実践事例

連携病院との手指衛生推進と、
手荒れに個別対応することの重要性

花王プロフェッショナル・サービス(以下、KPS)は2019年8月3日、福岡県福岡市にて「手指健康セミナー」を実施。同セミナーでは、重工記念長崎病院で感染管理認定看護師として従事されている峯麻紀子氏をお招きし、手指衛生推進と手荒れ対策の取り組みについてご講演いただきました。

本記事では、手指衛生遵守活動として同施設が実施した取り組みをご紹介します。

病院名:重工記念長崎病院
お話いただいた方:峯麻紀子(みね・まきこ)氏
重工記念長崎病院 感染対策室 室長/感染管理認定看護師

1994年に三菱重工業株式会社長崎造船所病院(現:重工記念長崎病院)に入職。2011年に感染管理認定看護師資格を取得。2012年より同施設の感染対策室で勤務し、2013年から副室長、2016年から現在まで室長を務める。

施設における手指衛生推進の取り組み

重工記念長崎病院では、峯氏が感染管理認定看護師資格を取得した2011年以降、手指衛生推進活動として以下の取り組みが行われてきました。

【手指衛生推進活動】

▼2011年

  • 集合教育

▼2012年

  • 感染対策マニュアルの改定
  • マニュアルの周知(読み合わせとポスターの掲示)
  • 携帯用手指消毒剤の導入

▼2013年

  • 視聴覚教材を用いた少人数ワークショップ

▼2014年

  • 現場における少人数ワークショップ

上記の「集合教育」は、WHOが推奨する手指衛生の5つのタイミングを浸透させる目的で同施設の全職員を対象に行った研修で、2011年以降は毎年実施しているとのことです。

2012年6月に行った「感染対策マニュアルの改定」では、院内感染対策マニュアルに手指衛生の5つのタイミングを明記。各タイミングの具体的な場面について、以下のような表で記しました。

手指衛生5つのタイミング毎の具体的な場面


①患者接触前


  • 移動などの介助の前
  • 入浴や清拭の前
  • 脈拍測定の前
  • 血圧測定の前
  • 胸部聴診の前
  • 腹部触診の前

②清潔操作前


  • 口腔/歯科ケアの前
  • 分泌物の吸引前
  • 損傷皮膚のケアの前
  • 包交を行う前
  • 皮下注射の前
  • カテーテル挿入前
  • 輸液側管アクセス前
  • 食事、投薬の前

③体液曝露後


  • 口腔/歯科ケアの後
  • 分泌物の吸引後
  • 損傷皮膚のケアの後
  • 包交を行った後
  • 皮下注射の後
  • カテーテル挿入後
  • 手袋を外した直後
  • ドレーンの操作後
  • 気管内チューブの挿入と抜去の後
  • 尿、糞便、吐物など汚物の処理後

④患者接触後


  • 移動などの介助の後
  • 入浴や清拭の後
  • 脈拍測定の後
  • 血圧測定の後
  • 胸部聴診の後
  • 腹部触診の後

⑤患者環境接触後


  • シーツ交換の後
  • 点滴速度調整の後
  • アラーム確認や操作後
  • ベッド柵をつかんだ後
  • ベッドサイドテーブルを掃除した後

峯氏の資料を参考に作成

マニュアル改定後は、各病棟のリンクナースを中心に改訂部分の読み合わせを実施したほか、手指衛生の5つのタイミングを示したポスターを各病棟のナースステーションに掲示するなどして、周知を図ったそうです。

さらに同年12月には携帯用手指消毒剤を導入。それまでは病室入り口にしか手指消毒剤が設置されておらず、患者ゾーン内で手指消毒ができなかったそうですが、現在は全ての看護師様、看護助手スタッフ様に携帯が義務付けられているといいます。

ただし、携帯用手指消毒剤の導入後も正しいタイミングで手指消毒を実施できていない様子が見て取れたため、2013年7月に視聴覚教材を用いたワークショップを実施。その際、教材としてオリジナルのビデオを作成したそうです。ワークショップの内容は、「清拭・陰部洗浄」「ルート確保」「検温」の各場面におけるOKシーンとNGシーンを作製し、まずNGシーンを視聴後にディスカッションを行い、OKシーンを視聴して回答と解説を学ぶものだったといいます。

しかし、「実際の現場で実践しないと分からない」というスタッフ様の声があったことから、2014年9月からは現場におけるワークショップに変更。3~6名程度のスタッフ様が一つのグループとなり、模擬病室でワークショップを行ったあとに手指衛生のタイミングについてディスカッションを行うという内容で、以降も継続して実施しているそうです。

以上のような取り組みを実施した結果、手指消毒剤の消費量モニタリングによって算出した同施設における1患者1日あたりの手指衛生回数は、徐々に増加していったといいます。

携帯用手指消毒剤を導入した翌年の2013年には回数が一気に増加しましたが、2014年には減少。これについて峯氏は「最初は興味を持って使用していたが、だんだん慣れてしまったのでは」と分析しています。

ただし、2011年から2018年の手指消毒剤の消費量と手指洗浄剤の消費量を比較すると、2013年以降はアルコール製剤の使用量が手指洗浄剤の使用量を上回っていることが分かったといいます。携帯用手指消毒剤の導入を境に、アルコール製剤が手指衛生の第一選択となったようです。

一方、直接観察により算出した手指衛生遵守率は、携帯用手指消毒剤の導入後もさほど向上しなかったことが分かったといいます。ただし、ワークショップを開始してからは遵守率が大きく向上。その後も継続して実施することで遵守率70%台を維持できていることから、峯氏は「遵守率を向上させるためには、5つのタイミングをスタッフに理解させることが必要と分かった」と話しました。

地域連携病院との共同の取り組み

長崎県長崎市西部地区の中核病院としての役割を担う重工記念長崎病院。同施設は感染防止対策加算1を算定しており、3つの病院(いずれも感染防止対策加算2を算定)と地域連携の関係にあることから、手指衛生に関しても共同で取り組みを実施しています。これまでに、以下の取り組みが行われてきました。

【地域連携病院との取り組み】

▼2015年

  • 4病院共通手指衛生推進ポスター(病院長編)

▼2016年

  • 4病院共通手指衛生推進ポスター(ICD編)

▼2017年

  • 4病院共通手指衛生推進ポスター(ICN編)

▼2018年

  • 4病院共通手指衛生推進ポスター(薬剤師編)
  • 4病院共通の手指衛生研修

2015年から毎年行っている取り組みとしては、手指衛生の啓発を目的としたポスターの共同制作があります。これまで制作してきたのは「病院長編」「ICD編」「ICN編」「薬剤師編」の4種類で、各ポスターには効果的に啓発するための工夫が施されています。

【啓発のためにポスターに施された工夫】

▼病院長編

各院長様による「共同宣言」という形をとることで、手指衛生の強制力を持たせることをねらうとともに、4病院の連帯感を示した。また、スタッフ様と患者様の双方に響くメッセージを採用。

▼ICD編

医師はあまり手指衛生をしていないイメージがあったため、「ICDが率先して手指衛生を行っている」というイメージ改革を図るとともに、第一選択はアルコール消毒薬であることを訴求。また、手指衛生の具体的な手技を、医師からの言葉として表現した。

▼ICN編

「輸液を調整する前」「処置の前後」「患者様に触れる前」「パソコンを触った後」など、手指衛生が必要になる具体的な処置や場面を示した。また、インパクトをねらい、パームスタンプの培養写真(アルコール製剤の使用前後の比較)も掲載した。

▼薬剤師編

薬剤師らしい内容にすることをねらい、「アルコール手指消毒は15秒以上擦り込むと効果的!」というメインメッセージを採用。また、手指消毒剤を使用する際は「下までプッシュすること」「乾燥するまで擦り込むこと」「開封後の期限を確認すること」「保湿剤入りで手荒れ予防になること」も訴求した。

※2019年は「検査技師編」を作成中。

ポスター制作のほか、2018年には共同で院内感染対策研修を実施。「手指衛生完全マスターを目指そう」という研修で、内容は「事前テスト10問、講義、確認テスト10問」で構成。まずは重工記念長崎病院で行い、全く同じ形式の研修を、その他の連携病院にも取り組んでもらったといいます。

こうした連携病院との共同の取り組みの結果、連携を開始した2012年以降は、おおむね全施設で、アルコール手指消毒剤の使用回数が増えているようです。

4病院1患者1日あたりのアルコール使用回数

2012年から2018年の4病院1患者1日あたりのアルコール使用回数のグラフ。どの病院もアルコール手指消毒剤の使用回数が増加している。

2012年から2018年の4病院1患者1日あたりのアルコール使用回数のグラフ。どの病院もアルコール手指消毒剤の使用回数が増加している。

2012年から2018年の4病院1患者1日あたりのアルコール使用回数のグラフ。どの病院もアルコール手指消毒剤の使用回数が増加している。

峯氏の資料を参考に作成

患者様の言葉から始まった手荒れ対策

上述のように、手指衛生を推進するための多様な取り組みを実施してきた同施設。しかし、直接観察を行っていたときに遭遇したある場面がきっかけで、峯氏は手荒れ対策の必要性を実感したといいます。

「ある看護師スタッフがケアをしていたとき、患者さんからこう言われたのです。『手をみせてちょうだい。あなたの手はチクチクするの。どうなっているのかしら。』そのとき、手指衛生の推進と手荒れ対策を同時に進めることが必要だと気付きました。」(峯氏)

峯氏がまず検討したのはハンドローションの導入でした。約20種あるハンドケア製品の候補をICT(Infection Control Team)とリンクナースのメンバーで6種まで絞り、それらの使用感を現場スタッフ様にサンプリングしてもらった上で導入品を決定。導入後は「普段(荒れる前)から塗布すること」「流水手洗いのあとや乾燥が気になるときなど小まめに塗布すること」を伝えるとともに、「効果的な塗り方」も同時に周知したそうです。

しかし、導入1年後のアンケート調査の結果では、ハンドローションの導入後も86%のスタッフ様が手荒れを経験しているという課題が分かったそうです。一方、ハンドローション(施設で提供していない製品を含む)を使用しているかという問いには89%のスタッフ様が「使っている」と回答したことから、保湿の必要性に対する意識の高まりは見て取れたといいます。

ハンドローション導入1年後使用感調査

2017年4月 ランダムに選ばれた職員120名を対象 アンケート回収数115名(回収率96%)

  • ハンドローション導入1年後の手荒れの状況を表すグラフ。ほぼ毎日手荒れしている19.17%。冬場に手荒れする46.4%。時々手荒れする33.29%。手荒れしない16.14%

  • ハンドローション導入1年後の使用状況を表すグラフ。毎日使っている15.13%。時々使っている75.64%。採用されていることを知らなかった3.2%。採用は知っていたが手荒れが無く使っていない11.9%。他の製品を使っている14.12%。

    峯氏の資料を参考に作成

なお、同製品の使用感に関する問いでは15%のスタッフ様が「手荒れの改善を実感した」と回答。また「手がうるおった」という方も29%おり、峯氏は「何らかの状態改善にはつながっていると感じた」と話しました。ただし「手荒れに変化がない」「剤がすぐ取れてしまう」などの意見もあったことから、峯氏は「剤形の異なる複数の製品や、保湿だけでなく保護も行える製品など、個人の手荒れの状態に合わせて準備することが理想」とも話しています。

ハンドローションの導入以外に峯氏が手荒れ対策として検討したのは、手指洗浄剤の変更でした。アルコール製剤とは異なり、これまで使っていた手指洗浄剤には保湿剤が含まれていないことが分かり、そのタイミングで出会ったのがEX-CAREだったといいます。「手肌にやさしく、うるおいを守りながら洗える」という同製品の特徴について、当初はやや懐疑的だったといいますが、エビデンスなどが決め手となり、導入に至ったそうです。

EX-CAREの導入から10カ月後、同施設では使用感に関するアンケートを実施。EX-CAREの洗浄力については「従来品と同等」と回答した方が多かった一方、手のうるおいを実感した方が36%いたそうです。この結果に峯氏は「EX-CAREが手肌のうるおいに寄与するというのは、実践的にも言えることだと分かった」と話しました。

個々に合わせた手荒れ改善支援

同施設では手荒れを予防する取り組みだけでなく、手荒れのあるスタッフ様へのサポートも実施しています。以下、峯氏がこれまでスタッフ様に対して行った個別の対応事例です。

【病棟勤務の看護師Aさん】

▼状態・状況

  • アトピー性皮膚炎あり。
  • 湿潤性の紅斑、丘疹、掻痒感が著明で、炎症を起こして腫れている状態。
  • アトピーの治療に皮膚科で処方された軟膏を使用しているものの、手指衛生により有効成分が取れてしまう。

▼対応

  • 軟膏塗布後、綿手袋とプラスチック手袋を着用してもらうようにした。
  • 軟膏の塗布と綿手袋の交換は出勤時と昼休憩時の2回実施。
  • 手指衛生の代用としてプラスチック手袋を交換する。

▼結果

  • 6日目に症状が軽減され、25日目には一部紅斑を残しつつ、ほぼ改善した。

【病棟勤務の看護助手Bさん】

▼状態・状況

  • アトピー性皮膚炎なし。
  • 右の第二指にびらんがあり、腫脹、発赤、疼痛が著明で、同じ場所が繰り返し手荒れする状態。
  • 包帯を巻いて業務にあたっている。

▼対応

  • 皮膚科にかかってもらい、軟膏で治療してもらうようにした。
  • 軟膏塗布後、綿手袋とプラスチック手袋を着用してもらうようにした。
  • 軟膏の塗布と綿手袋の交換は出勤時と昼休憩時の2回実施。
  • 手指衛生の代用としてプラスチック手袋を交換する。

▼結果

  • 9日目にはびらんがなくなり、発赤のみになった。29日目にはきれいな皮膚になった。

皮膚のターンオーバーが21日(3週間)であることから、上記2名のスタッフ様への対応を通じて、峯氏は手荒れに対応する場合も「あきらめずに3週間は手荒れ対策を継続することが大事」と気付いたといいます。

その後、より客観的な評価が必要と判断し、Larson's skin self - assessment tool(スキンコンディションスコア)を使うようになったそうです。この評価方法は、手の皮膚の状態について4つの項目をそれぞれ1~7段階で評価するものです。

スキンコンディションスコアを用いたスタッフ様への対応事例は、以下のとおりです。

【手術室勤務の看護師Cさん】

▼状態・状況

  • アトピー性皮膚炎あり。
  • 手が全体的に乾燥しており、特に右手背に皮膚の肥厚が1箇所あり、そこに小さな亀裂がある。
  • 手術時手洗いをするとしみる。
  • アトピーの治療に皮膚科で処方された軟膏を使用しているものの、手指衛生により有効成分が取れてしまう。

▼対応

  • Cさんの上司と看護部に掛け合い、手術器械出し業務を外れてもらい、外回りのみとした。
  • 外回りでも、軟膏塗布後、綿手袋とプラスチック手袋を着用してもらうようにした。

▼結果

  • 当初13点だったスコアが、5日目に15点、13日目に23点、23日目に25点になり、器械出し業務を再開できた。

【病棟勤務の看護師Dさん】

▼状態・状況

  • アトピー性皮膚炎なし。
  • 皮膚の状態はずっと良かったが、急に手が荒れ始めた。
  • 手背はさほど荒れていないが、手掌側は皮膚が肥厚し、色素沈着や多数の亀裂が見られ、かゆみ、熱感、疼痛を伴っている。
  • 手荒れに影響しているのが手袋かアルコール製剤かは不明。

▼対応①

  • 低刺激性のアルコール製剤を使用してもらうようにした。 

▼結果①

  • 当初5点だったスコアが、7日目に17点、20日目に19点になった。
  • しかし対応開始2カ月後、再度手荒れが悪化し、スコアが12点に下がった。

▼対応②

  • 皮膚科にかかってもらい、軟膏で治療してもらうようにした。
  • 軟膏塗布後、綿手袋とプラスチック手袋を着用してもらうようにした。
  • 軟膏の塗布と綿手袋の交換は出勤時と昼休憩時の2回実施。
  • 手指衛生の代用としてプラスチック手袋を交換する。

▼結果②

  • スコアが25点に上がった。
  • 低刺激性の手指消毒剤の使用を再開した。

手荒れしてしまったスタッフ様への対応について、峯氏は「個々の状態に合わせて対応しなければいけないと学んだ」といいます。

「交差感染を防止するためには、手指衛生と手荒れ対策の両方が大事で、両方を同時に行う必要があると思います。スタッフの手荒れに目を向け、手荒れ改善の支援を行うことは、スタッフの満足のみならず、患者様の満足にもつながると考えます。」(峯氏)

セミナー参加者に商品の説明をするKPSスタッフの写真

セミナー当日は「手洗い体験コーナー」のブースも。

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