2025年1月21日更新
介護現場の「稟議書」の作成法。押さえるべきポイントを解説
監修者プロフィール/高森 雅人(たかもり・まさと)
医療法人豊田会にて、医事室・経理室・経営戦略室などを歴任し、医療機関の運営に欠かせない幅広い業務に従事。医療現場での医事業務や財務管理、経営戦略の策定などを経験する中で、医療機関の経営には経営に関する高度な知識と技術が必要不可欠であると実感し、中小企業診断士、経営学修士、病院経営管理士などの資格を取得。医療機関経営に関する理論を深める。
2017年に医療法人豊田会を退職し、医療や介護の経営に特化したコンサルタントとして活動を開始。医療機関や介護施設が直面する経営課題に対し、具体的かつ実現可能な解決策を提案。業務効率の向上や収益性の改善に向けた支援を展開。特に、経営戦略の策定、財務状況の改善、業務プロセスの最適化、従業員育成を中心に、現場に即したサービスを提供している。
医療機関や介護施設が持続的に成長し、永続的に地域社会に貢献する姿を実現することを目指し、健康と福祉の向上に寄与している。
稟議は、組織内で意思決定を効率的に進めるための重要な手続きです。稟議の際に必要な稟議書が適切に作成されていないと、遅延や差し戻しが生じ、本来の業務に支障をきたす場合もあります。
そこで今回は、稟議書を作成するためのヒントや、押さえるべきポイントについて解説します。
稟議とは承認の手続き
稟議とは、自らの意思だけでは決定できない組織内の活動に対して、関係者や上司の承認を得るための手続きを指します。提案や決裁事項を稟議書という文書にまとめ、関係者が順次回覧して承認を得る流れが一般的です。
予算や規模が大きくなれば、直属の上司から経営層まで複数の承認者が必要になります。承認者の理解を得るためには、内容を簡潔に伝えることはもちろん、判断に必要な要素をわかりやすく伝える稟議書を作成することが重要です。
稟議と起案・決裁の違い
下記フローで示すように、起案とは、稟議プロセスの最初の段階であり、提案内容を文書にまとめることです。一方決裁とは、稟議プロセスの最終段階であり、最終的な承認者が判断を下すことをいいます。
■起案〜決裁の流れ
起案
提案内容を書面にまとめる。提案者が行う。
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稟議
起案された書面を承認者に回覧して承認を進めるプロセス。提案者が承認の手順を整え、上司や関係部署の責任者が承認を行う。
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決裁
最終的な承認行為。部門長や社長など、最終決定権を持つ者が承認を行う。
近年は、稟議と起案を同じ意味として捉えるケースも増えており、起案書と稟議書が同様のものとして扱われることもあります。
稟議書に欠かせない要素
稟議書の承認を得やすくするためには、以下の要素を踏まえながら作成することが重要です。
稟議書作成の前に確認すること
稟議書内で強調すべきポイントは、法人形態によって異なる場合があります。まず営利法人と非営利法人のどちらであっても、「投資額や経費が適切に回収され、ご利用者様への価値提供が高まる」点は明確に示す必要があります。
そのうえで、営利法人は利益を株主に、非営利法人は利益を社会的・公的な目的に還元するという違いを踏まえて、得られる利益や成果の書き方を工夫します。具体的には、営利法人では、稟議内容が実現されることで、結果的に「株主還元が高まる」という点を強調し、非営利法人では、「地域社会の利益になる」点を示すと効果的です。例えば、営利法人の場合は「稟議対象の実行による利益増加で、営業利益率が1.5ポイント向上する見込み」、非営利法人の場合は「稟議対象の実行により、地域の高齢者福祉サービス利用者が10%増加する見込み」などの記載があると良いでしょう。
まず、自施設に稟議規定が存在するかを確認します。稟議規定とは、稟議事項の基準や稟議の手続きについて定めたものです。稟議規定がある場合は、必要な承認者や期限、書式ルールなどを確認し、必ずその規定に従って稟議書を作成します。
稟議書の構成について
起案の目的や目標は明確に記載します。なぜこの提案が必要なのか、どのような目標を達成しようとしているのかを具体的に説明することで、承認者が起案の意義を理解しやすくなります。
例えば、eラーニングの導入目的として「利用者のケアの質を向上させるため」や、介護ソフトの導入目的として「職員の負担軽減を図るため」など、具体的な成果や達成目標を明記するのが望ましいです。
起案の理由や背景も説明する必要があります。提案内容がどのような問題や課題に基づいているのか、現状をわかりやすく示すことで、必要性を示しましょう。
例えば、「ご利用者様の情報や介護記録を紙で記録しているため、情報の取得に時間がかかり、職員の負担が増加している」のように記載します。加えて、他施設の事例なども参考として提示すると説得力が増します。
承認してほしい内容を、「介護ソフトAの導入」「新入社員研修プログラムの作成&実施をB社に委託」のように簡潔に記載します。加えて、費用や納期、導入スケジュールや選定理由など詳細な条件を整理すると、内容が明確になり、承認が得やすくなります。
自施設にとっての利益や成果は、承認者が特に気にするポイントのため、具体的な記述が求められます。コスト削減や業務効率の向上、売上増加などの提案が、導入コストに見合った成果を生むのかを示すために、定量的なデータがあれば積極的に記載し、納得感を高めましょう。また、短期的な成果だけでなく、中長期的にどのような効果が期待できるかについても触れることが重要です。「このソフトを導入することで、5年後にはケア記録の電子化率100%を目指す」といった具体的なビジョンを提示することで、計画の意義が伝わりやすくなります。
起案の実行が現実的であることを示すため、必要なリソース(人員、時間、資金など)を具体的に記載します。また、導入スケジュールや実行手順の明確化も重要です。例えば、「職員の○名が導入研修に参加する予定である」など、具体的な計画を提示します。
起案の実行に伴うリスクやデメリットについては事前に考慮し、稟議書で触れておく必要があります。
例えば、「介護ソフトの入れ替えが職員の負担になり、一時的に業務効率が低下する可能性があるが、事前研修や資料配布によってサポートを行う」など、対策も示すことで、稟議書の信頼性が高まります。
稟議書作成のポイント
稟議書を作成する上で、書き方にいくつかのポイントがあります。
簡潔に書く
稟議書は、簡潔でわかりやすいことが大前提です。まず、結論である「決裁の対象」を先に記載し、その後詳細について要点をまとめましょう。
起案の経緯や思考の過程などが必要以上に書かれていないことを確認します。例えば、市場の動向に関する細かすぎる情報や、提案に至らなかった別案についての詳細などは不要です。主観的な意見や内部事情についての説明なども承認に不要な情報のため、記載する必要はありません。
長文ではなく、箇条書きやナンバリングなどを用いて端的にまとめるのも有効です。
データを示す
起案理由や効果を記載する際にデータを用いると、稟議書の説得力が増します。特に予算や規模の大きい提案では、客観的な数値や実績などの裏付けが求められます。
■データを用いて効果を記載するときの例
事前調整も重要
関係者への事前調整も、稟議書の承認をスムーズに得るために有効な手段です。初めて耳にする提案には、疑問や反対意見が生じやすいものです。そこで、稟議書を提出する前に関係者に提案内容を共有し、懸念事項を確認しておきましょう。それらを稟議書に反映することで、承認の遅延や却下を防げるほか、より説得力のある内容に仕上げることができます。
ワークフローシステムの導入で効率化
従来は紙の稟議書が一般的でしたが、近年は電子化が進み、多くの施設でワークフローシステムが導入されています。ワークフローシステムを導入すれば、いつでもどこでも稟議を進められる、複数の承認者に同時に稟議書を回せるなど、稟議プロセスの効率化を図れます。
稟議書は承認者目線で
承認者目線で、わかりにくい部分や納得できない内容がないように記載することが、スムーズに承認を得る鍵です。今回紹介したポイントを参考に稟議書を作成し、ケアの質向上や業務効率化に役立つ提案を進めていきましょう。
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