コラム

2023年10月31日更新

介護現場でも知っておきたい!「ポリファーマシー」のリスクと介護職ができること

監修者 林祐一氏のプロフィール写真

監修者プロフィール/ 林 祐一(はやし・ゆういち)
敦賀市立看護大学大学院看護学研究科 教授。
脳神経内科専門医、老年科専門医、博士(医学)。1974年生まれ。岐阜大学大学院医学系研究科修了。大学卒業後、東京都神経科学総合研究所、岐阜大学医学附属病院を経て、2022年4月から現職。
専門:ポリファーマシー、薬物有害事象、神経変性疾患

近年、多剤併用によって薬物有害事象が起こる「ポリファーマシー」への対策(減薬や処方の見直し)が医療機関・介護施設問わず行われています。

そこで今回は、介護施設で働くスタッフ様が知っておきたい多剤併用のリスクと介護職の役割をご紹介します。

ポリファーマシーの定義

ポリファーマシーとは、複数の薬を飲むことによって、副作用や服用の間違いなどが起こっている状態のことです。服用する薬の数が多いことを指しているわけではありません。

ポリファーマシーの問題はご高齢者様に多くみられます。年齢を重ねるとさまざまな疾患にかかり薬を飲む機会が多くなるためで、厚生労働省の調査では75歳以上の約40%は5種類以上の薬を使用しているとの報告があります。また、加齢とともに薬の種類や量が増える一方、薬を分解・排泄する能力が衰え、副作用が出やすくなります。 

年齢別に見た薬剤種類数の割合

年齢別に見た薬剤種類数の割合の図。〈0~14歳〉1~2種類:44.2%、3~4種類:33.5%、5~6種類:15.0%、7種類以上:7.3%。〈15~39歳〉1~2種類:50.5%、3~4種類:31.5%、5~6種類:12.1%、7種類以上:6.0%。〈40~64歳〉1~2種類:48.6%、3~4種類:29.8%、5~6種類:12.5%、7種類以上:9.2%。〈65~74歳〉1~2種類:44.3%、3~4種類:28.8%、5~6種類:14.2%、7種類以上:12.7%。〈75歳以上〉1~2種類:34.8%、3~4種類:25.1%、5~6種類:16.3%、7種類以上:23.8%。

疾患や生活習慣などの要因で服用する薬は変わるため、「何種類の薬を服用すればポリファーマシーにあたるのか」という厳密な基準はありません。そのためポリファーマシーを防ぐには、単に薬の種類を減らすのではなく、一人ひとりの健康状態や生活習慣に合わせて調整することが重要と言えます。

ポリファーマシーのリスク

ここではポリファーマシーのリスクと介護職に与える影響について紹介します。

薬剤起因性老年症候群と主な原因薬剤

ポリファーマシーが「薬剤起因性老年症候群」として表れることがあります。
加齢によって老化が進行し、身体的および精神的機能の低下によって起こる症候を老年症候群と言います。ふらつき、認知機能障害、抑うつなどなどが代表的な症状ですが、これらは薬剤によって起こることもあり、それを「薬剤起因性老年症候群」と言います。以下は、薬剤起因性老年症候群の具体的な症状と原因薬剤をまとめた表です。

薬剤起因性老年症候群と主な原因薬剤

症候

薬剤

ふらつき・転倒

降圧薬(特に中枢性降圧薬、α遮断薬、β遮断薬)、睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬、てんかん治療薬、抗精神病薬(フェノチアジン系)、パーキンソン病治療薬(抗コリン薬)、抗ヒスタミン薬(H2受容体拮抗薬含む)、メマンチン


記憶障害

降圧薬(中枢性降圧薬、α遮断薬、β遮断薬)、睡眠薬・抗不安薬(ベンゾジアゼピン)、抗うつ薬(三環系)、てんかん治療薬、抗精神病薬(フェノチアジン系)、パーキンソン病治療薬、抗ヒスタミン薬(H2受容体拮抗薬含む)


せん妄

パーキンソン病治療薬、睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬(三環系)、抗ヒスタミン薬(H2受容体拮抗薬含む)、降圧薬(中枢性降圧薬、β遮断薬)、ジギタリス、抗不整脈薬(リドカイン、メキシレチン)、気管支拡張薬(テオフィリン、アミノフィリン)、副腎皮質ステロイド


抑うつ

中枢性降圧薬、β遮断薬、抗ヒスタミン薬(H2受容体拮抗薬含む)、抗精神病薬、抗甲状腺薬、副腎皮質ステロイド


食欲低下

非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)、アスピリン、緩下剤、抗不安薬、抗精神病薬、パーキンソン病治療薬(抗コリン薬)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、コリンエステラーゼ阻害薬、ビスホスホネート、ビグアナイド


便秘

睡眠薬・抗不安薬(ベンゾジアゼピン)、抗うつ薬(三環系)、過活動膀胱治療薬(ムスカリン受容体拮抗薬)、腸管鎮痙薬(アトロピン、ブチルスコポラミン)、抗ヒスタミン薬(H2受容体拮抗薬含む)、αグルコシダーゼ阻害薬、抗精神病薬(フェノチアジン系)、パーキンソン病治療薬(抗コリン薬)


排尿障害・尿失禁

抗うつ薬(三環系)、過活動膀胱治療薬(ムスカリン受容体拮抗薬)、腸管鎮痙薬(アトロピン、ブチルスコポラミン)、抗ヒスタミン薬(H2受容体拮抗薬含む)、睡眠薬・抗不安薬(ベンゾジアゼピン)、抗精神病薬(フェノチアジン系)、トリヘキシフェニジル、α遮断薬、利尿薬


各症候は老化症状として捉えられることもあるため見過ごされるケースもあります。ご利用者様に新たな体調変化が現れた際は、要因の一つとして薬剤が関連しているかもしれませんので注意が必要です。

介護職にできること

介護現場でポリファーマシーの問題に対処するには、医療職だけではなく、介護スタッフ様の役割も重要です。ここでは、ポリファーマシー対策の中で介護職ができる役割について紹介します。

利用者の状態や処方薬の内容について情報共有する

介護スタッフ様は、ご利用者様と身近に接しているため、心身の状態や薬の服用状況を最も把握している存在です。ご利用者様が薬を正しく服用しているか、処方薬の影響で何らかの症状が現れていないかといった具体的な情報を、医師、看護師、薬剤師に伝えられる重要な役割と言えます。
特にご利用者様の入所時や新しい薬の処方が始まったとき、使用する薬に変更があったときなどの情報共有は大切です。ご利用者様の健康状態をチーム全体で把握でき、医療関係者は薬が適切か判断する有用なヒントになります。

ご利用者様が薬を服用しづらい場合には医師、看護師、薬剤師に相談する

ご利用者様から「薬が多すぎて飲めない」「錠剤が大きすぎる」と相談されたことはないでしょうか。ご利用者様は薬が服用しにくいと感じると、適切に服用しなくなり、症状の改善や治療に影響を及ぼす恐れがあります。
ご利用者様から相談を受けた際は医師や看護師、薬剤師に相談しましょう。薬の形態を錠剤から粉状に変える、複数の薬を一包化するなどの対応策が提案されるかもしれません。医師や薬剤師と頻繁に情報交換できない場合は、一番身近な医療スタッフである看護師に相談するとスムーズに改善が進むケースもあります。

まとめ

ポリファーマシーによってご利用者様にふらつきや転倒などの症状が出てくると、日常生活に大きな影響を与えます。介護職として、いつでも正確な情報が提供できるよう、日々の観察を丁寧に行っていきましょう。

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