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コラム

2022年2月22日更新

歯周病は全身疾患の悪化も招く!口腔ケアのポイントとは?

監修者プロフィール/篠原 弓月(しのはら・ゆづき)
口腔栄養サポートチーム レインボー代表 訪問歯科衛生士
訪問歯科衛生士歴18年。東京医科歯科大学附属歯科衛生士学校を卒業。2017年に「口腔栄養サポートチーム レインボー」を立ち上げ現在に至る。これまで特定高齢者介護予防や口腔ケアセミナー講師等に携わり、東京医科歯科大学口腔保健学科非常勤講師、日本歯科大学東京短大非常勤講師、日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士・評議員、全国在宅療養支援歯科診療所連絡会理事などを務める。主な著書に『多職種で取り組む食支援』(共著)『月刊おはよう21』「2020年度『これだけは押さえたい 口腔ケアの基本スキル』」(連載共著)などがある。また2021年度の『月刊ケアマネジャー』にて「支援に役立つ口腔機能の基礎知識」を連載している。

口は「食べる」「話す」といった生活の基本や楽しみを担っています。ご利用者様の心身の健康を守るためにはポイントを押さえた口腔ケアを行い、口腔疾患を予防することが大切です。

そこで今回は篠原弓月氏監修のもと、歯を失う一番の原因である歯周病について、発症する原因と身体への影響、ご利用者様の口腔の健康を守る口腔ケアのポイントを解説します。

歯周病が全身疾患を悪化させる原因に?

歯周病は、歯と歯肉の境目の磨き残しなど衛生状態が悪い部分に付着する「歯垢」によって引き起こされる細菌感染症です。歯垢は細菌のかたまりで、歯垢が付着したまま時間が経つと歯周病の原因となる細菌(歯周病菌)が繁殖します。それらが歯肉に攻撃をして感染を起こすことで、歯肉の出血や赤み、腫れなどの症状が現れます。

<歯周病の症状>

  • 歯肉が赤紫色に腫れている
  • 歯を磨くと出血する
  • 歯の動揺(ぐらぐらする)
  • 口臭
  • かたい物が噛みにくい・噛むと痛む
  • 食べた物が歯と歯の間にはさまりやすい

歯周病は自然に治ることはなく、炎症を繰り返しながら歯を支える歯肉や骨(歯周組織)を破壊していきます。重度の歯周病になると歯が動揺する(ぐらぐらする)ようになり痛みます。また、それらの炎症によって出てくる毒性物質が歯肉の血管から全身に入ることで、さまざまな全身疾患に悪影響を引き起こすことがわかっています。

歯が健康な状態と歯周病の状態を表した図。

歯周病が招く・悪化させる恐れのある疾患

歯周病が重症化すると以下のような病気を引き起こす一因や、症状を悪化させることがあります。

  • 狭心症・心筋梗塞・脳梗塞
  • 糖尿病
  • 誤嚥性肺炎
  • 関節炎・糸球体腎炎

狭心症・心筋梗塞・脳梗塞

歯周病菌に感染し進行すると、その刺激により動脈硬化を誘導する物質が出て血管内にプラーク(こぶのようなもの)ができます。プラークがはがれて血の塊ができると血液の通りが悪くなったり血管が詰まったりし、狭心症・心筋梗塞・脳梗塞の発症リスクが高まります。

糖尿病

腫れた歯肉から血管内に侵入した歯周病菌は体の力で死滅しますが、歯周病菌の死骸の持つ内毒素が血糖値に悪影響を及ぼします。血液中の内毒素は、脂肪組織や肝臓からのTNF-αの産生を強力に推し進めていきます。TNF-αは、血液中の糖分の取り込みを抑える働きがあり、血糖値を下げるホルモン(インスリン)の働きを邪魔してしまいます。その結果、血糖値が下がりにくくなり糖尿病の症状が悪化します。歯周病治療をするとHBA1c値は改善し、糖尿病も改善します。

誤嚥性肺炎

食べ物や唾液に混じった歯周病菌が誤嚥によって気管から肺に侵入すると、肺で増殖して誤嚥性肺炎を引き起こす原因になります。誤嚥性肺炎の予防には口腔ケアで細菌数を減らすことが重要です。

関節炎・糸球体腎炎

関節炎は関節に痛み・熱・赤みなどの炎症が起きる病気です。糸球体腎炎は血液をろ過する糸球体の炎症によってタンパク尿や血尿が出る病気です。これらの病気はウイルスや細菌に感染することで発症することがあり、その原因菌の多くは歯周病菌など口腔内に多く存在しています。

このように口腔の衛生状態が悪化すると、歯周病が進行するだけでなく、全身の健康を損ねる原因になります。歯周病は日本人の40歳以上では約8割が罹っており、その割合や重症化は年齢とともに上昇しています*1。ご利用者様に歯周病の症状がみられたら訪問歯科の受診を勧めましょう。

要介護高齢者の口腔ケアのポイント

ご利用者様がいつまでも美味しく安全に食べられて、笑顔で会話が楽しめる生活のためには口腔の健康維持が大切です。その秘訣は定期的な歯科受診で歯や歯肉・義歯の状態のチェックを受けることと口腔ケアです。口腔ケアには口腔内を清潔に保つ目的と、口腔機能を維持・向上する目的があります。口腔ケアのポイントを踏まえて効果的に行いましょう。

口腔内や食事の様子などをこまめにチェックする

歯周病が進んだり義歯が合っていなかったりなどで痛みや不快症状があると、ご利用者様が思うように食事が食べられなかったりケアを拒否したりする原因になってしまうため、口腔内をこまめにチェックするようにしましょう。歯周病の症状の他にも以下であてはまるものがあれば訪問歯科に相談してください。

  • 口の中がネバネバしている感じがある(唾液が糸を引く)
  • 口の中が乾いている
  • 義歯が合っていない(痛む・緩んではずれやすい)
  • 口の中に傷がある
  • 口腔粘膜(舌や口蓋)に汚れが付いている
  • 口腔ケアの拒否が強くて口腔ケアができない
  • 顎が外れた
  • 口が開きにくく口腔ケアができない
  • 詰め物や被せ物が取れている
  • 歯が欠けた、折れた

口腔機能や嚥下機能の低下がある場合は食事に支障が現れます。誤嚥性肺炎や窒息のように命に係わる場合もあります。また、十分な食事量が摂れないと低栄養状態に陥り心身の機能低下を招きます。以下のような項目について気になる点があったら、早めに訪問歯科に相談することが重要です。

  • 噛めずに残す物が増えた
  • 口にため込んでなかなか飲み込めない
  • 食べこぼしが多い
  • 食べ終わるまで時間がかかるようになった
  • 水分や唾液でむせる
  • 内服薬が口に残る、のどにひっかかる
  • 食後に痰や咳が出る
  • 食後に声ががらがらしている
  • 発語が減った、滑舌が悪くなった
  • 誤嚥や窒息しかけたことがある

口腔ケアの基本

まず、歯ブラシは高齢者の口腔ケアに使いやすい、毛がやわらかめでヘッド(植毛部分)が小さめのものを選びましょう。使用後はよく水洗し植毛部を上にコップに立て乾燥しやすい場所におくことが大切です。また、歯ブラシは1カ月を目安として定期的に交換しましょう。それ以上使用すると歯垢除去効果が低下します。

口腔ケアを行うときは、歯と歯肉の境目に毛先を45度ほど傾けてあて、小刻みに振動させるように磨きます。1か所15回くらい擦ったら次にずらして、一筆書きのように移動すると磨き残しがしにくくなります。

 歯磨きの仕方の図。

高齢者の口腔内は敏感なので力を入れてごしごし擦らず優しい力加減で磨きます。毎食後に磨くのが理想的ですが、一番大事なのは就寝前と起床時です。就寝中に一番口腔内細菌が繁殖するため、その前後にできるだけ菌数を減らすのが目的です。

歯磨き剤を付けると泡の刺激でむせることがあるので、むせやすい方は使用を控えるか、一通り磨き終えて仕上げで最後に使用するようにしましょう。

介助で口腔ケアを始める前は必ずご本人の同意を得る

口腔内は髪の毛のような細く柔らかいものでも気になるくらい敏感である上、普段の生活では他の人に見られたり触られたりしないデリケートな部分です。口腔ケアを行う際はご利用者様に十分な説明をして同意を得ましょう。

認知症ご利用者様に口腔ケアを行う場合は、説明を十分に行ってもケアを拒否されてしまう可能性があります。その場合は、まず優しい声掛けと優しい力加減で効率よく汚れを除去し「気持ちよさ」や「さっぱり感」を感じてもらうことから始め、少しずつ介助の口腔ケアに慣れていただくようにします。上の歯の内側は特に敏感な部分なので、磨き始めは歯の外側から徐々に磨く場所を移動していきます。一回でもあせって無理矢理力任せにゴシゴシ磨いてしまうと、介助の口腔ケアは「痛くて嫌なもの」となり、その後のケアは受け入れてもらえません。

ご利用者様の自立度に合わせて介助する

すべてのケアに通じることですが、口腔ケアにおいてもご本人が持っている能力を活かすことが大切です。ご利用者様の自立度に合わせてサポートを行うようにしましょう。ご利用者様には、口腔ケアが自立している方、一部介助が必要な方、全介助が必要な方がおられると思います。それぞれの場面に分けて解説します。

口腔ケアが自立している場合

自立度が高いご利用者様に対しては、なるべくセルフケアを継続します。しかし1人では歯磨きが十分でない部分もあるため、歯と歯肉の境目や歯の裏側など磨き残しやすい部分を必要に応じてサポートすると良いでしょう。食事が終わったら、洗面所への誘導や声がけをして自分で歯磨きをしてもらいます。磨き始める前にしっかり頬を動かしながらぶくぶくうがいをして、食べかすを先に洗い流します。歯ブラシは握りやすい、やや太めの柄のものを用意すると磨きやすいです。

口腔機能のケアでは、食前に頬を膨らませる、舌を前後左右に動かすなどの口腔体操をするのが効果的です。食事の一口目が一番誤嚥しやすいのでウォーミングアップになります。ぶくぶくうがいもしっかり口を閉じ、頬をしっかり動かすように行うと口腔機能維持に効果があります。お喋り・歌う・朗読などして、口を良く使う生活が大切です。

一部介助が必要な場合

一部介助が必要な方の場合は、出来ない部分を補うような介助を行います。例えば手の麻痺で義歯の着脱が困難であれば義歯を外すところまで手伝う、利き手の右手が麻痺のため左手で磨いているが磨き残しやすい方であれば仕上げ部分をスタッフ様が行うなどです。どこからどこまでを介助してほしいか、ご利用者様の意向を確認するとよいでしょう。

日常生活でお喋り・歌う・朗読など口を良く機能させることや口腔体操は、自立度の高い方と同様に継続が大事です。麻痺によって体が自由に動かせない方の場合は自尊心を傷つけないように対応をしましょう。

全介助が必要なご利用者様の口腔ケア

麻痺や身体機能・認知機能の低下などによって口腔のセルフケアが困難なご利用者様に対しては、食後にまず全身の状態を確認してから、口腔ケアを始めることをご利用者様に伝えます。楽で安定感のある姿勢に整え、口の中を観察しましょう。口腔ケア中に唾液や水分を誤嚥しないように顎を引き気味の姿勢を取ります。

ベッド上で行う場合でリクライニングできない方は側臥位で顔を横に向けると安全です。うがいでむせたり水を飲んでしまったりする場合は、スポンジブラシや口腔ケア用ティッシュで汚れや水分を拭き取りましょう。義歯を使っている方の場合は、義歯を外して擦り洗いをして余計な水分を落としてからはめます。

口腔機能のケアについては、口腔体操などの自動運動ができない場合は食前に口の周囲や頬のマッサージを行います。マッサージの前にホットタオルで顔を包み込むようにして温めるとリラクゼーション効果もあります。また、発語や歌を歌うことが可能であれば促し、機能を使うように関わることも大切です。

誤嚥に注意する

嚥下機能が低下しているご利用者様の口腔ケアを行う場合は、誤嚥には特に注意が必要です。口腔ケアは細菌をこすり落とす作業であり、ケア中の細菌が混じった唾液が喉にたれ込み誤嚥すると誤嚥性肺炎の原因となります。

誤嚥を防ぐためには、顎を引き気味にして誤嚥しにくい姿勢で行うことが大切です。ベッド上で行う場合はなるべくベッドを起こし、枕にたたんだバスタオルなどをあてがい姿勢を整えてから行います。歯ブラシやスポンジブラシを口に入れるときは余計な水分をティッシュで軽く吸い取ります。麻痺がある場合は健側を下にすると誤嚥しにくくなります。

口腔内の乾燥を防ぐ

高齢者は加齢や薬の副作用などによって唾液分泌量が減少するため、口腔内は乾燥しがちです。口腔内が乾燥すると口の自浄作用が低下するので汚れがたまりやすく、細菌が増えて炎症が起きやすくなります。また、粘膜が弱くなるため傷ができると感染しやすくなります。口腔内の乾燥を防ぐためには、室内の加湿や口腔湿潤剤の使用に加え、唾液の分泌を促すために口腔機能訓練や唾液腺マッサージなどを行うことが大切です。

感染予防をしっかり行う

口腔ケアは飛沫との接触が多いため、適切な感染予防対策を講じながら実施しましょう。コロナ禍では特に口腔ケアを行う際には窓やドアを開けて換気をします。ケアの前に手洗いや手指消毒をして、マスクやグローブ・ゴーグルまたはフェイスシールドなど個人防護具を着用します。特に眼の保護を忘れずに行いましょう。

口腔ケアを行うときは、ご利用者様が一つの部屋に集まる状態はなるべく避け、口腔ケアを受けているご利用者様の対面に他のご利用者様が座らないようにしましょう。ご利用者が椅子に座っている場合は椅子の後ろに回り、正面から顔を覗き込んでケアをしないようにすれば飛沫を避けられます。ご利用者様が寝た姿勢である場合は、ベッドの高さや角度を調節してご利用者様との距離をなるべく取るようにしましょう。

まとめ

歯周病は全身疾患を悪化させる可能性もある病気ですので、日頃の口腔ケアで進行を予防していくことが大切です。ご利用者様の意思を尊重した上で、自立度に合わせた口腔ケアを行いましょう。口腔ケアで口腔の衛生状態と機能を維持していくことが、ご利用者様が美味しく味わって食べられ、コミュニケーションを楽しめる生活につながります。また要介護度が上がることや誤嚥性肺炎などでの入院を避ける効果も期待できます。口は食べ物の入り口であり感染症の入り口でもあると考え、口の健康が全身の健康もつかさどるという広い意味での口腔ケアに取り組んでいきましょう。

 参考:
(*1)厚生労働省「平成28年歯科疾患実態調査
・日本経済新聞「歯周病は万病のもと 肺炎などのリスク、放置せず治療を
・特定非営利活動法人 日本臨床歯周病学会「歯周病が全身に及ぼす影響
・健康長寿ネット「歯周病と全身疾患の関係」(公益財団法人 長寿科学振興財団)
・e-ヘルスネット「要介護高齢者の口腔ケア」(厚生労働省)
・社団法人 全国国民健康保険診療施設協議会「口腔ケアに携わる人のための手引き
・健康の森「狭心症・心筋梗塞」(日本医師会)
・一般社団法人 全国腎臓病協議会「慢性糸球体腎炎
・さいたま市「口腔ケアを行う上での感染予防対策の基本

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