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手指衛生の徹底が簡単ではない理由

感染のリスクを下げるために、日常行われている手指衛生。世界的にも重要性が強調されており、手指衛生遵守率の向上を掲げる医療・介護現場も多いでしょう。
一方で、ある報告では規定通りの手洗いを行っている医療スタッフは約6割にとどまるというものもあり、手指衛生の不徹底が課題になっている現場があることも事実です。
手指衛生が進まない根本的な原因を探り、効果的な対策に結びつけましょう。

手指衛生が徹底されない理由とは?

WHOや米国CDC(Centers for Disease Control and Prevention:米国疾病管理予防センター)は2000年代に入り手指衛生の重要性を強調・発信し続けています。医療従事者にとっては基礎的な知識でもあり、ガイドラインや啓発キャンペーンが広く知られているにもかかわらず、手指衛生遵守率の向上が難しいのはなぜでしょうか。

背景には、スタッフの方々が抱える切実な事情や、医療・介護施設全体の課題があるようです。

手指衛生が遵守されない理由(医師・看護師・多職種など病院職員149名対象)

  1. 設置場所に問題がある(56名、37.6%)
  2. 面倒である(41名、27.5%)
  3. 手が荒れる(39名、26.2%)
  4. 必要性がない/感じない(69名、46.3%)
  5. その他(18名、12.1%)

これらの回答から、大きく3つに分けて背景を深掘りします。みなさまの現場にも当てはまる課題があるかもしれません。

3つの主な問題についてみていきます。

環境の問題

設備の場所や消毒剤の配置・量、職員間で取り組みに差が生じやすいなど、環境に問題があることもあります。

手洗い場の設置箇所の問題


例えば、手洗い場の設置箇所のせいで動線にムダが生じているという問題です。「ただでさえ多忙な医療の現場で遠回りをしたくない」といった心理がはたらき、手指衛生がおろそかになりかねません。人によっては「面倒だ」と感じて手洗いをしないおそれも考えられます。

手指消毒剤や手荒れ対策品の設置の問題


手洗い場の環境の問題には水道設備だけではなく、手指消毒剤、ペーパータオルやディスペンサーなどの設備の問題も含まれます。特に手指消毒剤は、設置数が頻回な手指衛生に直結するため、「使いやすい場所にない」という状況はスタッフの方々にとって負担になりがちです。手荒れ対策品や保湿剤も同様で、忙しい業務の合間に手荒れ対策ができないと、特に症状がひどい方にとっては苦痛になってしまいます。

手指衛生に取り組む意識にばらつきがある


また、職場環境が一貫していないこともマイナスの要因になり得ます。
近年働き方が多様化しており、スタッフの方々が「長時間労働の正規職員」前提ではなくなっています。雇用期間が限られた非正規職員や、アウトソーシングによる外部の方の出入りなどがあり、それゆえ統一した手指衛生の教育や対策が困難になる場合があるのです。
職種や部署ごとの意識の差が放置されたままでは、配属先次第で教育が行き届かない可能性もあり、好ましくありません。

教育・啓発の問題

手指衛生の不徹底の理由として意外と多いのが「必要性を感じない」ことです。スタッフの方々一人ひとりが忙しさや煩雑さなどから手指衛生をおろそかにしてしまうことは、裏を返せば手指衛生の重要性や感染リスクなどの周知が不十分な状態であると考えられます。

啓発の不足


感染対策の意識醸成が不足していると、どうしても業務の忙しさや手荒れによるためらいなど、阻害要因が有利にはたらいてしまいます。継続的に勉強会や研修の機会を設けないと、アウトブレイク直後には手指衛生遵守率が向上したとしても、年月が経過すると再び低下してしまうケースがあります。

手軽な対策としては、ふとした瞬間に手指衛生を意識できるようなポスターなどの掲示物を用意することです。これらは、手指衛生遵守率向上のきっかけになることがわかっています。掲示物は情報量を抑え、瞬時に内容を理解できるように、端的なメッセージを掲載しましょう。また、勉強会や研修においては、蛍光剤で手指に存在する菌を見える化する方法も、意識を高めるのに効果的です。

ポスター 一覧


感染対策の意識向上にはポスター等の掲示物の活用が有効です。
ダウンロード、印刷してご活用ください。

実務上の指導の問題


若手のスタッフの方が小まめに手指衛生に取り組んでいても、指導的立場にいる方がおろそかにしていると、手指衛生遵守に努める環境を形成できなくなってしまいます。同様に、スタッフの方一人ひとりが努力していても、施設全体で備品への投資が不十分だったり、手指衛生遵守率向上に関する方向性が曖昧だったりすると、大幅な改善は期待しにくくなってしまいます。

手荒れの問題

医療・介護現場で働く方々は、頻回な手洗いにより常に手荒れのリスクにさらされています。特に厳しい感染管理が必要な現場では、医師や看護師の手洗いは1日50~60回にも及びます。「手術時手洗い」では数十秒間かけて実施する必要があるため、手のうるおいを保つことは難しいのが現実です。

乾燥した手で手指衛生を繰り返すことで状態が悪化したり、ひびやあかぎれを起こした手に手指消毒剤がしみたりと、かゆみや痛みに耐えかねて手指衛生を控えてしまう方も少なくありません。

反対に、手荒れを改善できれば進んで「手を清潔にできる」といった前向きな気持ちで手指衛生に取り組めるのではないでしょうか。手荒れ対策に取り組む際は「手洗いや手指消毒で手肌が乾燥する」「保湿クリームを塗る時間がない」などといった改善すべきポイントに目を向けてみてください。

感染対策に携わるみなさまのアプローチが手指衛生遵守率向上のカギ

以上のように、手指衛生の徹底が難しい背景には、手洗い場の設備の問題から啓発・意識の問題など、さまざまな課題が混在しています。
上記に挙げたような課題が、手指衛生遵守率の向上を妨げているかもしれません。課題の根本解決に迫り、原因にしっかり向き合うことで、効果的な対策をとることができます。今回取り上げた情報を対策にお役立てください。

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