在宅創傷 スキンケアステーション 代表/皮膚・排泄ケア認定看護師
岡部 美保
褥瘡は「身体に加わった外力は骨と皮膚表層の間の軟部組織の血流を低下、あるいは停止させる。この状況が一定時間持続されると組織は不可逆的な阻血性障害に陥り、褥瘡となる」1)と定義されています。
褥瘡の発生には、圧迫やずれ、摩擦、低栄養等が複合的に影響しています。
褥瘡は、寝たきり状態や、脊髄損傷等の知覚障害による筋肉の廃用性萎縮等で骨が突出している部位等に生じる創傷です。自力で体位変換が行える、姿勢を変えることができる療養者は、傷んだ組織も修復されます。一方、基礎疾患の進行や体調不良による食事摂取量の減少等によって、栄養状態が低下すると傷んだ組織は修復されず、次第に悪化して褥瘡を発症します。また、トイレや車椅子等への移乗動作や姿勢の崩れ、ベッドの背上げ・背下げによって生じる姿勢の崩れ、体位変換やおむつ交換等の際には、臀部や仙骨部・背部にずれ力が働きます。適切な姿勢保持や体位変換が行われないと、組織には持続的に圧力も加わり組織障害が進行します。
褥瘡は、主に圧迫により生じる創傷ですが、さらにずれや栄養障害等が複合的に加わることで発症につながります。さらに、褥瘡の発生や治癒には、マイクロクライメットが影響しているといわれています。マイクロクライメットとは、「皮膚局所の温度・湿度」と定義されています2)。褥瘡の予防や治癒の促進には、温度の上昇を予防して湿度を透過させることが重要であるという、マイクロクライメット管理を良好に行うケアが注目されています2)。
褥瘡を有する在宅療養者は、加齢や基礎疾患によって自力での寝返りができない状態にあり、特に85歳以上の高齢者に多い現状があります3)。在宅で療養する高齢者は、加齢に伴う皮膚の老化に加え、低栄養や貧血、基礎疾患や治療の影響、免疫・代謝機能や自然治癒力の低下により、皮膚の生理機能は低下します。一方、褥瘡の発症は、寝たきり状態にある高齢者ばかりではありません。基礎疾患を有する小児や、車椅子で生活をする成人にも発生する場合があります。常時、圧迫、ずれや摩擦が加わる生活環境にある療養者は、容易にスキントラブルを生じやすく褥瘡を発症しやすい状況にあります。ハイリスクな状態にある療養者は、スキントラブルや褥瘡を生じると、創傷は治癒過程が遅延しやすくなります。特に終末期にある療養者は、全身状態の低下から褥瘡を発症しやすく、さらに感染リスクも高くなります。
図1 在宅における褥瘡の発生要因
褥瘡が発生した場合、局所の観察や評価は褥瘡状態評価スケールDESIGN-R®2020を用いた評価をおすすめします。多職種がチームとなって取り組むことが必須な褥瘡ケアにおいて、DESIGN-R®2020を用いた褥瘡状態評価はチームの共通の言語となります。また、褥瘡の重症度を具体的に数値化することにより、褥瘡の状態の評価やケアの方策を講じることが可能なだけでなく治癒日数も予測できます(図3)。
図2 褥瘡重症度評価スケールDESIGN-R®2020
図3 DESIGN-R®2020による治癒予測
DESIGNは、2002年に日本褥瘡学会が発表した褥瘡状態評価スケールです。 DESIGNは、「褥瘡の重症度の分類」と、「治癒過程を数量化する」ことを目的に開発されたスケールで、褥瘡創面の評価を6つの項目で行います。
D:Depth ー 深さ
E:Exudate ー 滲出液の量
S:Size ー 大きさ
I:Inflammation/Infection ー 炎症/感染
G:Granulation ー 肉芽組織の量
N:Necrotic tissue ー 壊死組織の質
P:Pocket ー ポケット
DESIGNは、2002年、日本褥瘡学会が開発し、各項目の頭文字を組み合わせて「DESIGN」と名付けられました。ポケットが存在する褥瘡の場合、末尾に-Pと表記し7項目から評価しました。当時のDESIGNは、点数によって個々の褥瘡の状態が良くなっている、悪くなっているという評価はできましたが、異なる褥瘡のどちらかがより重症度が高いかという判断ができませんでした。
2008年には、科学的根拠に基づき、それぞれの項目に重み付けがされたDESIGN-R®が公表されました。DESIGN-R®のRは、評価を意味するRatingから付けられています。
DESIGN-R®は、個々の褥瘡の治癒過程を評価できるだけでなく、異なる褥瘡のどちらがより重症な褥瘡であるかを判定できるスケールに改定されました。
さらに2013年、診療報酬の入院基本料において「褥瘡対策に関する診療計画書」にDESIGN-R®が用いられることになりました。
その後、2020年に改定されたDESIGN-R®2020では、D(深さ)項目に深部損傷褥瘡(Deep Tissue Injury: DTI)疑いを、I(炎症/感染)項目に臨界的定着(クリティカルコロナイゼーション)疑いが追加されています。
褥瘡は皮膚表面から深部へと損傷が進む場合と、先に深部に損傷が発生し皮膚表面に進む場合があります。深部損傷褥瘡(DTI)は後者になります。DTIは、初期の段階において、皮膚表面からは軽症の褥瘡に見え、視診や触診のみでは重症化の判断ができません。しかし時間の経過とともに深い褥瘡となって確認されます。
写真1 「深部損傷褥瘡(DTI)疑い」(DDTI)
左:床で転倒し数時間が経過 右:7日後の状態
褥瘡創面は、排泄物等による外部からの汚染により、治癒の遅延を生じる場合があります。創面の状態は次の4つに分類されます。
①汚染(Contamination)は創部に菌が存在している状態ですが、菌の増殖は見られない状態、②常在(Colonization)は増殖能を持つ細菌が創に付着している状態ですが、創に害を及ぼさない状態、③臨界的定着(Critical Colonization)は常在の状態よりも細菌数が多くなり、創感染に移行しそうな状態で、炎症防御反応により創の治癒が遅延した状態、④感染(Infection)は増殖する細菌が組織内部に侵入して創に害(深部感染)を及ぼす状態です。
先に述べたようにDESIGN-R®2020は、各項目を点数化することで、褥瘡の重症度および治癒経過を評価するスケールです。また、重症度の低い項目を小文字で、重症度の高い項目を大文字で表すことによって、褥瘡状態を簡便に把握することができます。評点の合計点数が高いほど褥瘡の重症度が高いということになります。合計点数に、D項目は含めません。DESIGN-R®2020は各項目について点数が付いています。
d0:皮膚損傷・発赤なし
d1:持続する発赤
d2:真皮までの損傷
D3:皮下組織までの損傷
D4:皮下組織を超え、筋肉、腱などに至る損傷
D5:関節腔、体腔に至る損傷
DDTI:深部損傷褥瘡(DTI)疑い
DU:壊死組織で覆われ深さの判定が不能
d1:持続する発赤
d2:真皮までの損傷
D3:皮下組織までの損傷
D4:皮下組織を超える損傷
D5:関節腔、体腔に至る損傷
DTI:深部損傷褥瘡(DTI)疑い
U:壊死組織で覆われ深さの
判定が不能
e0:滲出液なし
e1:少量(毎日のドレッシング交換を要しない)
e3:中等量(1日1回のドレッシング交換を要する)
E6:多量(1日2回以上のドレッシング交換を要する)
s0:皮膚損傷なし
s3:4未満
s6:4以上、16未満
s8:16以上、36未満
s9:36以上、64未満
s12:64以上、100未満
S15:100以上
写真2 創サイズの計測(創周囲皮膚の浸軟している部分は計測範囲に含まれない)
i0:局所の炎症徴候が見られないもの
i1:局所の炎症徴候が見られるもの(創周囲の発赤・腫脹・熱感・疼痛)
I3C:臨界的定着が疑われるもの(創面にぬめりがあり、滲出液が多い。肉芽があれば、浮腫性で脆弱等)
I3:局所に明らかに感染徴候が見られるもの(炎症徴候、膿、悪臭等)
I9:全身的影響が見られるもの(発熱等)
写真3 臨界的定着疑い(I3C)(肉芽は浮腫状で脆弱、
創面にはぬめりがあり滲出液が多い)
g0:創が治癒した場合、創の浅い場合、深部損傷褥瘡(DTI)疑いの場合
g1:良性肉芽が創面の90%以上を占める
g3:良性肉芽が創面の50%以上、90%未満を占める
G4:良性肉芽が創面の10%以上、50%未満を占める
G5:良性肉芽が創面の10%未満を占める
G6:良性肉芽が形成されていない
n0:壊死組織はみられない
N3:柔らかい壊死組織あり
N6:硬く厚い密着した壊死組織あり
写真4 壊死組織N3(柔らかい壊死組織)
左:自己融解が進んでいる壊死組織 右:遊離した壊死組織
写真5 壊死組織N6(硬く厚い壊死組織)
p0:ポケットなし
P6:4未満
P9:4以上、16未満
P12:16以上、36未満
P24:36以上
写真6 ポケットの計測
ポケットを含めた面積から潰瘍の大きさを差し引いたもの
A×B-C×D
写真7 事例1 在宅療養者Aさん
Depth:
一番深い部分は尾骨部周辺で、骨の硬さを触れる:皮下組織を超える損傷
Exudate:
1日2回のケア時は、滲出液が創傷吸収パッドからあふれ出ていて、おむつまで汚染している:多量
Size:
7.5×6.0(cm)=45(cm2):36以上64未満
Inflammation/Infection:
創周囲皮膚の発赤、腫脹、熱感、排膿、悪臭なし。全身的影響(発熱)はない。創面にはぬめりがあり、滲出液が多量。:臨界的定着疑い
Granulation:
肉芽全体がピンク色でやや黒ずんだ不良肉芽で覆われている:良性肉芽が全く形成されていない
Necrotic tissue:
壊死組織はない
Pocket:
ポケットを含む創部の大きさ9.2×8.2(cm)=75(cm2)から7.5×6.0(cm)=45(cm2)を差し引いた数値は30(cm2):16以上36未満
褥瘡部位:仙骨部
D4-E6s9I3CG6n0P12:36点
褥瘡の評価を行う際は、創面に触れて肉芽の弾力や浮腫の状態、色調等を観察しましょう。良性肉芽は、鮮赤色で潤いや適度な弾力を感じます。一方、Aさんの場合、肉芽はピンク色でやや黒ずみがあり、脆弱で浮腫のある不良肉芽です。色調がピンク色でやや黒ずんでいることから、局所への圧迫や低栄養等の影響が懸念されます。このような状態が続くと、創の治癒遅延や感染のリスクが高くなるだけではなく、圧迫が回避されない場合は、褥瘡の中に新たな褥瘡を生じる可能性もあります。体圧や栄養状態の評価を行い速やかに対応することが必要です。Aさんの創部には壊死組織の存在はなく、炎症や感染徴候も視診では生じていないように見えますが、創面のぬめりや滲出液の量等から判断すると臨界的定着が疑われます。
写真8 事例2 在宅療養者Bさん
Depth:
創全体が壊死組織に覆われて創底が見えない
Exudate:
1日1回のケア時は、ガーゼを貼付した場合で想定すると、半分以上の面積には付着あり:中等量
Size:
6×5.8(cm)=34.8(cm2):16以上36未満
Inflammation/Infection:
全身的影響(発熱)はない。創周囲皮膚に発赤・腫脹あり、熱感なし、疼痛は不明:局所の炎症徴候あり
Granulation:
全面が壊死組織で覆われ、肉芽の存在を認めない:良性肉芽が全く形成されていない
Necrotic tissue:
一部に柔らかい壊死組織があり自己融解が始まっている状態
Pocket:
ポケットなし
褥瘡部位:仙骨部
DU-e3s8i1G6N6p0:24点
Bさんの褥瘡は、全面が壊死組織で覆われています。医療者は壊死組織と判断できますが、家族等は、黒い瘡蓋と判断し医療的な支援が遅れる場合があります。Bさんの壊死組織は、柔らかい壊死組織と硬く厚い密着した壊死組織が混在しています。このような場合は、全体的に分量の多い壊死組織の状態で判定します。よってBさんの場合は「N6」と判定します。Bさんの創周囲皮膚には炎症徴候が認められます。壊死組織の存在は、炎症の長期化かつ感染の危険性が高まります。そのため、早急な壊死組織の除去が必要となります。Bさんのように創面全体が壊死組織に覆われている場合、特に感染リスクが高くなり、既に創周囲皮膚にポケットを形成している可能性もあります。創周囲皮膚を触診し創部の炎症徴候の増悪、悪臭の有無等をアセスメントしましょう。異常を感じたら速やかにかかりつけ医に報告相談できるように、日頃からの連携体制が大切です。
褥瘡は、療養者個々の身体状況等による個体要因と療養者を取り巻く生活環境や介護状況等による環境・ケア要因、さらに双方の要因に共通する外力・湿潤・栄養・自立等が関与しています。
通常、健康な人は、長期間臥床していても褥瘡にはなりません。しかし、高齢者、寝たきり状態、活動性や可動性の低下、低栄養、失禁、慢性疾患を有する療養者等は、褥瘡を発症しやすい状態にあり、さらに褥瘡を発症すると疾患の進行や高齢化等によって、治りにくくなる状況もあります。褥瘡ケアは、発生要因のアセスメントした上で、褥瘡状態を正確に評価し、療養者個々の状態に応じたケアを講じることが重要です。
特に、在宅における褥瘡ケアには、医療だけではない多様な支援ニーズが必要となり、専門的な知識と技術を持つ多職種による協働が必要不可欠です。
多職種間の共通言語としてDESIGN-R®2020を活用し、褥瘡の状態や経過を評価することにより、創傷の状態に適したケアの選択と実践したケアを、多職種で振り返ることができます。多職種による円滑なチームワークは、褥瘡ケアの質の向上に貢献し、療養者とその家族の満足度やQOLを高めることが期待できると言えます。
0) 岡部美保編:在宅療養者のスキンケア 健やかな皮膚を維持するために,日本看護協会出版会,2022
1) 日本褥瘡学会(編):科学的根拠に基づく褥瘡局所治療ガイドライン,p.112-113,照林社,2005.
2) NPUAP,EPUAP,PPPIA.Prevention and Treatment of Pressure Ulcers:Clinical Practice Guidline,2014:75-78.
3) 第4回(平成28年度)日本褥瘡学会実態調査委員会報告1「療養場所別自重関連褥瘡と医療関連機器圧迫創傷を併せた「褥瘡」の有病率、有病者の特徴、部位・重症度」:褥瘡学会誌,20(4):423-445.2018.
4) 日本褥瘡学会編. 改定DESIGN-R®2020 コンセンサス・ドキュメント
5) Sanada H, Iizaka S, Matsui Y, Furue M, Tachibana T, Nakayama T, Sugama J, Furuta K, Tachi M, Tokunaga K, Miyachi Y. Clinical wound assessment using DESIGN-R total score can predict pressure ulcer healing: Pooled analysis from two multicenter cohort studies. Wound Repair Regen. 2011;19(5):559-67.
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