足のナースクリニック 日本トータルフットマネジメント協会 皮膚・排泄ケア認定看護師
西田 壽代
足のケアをするのに欠かせないのは、皮膚の知識です。しかし何か問題が起こるまで、あまり着目されていない印象があります。ここでは、特に医療や介護現場で頻回にお会いする高齢者についてお伝えします。
皮膚は、人体の中で最大の臓器です。面積は成人で1.5~2.0㎡、おおよそ畳1畳分程です。うち足部は、左右両方で全身の約4%、下腿部は18%の面積となります。重さは体重の14~16%程度です。例えば体重50㎏の場合、皮膚の重さは7~8㎏となります。
皮膚は、表皮・真皮・皮下組織そして爪・毛・汗腺・皮脂腺等の付属器で構成されています(図1)。表皮は、表面から順に、角質層・顆粒層・有棘層・基底層の4層構造です。ただし手掌と足底は、角質層と顆粒層の間に淡明層があり5層構造となっています。また、毛とその付属器(毛包・皮脂腺等)が存在しない、エクリン汗腺が多く、色素細胞(メラノサイト)が少ないといった特徴があります。
図1 皮膚の構造
表皮は約2週間~1か月以上かけて基底層から角質層に移行していきます。その期間は、加齢、血流、栄養状態等により異なります。そして角質層の細胞は、約14日間かけて皮膚の一番表面まで到達し、いわゆる垢となって脱落していきます。
皮膚には体を守るためのさまざまな機能が備わっています。創傷治癒、免疫、体温調節、感覚、呼吸、分泌、吸収等です。以下に、足に関わる機能について説明をします。
身体の内部を守るために、皮膚はバリアの働きをしています。エクリン汗腺からの発汗や皮脂は、皮膚表面に広がり弱酸性を保ちます。それにより、細菌が繁殖しにくい環境を作ります。これを静菌作用といいます。しかし、加齢や自律神経障害等により皮膚から汗や皮脂が分泌されなくなったり、逆に湿潤し浸軟というふやけた状況になったりすると、皮膚はアルカリ性に傾いてバリア機能が正常に働かなくなり、皮膚に感染を起こす要因となります。
それが一因になり足に多く発症する感染症に、足白癬(水虫)や爪白癬(爪水虫)があります。それらを予防するためには、清潔ケアと共に、適度な潤いを保つための保湿ケアが大切になります。
人間にはホメオスタシス(恒常性)の機能が備わっています。摂取した食物を燃焼させ、不感蒸泄で体温の維持調節を図っています。また、外気温や運動により体温が上がりそうになった時に、エクリン汗腺を開いて発汗し、それの気化熱を利用して体温を下げます。また、外気温が低く、それによって体温が下がりそうになると、立毛筋を働かせて体表面積を少なくし、体から熱が逃げるのを防ぎます。加齢に伴い、ホメオスタシスが低下していきますので、平均的な体温が低下しやすくなります。体温の維持調節は、皮膚の真皮乳頭下層を走っている毛細血管の血流量を調節することでもなされています。そのため、末梢血管障害を引き起こす疾患があると、体温調節が円滑に行われにくくなります。足で言えば、下肢動脈疾患(LEAD:Lower extremity artery disease)等です。
LEADは下肢に発症する虚血性疾患を指します。末梢動脈疾患(PAD:Peripheral Arterial Disease)の一つに含まれ(図2)、LEADの大半は、閉塞性動脈硬化症(ASO:Arterio Sclerosis Obliterans)です。
血流が低下すると、皮膚のターンオーバーが遅れ、皮膚の本来の役割であるバリア機能や創傷治癒能、免疫能が低下してしまいます。皮膚の色調が青白い、触ってみて冷たい部分があるというのは、すぐに思いつくかもしれません。それ以外に着目するポイントとしては、「毛が生えているかどうか」です。皮膚の中で血流が集中している部分は、毛包です。慢性的に血流が悪いと、毛包で毛母細胞の生成能が低下し、毛が細くなり、毛包が萎縮し、次第に毛が生えなくなります。そのため、血流障害を引き起こす疾患(LEAD)や糖尿病が進行している場合、下腿部の末梢側3分の1程度は無毛となります。その場合、足部に創傷を負うと、難治性となりやすいので、足の皮膚を保護するケア、例えばレッグウォーマーやチューブ包帯を着用する等を心がけます。
図2 動脈硬化性疾患の分類
感覚を感じる敏感度は、その受容器の密度により異なり、痛覚>触覚>圧覚>冷覚>温覚の順に敏感に感じとります。痛覚と痒覚は同じ受容体で感じ取るといわれ、一つの刺激があった時でも、一度に複数の受容体が働きます。
加齢に伴い、皮膚感覚受容器、特に触覚や圧覚に関与するマイスナー小体とパチニ小体の機能が低下するといわれています。足底部には、他の皮膚よりもパチニ小体が多く存在します。パチニ小体とは、感覚受容器の一つで、圧感を感知する役割を担っています(図3)。つまり、歩くという動作により足底圧がかかり、体のバランスをとることができるので、このことも歩行動作に影響が出る一つの要因といえるのではないでしょうか。また、中枢神経への伝達速度の遅延や、それらを傷害する疾患にかかることなども、足への感覚障害を引き起こす要因となってきます。
図3 皮膚の感覚受容器
高齢者に見られる皮膚の特徴として、ドライスキンがあります。ドライスキンとは、角質層の水分量が減少することによって引き起こされます。乾皮症、皮脂欠乏性皮膚炎、老人性皮膚掻痒症ともいわれます。加齢に伴い、皮脂分泌量の減少や、潤いを保つ役割をしている角質細胞間脂質の減少等がその主な原因となっています。ドライスキンになると、皮膚表面は白く粉をふいたようになり、柔軟性を失います。皮膚の防御機能が低下して、細菌や化学物質などが皮膚の深い部分に侵入しやすくなり、それがかゆみを感じる受容体を刺激してかゆみの感覚が引き起こされます。高齢者の皮膚を見ると、乾燥して引っ掻いたような跡を見ることがよくあるのではないでしょうか。また高齢者は、皮膚の菲薄化が見られるため、それらの状態が余計に強く出やすく、掻破した部分は思いのほか大きな傷に発展し、蜂窩織炎といった感染症を引き起こすこともあります。
一見乾燥した皮膚の状態に見える感染症に、白癬症があります。白癬症は、足のイメージが強いと思いますが、全身の皮膚に感染します。そのため、見た目で判断せず皮膚科などで鑑別診断をすることが大切です。
高齢者の皮膚を見ていると、下腿部に掻破した痕跡を見つけることが多いため、今回は足部だけではなく下腿部も含めたドライスキンのケアについて考えてみようと思います。
乾燥による皮膚のかゆみは、加齢の他に、間違った清潔習慣や洗浄剤の選択、皮膚に直接触れる下着や靴下の素材・形態、室温や湿度の調節、衣類や寝具の種類等によっても引き起こされます。原因をみつけ、その可能性があるものは他のものに交換する等の対応が必要です。
皮膚の清潔を保つことは、ターンオーバーが正常に行われる上でも大切です。ドライスキンに対しては、清潔にする際に用いる洗浄剤や湯温、洗い方や素材等に留意します。
(1)洗浄剤
皮脂や脱落した角質は、もともと皮膚の保湿と保護をするという大切な役割がありますが、長く付着し続けると雑菌や化粧、軟膏等と混ざり合い皮膚に刺激性のある物質となるため、定期的に洗い流す必要があります。そのために効果を発揮するのが洗浄剤です。洗浄剤を選ぶ時に大切なのは、適度な洗浄力とともに、天然保湿成分等を取りすぎないもしくは補充してくれるものを選ぶことです。また、健康な皮膚には、緩衝作用という弱酸性を維持する機能が備わっています。そのため、できれば弱酸性の洗浄剤を使用したほうが、皮膚本来の機能を損ないにくいといわれています。
(2)湯の温度
洗い流す時に用いる湯の温度は、高すぎると皮脂を洗い流すだけでなく、皮膚と湯温の温度差が大きいほど、皮膚からの水分の蒸発量が多くなりかえって乾燥を招くことになります。そのため、湯温は38~40℃程度とします。ただし足は冷えていることが多く、この温度でも熱く感じる人がいるため、その人に合わせた温度設定をします。また、シャワー、足湯、かけ湯等、湯の使用方法によっても感じる温度が異なることにも留意します。
(3)洗い方、素材
洗う時には、ごしごしこすると皮膚表面を傷つけ、皮脂膜を除去してしまうので、洗浄剤を十分に泡立て、その泡で包み込むように洗うことがよしとされています。また、こすり洗いをしたいのであれば、泡を用いて手でやさしくなでるように洗います。タオル等を用いるのであれば、天然の柔らかい素材を選び強くこすらないように気を付けましょう。
高齢者の場合は、新陳代謝が低下しているため、毎日入浴をする必要性はなく、むしろ週に数回程度の方が皮膚を健康に保つことができるようです。ただし、皮膚の2面が常時接していて分泌が盛んな足や陰部等は、毎日きれいに洗い流し、洗浄剤を1日1回のみ用いてきれいにします。洗浄剤を用いる場合は、皮膚に残らないようにしっかり洗い流すことが大切です。
水分は、こすってふき取ることはせず、必ずタオルなどを押し当て吸い取らせるように拭きます。洗う時も拭くときも、摩擦の刺激をなるべくなくしましょう。
ケアをする人の負担を減らすことも大切です。そこで推奨するのは、泡足浴です。準備する物品が少なく、腰への負担も少ないうえに、手早くきれいにできます。手順を以下に示します(図4)。
図4 泡足浴の方法
1.ビニール袋に泡を作る
足首より10cmほど上まで入る大きさのビニール袋(レジ袋でもOK)にペットボトルのキャップ3〜4杯のお湯または水、液体石けんを1/2プッシュ(泡石けんは1プッシュ)程度入れ、袋の上から手でもんで泡を作ります。
2.ビニール袋の上から片足ずつ洗う
原図:西田壽代監修:実践!介護フットケア 元気に歩く「足」のために,p56-57,講談社,2021
保湿剤は、毎日塗布するようにします。皮膚への浸透性を考慮すると、その基剤を選ぶことが大切です。基材とは、薬を溶かす土台となる材質をいいます。水分が多い順に、ゲル>ローション>クリーム>軟膏となります(図5)。角質は脂溶性が高いので、ワセリンを保湿のために用いる場合もあります。しかし、ドライスキンの場合は、角質の水分量が不足しているため、ワセリン単体では皮膚本来の保湿機能を取り戻すことは難しいです。それよりも水分を補うことが重要です。そのため、ゲル状の保湿剤を塗布した上から水分を閉じ込める効果を期待し、閉塞剤としてワセリンを塗布すると、より保湿効果が高まります。また、季節により使い分けをする場合もあります。水分量の多い保湿剤は冷たく、油分の多い保湿剤は温かく感じやすいからです。筆者は、冬はゲルやローションに軟膏を重ね塗りするか、クリームを用いることが多いです。それ以外は、皮膚の状態を見て、ゲルもしくはローションの保湿剤のみを用います。
どんな保湿剤でも、使用した後の皮膚の状態は個人差があるため、その効果をきちんと確認して選択しましょう。
保湿剤を使用する際は、「塗擦」つまり擦りこんで使用します。それによりマッサージの効果もあり、経皮吸収率も上がるといわれています。粘度が高いものは「塗布」、つまり手の平にとって伸ばした後に、皮膚にやさしく押し当て、こすらず塗り広げます。
図5 保湿剤と油分・水分
保湿剤の種類
水分には保湿をする役割、油分には水分を長く持たせる役割があります。
原図:西田壽代監修:実践!介護フットケア 元気に歩く「足」のために,p76,講談社,2021
爪切りをする場合、その周囲の皮膚もしっかり観察・ケアしましょう。爪甲の陥入とそれに伴う炎症を爪周炎またはひょうそといい、爪周囲の皮膚や爪甲の色調などに変化を起こします(図6)。これは、爪甲ケアの習慣が、周囲皮膚の形状にも影響を及ぼした結果です。深爪を続けている、体重が重く前足部荷重の方の爪は、皮膚に埋没する形状であったり(図7)、外反母趾の方には巻き爪が多いです。爪甲に対する外力のかかり方、歩き方の癖なども影響を受けるため、それらの形状をよく観察することも必要です。爪溝やフリーエッジ(図8)の部分などに古い角質や汚れが蓄積して、それが影響して痛みを生じることもあります。また、爪の両端の遊離縁が深いと清潔を保ちにくく、感染を引き起こすきっかけとなることもあるため、観察しながら爪用ゾンデ等で古い角質などを除去し、週に1回程度歯ブラシで爪の隙間を洗う等、清潔な状態にします。
図6 陥入爪と肉芽種を伴う爪囲炎
図7 埋没爪
図8 爪甲とその周辺の名称
日々の業務のなかで、観察を通して気づきや感性を持ち続けることが、高齢者のQOLを高めるきっかけとなります。こうした観察と丁寧なケアを、ぜひ大切にしていただきたいと思います。
1)西田壽代監修,日本フットケア学会編:はじめよう!フットケア 第3版,日本看護協会出版会,2013.
2)ESC/ESVS 診療ガイドライン委員会編:European Society of Cardiology ポケットガイドライン,2017(http://www.jsvs.org/ja/publication/2019062803.pdf)
3)西田壽代監修:実践!介護フットケア 元気に歩く「足」のために,講談社,2021
4)西田壽代:高齢者の医療フットケア基礎講座「高齢者の足の観察方法」,臨床老年看護,20(6).114-119.2013, 日総研出版
5)西田壽代:高齢者の医療フットケア基礎講座「高齢者の皮膚とケア」,臨床老年看護,21(2). 114-119.2014, 日総研出版
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