2024年11月19日更新
介護職員が辞める理由とは?定着率アップに有効なのは教育・研修
監修者プロフィール/伊藤 亜記(いとう・あき)
株式会社ねこの手 代表取締役
短大卒業後、大手出版会社へ入社。祖父母二人の介護と看取りの経験を機に、社会人入学にて福祉の勉強を始める。98年、介護福祉士を取得し、老人保健施設で介護職を経験し、ケアハウスで介護相談員兼施設長代行を務める。
その後、大手介護関連会社の支店長を経て、介護コンサルタント「株式会社ねこの手」を設立。
現在、旅行介助サービスや国内外の介護施設見学ツアーの企画、介護相談、介護冊子制作、介護雑誌の監修や本の執筆、連載、セミナー講師、TVコメンテーター、介護事業所の運営・営業サポートなど、精力的に活躍中。現在、年間200回以上の全国での講演やセミナーをこなす。特に介護記録の書き方や実地指導対策、介護業界の集客法、介護職のモチベーションアップ、介護職の人材育成、離職防止などの講義で全国的に高い人気を得ている。
2010年4月、子どもゆめ基金開発委員就任。医療・福祉法人の顧問や大手介護会社のコンサルタントも多数務める。
介護福祉士/社会福祉主事/レクリエーションインストラクター/学習療法士1級/シナプソロジーインストラクター/スマート介護士
人材不足が深刻な介護業界において、職員の定着率は施設運営に大きく影響する課題です。実態調査の結果から、「今の事業所で働き続けたい」と考える職員が多くみられる一方で、職員に離職を考えさせるような職場の課題も見えてきます。
今回は、介護職員の離職原因となるような施設の課題と、その解決策として教育・研修が有効と考えられる点などを解説していきます。
介護職員が今の職場を辞める理由
介護職員が離職を決める理由には、どんなものがあるのでしょうか。公益財団法人介護労働安定センターが実施した令和5年度介護労働実態調査*1によると、以下の5つに原因を求められそうです。
【直前職が介護関係の仕事の方の辞めた理由】
・「職場の人間関係に問題があったため」:34.3%
・「法人や施設・事業所の理念や運営の在り方に不満があったため」:26.3%
・「他に良い仕事・職場があったため」:19.9%
・「収入が少なかったため」:16.6%
・「自分の将来の見込みが立たなかったため」:13.2%
最も多い理由は「職場の人間関係に問題があったため」で、全体の約1/3にあたる34.3%を占めています。介護職は多職種で協力して業務に取り組む必要があるため、職場の人間関係が離職理由になりやすいようです。
「自分の将来の見込みが立たない」も注目すべき理由です。多くの介護職員が抱える悩みであり、業界全体の課題でもあります。介護報酬改定によって処遇改善加算の見直しが行われ、一部の職場では職員の待遇が改善されています。しかし、職場環境に対して他の業種よりも賃金が低いことや、キャリアアップの機会の少なさなどが不安要素となり、離職を検討する人が多いようです。
今の職場を辞めたい人が多いわけではない
前述の通り介護職を辞めたいと思わせるような課題は挙げられますが、一方で、介護職を続けたいという前向きな姿勢も見て取れます。同調査の勤務先に関する希望を尋ねた質問では、「今の事業所で働き続けたい」と答えた人は全体の49.9%で、介護職を辞めたいと考える人は決して多くはないことがわかります。施設運営者様は、日頃からのマメな声がけや面談等の機会を通して「本当は働き続けたいが悩みや不満が増大し、辞めざるを得ない」という職員が増えないよう、定着のための取り組みを実施する必要があるでしょう。
定着率を上げるために教育・研修が有効
令和4年度介護労働実態調査*2によれば「働く上での悩み、不安、不満等の解消に役立っているもの」について、最も多い回答は「定期的な健康診断の実施」の43.3%ですが、次いで「介護能力の向上に向けた研修」が31.8%、「実務の中で、上司や先輩から指導や助言を受ける機会の設定」が25.8%となっています。この結果から、介護職員の悩み・不安・不満の解消、ひいては定着率向上のために、研修や上司・先輩からの指導が非常に重要であることが考えられます。
ちなみに、同調査で介護職員の方に「今の職場で受講した研修」について尋ねた質問では、「高齢者虐待の防止に関する研修」が70.0%、「身体拘束に関する研修」が68.0%、「衛生管理(感染症・食中毒予防等)に関する研修」が67.1%となっています。多くの施設で、リスクや事故の防止に関する研修を優先して実施しているようです。
なぜ教育・研修が定着率向上につながると考えられるのでしょうか。同調査の結果を参考に考えていきます。
人間関係のトラブル回避につながる
教育・研修は、最も多い離職理由である「人間関係のトラブル」の解決に効果的であると考えられます。令和5年度の同調査における人間関係にまつわる職員の具体的な悩みを見てみると「自分と合わない上司や同僚がいる」が19.3%で最も多く、次いで「部下・後輩の指導が難しい」が18.5%となっています。さらに「経営層や管理職等の管理能力が低い、業務の指示が不明確、不十分である」が17.7%、「ケアの方法等について意見交換が不十分である」が16.5%と上位にあります。
これらの悩みに関して、特に指導方法やケア方法に関する不満や不安に対しては、教育・研修を通じて手法を統一することで解消が期待できます。施設全体で同じ認識を持つことができれば、指導にあたる上司や先輩によってやり方が異なり、意見が衝突するといったトラブルを防ぐことができます。
成長できる環境が整う
令和4年度の同調査で今後、仕事上の能力・スキルを今以上に高めていきたいかを尋ねた質問に対し、「はい」と回答した人は69.1%で大多数を占めており、多くの職員が成長意欲を持っていることが分かります。なお、「いいえ」はわずか5.8%です。教育・研修を通じて、職員が能力やスキルを高める機会を提供できれば、成長意欲の高い職員の、キャリアアップの期待に応えられるようになります。また「わからない」と回答している層も徐々に仕事や職場への満足度が向上し、将来のビジョンを持てるようになることで定着率の改善も期待できます。
現場でできる教育・研修
教育・研修手法は複数存在するため、職員ごとの適切なアセスメントを行い、現状のスキルや職場環境の状況に応じて、施設運営者様が適切な手法を選択することが重要です。ここでは、介護現場でできる教育・研修の具体例を紹介します。
メンター制度
知識と経験が豊富な先輩職員がメンターとなり、メンティー(後輩職員)に対して個別にサポートを行いながら成長を支援する制度です。気軽に相談ができるメンターがいることで、メンティーのスキルやモチベーションの向上、悩みや不安の解消、キャリア形成に効果があります。メンターも教えることを通じて、自らの業務や今後のキャリアについて考えるきっかけとなり、学びや成長が促進されるというメリットもあります。実施する際は、導入の目的の明確化、運用ルールの策定などを行い、メンター制度が仕組みとして機能するように計画を立てます。
OJT研修
OJT(On-the-Job Training)研修は、先輩職員が後輩職員に対し実務を通じて知識や技術などを教育する制度です。座学とは異なり、実際の業務に即して教育が行われるため、実践的な知識やスキルを効率的に身に付けることができます。また、一人ひとりの成長速度や長所・短所に応じて教育内容や指導方法を調整できるのも、OJT研修のメリットの1つです。OJT研修では施設でマニュアルや手順書を基に、一貫した育成計画を立てたり、指導役に負担が集中しないようサポート体制を整えたりなどといった仕組み作りが重要です。
Off-JT研修
OJT研修に対し、実務を離れて行う研修がOff-JT(Off-the-Job Training)研修です。講義形式、ディスカッション形式、ロールプレイング形式など、目的や対象の職員に合わせて多様な形式が用いられます。講師は先輩職員だけでなく、外部の専門家が務めることもあり、基本的な介護知識から専門的知識まで体系的に学ぶことができます。Off-JT研修を実施する際も、研修内容をわかりやすく整理しながら、学びの定着を促す取り組みを行うなどして、「やって終わり」にしないための仕組みを整えることが重要です。
教育チェックシート
教育チェックシートは、他の研修と組み合わせて教育を仕組み化するのに有効なツールです。業務に必要な知識やスキル、その習得状況を可視化できるため、具体的な改善点を把握してスキル向上を図ることができます。教育内容が指導者によって異なると、それが不安や不満を招き、離職につながるケースも考えられます。チェックシートを活用すれば、教育内容の一貫性を保って、進捗の確認をしながら不安や不満を防ぎつつ、スキルアップを図ることができます。
教育チェックシートについては、「効率的な新人介護職員教育にはチェックシートが必須!【排泄介助編】」と「【入浴介助編】教育チェックシートを活用して、新人介護職員教育を効率化!」で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
参考:
公益財団法人介護労働安定センター「令和4年度介護労働実態調査 介護労働者の就業実態と就業意識調査 結果報告書」
公益財団法人介護労働安定センター「令和5年度介護労働実態調査 介護労働者の就業実態と就業意識調査 結果報告書」
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