実践事例
病院名:鶴岡市立荘内病院
お話いただいた方:若松由紀子(わかまつ・ゆきこ)氏
鶴岡市立荘内病院/感染管理認定看護師
1988年、鶴岡市立荘内病院に入職し、産婦人科、内科、外科、集中治療センターでの勤務を経験。2006年に感染管理認定看護師資格を取得し、2009年から同施設の医療安全管理室で感染管理専従看護師として勤務している。
本記事は2019年7月27日、宮城県仙台市にて開催された「手指健康セミナー」での講演を取材したものです。
鶴岡市立荘内病院では現在、以下の手指衛生推進活動を実践しています。感染管理認定看護師の若松氏は、「あの手この手で試行錯誤しながら活動を進めてきた」と話しました。
【手指衛生推進活動】
上記の手指消毒剤使用量のモニタリングについては、3カ月ごとの手指消毒剤の使用回数を見える化した資料(下図の「入院棟の手指消毒剤使用量の推移(3ヶ月毎)」)を配布しているそうです。
入院棟の手指消毒剤使用量の推移(3ヶ月毎)
(手指消毒剤量÷のべ患者数÷1.2ml)
また表彰については、前年度と比較して手指衛生回数の伸び率が良かった部署に、表彰状が送られるそうです。
上述のような取り組みの結果、同施設の手指消毒剤(アルコール製剤)の使用回数は、2009年から2018年にかけて3倍以上に増加。MRSA新規発生数も少しずつ減少しているといいます。
AHR*使用回数の推移とMRSA新規発生率
こうした前向きなデータがある一方、現場スタッフ様のケアのタイミングや処置のタイミングについてはまだまだ課題があるといいます。これらを解決する上では手指衛生をいっそう推進する必要がありますが、同時に手荒れの問題も発生しており、現在はこの対策にも取り組んでいるそうです。
同施設で初めて手荒れに関する調査が行われたのは2008年。看護師スタッフ様を対象に調査したところ、78%の方が手荒れを自覚していることが分かったといいます。当時、ハンドクリームの使用や皮膚科の受診などはスタッフ様個人の責任のもと行われていたそうで、スタッフ様からは「ハンドケア製品を病院で準備してほしい」「ハンドクリーム代が負担だ」といった声が寄せられたそうです。
看護師「手荒れ」調査 2008より
また、過去に職員研修で「流水手洗いとアルコール手指消毒剤、どちらが手荒れしにくい?」というクイズを行ったとき、多くのスタッフ様が「流水手洗い」と回答したそうです。これ以前から手指衛生に関する教育を行ってきた若松氏は、「知識を浸透させることの難しさを感じた」といいます。
同施設ではその後、手荒れに関して以下の取り組みが実施されてきました。
【手荒れに関する取り組み】
▼2008年度
▼2014年度
▼2015年度
▼2016年度
▼2018年度
▼2019年度
上記のうち、2015年度の手荒れ予防の研修は「患者を守る手指衛生を考える」というテーマで実施。スタッフ様の手荒れが患者様の感染リスクをどう高めるのか、また、手洗いや手指消毒が皮膚のバリア機能を低下させて手荒れを起こす(ハンドケアが大事である)といったことを説明したといいます。それまで看護部では同様の研修を頻繁に行っていたそうですが、初めて全職員を対象としたそうです。
上記のほか、若松氏はWOCナース(皮膚・排泄ケア認定看護師)とともに「手荒れを防ぐ基本5か条」というものを作り、ハンドケアの重要性を推進しているといいます。
【手荒れを防ぐ基本5か条】
「非常に基本的な内容ではありますが、この5か条を示すことで一人ひとりが実践できるように働きかけました。ただ一方的に示すのではなく、『困ったときはぜひ相談してくださいね』と伝えるなど、スタッフが不安にならないよう意識しています。」(若松氏)
若松氏は、研修の実施とともに、スタッフ様の手荒れに配慮した手指消毒剤やハンドケア製品の導入も進めてきました。そのうえで手指洗浄剤についても見直しをかけることになったのです。
以前、同施設には開院当初から設置されていた壁付の手指洗浄剤がありました。そのためICT(Infection Control Team)が選定した製品が設置されない(使用できない)状況だったといいます。壁付の製品では「手が荒れる」というスタッフ様の声が聞かれたほか、患者様からも「これが石けんだと知らなかった」という意見があったため、これを撤去してポンプタイプのみを置くことが決定したそうです。
2018年度、新たに採用したのはEX-CAREコンパクト。同製品の「荒れやすい手肌も、しっかり洗える」という特徴に、若松氏は「手荒れ対策品として期待した」といいます。加えて、従来の3分の1の泡の量で洗うことができる点や、ボトル交換の頻度と廃棄量が減る点、さらに9割以上のスタッフ様が導入を希望したことが導入の理由となりました。
「1プッシュの泡で洗えるということでしたが、正直なところ『2プッシュしてしまうのでは』と危惧しました。ただ、スタッフに正しい手順で洗ってもらうためのきっかけになればと思い、導入に至りました。」(若松氏)
EX-CAREコンパクトの導入から6カ月後、現在使用している手指消毒剤とハンドケア製品も合わせて、同施設はスタッフ様に製品に関するアンケートを実施しました。
製品評価では、どの製品も7割ほどのスタッフ様が評価をし、同時に手荒れに関する取り組みも評価されていることが分かりました。
一方、現在の手荒れの状況に関する問いでは、2008年のアンケートと比較して手荒れを自覚しているスタッフ様が減少したという結果が出たものの、全体の約半数のスタッフ様が手荒れを自覚していることが分かったようです。このうち「ひどい手荒れあり」または「手荒れあり」と回答した方は全体の14%。50人以上のスタッフ様が依然として手荒れに悩んでいる状況が浮かび上がったといいます。
「手荒れ」はありますか?
また、若松氏は「自己申告ではあるが」と前置きしつつ、手荒れのないスタッフ様よりも、手荒れのあるスタッフ様のほうが、手指消毒の回数も流水手洗いの回数も多いという結果を報告しました。
1日平均手指衛生およびケア回数(手荒れの程度別)
同施設のNICU(Neonatal Intensive Care Unit:新生児集中治療室)・GCU(Growing Care Unit:回復治療室)では、3年ほど前にセレウス菌によるカテーテル関連血流感染事例を、2年前にMRSAアウトブレイク事例を経験しました。
「手指衛生をすごく頑張っているスタッフたちだったので、みんな大変なショックを受けました。それから自分たちの手指衛生を振り返り、いかにタイミングよく実践するかということを考え、行動してくれました。」(若松氏)
NICU・GCUはもともと手指衛生回数が多い部署でしたが、アウトブレイクを機に、1日70回弱だった手指衛生回数が116回にまで増加したといいます。このように手指衛生を強化する一方、手荒れの問題も顕著になったといいます。
例えば、リンクナースとして働くAさんは、以下のような状況だったといいます。
【スタッフAさんの手荒れの状況】
▼経過
▼手指衛生
▼手袋
▼ハンドケア
また、NICUに看護師として勤務するBさんは、以下のような状況でした。
【スタッフBさんの手荒れの状況】
▼経過
▼手指衛生
▼手袋
▼ハンドケア
NICU・GCUには、上記のほかにも同じような状況のスタッフ様がいたといいます。そこでNICUのスタッフ様が率先して対策を検討。現在は、以下の手荒れ改善策を実施しているそうです。
【手荒れ改善策】
①点滴準備前
②調乳
③目に見える汚れが付いた時
④アルコールでベトつく時
⑤NICU・GCU入退室時
※内側手袋として使用可
①流水手洗い後
②寝る前
NICUの習慣となっていた「患児間の流水手洗い」を省いた点が大きなポイントとなっています。また、スタッフ様が自分に合ったハンドクリームを使用できるよう、現在は持ち込みを認めているといいます。
若松氏は「個々の手荒れの原因を取り除くことは困難」としつつも、「環境を整え、正しく実践できるよう取り組むことで改善に近づく」と話し、手荒れ対策に取り組む上で大事なこととして以下の3点を示しました。
①刺激の少ない製品の選択および配置場所の検討
②手指衛生やスキンケアについての教育
③個々の手荒れや習慣への相談対応と支援
「私たちは特に3番目に力を入れようと思っています。手荒れはどうせ治らないと諦めている職員は多いですが、やはり防ぐ方法をきちんと教えてあげたいと思いますし、もし手荒れに悩まされたとしても、しっかり治すために、一緒に考えながら支援していきたいと考えています。」(若松氏)
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