2020年2月25日更新
介護リフトの知識やスキルが身に付く資格制度「リフトインストラクター」とは?
厚生労働省が公表している「平成30年業務上疾病発生状況」によると、保健衛生業における業務上疾病の約8割を災害性腰痛(業務中に発生する突発的な腰痛)が占めています。
腰痛予防に寄与する福祉用具に介護リフトがありますが、誤った使用方法は腰を痛める原因になりかねません。また、不適切な使用が事故を引き起こすケースもあります。介護リフトの正しい知識と操作スキルを身に付けることは、スタッフ様とご利用者様、双方の安全を確保するために大切なのです。
そこで今回は、介護リフトに関する知識や操作スキルを習得できるとされる資格制度「リフトインストラクター」についてご紹介します。
「リフトインストラクター」とは
リフトインストラクターとは、介護リフトを利用した環境改善を行う人材を育成することを目的に、JASPA介護リフト普及協会(※1)が考案した資格制度です。リフトインストラクター資格は、リフトインストラクター試験に合格すると取得できます。
リフトインストラクター試験は、原則として、公益財団法人テクノエイド協会による「リフトリーダー養成研修修了者」が対象となります(※2)。リフトリーダー養成研修とリフトインストラクター試験に取り組むことで、介護リフトの導入・使用にあたって必要な専門知識、操作スキルを習得できるとされています。
「リフトインストラクター」資格制度を活用するメリット
ここからはリフトインストラクター資格制度を活用することで期待できる、現場スタッフ様にとってのメリットをご紹介します。
介護リフトに関する知識や移乗スキルを習得できる
JASPA介護リフト普及協会がHPで示すように、リフトには「天井走行リフト」「床走行式リフト」「ベッド固定式リフト」、吊り具には「脚分離型ローバック交差式吊り具」「シート型吊り具」「ベルト型吊り具」などさまざまな種類があります。
介護リフトや吊り具は利用場所や目的、ご利用者様の状態に合わせて使い分ける必要があるため、選定・導入・運用に際しては、製品の種類や特徴に関する知識が必要です。
リフトインストラクター資格を取得する過程では、こうした知識を習得できると考えられます。例えば筆記試験では、介護リフト・吊り具の種類や特徴に関する問題が出題されるようです。以下に示すのは、JASPA介護リフト普及協会が公表している「試験問題例」です。
リフトと吊り具の種類と特徴(応用編)
▼問題
正しいと思われるものに○、適切でないと思うものには×を( )内に記入しなさい。
▼解答
さらにリフトインストラクター試験には、吊り具の装脱着やリフト操作の実技試験があり、介護リフト・吊り具を安全に使用できるかが客観的に審査されます。知識だけでなく、実際にスキルが身に付いたかも評価してもらえるのです。
腰痛予防に役立つ知識を得られる
介護業界において腰痛問題は喫緊の課題です。厚生労働省が示している「職場における腰痛予防対策指針」では、介護・看護作業での腰痛予防策の1つとして「リフトの使用」が挙げられています。
確かに介護リフトは腰痛予防が期待できる福祉用具ですが、リフトを使用したからといって確実に腰痛を予防できるわけではありません。例えばベッドから介護リフトにご利用者様を移乗するとき、腰に負担がかかりにくい体勢を取らなければ腰を痛めてしまうこともあります。
リフトインストラクター試験では、こうした腰痛予防に寄与する介護リフトの使用方法を問う問題も出題されます。「試験問題例」によると、以下のような記述式問題が出題されるようです。
課題に対しての対応方法など(記述式)
▼問題
以下の問いに答えなさい。
頭の支持は自分で出来るが、股関節の伸展筋力がまったくない女性(80)を、ベッドから車いすに移乗させたい。車いすは、チルト及びリクライニング機能が付いた車椅子を利用する。
▼解答
②車いすのリクライニング角度を予め調整しておく。
③股関節を伸展気味に吊り上げるため、脚部側のストラップを短く調整する。
④臀部が浮き上がる前に、大腿部の側方からの圧迫を軽減させる。
⑤吊り具のストラップにテンションが掛かった時、リフトの上昇を一旦止め、吊り具のストラップが確実にリフトのハンガーに掛かっているかを確認する。
介護リフトの使い方を指導できるようになる
「リフトリーダー養成研修」は、リフトの使用について指導的役割を担う人材の育成を目的としたものです。リフトリーダー養成研修カリキュラムによれば、「リーダーとしての役割と心構え」や「リフト等の指導法」などの理解を深められるようです。
リフトリーダー養成研修を受講したスタッフ様が介護リフトの適切な使い方を指導できるようになれば、ほかのスタッフ様の操作スキルの向上も期待できます。また、介護リフトの適切な使用方法が普及すれば、施設全体の腰痛予防や事故リスク軽減にもつながるかもしれません。
介護リフトに期待される役割
そもそも介護施設における介護リフトは、ご利用者様を抱きかかえる動作をサポートする、移乗介助の負担を軽減させる福祉用具です。ただし、「介護リフト=安全」とは断言できません。使い方を誤れば事故につながる恐れがあることを忘れないようにしましょう。
介護リフト利用による事故の事例
ここでは、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)が公表している事故情報から、介護リフトに関する2つの事例をご紹介します。
(1)天井走行式介護リフト利用による軽傷事故
2010年10月に発生。要介護者を乗せたリフトを作動させたところ、フックから機器が外れて要介護者の頭に落下し、軽傷を負った。
原因:
天井側の吊り下げベルトのフックに本体のリフティングベルトのリングが不完全な状態で掛けられていたことから、要介護者の乗ったイスを吊り上げようとした際にフックからリングが外れ、本体が要介護者の頭に落下したと推定される。
(2)介護リフト利用による死亡事故
2009年8月、大阪府で発生。介護リフトを使用しベッドから車椅子に移乗していたところ、リフトのアームが外れ、要介護者が床に転落して負傷、その後死亡した。
原因:
アームと昇降機構部が不完全な接合状態であったにもかかわらず、介助者が吊り上げたことでアームが外れ、被害者が落下したと推定される。
【補足】リフトインストラクター試験 受験資格と試験内容
最後に、リフトインストラクター試験の受験資格と試験内容をご紹介します。
特別な受験資格は必要ナシ
リフトインストラクター資格を取得するにあたり特別な受験資格は求められませんが、JASPA介護リフト普及協会は以下の方に資格の取得を推奨しています。
上記から、介護リフトの活用によって腰痛予防をはじめとした職場環境の改善を推進したい方に適した資格といえるかもしれません。
筆記・実技試験の結果により、初級・中級・上級のいずれかに認定される
リフトインストラクター資格を取得するには、筆記試験と実技試験を受ける必要があります。
JASPA介護リフト普及協会によれば、それぞれの試験内容は以下の通りです。
・リフトと吊り具の種類の特徴(応用編)
・課題に対しての対応方法(記述式)
実技試験
・吊り具の装脱着方法
・リフトの操作方法
・声がけ等注意点の実行
試験結果によって、初級・中級・上級のいずれかに認定されます。ちなみに第95回リフトインストラクター試験(2019年8月3~4日実施)(PDF)では、それぞれの合格ラインは以下でした。
初級合格者
筆記試験:第1問7点以上または第1問+第2問19点以上
実技試験:減点10点未満
中級合格者
筆記試験:第1問+第2問23点以上
実技試験:減点5点未満
上級合格者
筆記試験:第1問+第2問23点以上、3問70点以上
実技試験:減点2点以下
第95回リフトインストラクター試験の場合、受験者数24名のうち、上級合格者(再試験含む)は2名、中級合格者は4名、初級合格者は13名でした。
執筆:花王プロフェッショナル業務改善ナビ【介護施設】編集部
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