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座談会

手指衛生における課題と対策

ICN座談会 『医療関連感染のゼロを目指す手荒れケアのあり方を求めて』

座談会に参加いただいた感染管理認定看護師の写真。

左から 
小張総合病院 関あき子さん
船橋中央病院 星野智子さん
花王プロフェッショナル・サービス株式会社 印田宏子(司会)
川崎幸病院 伊藤文江さん
上尾中央病院 白井由加利さん
(2017年時点のご所属です)

院内の感染対策を行う上で、医療従事者の手指衛生の遵守は大切な取り組みです。一方で頻回の手指衛生が手荒れを引き起こしてしまい、本来感染管理のために行っている手指衛生の徹底を阻害することも事実です。今回は4人の感染管理認定看護師の方にお集まりいただき、手指衛生の取り組みやそれにともなう手荒れ対策について語っていただきました。

手指衛生のための手荒れ対策の現状

司会 手指衛生を阻害する要因の一つである手荒れですが、とりわけ冬のシーズンは問題になってくるかと思います。スタッフさんの手荒れに対する取り組みの事例などあれば、ご紹介いただけますでしょうか。
 
伊藤 今回参加させていただくにあたって、アルコール手指消毒剤の使用量が一番多いICUで手荒れの状況を把握しようと思いましてアンケートを取ったのですが、約60%のスタッフに何らかの手荒れの症状がありました。やはり一番多かったのは「手がかさつく」だったんですが、この60%という数字は意外に少ないかなとも思いました。
 
 当院も約320名のスタッフにアンケートを実施しました。回収率は85%程度です。手荒れに悩んだことがあるかという問いに「はい」という回答は大体半分ぐらいでした。「あるけれども一時的」という回答が39%、「いいえ」は13%でした。また、実際に手荒れによる皮膚科の受診経験を尋ねたところ、治療中も含めると20%強という状況でした。 受診率は女性の方が高く、男性は低い傾向にありました。実際に皮膚科を受診して解決しましたかという問いには、「はい」と「いいえ」がほぼ半数でした。こういう機会をいただいたおかげで、看護師たちが何かしらの手荒れに悩んでいる実態を確認できました。

司会 アルコール手指消毒剤を使用するか、洗浄剤で手を洗うかによっても手荒れの具合は変わってくると思うのですが、NICU(新生児特定集中治療室)ではいかがでしょうか?
 
星野 NICUでは以前より流水手洗いが根付いているからか、当院のNICUでも手を洗うことの方が多いため、現在アルコール手指消毒剤をメインに使用するように力を入れている状況です。ただ、夜勤になると手指衛生の回数も多くなり、アルコールで手が真っ赤になってしまうスタッフがいますね。

白井 当院の一般病棟では1日1患者あたり2回から14回、ICUは所属部署ということで特にアルコールの使用に力を入れていまして、1日1患者あたり60回から70回にまで伸びているところです。

一同 すごいですね。
 
白井 手荒れのスタッフには手をしっかりと見せてもらうようにしています。その際、手袋の使用を勧めたり、それでも改善しない場合には違う素材の手袋に変えてもらったりといったアドバイスをしています。それで調子がよくなって、またアルコールが使えるようになったスタッフもいます。ただ、先ほどおっしゃってた夜勤明けのハンドケアについては着手できてない現状です。そこでハンドケアが徹底すれば、さらに手指衛生の遵守率も上がってくるんじゃないかと思っています。

手洗いの指導とセルフケアの啓発

司会 アルコール手指消毒剤は複数種類を使い分けてらっしゃいますか?
 
白井 当院は2剤です。
 
 当院では、ハンドケアをやっても手荒れが改善しない場合には、申請制で別のアルコール手指消毒剤に変えることができるようにしています。20%弱がその手指消毒剤を使っていると思います。ただ、申請制ということで、中には手荒れを起こしていても積極的に声を出せないスタッフもいることが分かり、声掛けの必要性を感じています。
 
星野 当院は1種類です。2種類から自由に選択できるようにしたいと考えましたが、コスト面や管理面で厳しいところがあります。

司会 アルコール手指消毒剤は複数種類を導入されているところもあるようですが、手洗い剤はいかがでしょうか?
 
一同 1種類です。
 
 これまで使っていた製品とは別の泡タイプの製品を試供しましたら、手荒れが少なくなったというアンケート結果が出まして、今、そちらの製品に変更する方向で動いています。現状は個人専用の手洗い剤を持ってきている人もいますね。
 
司会 手の洗い方や洗浄剤の使い方についての指導で工夫されていることはありますか?
 
白井 どうしても手をゴシゴシ洗う人が多いのですが、現場に入っていって注意するのはなかなか難しいですね。WOCナースがよく泡立てて、その泡で洗うことを指導してますし、実際、患者さんの陰部洗浄のときなどは、しっかりと泡立てて洗うことが徹底されているのですが、自分の手となるとだめです。洗い方の指導も「こする」という言葉になっていますので、つい力を入れてしまっているようです。

星野 当院では全職員の研修で実際に手指衛生を行ってもらいます。その際、ゴシゴシ洗っている人を見つけたら、顔はどうやって洗っているかを聞いてみます。ほとんどの人が泡で洗うと答えるので、手も同じように泡で洗いましょうと指導しています。手を酷使する仕事だからこそ、手を大事にしてほしいです。
 
伊藤 手は何十回何百回と洗うわけですから、そういうところから地道に手荒れ予防を始めていくべきだと思っています。
 
 アトピーという診断を受けていて、手荒れがなかなかよくならないスタッフには、刺激の少ないタイプの手袋をはめて、その上から通常の手袋をして仕事をしてもらい、手洗いの回数を減らして様子を見ていくようにしています。
 
白井 当院でも、アルコールが使えないほど手荒れが悪化してきたスタッフには手袋を使用させています。業務内容を変えられればいいのですが、人員の問題もありますので難しいところです。

司会 感染症対策という側面からも深刻な問題ですね。
 
伊藤 手荒れのスタッフによって手指衛生の遵守率が下がると、黄色ブドウ球菌などの感染の心配が出てきますし、そういう悪循環が起こる可能性が高まることは懸念されますね。
 
 手荒れが感染のリスクになるということを、本人がしっかり自覚する必要があります。その上で通常よりも意識して業務に従事するということも重要です。
 
星野 スタッフも守らなければいけませんが、それ以上に患者さんを守らなければいけないわけですから、セルフケアの啓発にも努めていく必要があります。そういった提案をしていくのが、ICNの仕事でもあると思っています。

新発見!手荒れの改善を遅らせる要因

司会 手荒れが発生している方は発生していない方に比べて、黄色ブドウ球菌の保菌数が多いことは従来より認められていましたが、どうして定着し続けてしまうのかについてはわかっていませんでした。ここ最近の研究で、慢性的に手荒れが起きている手指には黄色ブドウ球菌がバイオフィルムを形成してしまい、保菌量が多くなっていることがわかってきました。そのバイオフィルム除去に効果のあるオレイン酸が配合された洗浄剤も論文で報告されています。
 
 カテーテルなどにバイオフィルムが形成されると、血流感染を起こす原因になるという認識はありましたが、黄色ブドウ球菌によって形成されるバイオフィルムが手荒れを悪化させていると伺うと、それもうなずけるところがあります。
 
 バイオフィルムと聞くとやはり褥瘡のことを連想してしまいます。その際は洗浄や物理的な除去が必要となるかと思いますが、手の表面にバイオフィルムがあるとすると、物理的に除去するのは難しいですし、厄介ですね。

星野 手荒れ部分の黄色ブドウ球菌にバイオフィルムが形成されているという事実には驚きがあります。確かに手荒れも傷の一つと考えると、そこにバイオフィルムがあったとしてもおかしくありません。しかし、こういった新情報をスタッフに理解してもらうことはなかなか難しいかもしれません。
 
一同 確かにそうですね。
 
 実際に慢性的な手荒れが原因で、手指衛生がきちんとできていないのではないかと思われるスタッフもいます。もしバイオフィルムが形成されているとすれば、その除去に効果がある洗浄剤を使ってみたい気がしますね。
 
白井 今までの考え方とはまったく違ったハンドソープだけに、使ってみたいという気持ちはあります。ただ、コストとの兼ね合いもありますし、仮に採用した場合、職員全員にそのバイオフィルム除去用洗浄剤を使用させるというよりも、手荒れをしているスタッフに対して選択的に使用させるのがいいんじゃないかと思えました。

変化する手指衛生に対応する!

司会 手指衛生に関するガイドラインの記載も少しずつニュアンスが変わってきてます。2002年には抗菌薬入りのソープかアルコール手指消毒剤と明記されていましたが、2009年には抗菌薬についての明記はなくなりました。また、手術時手洗いに関しては、予備洗いはプレーンなソープでいいと明記され、隔離予防策の2007年のガイドラインの中では、プレーンなソープで洗ったあとアルコール手指消毒剤による消毒を行うことが望ましいことが記載されています。
 
白井 私は抗菌薬入りの洗浄剤で洗うよりもプレーンなソープで洗浄し、そのあとアルコールによる消毒を行うことが感染対策上はよいのではないかと考えています。
 
伊藤 私もそう思います。基本的にはアルコール手指消毒剤をしっかり使用することが大切だと思います。
 
 当院の洗浄剤にも抗菌薬は入っていませんね。
 
星野 当院も洗浄剤に抗菌薬は入っていません。以前は抗菌薬入り洗浄剤かアルコール手指消毒剤のどちらかという指導を受けましたが、現在は基本的にアルコールを使用するように指導しています。ただ、すでに習慣になっている流水手洗いメインからアルコール使用メインに行動を変えることはなかなか難しいです。
 
白井 そうですね。今は流れが変わって、抗菌薬フリーの洗浄剤も使えるシーンが多いと思います。抗菌薬が配合されている洗浄剤にはどうしても手が荒れる認識があります。もちろん、どんな製品でも基本的な使い方は周知しないと見込まれる効果が得られないことはありますよね。
 
 その製品を使ったら必ず手荒れが治るという簡単なものではないでしょうから、これまで以上にICNとしてしっかりと手指衛生に関する教育をしていかないといけないと改めて思いました。
 
星野 切り替えの時期も重要ですね。手荒れが目立つようになるのは冬ですから、導入するのであれば手荒れが落ち着いている時期がよいかと思います。どちらにしても、製品を変えるときは苦労がありますね。
 
伊藤 それまで使っていた製品から変更するとなると、それは一大イベントですからね。ただ、手荒れ対策の洗浄剤を導入する場合の費用対効果やアウトカムに関して説明することは難しいですね。
 
白井 どういった基準で製品を選ぶかとなったときに、手荒れ防止になるという付加価値はポイントになってくるのかなと私は思います。
 
一同 同感です。
 
司会 本日はありがとうございました。
 
一同 ありがとうございました。

ナースマガジン Vol.18 
2017年1月発行 にて掲載

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