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コラム

2020年7月28日更新

シリーズ:どう対応する?認知症ご利用者様の「入浴拒否」

【第1回】入浴拒否をする理由と対策

 著者 保坂昌知氏のプロフィール写真

著者プロフィール/保坂昌知(ほさか・まさち) 
社会福祉法人 北海道社会福祉事業団 地域生活支援センター あーち センター長
認知症介護評価指標開発検討委員、社会福祉法人宏友会 西野ケアセンター統括施設長といった経歴を持つ。認知症介護研究・研修仙台センター「初めての認知症介護『食事・入浴・排泄編』・解説集(認知症介護チェック表付)」の「入浴場面における認知症のケアの考え方」の一部、「入浴拒否課題」を執筆担当。

認知症のご利用者様からの「入浴拒否」は現場スタッフ様の悩みの一つです。拒否の理由は「入浴する理由が分からない」「裸を見られるのに抵抗がある」など認知機能の低下具合や心理状態によって異なるため、現場スタッフ様はご利用者様が入浴を拒否する理由を理解した上で、入浴の誘導~入浴介助を行う必要があります。

今回は、認知症のご利用者様が入浴拒否をする理由と対策、その他入浴介助時のポイントや注意点を3回に分けて解説いたします。第1回のテーマは「入浴拒否をする理由と対策」です。

はじめに

入浴には「身体の清潔保持」と「心身のリフレッシュ」という2つの目的があります。温泉や銭湯という日本人のお風呂文化から考えても、一般的には好ましい生活行為として捉えられているのではないでしょうか。しかしながら、認知症のご利用者様の中には入浴したがらない方がいらっしゃいます。

認知症のご利用者様は入浴が嫌いなのでしょうか。いえ、そんなことはありません。今回は、なぜ認知症のご利用者様が入浴したがらないのか、その理由と対策を一緒に考えていきましょう。

「入浴」が何か分からないご利用者様の場合

認知症という病気の特性として、脳の損傷を基盤とする認知機能障害があります。見当識障害をお持ちの方であれば場所の見当がつかないので、浴室や脱衣室の認識ができないことがあります。また、失語・言語障害をお持ちの方であれば、スタッフ様がいくら「入浴」を伝えても、ご本人は言葉の理解ができないため、その意味が伝わらないことがあります。

一般的にご利用者様が入浴を拒否する背景には、自分なりの理由があるといわれています。自分の気持ちや身体の状態をスタッフ様にうまく伝えることができず、いら立っている様子が、スタッフ様からすると「入浴拒否」に見えてしまうのです。

つまり、認知機能の低下により情報のインプットとアウトプットが十分ではないことが原因で、「入浴拒否」という行動に至っていると考えられます。時にそれはスタッフ様との間にトラブルを生じさせます。

衛生面などの観点から何とか入浴してもらいたいスタッフ様と、自分なりの理由をうまく伝えられない認知症のご利用者様。互いの気持ちがすれ違い、結果的にスタッフ様が強引に入浴させてしまうことが少なからずあります。しかし、それは決して望ましい対応とはいえません。記憶障害のある認知症の方も「感情の記憶」はあるといわれており、当時の不快な気持ちが次の入浴時に引き継がれることで、入浴介護をさらに難しくします

  • 入浴拒否をされる認知症のご利用者様に対して控えたい対応については、第3回でくわしく扱う予定です。

「入浴」が何か分からないご利用者様へのケア

対策の一つとして、ご本人が「入浴」のイメージが膨らむような言葉かけや環境づくりがあります。

例えば、入浴で身体が温まることやさっぱりして気分が良くなることなどを話し、ご本人が「入ろうか」という気持ちになるようにします。また、ご利用者様本人がお風呂であることが分かるよう、タオルや風呂桶・のれんなどを持っていきます。スタッフ様が無理強いする形ではなく、ご本人の意思で入浴行為に結びつける工夫が必要です。

 
衣服を脱ぐことに抵抗があるご利用者様の場合

認知症のご利用者様に限らず、私たちは知らない人の前で裸になることに抵抗感があるのではないでしょうか。ましてや異性の前であれば、それはさらに強まると予想できます。

認知症のご利用者様の立場で考えてみると、知らない人が来て意味も分からず身ぐるみをいきなりはがされることは、ご本人にとって理不尽な行為であり、時に「怒り」を伴うものです。

また、脱衣室や浴室が「寒い」と感じたり、人の視線が気になったりすると、やはり衣服は脱ぎにくいのではないでしょうか。スタッフ様は、そういった環境が入浴介護を困難にする場合もあることを頭に入れておかなければなりません。

衣服を脱ぐことに抵抗があるご利用者様へのケア

対策としては、室温管理や羞恥心に配慮した環境づくりがあります。ご利用者様本人から衣服を脱ぐことに、できるだけ抵抗感を感じさせないための工夫です。例えば、ご利用者様が寒さを感じないために浴室・脱衣室の室温管理を徹底する、人の視線を遮るためについたてなどを置くといった方法があります。これらを実践すると、衣服を脱いでくれることがあります。

「薬を塗りたいので」「体重を量りたいのですが」などと言葉かけをすることで、自然に脱衣できるようにすると、そのまま入浴につながることも少なくありません。理由はご利用者様によって違いますが、スタッフ様が強引に衣服を脱がせる形ではなく、自分から衣服を脱いでもらえるような状況をつくり出すことが重要です。

認知症のご利用者様が安心してもらえるようなスタッフ様との関係構築もポイントとなります。ご利用者様のペースに合わせてゆっくりと、そして笑顔でコミュニケーションを取りましょう。一つ一つの動作を伝えながら関わっていくことも有効な方法の一つです。

入浴が怖い・不安と感じているご利用者様の場合

以前、認知症のご利用者様の入浴中にスタッフ様が浴槽のバブラー(気泡)装置のスイッチを入れた途端、ご利用者様が大声で叫びながら浴室から出て行ってしまい、しばらく入浴してもらえなくなったことがあります。状況を振り返ると、自分の過去の体験からお湯のブクブクを水が沸きたった状態、つまり「泡が出る=お湯が煮立っている」とイメージしたのではないでしょうか。

入浴は、足下が滑りやすい、顔や頭にお湯がかかるなどと、ご利用者様とスタッフ様の双方にとって非常にリスクの高い介護場面です。顔にお湯がかかることは、「視界が遮られる」「呼吸がしづらい」「目や耳、口内に水が入る恐怖を感じる」行為です。

入浴が怖い・不安と感じているご利用者様へのケア

まずは不安のない状態にすること、または不安を取り除き気分の良い状態になってから介護を行うことが大切です。

認知症のご利用者様に限りませんが、いきなり浴槽に入ったり、シャワーのお湯を全身にかけたりすると、実際の温度よりも熱く感じるものです。「温まりましょうね」などと声かけしつつ浴槽に誘導したり、足下からお湯をかけたりすることが大切です。

身体が温まることの気持ちよさや清潔になることの爽快感を感じてもらえると、その後の介護をスムーズに受け入れてもらいやすくなります。徐々にご本人の気持ちや身体の状態が入浴に結びついていけるように、手浴や洗顔などと段階的に働きかけていくことが、認知症の方だけではなくご高齢者様の入浴介護の基本です。

体調や変化を伝えることが難しいご利用者様の場合

認知症の方は「失認」などの認知機能障害により、ご本人の身体の中で起きている出来事を伝えることが苦手です。ご利用者様は、便秘や下痢などの排泄に関すること、発熱やだるさ、痛みなどの体調に関すること、気分や感情などの心理面に関することを伝えられず、いら立ちや不安を募らせているのです。

ただ、体調や身体の変化を伝える以前に、自分が置かれている状態を認識したり理解したりすることが難しく、それが「入浴拒否」として現れることもあります。

体調や変化を伝えることが難しいご利用者様へのケア

体調や身体の変化を伝えることが難しいご利用者様に対しては、普段の状態観察が極めて重要になってきます。スタッフ様は、まずは日頃の体温や血圧、排泄などの健康状態を把握しましょう。さらに、その場だけの対応とならないよう、体重や体温などを記録しておくことをお勧めします。また、基礎疾患が「入浴拒否」に影響を与えている場合もありますので、ご本人の疾病状況も把握しておく必要があるでしょう。

身体や心の不調をうまく伝えられないからこそ、スタッフ様にはご利用者様の表情や言葉、行動から当日の身体状態を読み取ることが求められます。大事なことは、介護スタッフ様の都合で入浴介助を行うのではなく、認知症のご利用者様の状態に合わせて行うことです。

目の前の「入浴拒否」に注視するあまり、その陰に隠れた疾患や体調に関する情報を見逃してしまうことで、認知症のご利用者様の生活自体が壊れてしまうことをしっかりと理解しておきましょう。

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