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使用者を限定した新たな手洗い剤導入と手荒れ改善

花王プロフェッショナル・サービス(以下、KPS)は2019年6月29日、愛知県名古屋市にて「手指健康セミナー」を開催。同セミナーでは、福井県済生会病院にて感染管理認定看護師として従事されている細田清美氏をお招きし、使用者を限定した手指洗浄剤の取り組みについてご講演いただきました。

本記事では、手指衛生遵守率向上の一環として同施設院が実施した取り組みの事例をご紹介します。

講演者プロフィール/細田清美(ほそだ・きよみ)氏
福井県済生会病院 感染対策室/感染管理認定看護師

1998年に福井県済生会病院に入職し、2005年に感染管理認定看護師資格を取得。現在まで同施設院にて専従看護師として勤務している。

手指洗浄剤の使用回数を低下させる手荒れの存在

福井県済生会病院は、一患者様に対してスタッフ様が行う擦式手指消毒剤の使用回数が少ないことを課題ととらえていました。手指衛生の遵守率が向上すると、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の分離率が低下するという報告があります。同施設でも同様の結果が確認できていたことから、手指衛生遵守率の改善は言うまでもなく重要なミッションでした。

ただし、以前から感染対策室は手指衛生サーベイランスを実施しており、スタッフ様へのフィードバックや取り組みの評価を行っていました。また、手指衛生強化週間の実施や、消毒剤使用回数の目標設定などにも取り組んでいましたが、手指衛生剤の使用回数はなかなか増えなかったといいます。

そこで細田氏は、スタッフ様に対して手指衛生に関するアンケートを実施。手指衛生の必要性などについて職員の意識を確認する目的で行いましたが、結果は期待どおりのものではありませんでした。

手指衛生に関するアンケート結果


▼ケア前の手指衛生の必要性があると思うか

  • すごく思う ……50%
  • やや思う………48%

▼ケア後の手指衛生の必要性があると思うか

  • すごく思う ……75%
  • やや思う………20

▼感染症は医療行為に起因していると思うか

  • すごく思う ……55%
  • やや思う………43%

▼最も高頻度な伝播経路の一つは手であると思うか

  • すごく思う ……48%
  • やや思う………50%

n=120

「ほぼすべての質問に『すごく思う』と答えてくれると期待していたのですが、実際は『やや思う』も相当数いるという結果に。職員の行動を変えていくために、私たちICT(Infection Control Team)が教育をどうプログラムしていくかが重要だと思いました」(細田氏)

また、同アンケートの自由記述欄には、スタッフ様から手荒れに関するお悩みの声やご意見も寄せられました。それは「手荒れがひどく消毒回数を増やせない」「消毒薬がしみるので改善してほしい」といったもの。手指消毒剤の効果を理解しつつも、手荒れが原因で手指消毒に抵抗があるという訴えでした。課題の根本には、手荒れの存在があったのです。

調査対象職員の半数以上が「手荒れの自覚ある」

もちろん、それまで同施設が手荒れ対策を講じてこなかったわけではありません。細田氏が感染管理認定看護師を取得した2005年から、同施設院では3年かけて擦式手指消毒剤、手指洗浄剤、ハンドローションの入れ替えや新規採用を実施。以降も適宜、消毒剤の変更や追加採用を行ってきました。しかし、皮膚トラブルを抱えるスタッフ様は多数存在したままで、手指衛生遵守率向上を阻害する手荒れの課題が解消されていないことが明らかとなったのです。

これを受け、細田氏は手荒れに関する追加のアンケート調査を行いました。すると、スタッフ様の半数以上が「手荒れの自覚がある」と回答。各部署に3~4名程度、手指衛生が困難な手荒れを抱える方がいることが明らかになりました。

▼手荒れの自覚

  • ある……51.2%
  • ない……48.8%

実際に手荒れを抱えるスタッフ様に話を聞くと、「皮膚科でステロイド剤を処方されているが、仕事が忙しく治療を継続できない」「手袋を常時着用していると症状が悪化する」など、手荒れに関するさまざまな悩みが聞こえてきたそうです。極めつけは、「夜勤明けは悲しくなる」という声でした。

「胸が貫かれる思いでした。手指消毒剤の変更を検討している際に『手を見せてね』と言っても、恥ずかしがって見せてくれない職員もいるのです。職員たちの手荒れを何とかしてあげたいと思いました」(細田氏)

新たな手指洗浄剤を試用し効果を確認

「手荒れ対策について思案していたところ、KPSさんから手荒れとバイオフィルムの関係について伺いました。手荒れを放置すると黄色ブドウ球菌が手指に吸着してバイオフィルムを形成し、殺菌・消毒剤の効果を阻害し、さらに菌の出す毒素の刺激でさらに手荒れが悪化するという悪循環に陥る可能性があるというお話でした。」(細田氏)

細田氏は細菌検査室に依頼し、実際に手荒れに悩む職員スタッフ様たちの手指の検査を実施。すると、黄色ブドウ球菌や、その他の細菌が存在していることが分かりました。
これを踏まえ「バイオフィルムが原因で手荒れが治癒しないのだろうか」と細田氏は考えたといいます。
手荒れがあってもその状態に応じた適切な手指衛生対策をするために、荒れやすい手指もしっかり洗えるという、オレイン酸技術を採用した手指洗浄剤「EX-CARE泡ハンドウォッシュ」(以下EX-CARE)の試用を開始しました。

試用の概要


  • 血液内科の3名の職員(看護師)で実施
  • ハンドケアは、対象職員3名で購入し持ち回りで使用している市販のハンドクリーム/ワセリン/病院が提供しているハンドクリームを使用
  • 家事や日常生活、内服薬などに変化がないことを確認
  • 手指洗浄剤のみ変更する

試用を開始して1週間がたってもスタッフ様からは「試用を止めたい」とか「手荒れがひどくなった」というような声は聞こえてこなかったとのことです。
さらに1週間後(試用開始から2週間後)、反応の違いや個人差はあったものの、スタッフ様の表情が以前より明るくなったといいます。早々に新規採用と運用方法の検討が必要と判断、2017年に新規採用を申請するに至りました。

評価スコアと許可申請書の活用で運用を適正化

こうして2017年にEX-CAREが正式採用されましたが、従来の手指洗浄剤の全てを入れ替えるのではなく、手荒れを抱えるスタッフ様限定で使用することになりました。EX-CAREの導入に合わせ、細田氏は手指の評価スコアを作成。自己評価と他者評価により手指の状態を判断し、EX-CAREの払い出しを申請制にしたのです。

【EX-CAREの申請時に必要な書類】

手と皮膚の評価スコアの画像。

細田氏の講演資料より(Elain L.Larson et ai.:AJIC Am J Infection Cntrol,1998, を参考に作成)

同施設ではEX-CAREが個人に払い出されることから、現場での乱用を防ぐために、導入目的や受払いの方法について注意喚起がなされています。申請した方は自身の名前を容器に記入し使用するというルールも設定されており、記名した容器を資材課に持っていくことで、EX-CAREを継続して使用することができます。

「手荒れのある職員の把握が正しくできるように、必ず申請してもらうようにしています。そしてEX-CAREを補充した職員がいれば、資材課から私にその職員の名前が連絡され、継続して使用していることがわかる仕組みになっています。」(細田氏)

この取り組みを開始して個人差が見られたものの、手荒れリスクのあるスタッフ様でも1年以上継続使用でき、しっかりと手指衛生を行えることが分わかりました。

取り組みがもたらした職員の笑顔

2019年6月現在、同施設院では25名の方がEX-CAREの使用を続けており、不定期ではあるものの、細田氏も使用者の手荒れ状況を直接確認しているそうです。この取り組みにより手荒れ状況は改善されているようですが、新たな課題も出てきたといいます。
例えば、手荒れが改善したスタッフ様が常設の手指洗浄剤を使用したり、スキンケアを怠ったりして再び悪化させてしまうようなケースです。このほか、WOCナース(皮膚排泄ケア認定看護師)から「予防の意味で全職員の使用を認めてほしい」という要望も出ているといいます。

「今回の取り組みで当院の手荒れは改善できたと感じていますが、手荒れの存在と手指衛生のコンプライアンスのバランスを取ることは簡単ではありません。当院の手指衛生遵守率がどう変わっていくはこれからの取り組み次第ですが、私たちICTの根気強いサポートも必要だと考えています」(細田氏)

細田氏は、「自分の皮膚トラブルが患者さんに不安を与えているのではないか」というスタッフ様の不安を感じていたといいます。それが今回の手荒れ改善の取り組みで払拭され、スタッフ様が笑顔で患者様に接してくれるようになったことが「何よりも良かった」と語りました。

セミナー参加者に「エクスケアコンパクト泡ハンドウォッシュ」の説明をするKPSスタッフの写真①

セミナー参加者に「エクスケアコンパクト泡ハンドウォッシュ」の説明をするKPSスタッフの写真②

セミナー当日は「手洗い体験コーナー」のブースも。

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