2023.07.27
結婚式は、お客様ご自身とそのご家族にとって人生における大切なライフイベント。ホテル側にとってもブライダル事業は重要な売上基盤となるものでもあります。
2023年5月8日から新型コロナウイルスは感染症法上「5類感染症」に位置づけられ、感染対策も個人・事業者の自主的な判断と取組みが基本となりました。ホテル側でもこれまでの感染対策を見直されているかと思いますが、感染症法上の位置づけが変わったとは言え、感染リスク自体が軽減したわけではありません。特に結婚式での披露宴は長時間、同じ場所で大人数が集まり、マスクを外して飲食を共にするためどうしても感染リスクは高くなってしまいます。
そこで、結婚式の招待状を送る場面から披露宴が終わるところまでを仮想的に実行し、主な使用会場などでのモデルリスク評価も紹介しながら、専門的な知見から感染リスクが高いと思われる環境や行動について花王衛生科学研究センターが解説します。感染症へのリスクを正しく理解し備えるためにも、ぜひ参考にしていただければと思います。
解説・監修:花王衛生科学研究センター
暮らしや健康、物質科学や生物科学など多岐に渡る花王の本質研究を衛生をキーワードに横串で貫く組織。感染防止対策を考える上で役立つと思われる、花王や世界の専門家の衛生研究に関するさまざまな知見を掲載するWEBサイトも運営している。
花王衛生科学研究センターホームページ https://www.kao.com/jp/hygiene-science/
[披露宴会場]
[ゲスト待機室]
感染症に関する案内は特に記載せず、ゲストに招待状を送った。
花王衛生科学研究センター:
5類に位置づけが変わったとしても、高齢の方などは感染症に不安を感じられるのではないでしょうか。また、様々な事情で感染するわけにはいかないという方もいらっしゃるでしょう。そのような方も含めすべてのゲストが安心して参加できるように配慮することが大切だと考えます。 披露宴での感染リスクを最低限に抑えるためには、参加するゲストの協力が必要不可欠です。披露宴でのご協力をお願いするにあたり、事前の準備として以下のような要素を盛り込んだカードを招待状に同封してお送りするように、新郎新婦にご提案してはいかがでしょうか。
【要素一覧】感染症に関して
アフターコロナでは気にされる新郎新婦も多くいらっしゃるでしょうし、ホテル側からこのような提案を積極的に行うことで信頼も得られるのではないでしょうか。
スタッフはマスク着用、手指消毒を行ったうえでテーブルをセッティングし、清掃を行った。作業の途中で目や鼻などを数回触っていた。セッティング中、宴会場の扉は閉まっており、会場外のロビーなど多くの人が触れる場所などは清掃しなかった。
花王衛生科学研究センター:
グラスや食器類などゲストが直接手で触れるものをセッティングする際は、作業の直前に手洗いや手指消毒を行い、他の作業はせずに並べ終えてしまうのが良いでしょう。また、作業者が自身の感染に気付いていない場合、途中で目や鼻などに触ってしまうとそこから感染を広げる恐れもあるので、作業途中は極力顔も触らない方が良いでしょう。
会場の外も、余裕があるようでしたら対策したほうがよいでしょう。お客様に対する姿勢を示す意味も含まれますが、多くの人が触れる場所に菌やウイルスが付着していたら、そこから会場に持ち込まれることもあります。階段の手すりなど不特定多数が頻繁に触れる箇所は、清掃しておくのが良いでしょう。
もう一つ会場の対策として注意したいのが、換気状況です。披露宴会場のように天井が高い場所だとどこで換気状況を測定するべきか迷うこともあるでしょう。会場の広さや参加人数などによる部分もありますが、「人が実際に呼吸する高さでのCO2の濃度」や「測定するタイミング」は重要なポイントになります。今回の想定よりもさらに大きな会場での例を挙げながら解説します。
【披露宴会場の測定値】
室内CO2濃度は厚生労働省が目安とする1,000ppmを下回っているので、まずは問題ないレベルだと考えて良いでしょう。
特に披露宴会場の様な天井が高い空間では、換気設備に十分な能力があったとしても、天井近傍を換気流が素通りしていてゲストがイスに座った状態での頭の高さでは十分な換気が行われていない可能性もあるため、実際にゲストが呼吸する高さで測定したCO2濃度を用いて換気の状態を推し量るのは良い方法だと考えられます。
また披露宴開始2時間後のデータを採るのも良いポイントです。披露宴会場の様な巨大な空間では、ゲストが入場してから少しずつCO2濃度が上がり、一定値に至るまでに長時間を要します。今回のケースで、もしも披露宴開始30分後のCO2濃度を測定していたらおおよそ700ppmの値が得られていたと思われ、やや甘すぎる判断になっていた可能性があります。
さらに進んだ方法として換気量や換気回数に換算する方法があります。CO2濃度 1,000ppmの目安は元々は眠気や頭痛、倦怠感などの二酸化炭素ガスの健康影響の視点で定められたもので、感染管理視点で十分なエビデンスがあるとは言えません。国際的にも換気の良し悪しはCO2濃度では無く換気回数や換気量で測るのが一般的です。
今回のCO2測定値から推測される換気回数は1.7回/時となりますが、これは感染管理視点で目安とされる2.0回/時をやや下回っており、より一層のリスク低減を目指すのであれば換気装置のフィルタ清掃などを行うとともに、窓開け換気の併用や次回の設備更新の際の見直し等を検討しても良いでしょう。
これまで解説したように、会場の大きさや状況、お客様の人数、滞在時間などによっても効果的な計測・換気タイミングが変わってきます。結婚式のように長時間同じ人が滞在する空間と、コンビニエンスストアなど人の出入りが激しい空間だと、行うべき対策が異なってくる場合もあります。運営されている施設の特長に合わせて換気を行うことが必要ではないでしょうか。
ゲスト待機室の扉は常に開放状態。入口に手指消毒剤を設置している(使用は自己判断)。1m間隔でイスを配置。机やイスは清掃していない。ゲストはマスクを外し、ウェルカムドリンクなどを飲みながら久しぶりの再会を喜び、大きな声で談笑する姿も見られた。
花王衛生科学研究センター:
ゲストがマスクを外して談笑していた場合、飛沫が飛び、机やイス、グラスなどにもウイルスが付着しそこから感染が広がる恐れがあります。待機室から出る時や、披露宴会場に入るときに手指消毒剤の使用を推奨するのがよいでしょう。次のお客様が安心して使えるように、使用後の机やイスは清掃するのがよいでしょう。
また、混雑を避けやすくするために待機室から披露宴会場にゲストが移動する際は披露宴で割り当てられているテーブルごとに入場のご案内をするようにしましょう。マスクを外して会話をしている状態で、人と人の距離感が縮まるとそれだけ飛沫を浴び感染リスクが高まります。ゲスト同士の譲り合いもありますが、スタッフ側で誘導するとよりスムーズにゆとりを持った移動が出来るのではないでしょうか。
ゲストも新郎新婦も入場し、挨拶の場面に。まずは、消毒済みのマイクを使って主賓挨拶を行った。乾杯の際は別の人がそのまま同じマイクを使用して挨拶を行った。その後、マイクは一度消毒され友人スピーチに利用された。
花王衛生科学研究センター:
同じマイクを消毒せず複数人で使用するのは感染リスクが高いです。喋れば唾液も飛びますし、マイクに口が触れてしまうと、そこから直接人に感染する可能性もあります。他にも、マイクの持ち手に菌・ウイルスが潜んでいればそこから手指に付着し、その手で目や鼻に触れると、感染に至るケースもあります。
人は1時間で顔を触る回数の平均は目が3回、鼻が3回、口が4回と言われていますので、お客様ご自身で手指衛生をしっかり行っていただくことも重要ですし、ホテル側でも消毒済みのマイクを複数用意しておくなど、事前の対策が感染リスクを低減する方法だと思います。
主賓の挨拶が終わり、食事と歓談の時間がスタート。お酒が進むにつれ各テーブルでの会話のボリュームも大きくなっていく。ビール片手に新郎新婦のもとへ行って記念撮影する人や、他のテーブルにいる知人へ挨拶をしに行く人も見られるように。開始当初はマスクを着用している人も多かったが、途中から大半の方がマスク無しの状態になっていた。
花王衛生科学研究センター:
マスクを外してお酒を飲み大きな声でお話するというのは感染リスクがありますが、お客様の楽しい歓談の席で感染対策を促すのにも限界があります。ただ、家庭や職場の様々な事情で感染するわけにはいかないゲストの方がいらっしゃるかもしれません。お客様ご自身での感染対策もありますが、ホテル側でも各テーブルに手指消毒剤を設置する。手洗い・うがいなど基本的な感染対策へのご協力を呼び掛けるなど、配慮できることがあるかもしれません。
新郎新婦によるケーキ入刀時には、記念写真を撮るためにテーブルを離れる方が多く見られた。また、それぞれの撮影者が密になり、肩が触れ合うほど接近して撮影を行っていた。また、披露宴の後半の余興の場面では、まずは新郎の友人がマスクを着けずにお祝いの歌を熱唱。その姿を撮影しようと他の友人たちがスマホを持って接近し、大きな声で応援する姿も見られた。その後、マイクの消毒を行わないまま新婦の友人が歌を披露。テーブル席からも大きな声援が送られた。
花王衛生科学研究センター:
先ほどの『ゲストのお食事』と同様ですが、ケーキ入刀や余興などイベントでの盛り上がりを規制するのは新郎新婦やゲスト、ホテル側としても避けたい所でしょう。ただ、感染リスクを気にして積極的にイベントに参加できなかったり、コロナ禍でソーシャルディスタンスに慣れてしまい密集空間に抵抗感を抱いたりなど、そんなゲストのために行えるサービスがあるかもしれません。例えば、ケーキ入刀や余興の映像を大きなプロジェクターで投影すれば、近くに寄らなくとも十分楽しめるかもしれません。どのような立場、価値観の方でも楽しく参加できるよう、コロナ禍での経験を新たなサービスとして、活かすことも今後、求められるのではないでしょうか。
披露宴のエンディング、新郎新婦が会場の扉のそばで参列者をお見送り。改めてお祝いの言葉をかけるだけでなく、握手をしたり新郎新婦とハグする方の姿も見られた。また、順番を待つ参列者が密状態となり、その中でマスクを着けずに大きな声で会話する姿も見られた。
花王衛生科学研究センター:
握手やハグの規制を行うかどうかは新郎新婦やゲストの状況に合わせて判断するのが良いかと思います。順番を待つ参列者が密状態になっている点においては、テーブルごとにゲストをお見送り会場へご案内すればある程度密を避けられるのではないでしょうか。また別の視点ですが、行列の中で順番を待つというのはゲストにとって単純にストレスになるかもしれません。感染リスクという側面だけでなく、「お客様にとっての快適な空間」に焦点を当てると新たな気づきが生まれるのではないでしょうか。
今回は、披露宴における感染リスクポイントや、ホテル側で実施できるお客様への配慮やサービスについて【花王衛生科学研究センター】に解説頂きました。
コロナ禍は、結婚式も含め様々なイベントで規制がかかるなど非常につらい状況でしたが、同時に手洗いやうがい、周辺環境を清潔に保つことなど基本的な対策がいかに大切であるかも学びました。この経験は「これまでの、そしてこれからの感染症への対策」を改めて見直すきっかけになるのではないかと思います。 また、コロナ禍を経験したことで多様な立場や価値観が生まれたと思います。
特に結婚式は老若男女問わず様々な方が参加されますので、お客様への配慮も含めブライダル事業を運営するホテルとして何を大切にしているのか姿勢を指し示すことも必要かと思われます。結婚式は、新郎新婦にとって記念となる日、素敵な思い出になるように万全を尽くしたいものです。
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