2025年7月15日更新
介護施設における外国人採用。成功のポイントは事前準備と定着サポート
監修者プロフィール/赤羽 克子(あかば・かつこ)
元聖徳大学心理・福祉学部社会福祉学科教授
社会福祉施設勤務を経て教育の世界に入る。現在はマーシーハンディキャップサポート協会理事。
著書:「3福祉士の仕事がわかる本」日本実業出版社、「楽しく学ぶ介護過程」時潮社、「介護福祉学辞典」ミネルヴァ書房、「QB介護福祉士国家試験問題解説集」メディックメディア など多数。
介護現場の人手不足が深刻化するなかで、外国人介護人材の受け入れが増加しています。しかし、単に採用するだけでは、期待した戦力として定着しないケースも少なくありません。文化や言葉の壁を乗り越え、長く活躍してもらうためには、受け入れ準備と定着に向けた取り組みが欠かせません。
そこで今回は、外国人介護人材を迎え入れる上で押さえておきたい「受け入れ」と「定着」のポイントを解説します。
介護業界における外国人採用の現状と重要性
人手不足が深刻な介護業界では、人材の確保が依然急務となっています。厚生労働省の推計*1によると、2022年度と比べて2026年度には約240万人(+約25万人)、2040年度には約272万人(+約57万人)の介護職員が必要になるとされています。しかし、これだけの人材を国内だけで確保するのは極めて難しいのが現状です。
このような背景から、「外国人介護人材の受け入れ」が人手不足解消の有効な手段として注目されています。実際、特定技能制度を活用した外国人労働者の受け入れは、2019年4月の制度開始以来、着実に増加しています。出入国在留管理庁*2の発表によると、2024年12月末時点で介護分野の受け入れ人数は44,367人に達しています。
しかし、外国人介護人材の受け入れは日本人とは異なるさまざまな準備や配慮が求められます。受け入れ体制が不十分だと、せっかく採用しても早期離職につながってしまう恐れがあります。
そこで以降では、外国人介護人材をスムーズに受け入れ、長期的に定着してもらうためのポイントを解説します。
外国人介護人材の受け入れ方法と事前準備
外国人介護人材を受け入れる際には、在留資格の確認、採用方法の選定、担当業務の明確化といった事前準備が不可欠です。スムーズな受け入れのために、押さえておきたい基本的なポイントを解説します。
受け入れ可能な在留資格
外国人が日本で就労するには、在留資格を取得する必要があります。現在、介護分野で活用できるのは、以下の制度です。
●施設別の必須研修項目
制度
詳細
就労期間
サービス種別の制限
EPA(経済連携協定)
日本とインドネシア・フィリピン・ベトナムの間で結ばれた協定に基づき、候補者が介護福祉士の資格取得を目指しながら就労・研修する制度。
資格取得後は永続的に就労可能
訪問系サービスは不可
※事業者が一定の条件を満たせば資格取得後は可
在留資格「介護」
介護福祉士の資格を取得した外国人が、長期的に働くための制度。永住権申請の要件でもあるため、安定した雇用が見込める。
永続的に就労可能
制限なし
特定技能1号
人材不足解消のために設けられた制度。介護技能や日本語能力水準の合格が条件なので、即戦力として活躍できる。
最長5年
訪問系サービスは不可
技能実習
母国の経済発展のために技能を習得する目的で働く制度。制度の趣旨上、長期的な就労には不向き。
最長5年
訪問系サービスは不可
在留資格によって就労期間やサービス種別の制限があるため、自施設のニーズに応じて、どの制度を活用して外国人介護人材を受け入れるかを検討・決定する必要があります。
なお、2027年にはこれらの制度が統合され、育成就労制度へと移行する予定です。制度変更については、以下のコラムをご参照ください。
技能実習制度が廃止!?新制度「育成就労制度」が与える介護業界への影響は?
採用方法の選定
外国人介護人材の受け入れ方法や採用方法は、在留資格によって異なります。
制度
受け入れ調整機関・採用方法
EPA(経済連携協定)
JICWELS(公益社団法人 国際厚生事業団)
在留資格「介護」
自主的な採用活動
特定技能1号
自主的な採用活動(登録支援機関によるサポートあり)
技能実習
団体監理型か企業単独型
●EPA
EPA制度を利用する場合は、まずJICWELS(国際厚生事業団)に求人登録を申請する必要があります。その後、JICWELSが送り出し調整機関と要件をすり合わせた上で、受け入れを希望する介護施設と就労希望者とのマッチングを行い、採用が決定します。
●在留資格「介護」
在留資格「介護」を活用する際は、介護施設が自主的に採用活動を行う必要があります。日本人採用と同様に、自施設のホームページやSNSで求人情報を発信するほか、求人広告の出稿、介護福祉士養成施設や日本語学校との連携も有効です。
●特定技能1号
特定技能1号の採用は、介護施設が自ら採用を行うか、支援機関や送り出し機関と連携を行う方法があります。特定技能1号の場合は支援義務があるため、自主採用であっても支援体制を整備する必要がありますので、支援計画までサポートしてくれる登録支援機関と連携する方法が主流となっています。
●技能実習
技能実習生の受け入れには、「団体監理型」と「企業単独型」の2種類の方式が存在します。企業単独型は海外に支店や取引先がある企業に限られるため、ほとんどの介護施設が団体監理型で採用を行っています。「団体監理型」では、事業協同組合や商工会などの監理団体が技能実習生の受け入れと講習を担当し、実習先となる介護施設との調整を担います。そのため、まずは監理団体への問い合わせが必要です。
制度ごとに受け入れ要件や手続き方法は異なるため、全てを正確に把握するのは容易ではありません。そのため、受け入れを円滑に行うためには、人材紹介会社や登録支援機関によるサポート(特定技能のみ)の活用を検討することも有効です。また、自治体によっては受け入れについての相談窓口の設置やセミナーの開催などを行っている場合もあるため、まずは自治体の情報を確認してみると良いでしょう。
担当業務の明確化
事前準備として、外国人スタッフが担当する業務内容を明確にすることも重要なポイントです。スキルや経験に応じて業務を割り振れるよう、業務を細分化し、無理のない範囲で担当できるよう体制を整えましょう。
また、外国人スタッフが働きやすい環境を整えるために、マニュアル内容の見直しも欠かせません。専門用語やわかりにくい表現がないかを確認し、簡潔な説明を加える、フリガナをつけるなどの工夫を行うことで理解を促せます。こうした改善は、日本人職員にとっても業務の改善や標準化の機会となり、結果として施設全体の業務改善にもつながります。
定着のためにすべきこと
せっかく外国人スタッフを採用しても早期に離職されてしまっては、施設の安定運営に影響を及ぼします。そのため、外国人スタッフが職場に馴染み、成長しながら長く働けるように支援し、環境を整備することが不可欠です。ここからは定着のために特に重要な3つの取り組みについて解説します。
お互いの文化を理解する機会の提供
外国人スタッフが日本の文化や職場のルールを理解しやすくなるように、オリエンテーションを実施し、基本的なマナーや考え方を共有することが大切です。例えば、時間管理やチームワークの重要性、目上の方との接し方などについて具体的に説明すると、文化の違いによる衝突を防ぐことができます。
また、施設内での異文化交流イベントの開催や、地域の行事・ボランティア活動への参加によって、職員やご利用者様だけでなく、地域住民からの理解も深まります。外国人に対して誤解や偏見を抱く人もいるため、外国人スタッフの役割や文化的・宗教的背景についても丁寧に説明し、相互理解を促すことが重要です。
コミュニケーション支援
外国人スタッフが働く上で大きな障壁となるのが「言語の壁」です。施設側は、言語のハードルを少しでも下げるために、継続的に日本語学習の機会を提供することが求められます。eラーニングや学習教材の活用、日本語ボランティア団体との連携による学習支援などを通じて、日本語習得を積極的に支援しましょう。シフト調整によって学習時間を確保するなどの配慮も必要です。
日本人スタッフ側にも「やさしい日本語」を使う意識が求められます。専門用語や難しい言い回しを避け、簡潔でわかりやすい表現を心がけることで、外国人スタッフが業務を理解しやすくなります。曖昧な表現を避ける、外来語や擬音語・擬態語を避けるなどの工夫も、認識のズレを防ぐ上で有効です。
項目
避けるべき表現の例
改善例
専門用語・難しい言い回し
「清拭します」
「ここに記入してください」
「体を拭きます」
「ここに書いてください」
曖昧な表現
「排泄介助をお願いします」
「始めて大丈夫です」
「トイレを手伝ってください」
「始めてください」
外来語
「キャンセルになりました」
「プライバシーに配慮してください」
「中止になりました」
「ほかの人に見えないようにしてください」
擬音語・擬態語
「床をゴシゴシ拭いてください」
「今日はバタバタしますよ」
「床を強く拭いてください」
「今日は忙しいですよ」
キャリア支援・フォローアップ
外国人スタッフに長く働いてもらうためには、将来のキャリアパスを示すことが欠かせません。たとえば、さらに専門性を高めて資格を取得するのか、現場リーダーや指導者として活躍するのかなど、明確な将来像を示すことで働き続ける意欲が高まり、定着率の向上につながります。定期的な面談を通じて悩みを聞き、モチベーションを維持する取り組みも重要です。
介護福祉士資格の取得はハードルが高いため、施設からの支援が不可欠です。コミュニケーション支援とあわせて、学習機会の提供や学習時間の確保など、現場全体で支える姿勢が求められます。
感染対策における外国人スタッフへの配慮
最後に、介護施設において重要性が一層高まっている「感染対策」においても、外国人スタッフへの配慮は欠かせません。母国との衛生管理の考え方や習慣の違いから戸惑いや誤解を生じることもあるため、施設の方針や実施方法について、丁寧な説明と研修が必要です。
具体的には、感染対策の基本的な考え方や重要性を理解してもらうとともに、衛生観念の違いによる認識のズレを解消することが重要です。その上で、防護具の正しい着脱方法や、手洗い・消毒の徹底といった実践的な指導を行いましょう。
また、言語の壁を考慮し、感染対策のマニュアルや基本ルールを多言語で整備することも効果的です。文字だけでなく、画像や動画を活用し、視覚的・直感的に理解しやすい形で伝えるなどの工夫も求められます。
【ダウンロード資料のお知らせ】
介護施設向け
外国人スタッフのための感染対策ガイド
感染対策を多言語化する際のポイントについて、以下の資料で詳しく解説していますので、ぜひダウンロードして参考にしてください。
【目次】
●介護施設における外国人スタッフとの感染対策の課題
●外国人スタッフに感染対策を確実に実践してもらうには?
●外国人スタッフ用マニュアルの作成 3つのポイント
①基本だけをわかりやすく記載する
②日本語にふりがなを付け、母国語も併記する
③画像やイラストを活用し視覚的に伝える
●注意が必要!外国人スタッフ特有の感染リスク
【こんな方におすすめ】
●外国人スタッフによって感染対策の理解度にバラつきがあり、適切な指導方法がわからない
●施設全体の感染対策レベルを維持・向上させたい
●多言語対応の資料・研修プログラムを整えたい
参考:
厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」
出入国在留管理庁「特定技能制度運用状況(令和6年12月末)」
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