コラム

2020年10月27日更新

円滑な多職種連携に役立つ「多職種連携コンピテンシー」とは?【前編】

著者 吉本尚氏のプロフィール写真

監修者プロフィール/吉本尚(よしもと・ひさし) 
筑波大学 医学医療系 地域総合診療医学 准教授・筑波大学附属病院 総合診療科 医師
2004年筑波大医学専門学群(現医学群医学類)卒。北海道勤医協中央病院、岡山家庭医療センター、奈義ファミリークリニック副所長、三重大学家庭医療学分野を経て2014年より現職。2013~14年度文部科学省委託「成長分野等における中核的専門人材養成の戦略的推進」事業責任者として我が国の「医療保健福祉分野の多職種連携コンピテンシー」開発に関与。現在、アルコール関連問題における連携問題等に取り組んでいる。

介護施設では介護スタッフ様のほかに、医師、看護師などさまざまな専門職の方が活躍されているかと思います。中には、職種の違いから他職種とのコミュニケーションが取りにくいと感じている方がいらっしゃるかもしれません。
 
ご利用者様により良いサービスを提供するには多職種との連携が必要不可欠です。そこで今回は、円滑な多職種連携に役立つ能力として「多職種連携コンピテンシー」をご紹介します。

まず前編では、多職種連携の基礎をあらためて理解いただくため、「多職種連携の重要性」と「特に多職種連携が求められる介護場面と各職種の役割」をご紹介します。

多職種連携とは?

多職種連携とは、専門性の異なる職種が互いに連絡を取り協力しながら同じ目標に向かってご利用者様をケアすることを指します。ここでは、介護現場における多職種連携の重要性をご説明します。

多職種連携の重要性

厚生労働省が公表している「職種別従事者数(平成30年)」を見ると、介護老人福祉施設(特養)で働く総職員のうち約60%が介護スタッフ様であることが分かっています。次いで多い(※)看護師は総職員の約5%と、生活支援を主軸とする介護施設では介護スタッフ様の占める割合が多い傾向があります。
 
ただ、中には病気を患っていたり、運動機能が低下したりしているご利用者様がいらっしゃることから、医療的ケアやリハビリケアのニーズに応えられる体制も求められているのが現状です。
 
もしも、介護スタッフ様が単独でご利用者様の全てのニーズに応える場合、医療的ケアもリハビリケアも介護スタッフ様が実施することになりますが、生活支援の側面からこれらを行うのは難しいのではないでしょうか。

  • その他の職員を除く。

【単一専門職でケアを行う場合】

単一専門職でケアを行う場合の図。単一専門職の介護スタッフ様だけではご利用者様の全てのニーズに答えることが難しい。

ご利用者様のニーズに十分に応えるには、医療的知識・技術を持つ医師・看護師や、リハビリテーションに関する知識・技術を持つ理学療法士・作業療法士などとの連携が不可欠です。
 
介護施設では介護スタッフ様がご利用者様と接する機会が最も多く、ご利用者様の様子をよりくわしく把握されているかと思います。看護師や理学療法士などが最大限に自身の専門性を発揮するには、介護スタッフ様が持つ情報を踏まえて総合的にケア内容を考える必要があり、そのためには他職種との情報共有が欠かせないのです。
 
このとき、以下の図のように専門職の方が「ご利用者様(ご利用者様のご家族を含む)」を囲むようなイメージで働くことが大切です。また、他職種同士の関係性はフラットな状態が理想です。

【複数の専門職でケアを行う場合】

複数の専門職でケアを行う場合の図。介護スタッフ様・医師・看護師・機能訓練指導員・理学療法士・作業療法士・歯科衛生士・管理栄養士・生活相談員・支援相談員・介護支援専門員といった専門職の方が、「ご利用者様(ご利用者様のご家族を含む)」を囲むようなイメージで働くことでご利用者様のニーズに充分に応えることができる。

多職種連携を行う際の各職種の役割 

では具体的にどのような場面でどのような多職種連携が求められるのでしょうか。ここでは、多職種連携が特に求められる「褥瘡ケア」と「看取り介護」を例に、各職種の役割をご説明します。

褥瘡ケアの場合

身体の一部分が体重で圧迫され、血流が悪化することで生じる褥瘡。皮膚が傷ついたり、ただれが生じたりするため、健康と生活の質を低下させるだけでなく、細菌感染を招くリスクがあります。褥瘡を予防するには、介護スタッフ様による体位変換・スキンケア・状態観察や、管理栄養士による栄養管理などが大切になります。

もしもご利用者様に褥瘡が見られた場合、介護スタッフ様は看護師への迅速な報告が非常に大切になります。介護職の方が行える医療行為は限られているため、医療的知識・技術を持つ看護師が褥瘡処置を行います。
 
そのほか褥瘡ケアでは、医師や機能訓練指導員なども活躍します。

【褥瘡発生予防に関する各職種の役割】

職種

役割

介護職員

  • きめ細やかなケアと衛生管理に努める
  • ケア計画に基づく排泄・入浴・清潔保持
  • 個々に応じた体位変換・安楽な座位確保の工夫
  • 褥瘡の状態観察と記録の把握、苦痛を排除する精神的緩和ケアとコミュニケーション
  • 褥瘡発生予防の取り組み


医師

  • 定期的な診察・処置方法の指示
  • 各協力病院との連携を図る


看護師

  • 医師または協力病院との連携を図る
  • 褥瘡処置への対応
  • 褥瘡ケア計画の作成と経過記録の整備
  • 個々に応じた体位変換・安楽な座位確保の工夫
  • 褥瘡発生予防の計画立案
  • 職員への指導


機能訓練指導員

  • 機能面から、個々に応じた体位変換・安楽な座位確保の工夫
  • 職員への指導


生活相談員・
介護支援専門員

  • 褥瘡ケア計画に基づくチームケア
  • 外部の専門機関との連携
  • 家族への対応
  • 褥瘡発生予防の取り組みと体制づくり


管理栄養士

  • 褥瘡の状態把握と栄養管理
  • 栄養ケアマネジメントにおける状態の把握とご利用者様の管理
  • 食事摂取低下に伴う栄養保持の工夫
  • 医師・看護師等との連携を図る
  • 職員への指導


看取り介護の場合

公益社団法人全国老人福祉施設協議会によれば、介護老人福祉施設(特養)における看取り介護は「近い将来、死が避けられないとされた人に対し、身体的苦痛や精神的苦痛を緩和・軽減するとともに、人生の最期まで尊厳ある生活を支援する」と定義付けられています。

看取り介護を実施するには、ご利用者様やご家族に意思確認をした上で、医師に「医学的に回復の見込みがない」と判断してもらう必要があります。医師が適切な時期に看取り期を判断するには、介護スタッフ様がご利用者様の状態を看護師に小まめに共有し、看護師が医師に伝達することが大切です。
 
以下、看取り介護における各職種の役割をまとめました。

【看取り介護に関する各職種の役割】

職種

役割

介護職員

  • 食事、排泄介助、清潔保持の提供
  • 身体・精神的緩和ケアと安楽な体位の工夫
  • コミュニケーション(十分な意思疎通を図る)
  • 状態観察(適宜、容体の確認の為の頻回な訪室)、経過記録の記載
  • 随時のご家族への説明と不安への対応
  • カンファレンスへの参加
  • 死後の処置(エンゼルケア)


医師

  • 診断
  • ご入所者やご家族への説明と同意(インフォームドコンセント)
  • 健康管理
  • 夜間及び緊急時の対応と連携体制
  • 協力病院との連絡、調整
  • カンファレンスへの参加
  • 死亡確認
  • 死亡診断書等関係記録の記載


看護師

  • 配置医師または協力病院との連携強化
  • 多職種協働のチームケアの確立
  • 職員への死生観教育と職員からの相談対応
  • 健康管理(状態観察と必要な処置、記録)
  • 疼痛緩和等、安楽の援助
  • 夜間及び緊急時の対応(オンコール体制)
  • 随時の家族への説明と不安への対応
  • カンファレンスへの参加
  • 死後の処置(エンゼルケア)


生活相談員

  • 継続的なご家族の支援(連絡、説明、相談、調整)
  • 多職種連携による看取り介護計画(ケアプラン)の作成
  • 看取り介護にあたり多職種協働のチームケアの連携強化
  • カンファレンスへの参加
  • 夜間及び緊急時のマニュアルの作成と周知徹底
  • 死後のケアとしてのご家族の支援と身辺整理


栄養士

  • 入所者の状態と嗜好に応じた食事の提供
  • 食事、水分摂取量の把握
  • カンファレンスへの参加
  • 必要に応じてご家族への食事提供


このように、より良いサービスを提供するために多職種連携は重要です。ただ、記事冒頭で述べたように、職種の異なる方との連携は簡単ではありません。

後編では「多職種連携が難しい理由」と、本テーマの肝である円滑な多職種連携に役立つ能力「多職種連携コンピテンシー」をご説明します。

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