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情報誌 花王ハイジーンソルーション No.25
(2022年3月)


花王ハイジーンソルーションNo25 特集1 キズの治療に重要なバイオフィルムの知識と応用 無料ダウンロードはこちらから

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特集1 キズの治療に重要なバイオフィルムの知識と応用

医療法人社団心愛会 TOWN訪問診療所 理事長
木下 幹雄

1.はじめに

 キズの治癒が遅くなる要因として「バイオフィルム」の存在が注目を集めている。目には見えないが、創傷の大部分には細菌によりバイオフィルムが作られていると言われており、治癒の妨げになっていると考えられる。バイオフィルムをコントロールし、治癒を促進する考え方としてWound hygiene conceptが提唱された。その具体的な知識と実践について解説する。

2.バイオフィルムとは?

 キズが細菌により汚染されると、その部位に定着しコロニーと呼ばれる集合体を作る。細菌は自分たちの周囲に生き残るために有利な条件を作るため、ムコ多糖類(EPS)と呼ばれるネバネバとした物質を生みだし、細菌とムコ多糖類の複合体を作る。この複合体のことを「バイオフィルム」と呼ぶ。バイオフィルムの内部では細菌が安定化するため、より細菌増殖が加速しやすいことが知られている。

図1 バイオフィルムの形成と成熟 

バイオフィルムの形成と成熟をあらわしたイラスト。浮遊細菌が創傷表面に付着し、細菌がコロニー、つまりバイオフィルムを形成する。バイオフィルムが拡大し、宿主の不顕性感染の調光を誘発し、最終的にバイオフィルムが成熟する。

細菌がムコ多糖類と複合体を形成して増大し成熟する1)

3. バイオフィルムがキズの治癒に与える影響

 バイオフィルムの存在により、抗菌剤や抗生物質が細菌に届かなくなるため、治療に反応しにくくなってくる。細菌がキズに与える悪影響のことを細菌負荷(Biological Burden)と呼ぶが、これが一定量に到達すると「見た目には感染していないが、キズの治癒が進まなくなる状態」になることが知られている。この状態のことをCritical Colonization(クリティカルコロナイゼーション・臨界的定着)と呼び、多くの慢性化したキズがこの状態にあることがわかってきた。これらの知識が明らかになったことにより、キズの治癒を促すためにはバイオフィルムを適切に除去し管理しなければならないという事実が通説となってきている。

4.キズの治癒を促進するためのWound hygiene conceptとは?

 歯周病は歯肉部に存在するバイオフィルムにより引き起こされることが指摘されており、歯周病を予防するためには口腔内衛生環境(Oral hygiene)を清潔に保つことが重要で、1日2回のフロスとブラッシングが推奨されてきた。このバイオフィルムに対する予防的観点を応用して、キズの治癒を促進するための概念が構築され、創傷衛生・Wound hygiene conceptが提唱されることになった。つまり、キズの表面および周囲皮膚のバイオフィルムをコントロールして、衛生環境(Hygiene)を最適に保つことにより、キズの治癒および上皮化を促そうという考え方が誕生したのである。

5.Wound hygiene conceptの実践

 Wound hygieneの基本原理は、バイオフィルム、壊死組織や異物などの不要な物質をキズから取り除き、残存する細菌に対処し、その再形成を防ぐことである。具体的なアプローチ法は以下の4つの項目を繰り返すことが提唱されている。

  ステップ1    洗浄(創傷部と創周囲の皮膚の浄化)
  ステップ2    デブリードマン(早期の積極的なデブリードマンとメンテナンス)
  ステップ3    創縁の新鮮化
  ステップ4    創傷の被覆

 さまざまな衛生への取り組みと同様にWound hygieneの特徴も繰り返し行うことである。被覆材の交換のたびに創傷を評価し、洗浄、デブリードマンし、創縁の新鮮化を繰り返す。一般的な衛生管理と同様に日常の習慣へ落とし込むようにすることが大事である。ここからはそれぞれのアプローチ法に対して個別に解説する。

  ステップ1    洗浄(創傷部と創周囲の皮膚の浄化)

 洗浄の目的は創部および周囲皮膚の表面に残存するバイオフィルムや異物、壊死組織などの汚染物質を可能な限り取り除くことにある。従来の看護教育では、創部の周囲を優しく洗浄する、と教育されてきたようだ。しかし、上記の洗浄の目的を達成するためには「創底を含め創周囲皮膚もしっかりと洗浄する」ことが不可欠であり、Wound hygiene conceptの中では、洗浄時に石鹸などの界面活性剤を使用すべきとされており、表面に点状の出血が認められる程度にこすり洗いを行うことが推奨されている。2)

図2 界面活性剤を使用した洗浄

界面活性剤を使用して、創傷部と創周囲の皮膚の洗浄を行っている画像。

界面活性剤の使用により、少ない力で細菌負荷を軽減できる。

  ステップ2    デブリードマン(早期の積極的なデブリードマンとメンテナンス)

 デブリードマンの目的は、キズ表面に存在する不要な物質を除去・最小化することである。Wound hygiene conceptでは、軟膏などを使用する融解性デブリードマンでは時間とコストがかかるわりに、感染リスクが高まるため不十分であるとされている。バイオフィルムを破壊し、再形成を防ぐためには、より効果的な方法を選択することが必要である。そのために必要なデブリードマンオプションが提示されている。

1 外科的デブリードマン

手術室/処置室で行われる処置である。手術器具を用いて組織を切除する。
表面および深部の壊死組織を除去できるため、バイオフィルムも含め広範囲に除去することができる。(図3a)

2 鋭的デブリードマン(鋭匙、メス、ハサミ、鉗子)

ベッドサイドなどで行う、より低侵襲性の処置である。壊死組織を鋭的な器具を使って物理的に除去し、バイオフィルムを破壊する。比較的安全で患者も受け入れやすく、外来や在宅でも施術可能である。医療従事者に一定の技能を要する。(図3b)

3 マゴットデブリードマン(バイオサージェリー)

生きたうじ虫(マゴット)を壊死組織の上に置き、不要な組織を摂取させる方法である。組織を液化させる酵素を分泌すると同時に抗菌物質も分泌すると言われている。組織コラーゲンマトリックスを破壊し、静菌効果を発揮する。(図3c)

4 超音波デブリードマン

超音波キャビテーションにより壊死組織やバイオフィルムを乳化し破壊する。肉芽形成および血流を改善する効果もあると言われている。鋭的デブリードマンよりも安全な手法であり、組織への損傷も少なく痛みや出血も軽い。(図3d)

5 機械的デブリードマン

柔らかいガーゼや不織布などを用いて壊死組織や組織の残骸、バイオフィルムを物理的に除去する方法。容易な方法であるため、最小限の訓練で全ての臨床家が実践できる。創周囲皮膚を傷つけることなく、組織の残骸、柔らかい壊死組織、痂皮などを効率的に除去することができる。(図3e)

図3 デブリードマンのオプション

  • 外科的介入、手術室でのデブリードマンの処置画像

    a:外科的介入(手術室でのデブリードマン)

  •  鋭匙による鋭的デブリードマンの処置画像

    b:鋭匙による鋭的デブリードマン

  • マゴットによるデブリードマンの処置画像

    c:マゴットによるデブリードマン

  • 超音波装置によるデブリードマンの処置画像

    d:超音波装置によるデブリードマン

  •  ガーゼを用いた機械的デブリードマンの処置画像

    e:ガーゼを用いた機械的デブリードマン

  ステップ3    創縁の新鮮化

 上皮化が進まず、治癒が遅くなっているキズの場合、キズの辺縁が硬く瘢痕化し肉芽の表面と段差を形成していることがある。この様な部位は細菌の温床となりやすいことが知られており、創縁の上皮組織も再生能力を失っている。この様な場合には思い切って創縁を切除し新鮮化することにより、治癒力を再び取り戻すことができる。
 具体的には、崖のように切り立った創縁の場合には、これを切除して、浜辺のようになだらかに形成することが重要であるとされている。この処置により辺縁にたまる細菌負荷を減らすことができるだけでなく、新たに再生能力の高い上皮組織が配置されるため、創傷治癒が再開すると考えられている。(図4a,b)

図4 キズの辺縁の状態の違い

  • 上皮化が進まず、治癒が遅くなっているキズの画像

    a:崖のように切り立っており組織は再生能力を失っている

  • 上皮化が進まず、治癒が遅くなっているキズの画像

    b:創縁が浜辺のようになだらかに形成されており、上皮化の進行が確認できる

  ステップ4    創傷の被覆

 創傷衛生の最終段階として重要なことは、適切な被覆材で覆うことである。被覆材の選択で重要なことの一つ目は、創部からの滲出液の量に応じた適切な吸収量の材料を選ぶことである。創傷治癒において、適度な滲出液を保つことは重要で、滲出液が過剰となると創傷治癒が進まなくなる。滲出液の吸収量は、被覆材の素材により大きく異なるため、数日に1回程度の交換で適切な湿潤環境が保たれるものを適宜選択して行く。(図5)

図5 被覆材の素材による吸収量の違い

被覆材の素材による吸収量の違いのグラフ。フィルム、ハイドロコロイド、アルギン酸塩、フォームポリマー、ハイドロファイバーの順に滲出液の吸収量が増加。

出典:木下幹雄:クリティカルコロナイゼーション(臨界的定着)の具体例と、治療・ケア方法.Expert Nurse 2021;37(3):49-54.

 バイオフィルムの管理においては、「物理的な除去」と「再形成予防」の二つの観点が重要である。先のステップで述べた、洗浄、デブリードマン、創縁の新鮮化はバイオフィルムを物理的に取り除くための処置であり、再形成を予防するためには抗菌性の外用剤を使用するか、抗菌作用を有する創傷被覆材を選択する。
 抗菌性の外用剤の選択肢としては、銀含有外用剤のほか、ヨード含有外用剤などが頻用される。銀含有外用剤の代表的なものとしては、ゲーベン®クリーム1%が挙げられ、抗菌成分としてスルファジアジン銀が含有されている。また、クリームには水分量の多い、乳剤性基材が使用されているため補水作用が強く、硬い壊死組織に塗布すると、組織を柔らかく導き自己融解を促進するとされる。(図6a)
 ヨード含有軟膏としては、吸水成分として糖分が付加されたユーパスタコーワ軟膏やポリマーが付加されたカデックス® 軟膏0.9%などが挙げられる。ヨード含有ポリマー軟膏はゆっくりとヨードが放出されるため、抗菌効果が長時間続くとされており、バイオフィルム再形成の予防効果が高いとの報告も認められる。3)(図6b,c)
 キズを覆うための創傷被覆材も細菌負荷に注目した製品が次々と導入されている。抗菌成分として銀が含有された製品として、ポリウレタンフォームドレッシングのほか、ハイドロファイバードレッシングが使用可能である(図6d,e)。そのほか、近年ではよりバイオフィルムの管理に着目した創傷被覆材の導入も進んでいる。アクアセル®Agアドバンテージでは、抗菌剤として銀イオンが含有されているだけでなく、バイオフィルムを破壊するための界面活性剤と銀イオンの作用を高めるためのキレート剤が付加されており、バイオフィルムの再形成を強く阻害するとされる(図6f)。また、Sorbact®は創傷被覆材自体に細菌を吸着させる作用があり、被覆材を交換するたびに細菌がはがし取られ、細菌負荷を軽減することができる(図6g)。プロントザン創傷用ゲルは、抗菌成分にポリヘキサニド(PHMB)、界面活性剤ベタイン、保湿剤グリセロール、及びゲル化剤としてヒドロキシエチルセルロースが配合された創傷用ゲルである。創部を保護し、湿潤環境を維持するとともに、バイオフィルムを破壊して再形成を阻害する。(図6h)

図6 抗菌性外用剤と被覆材

  • a: ゲーベン®クリーム1%

  • b: ユーパスタコーワ軟膏

  • c: カデックス® 軟膏0.9%

  • d: ハイドロサイト® ジェントル銀

  • e: アクアセル®Ag Extra

  • f : アクアセル®Agアドバンテージ

  • g: Sorbact®

  • h: プロントザン

6.Wound Hygieneの実践

症例:60代/男性/左踵部潰瘍

 糖尿病、慢性腎不全で長期透析歴のある患者。介入1ヶ月前より左踵の褥瘡に痛みの強い潰瘍が出現し、通院加療を行なっていたが改善せず紹介となっている(図7a)。
 Wound Hygieneのコンセプトに従い、毎日の石鹸を用いた洗浄処置を指示し、適宜メンテナンスデブリードマンを試行。バイオフィルム対策としてアクアセル®Agアドバンテージを被覆材として使用した(図7b)。治療開始1ヶ月後の診察では一気に創部が縮小し、肉芽表面の色調も良好であることがわかる(図7c)。治療開始2ヶ月後、順調に上皮化が進んでおり、痛みも改善している(図7d)。治療開始3ヶ月後、上皮化が進行し治癒していることがわかる(図7e)。従来の治療法に比べ治癒期間がかなり短縮できた印象であった。

図7 60代/男性/左踵部潰瘍

  • a: 治療開始時の所見 痛みの強い潰瘍
    Wound Hygieneに従い治療開始

  • b: 銀含有創傷被覆材を使用して治療

  • c: 治療開始1ヶ月 創部縮小。肉芽の状態良好

  • d: 治療開始2ヶ月 順調に上皮化が進行

  • e: 治療開始3ヶ月 治癒した。

7.まとめ

 Wound Hygieneはバイオフィルムの管理に着目した創傷管理のコンセプトであり、誰もが容易に創傷を管理できるように手順化した点で有意義である。バイオフィルムは目に見えないものであるため、創傷に関わる全ての医療従事者がその存在を意識しながら治療に当たることで、これまで難治性であった潰瘍も治癒に導けるようになるかもしれない。また、新たなコンセプトの出現により、処置の方法にも変化が現れ、さらなる製品や治療法の開発に応用されてゆくことを期待している。

1) Percival SL. Importance of biofilm formation in surgical infection. Br J Surg 2017;104:e85–94. https://doi.org/10.1002/bjs.10433
2) Gabriel A, Schraga ED, Windle ML.Wound irrigation.Medscape 2013. https://tinyurl. com/kpzjc6m (accessed 14 February 2020)
3) S O'Meara , D Al-Kurdi, L G Ovington, Antibiotics and antiseptics for venous leg ulcers, Cochrane Database Syst Rev. 2008

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