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コラム

2024年2月20日更新

【専門家が解説】介護事業所の財務諸表公表が義務化!事業所への影響は?

著者 小濱道博氏のプロフィール写真

著者プロフィール/小濱 道博(こはま・みちひろ)
小濱介護経営事務所代表
C-MAS 介護事業経営研究会最高顧問
C-SR 一般社団法人医療介護経営研究会専務理事
日本各地で介護経営支援を手がける。全国で年間250件以上の介護事業経営セミナーの講師を務め、例年延べ2万人以上の集客実績をもつ。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター等の主催講演会での講師実績は多数。介護経営の支援実績は全国に多数あり。
著書:「実地指導はこれでOK!おさえておきたい算定要件シリーズ」第一法規、「これならわかる<スッキリ図解> 介護BCP」翔泳社、「これならわかる<スッキリ図解> LIFE」翔泳社、「これならわかる<スッキリ図解> 運営指導」翔泳社、「よくわかる実地指導への対応マニュアル」日本医療企画、「介護経営福祉士テキスト〜介護報酬編」日本医療企画、「これならわかる<スッキリ図解> 介護ビジネス」(共著) 翔泳社。
ソリマチ「会計王介護事業所スタイル」の監修を担当。

令和6年度(2024年度)の介護保険法改正により、介護サービス事業者は財務諸表などを都道府県知事に届け出ることが義務づけられます。

今回は、具体的な改正内容と事業者様に与える影響について、小濱道博氏に解説いただきました。

  • 2023年12月時点の情報で記事を執筆しています。

財務諸表公表の目的

目的は主に以下の5つとされています。
 

  • 介護事業者が置かれている現状と実態について、国民の理解・促進を図るため
  • 経営状況の実態を踏まえた上での政策を検討するため
  • 物価上昇や災害、新興感染症等への的確な支援策を検討するため
  • 実態を踏まえて介護従事者等の処遇の適正化を検討するため
  • 介護事業実態調査の補完資料とするため
 
こうした目的とともに、介護事業の透明性が保たれることも期待されています。法人としての報告ではなく、事業所単位での公表となるため、国としても介護報酬改定の際の検討材料として活用できるようになります。

財務諸表公表の義務化に関する改正内容

提出を怠った際は罰則を受ける

令和5年(2023年)5月12日に通常国会で成立した令和6年度(2024年度)の介護保険法において、介護サービス事業者が財務諸表などの経営情報を定期的に都道府県知事に届け出ることが義務づけられました*1

提出をしなかったり、虚偽の報告を行ったりした場合は、期間を定めて報告もしくは内容を是正することが命じられます。従わない場合、最終的には指定の取消もしくは業務停止の処分を受ける恐れがあります*2

  1. *1
    第115条の44の2 第2項
  2. *2
    第115条の44の2 第8項

財務情報がデータベース化される

財務諸表等の経営情報の提出には社会福祉法人と同様に電子システムを使用するため、全国的な電子開示システムとデータベースが整備されます。

これまで、厚生労働省は介護事業所の決算データを、3年ごとに実施する経営実態調査で収集していました。しかし、一部事業所へのサンプル調査であるため、介護業界全体の財務状況を的確に示しているとは言えない課題がありました。介護職員の処遇改善加算などの検証も同様です。

今回の改正によって介護事業者の財務情報がデータベース化されることで、介護報酬改定や処遇改善の実施において根拠が明確になり、的確な政策の策定が期待できます。

事業所の経営状況がご利用者様に開示される?

「事業所の経営状態や役員報酬の金額などが、ご利用者様やご家族に把握されてしまう」という懸念があるかもしれませんが、そのようなことはありません。
公表される情報は、介護事業者が提出した個別の事業所情報ではなく、厚労省が属性などに応じてグルーピングした分析結果です。そのためご利用者様に事業所の経営状況が知られることはありません。

財務諸表公表のイメージ

「地域包括ケアシステムの更なる深化・推進(参考資料)」のイラスト。

出典:「地域包括ケアシステムの更なる深化・推進(参考資料)」(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001015834.pdf)

介護事業所への影響は?

公表データは経営指標として活用できる

介護事業経営の指標は、3年に一度実施される介護事業経営実態調査が最も充実しています。しかし、この数値は介護報酬改定前の数値であるため、改定後の経営状態を把握する指標が存在しませんでした。
民間ベースの経営指標はありますが、事業規模別のデータまでは補完されていないことが多く、同業他社との規模別比較や項目別の詳細な経営分析が難しい状況が続いていました。今回の介護保険法改正によって公表されるマクロデータは、自事業所の経営指標と比較することができ、経営課題の分析にも活用できるようになります。

また、今回の改正以降に公表される情報は、M&Aなどの実務においても重要な評価指標となり得ます。自施設の財務情報を、本支店別、部門別に集計することは、将来のM&A、事業譲渡、不採算部門の撤退などを検討するための重要なエビデンスとなるでしょう。

会計業務の負担が増える

都道府県知事に提出する財務諸表データは、税務署に提出した決算書ではありません。
「会計の区分」に従って、複数の拠点や併設サービスごとに作成し、提出しなければいけません。「会計の区分」とは、厚生労働省令37号などの各サービスの解釈通知に規定された運営基準の一つです。例えば、「本支店会計」「部門別会計」があり、以下のような分け方をします。


本支店会計

同一法人で複数のサービス拠点を運営している場合に適用する区分。拠点ごとに会計を分けて損益計算書を作成する。


部門別会計

同一の拠点で複数のサービスを営んでいる場合に適用する区分。サービスごとに会計を分けて損益計算書を作成する。


収入だけではなく、給与や電気代、ガソリン代などすべての経費を分けなければならず、この作業は税務署に提出する決算書には求められていません。このように、会計の区分は、税務会計とは全く別物であり、この基準を知らない会計事務所は会計の区分に対応できない恐れもあります。加えて、会計処理方法が別であるため、別途料金が発生することも想定されます。会計を外部に委託している場合、今回の義務化を機に、介護事業に精通する会計事務所かどうかの見極めが必要になるでしょう。
 
また、事業所内で会計業務を完結している場合も業務量増加は避けられません。会計専門の職員がいるならまだしも、事業所の規模によっては経営者自らが会計業務を行っているケースもあります。罰則が明確に定められたことで、施設運営のための業務負担はより増えると想定できます。

なお、令和5年(2023年)12月7日に行われた社会保障審議会介護保険部会の資料に掲載されている提出義務の詳細は以下の通りです。

1.提出義務を負わないケース
①年間の収入が100万円に満たない場合
②災害等によって提出が困難な場合
 
2.提出を求められる情報
①施設、事業所毎の名称、所在地などの情報
②施設、事業所毎の収入と支出の内訳
③施設、事業所毎の職種毎の配置人員など
④その他の必要な情報

未来のために財務に関心を持つ

以前、幅広く事業所展開されている法人の中期計画策定について相談を受けたことがあります。通所サービスが大きな欠損で、居宅介護支援事業所が大きな利益を出しているということで、通所サービスの縮小を検討している段階でした。
予実対比の資料を拝見すると、確かに通所サービスに問題があるように見えましたが、ここで疑問に思ったのが、計上している利益額の格差の原因が経費の按分基準であるという点です。そこで共通経費の按分方法を確認させてもらうと、売上高基準ということでした。
大雑把な基準を用いていたため、この数字だけをうのみにして通所サービスを縮小した場合どうなるでしょうか。実際は通所サービスが利益を出していて、居宅介護支援事業にマイナス要因があったかもしれず、その場合、法人全体の収益は大きく悪化することとなります。

紹介した事例のようにならないよう、今回の財務諸表提出の義務化を契機に、経営層は財務に関心を持つことが重要です。会計作業は施設運営における現状の把握の方法の一つであり、税金申告のための作業です。しかし、それをベースに未来をつくることができるものでもあります。経営計画の策定は、経営者様と職員様が「同じ絵を描く」ために必要な作業です。法人の会計方法を見直し、改めて経営計画を作ってみてはいかがでしょうか。

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