2021年5月19日更新
花王株式会社生物科学研究所の田村晃太郎研究員らが発表した、“皮膚冷刺激トレーニングの運動機能改善メカニズムに関する研究*1”が、本大会(2021年3月20~21日、オンライン開催)にて発表された演題から「大会長優秀発表賞」に選出されました。
本発表では、高齢筋廃用モデルマウスに対する皮膚冷刺激を付加した歩行トレーニングが、顕著な歩行機能改善効果を示すとともに、そのメカニズムとして脊髄介在ニューロンと運動ニューロンの興奮性シナプス結合強化による神経適応が関与する可能性を明らかにしました。
今回の成果は、メントールの化学的な皮膚冷刺激を付加した低強度トレーニングによる要支援高齢者の運動機能改善効果*2 (本学会にて連動して発表) を支持する結果であることから、介護予防やリハビリ研究への応用が期待されます。
加齢に伴って筋力が低下することは知られていますが、特に高齢者においては、その低下が転倒等のリスク要因になるため、筋力の維持・改善を目的としたトレーニングが重要となります。一般的に、筋力を改善するには高強度の運動が必要ですが、多くの高齢者にとっては血圧の上昇等、呼吸循環器系に過度なストレスとなり、運動器障害のリスクを考え合わせると適切な運動とは言えないため、低強度で有効な運動療法が求められていました。
花王では、このような問題を解決するために、東京工科大学理学療法学科の菅原 仁教授に指導をいただきながら、筋活動に変化を及ぼす様々な体性感覚の中から、特に皮膚からの冷感覚入力に着目し、研究を重ねてきました。
加齢による筋の萎縮は、遅筋繊維より速筋繊維で起こりやすいことが知られていますが、素早く大きな力を発揮する速筋繊維は低強度の運動では動員しにくいという問題がありました。
それに対し花王では、メントールやイシリンといった冷感剤を、作動筋上の皮膚に塗布することによる化学的な冷刺激によって、低強度運動でも速筋繊維の動員が可能となるという結果を既に報告しています*3、*4。
今回はこの現象をトレーニングに応用した場合の歩行機能改善効果とそのメカニズムについて、要支援高齢者を想定した高齢の筋廃用モデルマウスを用いて検討しました。
高齢マウス(22カ月齢)に2週間の運動制限処置を行い高齢筋廃用モデルとしました。その後2週間にわたり、冷感剤イシリンを後肢に塗布して皮膚冷刺激を付与しながら低速トレッドミル走行のトレーニングを行いました。その結果、皮膚冷刺激トレーニングによって下記に示す結果が確認されました。
以上の結果から、化学的な皮膚冷刺激トレーニングは、脊髄介在ニューロンと運動ニューロンの興奮性シナプス結合の強化を促進して運動ニューロンに対する興奮性入力を高め、歩行機能の改善に寄与したものと推察されました。(図3)
図1.歩行機能に対する影響
図2.脊髄介在ニューロンから運動ニューロンへの興奮性シナプス結合に対する影響
図3.本知見のまとめ
今回の成果で、皮膚冷刺激の利用は低強度で効率的にトレーニングを行う有効な手段であることが、そのメカニズムの一端とともに確認されました。今後は、本研究を深化・発展させ、さらに有用な運動療法の構築に向け、検討を行っていく予定です。
花王では、引き続き、介護予防やリハビリに役立つ研究活動を通して、高齢者に実践しやすい有効なトレーニング戦略に対する提案を検討してまいります。
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