コラム

2021年2月16日更新

場当たり的な人材育成から脱却!人材育成計画を策定するための4ステップ

一般社団法人シルバーサービス振興会が実施した「介護サービス事業者におけるOJTを通じた介護職員の人材育成のあり方に関する調査研究事業 調査結果報告書」によれば、「人材育成計画策定について構築できている」と回答した事業所は38.2%であることがわかっています。
 
場当たり的な指導は、介護スキルのばらつきを生じさせ、介護サービスの質低下につながる恐れがあります。また、指導方法が属人化すれば、自施設に育成ノウハウが蓄積されにくくなり、育成担当者への負担が増えるかもしれません。人材育成を受ける介護スタッフの成長スピードやモチベーションを低下させる可能性があることから、人材定着の妨げになり得ます。

そこで今回は、人材育成計画の立て方について悩まれている介護施設の管理者様に向けて、育成計画を策定する上で押さえておきたい4つのステップをご紹介します。

 【ステップ1】 育成の目的を決める

「育成の目的」は計画的な人材育成を行う上での軸となるため、適切に設定することが重要です。自施設で求められている職員像と現状(現場の課題)のギャップを把握すると、自施設の置かれている状況に即した目的を定めやすくなります。
 
例えば、理想の職員像として「ご利用者様の尊厳を守ると共に、自立支援を促すケアができる職員」を挙げているものの、「基本介護技術の習熟度にばらつきがある」「記録の仕方が不十分である」といった課題があるとします。この場合、「介護現場で求められる基本的な知識・スキルを身に付け、事業所の目指すケア(利用者の尊厳、自立支援)を実現するための土台をつくる」が育成の目的となります。なお、以下に示した図は「OJTの目的」の立て方例ですが、育成の目的もOJTの目的と同様の考え方で設定できます。

事業所の現状・課題

  • ケアの標準化が
    はかられていない

    • 介護サービス(基本介護技術)が、職員によりバラバラである
    • 仕事の質にもバラツキが生じ、利用者の苦情や職員の不満が多い
    • マニュアル内に習得すべきスキルが整理されていない
    • 職員の記録の仕方がバラバラであり、チーム連携ができない
  • 職員のスキルアップが
    はかられていない

    • 何年も同じ業務を繰り返し、業務範囲を広げていかない職員が多い。
    • 利用者担当制にしたいが、アセスメント力が育っておらず、任せられない
    • 他の職員と連携できる職員が育ていない
    • 地域連携ができる職員が育っていない
    • 看取りケアに対応できない
    • リーダーが育っておらず、チームがまとまらない
  • ケア業務の改善・
    向上がみられない

    • 感染症を防ぐことができない
    • 転倒・骨折等の件数が減らない
    • 褥瘡件数が減らない
    • ヒヤリハットの報告が上がってこない
    • 身体拘束を実施している

↓

  • OJTの目的

    介護職員のスキルアップをはかり、事業所の目指すケア(利用者の尊厳、自立支援)を実現する

    • 基本介護技術力をつける
    • 記録力(5W1H)をつける
    • アセスメント力をつける
    • 業務範囲を広げていく
    • 専門性を深めていく
    • 原因分析力をつけていく
    • 対応策を検討する力を付けていく
    • 利用者のADLを向上させる
    • 事業所の提供するケアの価値を高める

現場の課題を洗い出すときの注意点

課題を洗い出すときは、管理的な立場にいる職員だけでなく、現場で働く介護スタッフや他職種の方にもヒアリングすると、より実情に沿った目的を立てやすくなるのでおすすめです。

また、人によって課題は異なるため、介護スタッフの役職やキャリアなどに応じて求められる能力を洗い出すと、個人に合った目的を設定しやすくなります。以下、課題を洗い出す際の参考になるよう、社会福祉法人 全国社会福祉協議会が公表している報告書から、「職務階層と求められる機能のイメージ」を抜粋(一部編集)してご紹介します。

【職務階層と求められる機能のイメージ】

職務階層

役職名称例

求められる機能

トップマネジメントリーダー*1
シニアマネージャー(上級管理者)

施設長等

  • 運営統括責任者として、自組織の目標を設定し、計画を立てて遂行する。
  • 必要な権限委譲を行い、部下の自主性を尊重して自律的な組織運営環境を整える。
  • 人材育成、組織改革、法令遵守の徹底などを通じて、自組織を改善・向上させる。
  • 自らの公益性を理解し、他機関や行政に働きかけ、連携・協働を通じて地域の福祉向上に貢献する。
  • 所属する法人全体の経営の安定と改善に寄与する。


マネジメントリーダーマネージャー
(管理者)

施設長(小規模)、課長、部門管理者

  • 業務執行責任者として、状況を適切に判断し、部門の業務を円滑に遂行する。
  • 職員の育成と労務管理を通じて組織の強化を図る。
  • 提供するサービスの質の維持・向上に努める。
  • 経営環境を理解し、上位者の業務を代行する。
  • 他部門や地域の関係機関と連携・協働する。
  • 教育研修プログラムを開発・実施・評価する。


チームリーダー
(職員Ⅲ)

主任、係長等

  • チームリーダーとして、メンバー間の信頼関係を築く。
  • チームの目標を立て、問題解決に取り組む。
  • 当該分野の高度かつ適切な技術を身につけ、同僚・後輩に対してのモデルとしての役割を担う。
  • 地域資源を活用して業務に取り組む。
  • 教育指導者(スーパーバイザー)として、指導・育成等の役割を果たす。
  • 研究活動や発表などを通じて知識・技術等の向上を図る。


メンバーⅡ
スタッフⅡ
(職員Ⅱ)

職員(一般)*2

  • 組織の中で自分の役割を理解し、担当業務を遂行する。
  • 職場の課題を発見し、チームの一員として課題の解決に努める。
  • 地域資源の活用方法を理解する。
  • 後輩を育てるという視点を持って、助言・指導を行う。
  • 業務の遂行に必要な専門的知識・技術等の向上を図る。
  • 職業人としての自分の将来像を設定し、具体化する。


メンバーⅠ
スタッフⅠ
(職員Ⅰ)

職員(新任)

  • 指導・教育を受けつつ、担当業務を安全・的確に行う。
  • 組織・職場の理念と目標を理解する。
  • 担当業務に必要な制度や法令等を理解する。
  • 組織内の人間関係を良好にする。
  • 福祉の仕事を理解し、自己目標の設定に努める。
  • 仕事から生じるストレスを理解し、対処方法を身につける。
  • 福祉・介護サービス従事者としてのルール・マナーを順守する。


  1. *1
    この場合のトップマネジメントとは、法人を単位とした経営管理についてではなく、施設・事業所を単位とした運営統括に係るものに限定される。
  2. *2
    職員(一般)には、第1段階(新任職員期間)を終えて独り立ちした段階から、監督的立場ではないが個々のサービス提供場面などにおいてスタッフリーダーとしての役割を果たす段階までが含まれている。

 【ステップ2】 育成計画を作成する

育成の目的が決まったら、その目的を達成するために必要なステップを細かく洗い出し、育成計画に落とし込みます。育成計画は、育成担当者と対象者が同じ目的に向かって歩むための道標になるため、「実施期間」「実施内容」「到達目標」をわかりやすく可視化することが大切です。また、「育成のポイント」を具体的に明記すると、指導方法の標準化が目指せます。以下の表は、入社1年目の職員に向けて育成計画を作成する場合の例です。

【育成計画作成例(入社1年目の職員の場合)】

入社1年目の職員の育成計画の例を表わした図。初めに育成計画の目的が記載されている。その後に、育成を実施する期間、機会、到達目標、育成のポイント、育成担当者が記載されている。

  • 兵庫県社会福祉協議会社会福祉研修所「OJT担当者のための新任職員育成ハンドブック」を元に作成
  • 兵庫県社会福祉協議会社会福祉研修所は「兵庫県社会福祉協議会 福祉人材研修センター」に名称が変わっております。

育成計画を作る際は現場の意見も汲み取ると、より現実的で、現場のニーズに合ったカリキュラムにつながります。なお、主体性や計画性を身に付けるために、育成対象者本人が行動計画を作る方法もあります。ただ、新人の場合は求められる能力や、それを習得する効果的な方法を十分に理解していないケースが多いため、育成担当者や介護施設の管理者様からの助言は必要不可欠です。

人材育成の三大手法のおさらい~OJT、OFF-JT、SDS

「見て覚える」「体で覚える」という雰囲気がある介護施設様では、「経験」を重視する方も多いかもしれません。もちろん、「介護実践」は介護スキル向上に深く関係しますが、実務を通した指導(OJT)、座学(OFF-JT)や自己啓発活動(SDS)を行うことで、より効率よく、着実に介護能力を磨けます。育成計画を作るときは、これら3つの特徴を上手に組み合わせてみてください。以下、「OJT」「OFF-JT」「SDS」の特徴をまとめました。


OJT
 (On the Job Training)

OFF-JT 
(Off the Job Training)

SDS
 (Self-Development Support System)

定義

日常業務を通して行う研修。介護実践の中で、育成担当者が育成対象者に指導・助言をする。

日常業務を離れて行う研修。職場内もしくは職場外で、自施設の職員や外部の講師などによって行われる。

職場外での自主的な自己啓発活動を支援する制度。施設側で経済的、時間的な援助する。


メリット

  • 育成対象者の志向や意欲、能力に応じた、細かな指導ができる
  • 費用がかからない(人件費のみ)

  • 複数名が一度に学習できる
  • 外部研修に参加すれば、他施設の職員とコミュニケーションを図れる
  • 指導のばらつきを最小化できる

  • 育成対象者の志向や意欲、能力などに応じて取り組める
  • 自分のペースで取り組める


研修内容例

  • チームケア・個別ケアの実践
  • 各種委員会の運営への参加

  • 複外部の講師に依頼する場合、費用がかかる
  • 複数名の職員が研修に参加する場合は、シフト調整が必要になる

  • 本人の意志に左右されやすい
  • 資格取得を支援する場合は、その分費用がかさむ


デメリット

  • 育成担当者に負担がかかる
  • 指導内容の統一化が難しい

など

  • ビジネスマナー研修
  • 認知症介護実践研修

など

  • 資格の取得
  • 推薦図書によるレポート課題

など

【ステップ3】 評価基準を設定する

育成計画で設定した目標の到達具合を客観的に測るために大切なこととして、「評価基準」の設定があります。「評価基準」は育成担当者や対象者が客観的に「できる」「できない」を判断できる内容にすることがポイントです。

介護現場で求められる能力は、「基本的な介護技術」「コミュニケーション能力」「リスクマネジメント力」など多岐にわたるため、評価基準の作成は容易ではありません。そこでご紹介したいのが、「介護プロフェッショナルキャリア段位制度」で設定されている「介護技術評価基準」です。同制度では、客観的に介護スキルを評価するための「ものさし」となるチェック項目が148個示されています。くわしくは、業務改善ナビ「介護スキルを評価する『ものさし』に!キャリア段位制度とは」でご説明していますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。

【ステップ4】 見直し・改善を行う

当然ながら育成計画は、定期的な見直しとブラッシュアップによって、より現場に即した、育成対象者の特性に合ったものにしていく必要があります。特に新人の介護スタッフの場合は人によって成長速度が異なるため、実行途中であっても、その方にあったカリキュラムになるよう調整することが求められます。

育成計画の改善点を見出す方法の一つに、育成担当者と対象者による定期面談があります。数カ月に1回の頻度で面談を行い、「取り組み内容」「目標到達度合い」「今後の目標」などを話し合いましょう。このとき評価基準を用いると、目標に対する進捗具合を客観的に判断できるため、今後の目標を考えるときに役立ちます。評価基準に達していない場合は、達することができなかった原因を育成担当者が対象者と共に考えます。「時間的問題」「不適切な指導方法」「対象者の特性」……、さまざまな原因がありますので、適切に見出すことが目標達成の近道です。

育成計画の見直しは、育成期間が終わった後にも行います。育成担当者と育成対象者本人にアンケートを取り、研修内容の改善点や良かった点などを収集します。育成担当者同士で集まり、指導をしていく中で気づいた点をざっくばらんに話す機会を設けるのも良いでしょう。アンケートやミーティングなどで出た意見は記録に残し、適用できる点があれば次期計画に反映させます。

本記事でご紹介したように、理想とする職員を育成するには、まず人材育成計画を立てることが大切です。人材育成計画の策定は介護スキルの標準化・向上につながるだけでなく、計画に則って育成を進めれば、効率的なスキルアップが期待できます。また、すでに人材育成計画を策定されている介護施設様も、「現場の実情」や「個々の成長度合い」に合った内容になっていないと思われたときは、【ステップ4】で挙げた「見直し」を行うことで、アップデートされてはいかがでしょうか。

執筆:花王プロフェッショナル業務改善ナビ【介護施設】編集部

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