ウイルス飛沫補修効果(VFE)、圧力損失(呼気抵抗)、人工血液バリア性、可燃性、遊離ホルムアルデヒド、特定アゾ色素、蛍光の項目で比較している。

日本と米国のサージカルマスクの品質基準の検査項目の比較をまとめた表。微小粒子補修効果(PFE)、バクテリア飛沫補修効果(BFE)、ウイルス飛沫補修効果(VFE)、圧力損失(呼気抵抗)、人工血液バリア性、可燃性、遊離ホルムアルデヒド、特定アゾ色素、蛍光の項目で比較している。

  1. *1
    米国文献7,18より筆者作成
  2. *2
    米国の単位はmmH2O/cm2で表記されており、表4では換算値を記載
  3. *3
    米国の単位はmmHgで表記されており、表4では換算値を記載

表5 JIS T 9001の主要な試験項目の解説7)

微小粒子捕集効率(PFE:Particle Filtration Efficiency)

  • 0.1μmの微小粒子が補修された率。真球状ポリスチレンラテックス粒子試薬を用いて、マスクの試験片を介した上流側及び下流側のエアロゾル粒子数を計測し、算出する。
微バクテリア飛まつ捕集効率(BFE:Bacterial Filtration Efficiency)
  • 細菌を含む約3.0μmの粒子が捕集された率。マスクの不織布フィルタを通してろ過される程度を試験する。細菌は黄色ぶどう球菌(ATCC6538)が用いられる。
ウイルス飛まつ捕集効率(VFE:Virus Filtration Efficiency)
  • ウイルスを含む約3.0μmの粒子が捕集された率。空気中の細菌を含むエアロゾルが、マスクの不織布フィルタを通してろ過される程度を試験する。ウイルスはPhi-X174バクテリオファージ(ATCC13706-B1)を用いて、寒天培地の大腸菌(ウイルスの宿主)のプラーク数をカウントしてろ過効率を評価する。
人工血液バリア性(ASTM F1862)
  • 人口血液濾過によるサージカルマスクの抵抗性標準試験法。試験方法はJIS T 8062による。マスクの基布に対して、血圧に相当する80mmHg(クラスⅠ)、120(クラスⅡ)、160mmHg(クラスⅢ)の圧力をかけた場合の人工血液の濾過性を試験し、合格した圧力で評価する。
  • 手術中、カテーテル検査、麻酔、透析の抜管時等、血管からマスクに直接血液が飛散するような場面を想定して作られた規格である。

  • 文献7から要旨を抜粋

4. サージカルマスクが必要な医療、介護場面

❶ 医療、介護におけるサージカルマスクの利用場面

 サージカルマスクは標準予防策と感染経路別予防策において、飛沫感染防止の目的で用いる11)。基本的には、以下の様な場面が想定される。表6には病棟でのサージカルマスク適応場面例を示した19)

  • 場面:医療従事者の鼻腔または口腔の粘膜が、血液、体液、分泌物、排泄物の飛散による曝露を受ける可能性があるとき着用する
  • 時期:飛沫予防策を行う必要性がある患者の病室に入室する前に着用する
  • 留意する着用場面:腰椎穿刺等の清潔操作を要する処置を行う際に、医療従事者の飛沫によって、患者の無菌域が汚染するのを防ぐために着用する
  • 咳・くしゃみ・鼻汁のあるときの咳エチケットとして着用する

表6 病棟でのサージカルマスク適応場面例[○は使用を推奨]19)

使用を推奨する場面は、下痢患者の失禁ケア、全面介助口腔ケア、気管内吸引、創部の洗浄、創傷処置(飛散有)、化学療法剤の準備、吐物・汚物処理。通常は不要の場面。ベッドバス、車いすへの移乗介助、バイタルサイン測定、排泄介助、リネン交換、体位交換、創傷処置(飛散無)、輸液準備・交換、導尿、採血。

使用を推奨する場面は、下痢患者の失禁ケア、全面介助口腔ケア、気管内吸引、創部の洗浄、創傷処置(飛散有)、化学療法剤の準備、吐物・汚物処理。通常は不要の場面。ベッドバス、車いすへの移乗介助、バイタルサイン測定、排泄介助、リネン交換、体位交換、創傷処置(飛散無)、輸液準備・交換、導尿、採血。

使用を推奨する場面は、下痢患者の失禁ケア、全面介助口腔ケア、気管内吸引、創部の洗浄、創傷処置(飛散有)、化学療法剤の準備、吐物・汚物処理。通常は不要の場面。ベッドバス、車いすへの移乗介助、バイタルサイン測定、排泄介助、リネン交換、体位交換、創傷処置(飛散無)、輸液準備・交換、導尿、採血。

❷ COVID-19とユニバーサル・マスキング

 2020年から世界的に流行したCOVID-19により、ユニバーサル・マスキングという新しい概念が世界的に広がった5, 6)。サージカルマスクは、インフルエンザウイルス・ライノウイルスの飛沫・エアロゾルによる飛沫感染は十分に防げないが、COVID-19ではサージカルマスクで防ぐことができる可能性が示唆されたという研究が公開された4)からである。欧米では、この報告以降、無症状者でも屋内の公共の場では、マスク着用を推奨するように政策変更されている2)。一方、COVID-19ワクチンの普及による死亡率が低下していること等を背景に、ユニバーサル・マスキングについては、米国の一部の州で禁止されたり、また欧州でも積極的なマスク着用の規制が進められたりする等、議論が続いている。
 日本においては、COVID-19対策として、医療・介護職場でのサージカルマスクの着用は、公共の室内や密集、密接場面、また医療・介護職場でのケア提供場面において、一貫して推奨されている20, 21)

5. サージカルマスクの選び方、使い方

❶ サージカルマスクを選ぶ際のポイント19)

 職業感染制御研究会がサージカルマスクの選び方・使い方について公開しているので参考になる19)。同ガイドを参照し、以下、補足情報等を追記した。

  • 対象となる診療、ケアでは、飛沫やしぶきが発生する可能性があるか否か。想定される医療、ケア、介護場面における飛沫感染リスクをあらかじめ評価しておく。
  • 製品を購入する際は、JISやASTMの規格に適合した製品であるか否か。通常はクラスⅠで問題ないが、利用場面ではクラスⅢが必要か否か検討する。
  • 評価視点として、BFE、PFE、圧力損失、人工血液バリア性等基本となるメーカーの記載の指標を確認する。
  • 着用時の快適性、耳かけによる痛みがないか、着用時の呼吸のしやすさ等を確認する。
  • サイズについては、顎までしっかり覆うことができるサイズが望ましいが、大きすぎるとマスクと顔の隙間が大きくなる。自分に合うサイズのものを選択出来るようにする。
  • メーカーからの安定供給を受けることができるか、製造国等や払底時の入手経路等確認する。
  • 購入数とコスト、長期保管できる推奨保管期間は何年か、等確認する。
  • 二重マスクは、吸排気抵抗が高くなり本来の性能が発揮されない可能性がある。
  • また、米国CDC等は、イヤーループに結び目を作って着用する、ゴムバンド等補助具をマスクの上に装着する等フィット性を高める着用方法を紹介しているが22)、まずは着用者の顔面にフィット性の高いマスクを選択することが第一優先となる。高い呼吸器防護が必要な場面は、N95レスピレーターの利用を検討する。

❷ サージカルマスクの着脱方法(図2、3) 

 イヤーループ型のサージカルマスクの着脱方法を図2に示した。外した後に、手指衛生を忘れないようにする。手術時に利用するサージカルマスクには、イヤーループでなく紐タイプで鼻と口を覆い頭部に固定する形状のものがある。紐タイプは、長時間の着用でも耳の付け根や耳の裏が痛くなりにくい、顔面のフィット性が高い、脱落しにくいといった点から利用されている。図3に着脱方法の例を示した。

図2 イヤーループ型サージカルマスクの着脱方法19)

イヤーループ型サージカルマスクの着け方

1

鼻あて部が上になるようにつけます。

2

鼻あて部を小鼻にフィットさせ、プリーツを広げます。

3

鼻あて部を小鼻にフィットさせます。鼻は全体を覆うようにします。

4

マスクのプリーツを伸ばして口と鼻をしっかり覆います。

5

装着完了。

イヤーループ型サージカルマスクの外し方

ゴムやひもをつまんで外し、マスクの表面に触れずに破棄します。

最後にもう一度手指衛生を行います。

6. サージカルマスクの不足時の対応と除染について

 COVID-19パンデミックにより、世界中で個人防護具が不足した23)。サージカルマスクが不足した米国CDC は、例えば布製マスクを感染対策に利用する場合、頻繁な洗浄を推奨している2)。布を SARS-CoV-2 から除染するには、石鹸とお湯で十分である。しかし、サージカルマスクは洗うことができない。石鹸と撹拌により疎水性が低下するとともに、エレクトレット素材の粒子ろ過機能が劣化して効果が低下するからである9)
 国内でもPPE不足が深刻となり、特にN95レスピレーター、一般用マスクだけでなくサージカルマスクの不足が最も顕著であった24, 25)。厚労省は、各医療機関等に対し、不足時の例外的対応について以下のように通知している26)。これらの課題を解決するため、国内の医療用感染防護具の安全性、適正使用に関する知見整理が必要となり、2020年12月に医療用感染防護具の適正使用や安全性に関する研究班(班長:満田年宏、東京女子医科大学感染制御部)が設置され、現在も検討が続いている。

表7 サージカルマスクの不足時の例外的対応26)

使用機会に優先順位を設けること(サージカルマスクが必要不可欠な処置や手術を行う場合や感染の可能性のある患者との密接な接触が避けられない場合など)。
複数の患者を診察・検査などする場合においても、同一のサージカルマスクを継続して使用すること(※1「サージカルマスクの継続使用に係る注意点」参照)。
※1サージカルマスクの継続使用に係る注意点

  • 目に見えて汚れた場合や損傷した場合は、廃棄すること。
  • サージカルマスクを外す必要がある場合は、患者のケアエリアから離れること。
  • サージカルマスクを外す際には、マスクの外面を内側にして折りたたみ、接触感染を避けること。

7.おわりに

 マスクは一見、装着すると効果があるようにみえるが、N95レスピレーターや不織布マスク、布マスク等、その形状、性能、利用場面が多様で効果も異なる。特に、サージカルマスクは、最も身近で、医療、介護場面に必須の個人防護具である。その十分な性能をもった製品の規格や利用場面、留意点等、マスクに関する基礎的な知識を持つことは、すべての医療・介護従事者を助ける。COVID-19流行により多くの医療従事者、国民が苦労をしたが、今回の流行を機会にJIS規格が制定され、マスクの安全性や適正使用について制度が整い始めたことは、日本の医療従事者、介護従事者にとって福音となった。今後、現場で利用しやすい、快適で防護効果の高いサージカルマスクの開発も期待したい。

1)厚生労働省. 新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け):マスク・消毒液に関するもの 2020
2)CDC. Your Guide to Masks 2021
3)WHO. Mask use in the context of COVID-19: interim guidance, 1 December 2020 2020
4)Leung NH, Chu DK, Shiu EY, Chan K-H, McDevitt JJ, Hau BJ, et al. Respiratory virus shedding in exhaled breath and efficacy of face masks. Naturemedicine. 2020;26(5):676-80.
5)Brooks JT, Butler JC, Redfield RR. Universal masking to prevent SARS-CoV-2 transmission—the time is now. Jama. 2020;324(7):635-7.
6)Klompas M, Morris CA, Sinclair J, Pearson M, Shenoy ES. Universal Masking in Hospitals in the Covid-19 Era. N Engl J Med. 2020;382(21):e63.
7)日本産業標準調査会(JIS). JIS T 9001:2021「医療用マスク及び一般用マスクの性能要件及び試験方法 」 2021
8)株式会社矢野経済研究所. 医療・衛生用品の市場実態と製品別需要動向('18-'19年版). 2020.
9)吉川徹. N95レスピレーター(N95/DS2マスク)の除染と再利用. 感染と消毒. 2021;28(1):26-32.
10)Chu DK, Akl EA, Duda S, Solo K, Yaacoub S, Schunemann HJ, et al. Physical distancing, face masks, and eye protection to prevent person-to-person transmission of SARS-CoV-2 and COVID-19: a systematic review and meta-analysis. Lancet. 2020;395(10242):1973-87.
11)CDC. 2007 Guideline for Isolation Precautions: Preventing Transmission of Infectious Agents in Healthcare Settings (Last update: July 2019) 2019
12)Roy CJ, Milton DK. Airborne transmission of communicable infection-the elusive pathway. 2004.
13)Van der Sande M, Teunis P, Sabel R. Professional and home-made face masks reduce exposure to respiratory infections among the general population. PloS one. 2008;3(7):e2618.
14)Lai A, Poon C, Cheung A. Effectiveness of facemasks to reduce exposure hazards for airborne infections among general populations. Journal of the Royal Society Interface. 2012;9(70):938-48.
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25)草場恒樹, 和田耕治. 新型コロナウイルス感染防止のための PPE 不足品対策 (特集 医薬品・医療材料をどうコントロールするか)--(病院における医薬品・医療材料のコントロール). 病院. 2021;80(4):334-40.
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