コラム

2020年5月19日更新

増加する社会福祉施設の労働災害~スタッフ様への安全衛生教育を~

中央労働災害防止協会が労働者死傷病報告をもとに分析し整理した「労働災害分析データ」によれば、社会福祉施設における平成30年の災害発生件数は平成25年と比べて約1.4倍。データを確認できる平成25年から少なくとも5年連続で、過去最多の件数を記録しています。

社会福祉施設でとりわけ多いのが、キャリアの短い方が労働災害に遭うケースです。平成27年上半期のデータではありますが、厚生労働省が示した経験期間別の災害発生状況によると、全体の4割以上を経験年数3年未満の被災者が占めています(※1)。

社会福祉施設で多発している労働災害は、腰痛につながる「動作の反動・無理な動作」と「転倒」です。
ユーピーアール株式会社の調査では、介護現場で働く方の46%が「腰痛」が原因で離職を考えたことがあると回答しています(※2)。

スタッフ様の安全と健康を守り、貴重な人手を失うリスクを軽減させるためには、安全対策を十分に行うことが大切といえるでしょう。今回は、社会福祉施設で起こりやすい労働災害と、安全衛生教育を実施する際に活用できるマニュアルをご紹介します。

  1. ※1
    出典:厚生労働省の資料,p.2,表3 経験期間別 災害発生状況(平成27年上半期・「社会福祉施設」)

 

特に多い労働災害は「腰痛」と「転倒」

冒頭でご紹介した中央労働災害防止協会のデータによると、平成25~30年に社会福祉施設で発生した労働災害のうち、7割近くが「動作の反動・無理な動作」(腰痛など)と「転倒」に関する事故です。最も多い「動作の反動・無理な動作」(腰痛など)が全体の34%、次に多い「転倒」が33%を占めています。

社会福祉施設における事故の型別発生状況の割合(平成25~30年)

社会福祉施設における事故の型別発生状況の割合を表した円グラフ。最も多いのは「動作の反動・無理な動作」で34%。2番目は、転倒で33%。次に、交通事故で6%、墜落・転落で6%、激突で5%と続く。

  • 中央労働災害防止協会「労働災害分析データ」の「社会福祉施設」を元に作成(最終閲覧日:2020年5月15日)

また、事故の型ごとの発生件数の推移を見ると、「動作の反動・無理な動作」(腰痛など)と「転倒」の増加率が他と比べて高いことがわかります。

事故の型別発生状況の推移

平成25年から30年までの、事故の型別発生状況の推移を表したグラフ。

  • 中央労働災害防止協会「労働災害分析データ」の「社会福祉施設」を元に作成(最終閲覧日:2020年5月15日)

平成30年のデータを平成25年と比較すると、「動作の反動・無理な動作」(腰痛など)は3,186人で約1.4倍、「転倒」は3,321人で約1.6倍増えています。

 

介護サービス中に発生した労働災害事例

社会福祉施設で特に多い「動作の反動・無理な動作」(腰痛など)と「転倒」はどのような状況で発生するのでしょうか。ここでは、厚生労働省が公表している「労働災害事例」から、事故の発生状況、原因、対策をご紹介します。

腰痛の事例

腰痛は、人力でご利用者様を持ち上げたり、前かがみ・中腰・ひねりなどの不自然な姿勢を取ったりしたときに生じることがあります。移乗介助やトイレ介助といった「介助に伴う腰痛」と、ベッドのシーツ交換といった「介助を伴わない腰痛」の2パターンに大きく分けられます。

【介助に伴う腰痛の事例】

発生状況:
トイレ介助のため、被災者が利用者を車いすから抱きかかえトイレ便座への移動を介助しているとき、腰部に強い痛みが走った。被災者は、日頃から通所介護事業所(デイサービスセンター)にて、利用者の求めに応じ、トイレ誘導・トイレ介助を行っていた。

原因:

  • トイレ誘導は腰部に著しく負担がかかる介助であるにもかかわらず、スタンディングマシーンなどの福祉用具を活用しなかった。

対策:

  • 移乗・入浴・トイレ介助、おむつ交換といった介助作業ごとに、利用者の状態、福祉用具の有無、介助作業の環境(広さ、配置)などに応じた作業標準を策定する。
  • 利用者が維持している機能はそれぞれ異なることから、まず、立位保持・座位保持が可能かどうか、全介助が必要かどうかについて確認する。
  • 頭部保持、手・腕の残存機能などを合わせて確認し、利用者には可能な範囲で介助への協力をお願いする。
  • 利用者の抱きかかえなどによる腰部負担の軽減のため、利用者の残存機能に応じ、スタンディングマシーン、スライディングボード、スライディングシート、リフトといった福祉用具を利用する。
  • 利用者の心身の状態は日々変化するため、適用する作業標準は利用者の状況により適宜見直す。
  • チェックリストや作業標準、利用者の心身の状態を勘案したリスクアセスメントを行うことで、腰痛発生のリスク低減を図る。
  • 労働安全衛生マネジメントシステムを通じ、よりリスクを低減できる方法を介護施設の運営責任者が率先して取り組み、介助の改善を図る。

【介助を伴わない腰痛の事例】

発生状況:
被災者が高齢者施設の居室で入居者のベッドシーツを交換していた際、シーツを伸ばそうとベッドの奥の方に身体を伸ばしたところ、バランスを崩し、腰を痛めた。病院を受診した結果、急性腰痛症と診断された。

原因:

  • ベッドの奥の方に身体を伸ばした際、不自然な姿勢になった。

対策:

  • シーツ交換時は、ベッドの上に膝をついて作業する、2人で作業するなどの方法を取ることで、腰にかかる負担を軽減させる。
  • マットレスにかぶせるタイプの「ボックス型シーツ」への変更や、ベッドを壁につけないことでベッドの対側にも人が入れる作業空間の確保を検討する。

転倒の事例

腰痛と同様に、転倒も大きく2パターンに分けられます。立ち上がり介助や入浴介助といった「介助に伴う転倒」と、電子機器のコードにつまずいたといった「介助を伴わない転倒」です。

【介助に伴う転倒の事例】

発生状況:
入浴介助中、入居者のおしりを洗うため、被災者が入居者を前方より抱え立位にして支えようとしたところ、支えきれず、利用者を抱えたまま倒れた。被災者は壁に激突し、頭部・肩などを打撲した。

原因:

  • 入居者の様態に合わせた入浴介助を行わず、一人で行った。
  • 浴室内手すり、リフト、シャワーチェアといった介助器具が設置されていなかった。

対策:

  • 浴室内手すり、リフト、シャワーチェアなどを設置し、利用者の安全と残存機能維持に配慮した介助を行う。
  • 入浴介助の際は、利用者の介護必要度に応じ、複数の介助者で介助を行う。なお、立位姿勢を支える場合、利用者が自身で姿勢を保持できるようであれば、適正な姿勢を保てるよう、利用者を指導する。
  • 介助必要度に合わせて入浴ベルトを使用して介助者を抱え、もう一人の介助者がおしりを洗う。
  • 災害報告のための様式を整備し、事業場で発生した災害とその分析を通した改善策について、労働者に周知徹底を図る。
  • 転倒災害防止のための委員会などをつくり、職場における安全衛生教育や研修を定期的に実施する。

【介助を伴わない転倒の事例】

発生状況:
被災者が洗濯物を持ち、脱衣所に向かっていたところ、デイサービスのホールにて扇風機の電源コードにつまずき、床に膝を強打し、骨折した。

原因:

  • 扇風機の電源コードが歩行する床にあった。
  • 被災者は、足元がよく見えないほどの洗濯物を抱え込んでいた。
  • 被災者は、周辺にいる施設利用者に気をとられ、電源コードに足を引っ掛けた。

対策:

  • 扇風機の電源コードは足を引っ掛けてしまわぬよう、歩行する床に放置しない。
  • 配線を、床に固定するタイプでつまずきにくい形状のモールで覆う。
  • ホールに洗濯物などの物を運ぶ際は、足元が見えないほど抱え込むことはせず、足元をよく見て歩く。
  • 転倒災害防止のための指針を整備し、労働者に徹底させる。
  • 転倒災害防止のための委員会などをつくり、職場における安全衛生教育や研修を定期的に実施する。

 

スタッフ様に十分な安全衛生教育を実施しよう

介護サービスを提供する上で、ご利用者様の安全と健康を最優先に考えるのは当然のことです。一方で、現場の担い手であるスタッフ様の安全を守ることも事業者の義務であり、サービスの質を保つために欠かせない取り組みといえます。

介護サービス中に発生した労働災害事例」でご紹介したような労働災害を防ぐためには、安全衛生教育を通して、スタッフ様自身に自らの安全と健康を守る意識や術を持っていただくことも大切です。また、本記事の冒頭でもご紹介したように、厚生労働省によれば社会福祉施設で被災した方の44%が経験年数3年未満です。雇入れ時に十分な安全衛生教育を行うことが重要といえるでしょう。

最後に、安全衛生教育を行う際に役立つ資料として、中央労働災害防止協会が公表している高齢者介護施設における雇入れ時の安全衛生教育マニュアルをご紹介します。

マニュアルには、今回ご紹介した腰痛と転倒だけでなく、感染症、熱中症、交通事故、精神的ストレス、交代勤務による体調不良など、スタッフ様が遭いやすい労働災害に関する事例・原因・対策が詳しく記載されています。「関係法令」や「『職場における腰痛予防対策指針』のリーフレット(厚生労働省)」など、雇入れ時の安全衛生教育を行うにあたって参考になる資料もまとまっているため、活用してみてはいかがでしょうか。

執筆:花王プロフェッショナル業務改善ナビ【介護施設】編集部

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