2020年9月29日更新
シリーズ:どう対応する?認知症ご利用者様の「入浴拒否」
【第2回】入浴介助時に意識したいポイント5つ
著者プロフィール/保坂昌知(ほさか・まさち)
社会福祉法人 北海道社会福祉事業団 地域生活支援センター あーち センター長
認知症介護評価指標開発検討委員、社会福祉法人宏友会 西野ケアセンター統括施設長といった経歴を持つ。認知症介護研究・研修仙台センター「初めての認知症介護『食事・入浴・排泄編』・解説集(認知症介護チェック表付)」の「入浴場面における認知症のケアの考え方」の一部、「入浴拒否課題」を執筆担当。
認知症のご利用者様からの「入浴拒否」は現場スタッフ様の悩みの一つです。本シリーズでは、「入浴拒否に対してどのような対応を取るのが適切なのか」をご紹介します。
「【第1回】入浴拒否をする理由と対策」では、スムーズに入浴介護を行うには入浴拒否をされるご利用者様の状態を理解することが大切であることを説明しました。今回は、前回の内容を踏まえて、入浴介助時における具体的なポイントを5つ解説します。ご利用者様に「また入浴したい」と思っていただくためには、何を意識すると良いかを一緒に考えましょう。
入浴介助時のポイント1:適切なタイミングで声掛けをする
ご利用者様のタイミングに合わせて声掛けしている?
一般的に、私たちは就寝前にお風呂に入ることが多いのではないでしょうか。しかしながら、朝風呂に入ることを習慣にしている人もいるように、お風呂に入るタイミングは人それぞれです。
まずスタッフ様には、私たちの業務の都合で入浴してもらうのではなく、ご本人が「入りたい」タイミングで入浴の誘導ができるようにするにはどうしたらいいのかを考えていただきたいと思います。今までの生活習慣を把握したり、どういう状況で入浴に応じたかを観察したりすることで、入所前の生活習慣にできるだけ近いケアを行いましょう。また、入浴の手順は一人ひとり違います。ご本人の手順を確認しながら介助しましょう。
ご利用者様に伝わる声掛けをしている?
入浴の場面では、他のスタッフ様やご利用者様がいることが想定されます。音が反響しやすい浴室では声が交錯しやすい上に、入浴介護をしてくれるスタッフ様以外の動きが認知症のご利用者様の不安や混乱を招くことがあります。こういった状況下では、スタッフ様の声掛けがご利用者様に届いていないことが往々にしてあります。
「声掛け」はご利用者様への情報提供であり、その情報に対して本人の意思を確認するコミュニケーション・スキルです。ご利用者様に「伝える」よりも「伝わっている」ことが、入浴に限らず認知症介護をスムーズに行うための基本です。言葉のやり取りだけではなく、それを補う声のトーンやスピード、表情に注意しなければなりません。また、ご利用者様が理解できる言葉を選択することも、「伝わる」声掛けにするための方法の一つです。「ボディソープ」ではなく「石けん」、「タオル」ではなく「手ぬぐい」と言い換えることで伝わることも少なくありません。
ご利用者様へお礼を伝えている?
入浴しないことは、ご本人にとって生死にかかわるような大きな問題ではありません。ただ、スタッフ様は清潔保持やリフレッシュなどのために入浴してもらいたい気持ちが強いあまり、半ば強引に誘導することがあるのではないでしょうか。洗髪時に「耳をふさいでもらって助かりました」などと、スタッフ様の仕事に協力いただいたことのお礼を伝えることで、「入浴=うれしい気持ちになるもの」と良いイメージを持ってもらいましょう。次の入浴につなげやすくなります。
入浴介助時のポイント2:身体の汚れをやさしく落とす
ご利用者様の身体にやさしく触れている?
フランスの体育学の専門家が開発した介護技術に「ユマニチュード」があります。ユマニチュードにおいて「触れる」ことはケアの基本の一つで、「触れる」行為を通してスタッフ様の思いをご利用者様に伝えることができるとされています。どんな人でも乱暴に扱われるよりも、やさしく接してもらいたいものではないでしょうか。身体を洗うときは、いきなりゴシゴシ洗うのではなく、やさしく触れることを心掛けましょう。
こすらず泡で洗っている?
昔は、固形石けんをスポンジやタオルにこすりつけ、泡立てて身体を洗っていましたが、最近ではポンプを押すだけで泡の出るボディソープが売られています。ナイロンタオルやスポンジでごしごし身体をこすり上げるのではなく、泡で身体の汚れを浮かせ、やさしく洗うというイメージでご利用者様と接してみてはいかがでしょうか。入浴介助を受け入れてもらいやすくなるかもしれません。
入浴介助時のポイント3:洗髪を嫌がる原因をつくらない
目や耳にお湯が入らないような配慮をしている?
ご利用者様の目や耳にお湯が入ったことで、びっくりされたり怒られたりしたという経験は、スタッフ様にとって一度や二度ではないと思います。お湯で目や耳をふさがれる行為は外からの情報が遮断されることを意味し、ご利用者様にとって決して愉快なことではありません。そもそも、ご利用者様は無防備な状態でスタッフ様に身を任せていますので、不安な状態でいることが容易に想像できます。
入浴時の嫌な思い出が入浴拒否の原因にならないよう、目や耳にお湯が入らない工夫を施しましょう。例えば、「お湯が入りますから、目や耳を手で押さえてもらえませんか?」といった声掛けをしたり、タオルでお湯が入るのを防いだりします。また、洗髪の際は最初からごしごし洗うのではなく、襟足から少しずつ洗う配慮も必要です。
入浴介助時のポイント4:ご利用者様の自立を促すような入浴介助をする
ご利用者様を子ども扱いしていない?
目や耳などにお湯が入らないようにするためといって、子どもが使うようなシャンプーハットなどを安易に使用するのはいかがなものでしょうか。認知症のご利用者様への介護の基本は「できる部分、わかる部分を生かすこと」といわれています。スタッフ様にとっては便利な介護用品でも、ご利用者様にとっては子ども扱いされていると感じる場合がありますし、それが原因で入浴を拒否するかもしれません。スタッフ様が一方的に全て支援するのではなく、ご本人のできる部分を生かすことで「自立」を促すような入浴介助を心掛けたいものです。
ご本人のできる部分を生かすためには、まず、ご利用者様が入浴場面を思い出せるよう誘導することが大切です。例えば、「手伝ってほしいところはありますか?」「今日はご自分で洗ってみましょうか?」などと声掛けしてはいかがでしょうか。
入浴手順を丁寧に説明している?
ご利用者様自身の手で身体を洗っていただく場合は、一つひとつの手順について声掛けや説明をしましょう。認知症の方の中には、「実行機能障害」と呼ばれる生活上のつまずきがある方がいらっしゃいます。実行機能障害とは、順序立てて行動したり、考えたりする能力が損なわれることです。
認知症の方は、手順がわからないことでイラつきや混乱・不安が生じたりします。ご利用者様の習慣やこだわりを確認しつつ、わかりやすい言葉でジェスチャーを交えながら一つひとつの動作を丁寧に伝えましょう。また、伝わっているかどうかを確認する意味でも、ご本人の表情や反応などを観察してみてください。
入浴介助時のポイント5:ご利用者様の要望に合わせて浴室・お湯の温度を管理する
脱衣室・浴室やお湯の温度は適切?
脱衣室と浴室の間に温度差がないよう、脱衣室は24℃、浴室は22℃くらいに設定しておくことが望ましいです。浴室と脱衣室の大きな温度差から、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす「ヒートショック」が発生することを、スタッフ様は知っておかなければなりません。夏と冬で感覚は違いますから注意を払いたいところです。また、ご利用者様が汗をかいていたり、逆に衣類を着込んでいたりする様子から、ご本人が暑さ寒さをどのように感じているのかを推し量ることも欠かせません。
一般にご高齢者様の場合、お湯の温度はぬるめの39~40℃くらいが適温だといわれています。季節によって温度感覚は違ってきますから、夏は38℃、冬は40℃くらいに設定したいです。スタッフ様は浴室内で忙しく動き回っていますから、なかなか気づきにくいという側面もありますので、脱衣室・浴室・お湯の温度は、体感ではなく温度計で確認することが大事です。
ただ、ご利用者様の温度感覚は一人ひとり違います。ご本人の好みの温度と結びつかなければ、入浴の楽しみや満足感にも大きく影響するでしょう。集団で入浴する場合はお湯の温度調整が難しいものですが、「個浴」の設備を整えている施設についてはできるだけ配慮したいです。
いきなりお湯をかけていない?
身体が冷え切った状態でシャワーや浴槽に入ると、実際の温度は適正であっても、体感的にはそれ以上に熱く感じる経験があると思います。いきなりお湯をかけるのではなく、ご本人に確認しながら足元からゆっくりとお湯をかけることが入浴介助の基本です。入浴ということが伝わらない場合は、お湯に直接触れてもらうなど、自分で確認できるような対応も有効です。
まとめ
以前、ご利用者様に気持ちよく入浴してもらえるよう、温泉マークがプリントされたのれんを浴室に飾り「温泉の準備ができました」と声を掛けたところ、ご利用者様が「温泉ならいいな」と言って入浴してくださったことがあります。また、「風呂上がりにビールを飲みましょう」と声掛けしたら、入浴が「楽しみ」に変わった方もいらっしゃいました。このように、入浴拒否をされるご利用者様は決して入浴そのものが嫌いなわけではありません。スタッフ様のかかわり方によっては気持ちよく入浴できる可能性があるのです。
スタッフ様の業務負担軽減も、適切な入浴介助には大切な要素
浴室は足元が滑りやすく、ご利用者様のけがにつながるリスクが高い場所であり、常にスタッフ様の緊張感が張り詰めています。いわば、スタッフ様は非常にストレスの高い状態で介助にあたっていることになります。自然と声が大きくなる上に、イライラ感も募りやすいです。「やさしく」「丁寧に」と言われても、なかなかそのような気持ちにはなれないこともあるでしょう。
適切に介護するためには、スタッフ様の努力や根性ではなく、労働環境を整えていくことが重要だと考えています。スタッフ様のかかわり方が認知症のご利用者様に影響を与えていると考えるならば、現場の業務負担をいかに軽減していくかを考えることが大切です。例えば、入浴介助ロボットを活用すれば、ロボットが浴槽の出入りの際の一連の動作を支援します。スタッフ様に裸を見られる恥ずかしさや、面倒をかける意識が軽減され、入浴に対しての拒否感が軽減されるかもしれません。
正しい知識と技術をベースに、最新情報をケアに応用しよう
認知症のご利用者様に不安と混乱が生じないようにかかわるためには、認知症に関する正しい知識を得ることが非常に重要になります。認知症に関する知識は介護技術の根拠となるものですが、それはテニスやゴルフのスイングと同じように、テキストを読んだだけで身に付くものではありません。介護技術は失敗と修正を積み重ねながら習得するものです。
認知症に関する研究が進むにつれてケアは進化していきます。新しい知識や技術の情報にアンテナを立てましょう。経験則だけでケアを行うのではなく、しっかりとした根拠を持ちながら、最新の情報を認知症のご利用者様のケアに応用していくことが、生活をより豊かにして差し上げられるのではないでしょうか。
参考資料:本田美和子「ユマニチュード入門」医学書院,2014
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