2019年8月09日更新
清掃の専門家が教える!カビの危険と浴室清掃のポイント
著者/松本忠男(まつもと・ただお) 株式会社プラナ 代表取締役、ヘルスケアクリーニング株式会社 代表取締役
「カビ」と聞くと、浴室の壁や天井に付着し、梅雨どきになると、掃除しても掃除しても次々と生えてくる嫌な奴。そんなイメージを持つ方が多いかもしれません。
目で見えるカビはすぐにでも除去したほうが良いことはご存知だと思いますが、施設の清掃では、目では見えないカビについても注意を払う必要があります。
なぜならば、カビが原因で死に至ることがあり、私たちがいま吸っている空気の中にも、その原因となるカビが浮遊している可能性があるからです。
今回は、室内に存在するカビの危険性と、特にカビ繁殖の条件がそろっている浴室清掃のポイントを紹介します。
カビに潜む危険
カビは室内で発生する菌の一種と思われがちですが、本来は屋外に生息している生き物です。土の中に多数生息しているカビの胞子は、風に乗って室内へと入り込みます。室内でホコリが舞い上がれば、カビの胞子も一緒に舞い上がり、私たちの鼻や口を通って、気管支やその奥の肺へと侵入していきます。
室内の1㎥の空気中にカビは平均して40個ほどは存在し、梅雨どきは、カビの数が1㎥あたり100個ほどに増えると言われています。
1㎥あたり1000個を超えた場合、「長時間その部屋で生活する」「ホコリが多い」などの複数の条件が重なることで、人体への危険性を考慮する必要が出てくるとされています。
人を死に至らしめるカビも存在する
「夏型過敏性肺炎」という病気がありますが、これはトリコスポロンというカビの胞子を吸い込むことで、アレルギー反応を起こし、発熱や呼吸困難などの症状が出るものです。重症化すれば最悪の場合は死に至る、恐ろしい病です。
亜急性過敏性肺炎は、トリコスポロンによる夏型過敏性肺炎の場合も多く見られます。「カンジダ・アウリス」、通称・日本カビと呼ばれるカビの世界的流行(パンデミック)も忘れてはいけません。
日本で2005年に70歳の女性患者の耳だれから初めて発見されたこのカビは、その後、韓国、インド、パキスタン、英国、米国、南アフリカなどでも次々と発見され、2011年には韓国の患者が敗血症で死亡する事例が報告されました。米国では、2017年に入ってから122例の感染が報告され、死者も多く出ています。英国でも同年8月の時点で200例以上の感染が確認されています。
健康な人間であれば命を落とすことはまずありえませんが、免疫力の低下した施設ご利用者様や入院患者様、持病を持っている方にとっては命に関わる大問題です。この日本カビのもっとも懸念されている点が、抗生剤の効かない薬剤耐性を獲得した菌株が広がりつつあるということです。
すでに米国では9割以上の株が薬剤耐性を持っていると言われ、韓国やインドでも耐性化が確認されています。日本では薬剤耐性を持った菌株はまだ確認されていませんが、今後海外から持ち込まれるリスクはかなり高く、遠い海の向こうのことと軽く考えてはいけません。
たかがカビと侮るなかれ
このように人を死に至らしめるカビも、世の中には多数存在するということを決して忘れてはならないのです。
カビが目に見えるほど繁殖している状態は、すでにかなりの赤信号です。ウイルスと違って、自然環境下でもどんどん増殖していくカビは、見えない段階から対策を講じて、増やさない術を身につけることが大切です。
カビが発生するには、「酸素」「温度20℃以上」「湿度80%以上」「栄養」などの条件が必要な場合が多いのですが、酸素は遮断できませんから、カビの増殖を防ぐには、風通しをよくし、栄養となるほこりや汚れを取り、カビが嫌う環境にする必要があります。
このように、カビが生えない状態を維持することが大切ですが、既に生えている場合はリセットする必要があります。
カビが繁殖しやすい場所&カビ取りの8ステップ
特にカビが繁殖しやすい場所としては、下記が挙げられます。
など
室内でカビの発生リスクが高い場所を確認し、風通しを良くして湿気を溜めない、エアコンフィルターや加湿器のタンクは定期的に掃除するなど、カビが生える前に先手を打つようにしましょう。
中でも、温度や湿度が高く、皮脂や石鹼カスなどが多い浴室は、カビが繁殖する条件がそろっています。水分が多いとカビが発生しやすくなるので、浴室に入った後、水アカや皮脂汚れは浴室洗剤で掃除し、天井や壁の水をスクイージーなどで取り除きましょう。
既に生えてしまったカビを落とすには、以下の8ステップが有効です。浴室の壁や天井にカビが繁殖してしまった場合は、こちら参考にカビ取りを実践してください。
【浴室のカビを落とす8ステップ】
【場所別】浴室清掃のポイント
ここからは、カビが繁殖しやすい浴室について、カビ予防に役立つ清掃のポイントを場所別に紹介します。
天井
特に、浴室天井の水滴が乾いた跡に注目してください。カビの胞子は3μm(0.003mm)ほどのとても小さな生き物で、浴室天井にできた水滴のまわりにくっつきます。胞子は菌糸と呼ばれる糸をどんどん伸ばしながら増殖し、目で確認できる大きさになって、初めて私たちはカビの存在を知ることになります。そして、水滴の水分が蒸発すると、菌糸の成長は止まりますが、菌糸が伸びなくなる代わりに、菌糸の先端にたくさんの胞子を作りはじめます。この胞子は床や空中へと落下し、再び繁殖できる場所を求めて旅立つのです。
少し面倒ではありますが、入浴介助が終わったら、柄の長いスクイージーやマイクロファイバーモップで天井の水滴を拭き取ってください。それだけで、カビ対策にはとても効果があります。
イス
以下のイラストのような浴室のイスは内側に湿気がこもり、カビやすいので注意しましょう。
そのままお置いておくとカビが発生しやすいので、少しでも乾燥しやすいよう使用後はひっくり返しておくのが正解です。同様に、洗面器も内側が乾燥しやすいよう立てかけておくと良いでしょう。
浴槽
浴槽の水アカやヌメリを浴室洗剤で洗浄したあと、水滴を放置するとカビが繁殖する原因になるので注意してください。
【浴槽の清掃手順】
排水口
水アカがたまるとカビや細菌の温床に。1週間に一度は掃除をし、仕上げに除菌をして予防しましょう。
【排水溝の清掃手順】
壁
洗浄後は水滴を拭き取り、乾燥させておくことが大切です。
【壁の清掃手順】
シャワーヘッド
シャワーヘッドは浴室洗剤を吹きつけ、水アカの発生を予防します。
【シャワーヘッドの清掃手順】
シャワーホース
シャワーホースは黒カビが発生しやすい場所のひとつ。浴室洗剤でこまめに洗浄し、予防することが大切です。
鏡
浴室の鏡は水アカで汚れている場合が多いので、浴室洗剤で汚れを取り除きましょう。
【鏡の清掃手順】
カビ予防で清潔な浴室を維持しよう
キレイにしているつもりでも黒カビ予備軍がひっそり繁殖していることがあります。カビの胞子は天井や換気扇に張りつき、床に落ちて拡散。すると、床にカビが発生してしまうので、天井や換気扇はこまめに除菌を心がけてください。
また、効率よく介護施設の大浴場清掃を行うためには、常に「上から下へ」「奥から手前へ」がポイントです。
施設内の感染対策というと、かつてはノロウイルスやインフルエンザなどに注意が向きがちでした。しかし今、実はカビも大変怖い存在とわかり、近年対策が講じられています。
ぜひみなさまの施設でも、カビが目に見えないうちから、できることに取り組んでください。「部屋の湿度を常に80%未満に抑えて除湿に努める」「水回りを使ったあとはその都度水滴を拭き取るようにする」「カビのエサとなるホコリや汚れは放置しないで掃除する」などの、カビ対策を意識していただきたいと思います。
著者プロフィール/松本忠男(まつもと・ただお)氏
東京ディズニーランドの開園時の正社員、ダスキンヘルスケアを経て、亀田総合病院のグループ会社に転職。清掃管理者として約10年間、亀田総合病院の現場責任者を務める。
1997年、医療関連サービスのトータルマネジメントを事業目的として、株式会社プラナを設立。病院清掃に関わり32年。亀田総合病院では100人近く、横浜市立市民病院では約40人のスタッフを指導し、現場で体得したコツやノウハウを、医療、介護施設、清掃会社に提供している。現在は深圳市(中国)の1000床病院で環境衛生の指導も行っている。
著書「図解版 健康になりたければ家の掃除を変えなさい」他12冊。
http://www.seisouzin.com/
バスマジックリンSUPERCLEANを使用した浴室清掃マニュアルをダウンロードいただけます。外国人スタッフの方にも配慮し英語を併記しています。ご活用ください。
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