コラム

2024年10月29日更新

介護現場が確実に知っておきたい喀痰吸引のこと。施設のメリットは?

監修者 近藤敬太氏のプロフィール写真

監修者プロフィール/近藤 敬太(こんどう・けいた)
藤田医科大学 連携地域医療学 助教
豊田地域医療センター総合診療科 在宅医療支援センター長
愛知県豊田市出身。2014年愛知医科大学卒業、トヨタ記念病院にて初期研修、藤田医科大学 総合診療プログラムにて後期研修修了。研修中に藤田医科大学病院、聖路加国際病院などで勤務し2019年に半田中央病院 総合診療科の立ち上げに携わり現職。現在は日本最大規模の総合診療プログラムに指導医として所属し、豊田市を中心に700名以上の患者に対し在宅医療を提供している。
夢は愛知県豊田市を「世界一健康で幸せなまち」にすることであり、豊田市でコミュニティドクターとしても活動。中小病院の新たな概念として注目が集まるコミュニティホスピタルを豊田市から全国へと発信している。
・コミュニティドクターについて
https://kangotamago.com/2021/01/23/community-doctor/
・一般社団法人コミュニティ&コミュニティホスピタル協会について
https://cch-a.jp/

高齢化が進む中、介護施設の入所者は増加傾向にありますが、同時に医療的ケアを必要とする方も増えています。介護職員が実施できる医療行為も拡大しており、特にニーズの高い喀痰吸引についても一定の条件下で実施可能になりました。

そこで今回は、施設として改めて知っておきたい喀痰吸引の実施条件、研修内容、実施できる職員がいることで得られるメリットを紹介します。

喀痰(かくたん)吸引とは

喀痰吸引とは、吸引装置を使用して口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部の痰を吸引することです。医療行為に該当しますが、介護サービスの基盤強化を目的とした「社会福祉士及び介護福祉士法」の一部改正により、平成24年4月から介護職員も実施できるようになりました。実施には研修の受講など一定の条件が定められています。

介護保険施設での喀痰吸引の対象は、加齢による嚥下機能の衰えや疾患の影響で、自力で痰を排出できないご利用者様です。吸引を行わないと、痰が口腔内や気管に溜まり窒息や呼吸困難を引き起こしたり、溜まった痰が誤って肺に入り誤嚥性肺炎になったりする恐れがあります。

喀痰吸引ができるスタッフ様が増えるメリット

ご利用者様の安全を確保できる

医療的ケアを必要とするご利用者様が増加する中、介護保険施設に求められるのは、医療的ケアの提供体制を強化し、ご利用者様の安全を確保することです。施設内で喀痰吸引を行える体制が整っていれば、「喀痰が呼吸困難などを引き起こした場合に緊急搬送せざるを得ず、対応が遅れてしまう」といった事態を防ぐことにもつながります。

スタッフ様の負担を分散できる

喀痰吸引ができるスタッフ様が少ないと、特定の方に業務が集中してしまいます。特に夜間は医療行為を実施できるスタッフ様が優先的にシフトに入る必要があり、負担は増す一方です。喀痰吸引を行える人員が増えれば、負担が分散し、働きやすい環境作りにも繋がります。

入所者の増加が期待できる

喀痰吸引ができる環境を整えることで、受け入れ可能なご利用者様の幅が広がり、入所者の増加も期待できます。これまで病院で過ごしていた方や、退院後に要介護状態になった方が介護保険施設への入所を検討する際、医療的ケアが受けられるかどうかは重要な選定基準です。
 
また、喀痰吸引が可能な施設は医療ニーズへの対応が強化されているとして、ご利用者様が信頼や安心を感じやすいという面もあります。現状では医療的ケアを必要としていなくても、将来的に必要になる可能性を考慮して選んでもらえることが期待できます。

日常生活継続支援加算(特養)の取得につながる

介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)の場合、喀痰吸引ができるスタッフ様が増えれば、日常生活継続支援加算の取得にも有利に働きます。日常生活継続支援加算の算定要件はいくつかありますが、その1つとして「新規入所者の総数のうち、痰吸引などが必要な入所者が15%以上」であることが定められています。単位数は、日常生活継続支援加算Ⅰであれば1日につき36単位(従来型)、日常生活継続支援加算Ⅱであれば1日につき46単位(ユニット型)です。加算取得による経営へのプラスの影響を考えても、喀痰吸引ができるスタッフ様を増やすメリットは大きいです。

介護職員が喀痰吸引を行うための条件

介護職員が喀痰吸引を実施するための条件は、介護福祉士の資格を得ているかどうかで異なります。介護福祉士以外の介護職員が喀痰吸引を行う場合は、必要な研修を修了し「認定特定行為業務従事者」となる必要があります。以下では、それぞれの条件について紹介します。

●介護福祉士が実施する場合
  • 平成24年度以降に養成課程において、知識・技術を習得していること
  • 平成27年度以降に国家試験に合格していること

  • 平成27年度より前に合格した場合は、「基礎研修」の受講も必要

  • 登録喀痰吸引等事業者で「実地研修」を修了し、「修了証明書」が交付されていること
  • 実施するにあたり、医師の指示を受けていること
  • 勤務先が登録喀痰吸引等事業者に登録されていること

●介護福祉士資格を得ていない職員が実施する場合
  • 平成24年度以降に登録研修機関で「喀痰吸引等研修」を修了し、「認定特定行為業務従事者認定証」が交付されていること(認定特定行為業務従事者になること)
  • 実施するにあたり、医師の指示を受けていること
  • 勤務先が登録喀痰吸引等事業者に登録されていること

上記の条件を満たさずに喀痰吸引を実施すると、医師法違反に該当するので注意が必要です。

  • 条件については、必ず管轄の都道府県が公表している情報をご確認ください。

認定特定行為業務従事者が受講する喀痰吸引等研修は3パターン

認定特定行為従事者が受講する「喀痰吸引等研修」は、医療的ケアの対象者と実施可能になる特定行為によって3区分に分かれており、研修内容が異なります。

 

対象者

実施可能になる特定行為

研修内容

第1号研修

不特定多数

下記全ての行為

  • 口腔内の喀痰吸引
  • 鼻腔内の喀痰吸引
  • 気管カニューレ内部の喀痰吸引
  • 胃ろう又は腸ろうによる経管栄養
  • 経鼻経管栄養

  • 基本研修講義50時間
  • 5行為全てについてのシミュレーター演習
  • 5行為すべての実地研修


第2号研修

不特定多数

下記のいずれかの行為

  • 口腔内の喀痰吸引
  • 鼻腔内の喀痰吸引
  • 気管カニューレ内部の喀痰吸引
  • 胃ろう又は腸ろうによる経管栄養
  • 経鼻経管栄養

  • 基本研修講義50時間
  • 5行為全てについてのシミュレーター演習
  • 5行為のうち任意(1~4種類)の実地研修


第3号研修

難病、重症心身障害などを持つ特定の人

対象者に必要な行為
ただし、次の行為に限る

  • 口腔内の喀痰吸引
  • 鼻腔内の喀痰吸引
  • 気管カニューレ内部の喀痰吸引
  • 胃ろう又は腸ろうによる経管栄養
  • 経鼻経管栄養

  • 基本研修講義8時間
  • 5行為すべてのシミュレーター演習1時間
  • 現場演習→対象者に必要な行為のみ
  • 実地研修→対象者に必要な行為のみ


第1号研修、第2号研修、第3号研修の順で、実施可能になる特定行為の範囲が狭まります。また、第1号研修、第2号研修は医療的ケアを必要とする不特定多数の人が対象であるのに対し、第3号研修では難病、重症心身障害を持つ特定の人が対象である点も大きな違いです。就業する介護施設で求められる医療的ケアや、今後拡大するであろう医療ニーズを考慮し、どの研修を受けるべきかを選択すると良いでしょう。

喀痰吸引等研修の費用

受講費用は登録研修機関によって異なります。一般的には以下の価格帯が目安です。

研修

受講費用

第1号研修、第2号研修

8~20万円程度


第3号研修

2~6万円程度


受講内容自体に違いはありませんが、自治体や社会福祉協議会が主催している研修、自治体に委託されたスクールの研修、実地研修をどこで行うかなどで費用は変わります。事前に情報収集を行ってから申し込みましょう。

喀痰吸引時は感染症対策も忘れずに

喀痰吸引の概要、実施条件、研修内容などについて紹介してきましたが、喀痰吸引を行う際は感染症対策も重要です。喀痰吸引は粘膜への接触や飛沫の発生を伴うため、衛生的に実施しないと病原体が伝播する恐れがあります。施設ごとの実施マニュアルの作成や、勉強会を実施するほか、サージカルマスク、使い捨ての手袋・エプロン、フェイスシールドやゴーグルなどの個人防護具を使用して、ご利用者様とスタッフ様、両者の安全を確保しましょう。

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