コラム

2023年9月26日更新

介護職必見!加齢性難聴の方とのコミュニケーションのポイントは?

監修者 野原信氏のプロフィール写真

監修者プロフィール/ 野原 信(のはら・あきら)
帝京平成大学 健康メディカル学部 言語聴覚学科 講師
言語聴覚士、認定言語聴覚士(聴覚障害領域)
一般社団法人 東京都言語聴覚士会 理事(聴覚障害部担当)

介護の仕事をしていると、「大声で話しかけても、内容がかみ合わない」「話しかけても返事がもらえない」という風に、ご利用者様とのコミュニケーションに悩むことはありませんか。その要因のひとつとして、加齢性難聴が生じていることが考えられます。

今回は、加齢性難聴の症状やコミュニケーションのポイントを解説します。なぜ聞こえづらいのか?という理由が分かれば日々の業務にも役立てられますのでご参照ください。

加齢性難聴とは

加齢性難聴は、年齢とともに聴力が少しずつ低下し、正確な言葉の聞き取りが制限される疾患です。主な原因に挙げられるのは、有毛細胞という耳の中にある音情報を感知する細胞の減少です。有毛細胞は加齢によって抜け落ちたり、数が減ったりしますが再生されません。そのため全体の細胞数が減り、音情報をうまく神経に伝えられなくなり、聞こえ方が悪くなります。

加齢性難聴と認知症の関係

加齢性難聴が進行すると無意識にコミュニケーションの機会が減り、社会的孤立を引き起こす可能性があります。そうした状況は認知症の発生リスクを高めるとされており、2017年の国際アルツハイマー病会議(AAIC)でも、難聴が認知症のリスク要素として挙げられています。
加齢性難聴は徐々に進行するため、多くの場合、本人が気付かないうちに聞こえ方が悪くなります。早めに対処するには周囲の人たちの気付きが大事になってきます。介護の現場でも、ご利用者様の異変に早めに気付き、難聴に対応したケアを提供できると認知症リスクの軽減につながります。

「加齢性難聴」の代表的な症状

加齢性難聴は自覚がないまま進行するため、気付かないうちに日常生活にさまざまな影響を与えています。ここでは代表的な3つの症状についてご紹介します。

高音域の音が聞こえにくくなる

具体的には、電話の呼び出し音や電子レンジの音などの、機械的な高音が聞き取りにくくなります。高音が聞こえにくくなる要因は、高周波数の音を処理する能力が低下するためです。高音域の音声である子供の声や女性の声も同様に聞きとりづらくなります。

微妙な言葉の違いが聞き取りづらくなる

似た音の判別がしにくくなるのも加齢性難聴の特徴です。特に高音域にあるカ行・サ行・タ行の子音が聞こえにくくなります。

●聞き間違い例
  • カ行の「カ(KA)」の音:「加藤さん」と「佐藤さん」
  • サ行の「シ(SI)」の音:「イチ(一)」と「シチ(七)」
  • タ行の「テ(TE)」の音:「エホン(絵本)」と「テホン(手本)」

早口の声が分かりにくくなる

加齢による脳の機能低下も要因ですが、加齢性難聴も関わっています。加齢による脳幹レベルでの音情報処理の低下が主たる原因として考えられます。テレビを見ていても話が早すぎて理解が追いつかない、周囲の会話の盛り上がりについていけないといったことが頻繁に起こるようになります。

加齢性難聴の方とのコミュニケーション方法

加齢性難聴の症状がみられる方とのコミュニケーションは難しく思われるかもしれませんが、ポイントをおさえると会話がしやすくなります。以下にコミュニケーションのポイントをご紹介します。

向かい合って話す

ご利用者様の視界に入ってから話します。横や後ろから話しかけられると、自分に話しかけているかどうか分からないためです。
また、口の動きを視覚的に捉えると、情報が補完されます。表情や口の動きをはっきり見せるために、明るい場所を選んだり、逆光を避けたりするとよいでしょう。
マスク着用が必要な際は透明マスクを使用すると表情が分かりやすくなります。その際は飛沫対策が施されたマスクを選ぶようにしましょう。

大きめの声で、ゆっくりはっきり話す

普段より大きめの声で抑揚を損なわない程度の速さでゆっくりと話します。人によってはうるさいと感じる方もいらっしゃるため、相手の様子を見ながら声の大きさを調整しましょう。
先述したカ行・サ行・タ行は特に聞き取りづらいため、はっきり話すことを意識しましょう。加えて、「こんにちは/お天気/いいですね」と文節ごとに話すとより理解しやすくなります。

身体の動きや筆談も組み合わせる

手であおぎながら暑さを表現したり、両手を広げて何かが大きいことや広いことを示したりすると話がより明確に伝わります。大事な情報は、口頭だけではなく具体的に書いて伝えるのも有効です。

介護職の立場で注意したいこと

細かな指摘をしない

加齢性難聴の方は「聞こえ」が悪いため、思い込みで返事をすることもあります。聞き間違いや受け答えに誤りがあった場合は、先ほどご紹介したような筆談などを活用し正しく伝わるように工夫しましょう。指摘ばかりされると自尊心が傷つき、コミュニケーションをとらなくなってしまう方もいらっしゃるので注意が必要です。

無理に会話を続けない

会話がしづらいと感じていると、ご利用者様だけでなく、スタッフ様もストレスを感じてしまいます。そうした状態で会話を続けようとすると段々と声が大きくなり、怒鳴り合いのような状況にもなりかねません。
ご本人に伝わりやすい会話の工夫を再度見直すとともに、無理に続けようとせず、一旦中断するのも一つの方法です。トイレに行く、水分を補給する、または深呼吸して数秒間中断するなど、一度気持ちをリセットしましょう。

補聴器を使用している方には声量に注意

補聴器を使用している場合は、その補聴器がご利用者様の「聞こえ」に合わせて調整された上で、正しく動いていることが重要です。電池が切れたまま使用しているといったことがないよう注意してください。
補聴器を使用している方に対してもコミュニケーションのポイントは変わりません。ただし、必要以上に大きな声で話すのは控えてください。補聴器は、会話をよりはっきり聞くための医療機器で、聴力に合わせて音量を増幅します。大きな声で話すと、音量が過度に大きくなり聞き取りにくくなります。

加齢性難聴の簡易チェック

加齢性難聴かどうかの兆候を表にまとめました。ご利用者様の普段の様子、または直接ヒアリングした結果に、該当する項目がないかチェックにお役立てください。
一つでも該当する場合は、なるべく早く耳鼻咽喉科の受診を検討しましょう。

介護職員向け加齢性難聴の簡易チェック項目


1.会話をしているときに聞き返されることがよくある


2.後ろから呼びかけると気付かれないことがある


3.聞き間違いが多い


4.話し声が大きい


5.複数人の会話がうまく聞き取れていないようだ


6.電子レンジの「チン」という音や体温計などの電子音が聞こえにくそう


7.相手の言ったことを推測で判断していることがあるようだ


8.テレビやラジオの音量が大きいことがよくある


  • 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頚部外科学会 「聞こえ」をセルフチェック!を参考に作成

まとめ

加齢性難聴の方とのコミュニケーションには、難聴への理解と話し方の工夫が必要になります。今回ご紹介したポイントを意識し、スムーズなコミュニケーションが取れるよう工夫しましょう。

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