コラム

2025年4月25日更新

【事例あり】介護施設で働く看護職必見!誤薬事故を防ぐためにできること

著者 山田滋氏のプロフィール写真

著者プロフィール/山田 滋(やまだ・しげる)
介護と福祉のリスクコンサルタント 株式会社安全な介護 代表取締役。
早稲田大学卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険株式会社入社。14年間支店勤務の後、1996年より東京営業本部にてリスクマネジメント企画立案を担当。2000年4月より介護・福祉施設の経営企画・リスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月より現株式会社インターリスク総研主席コンサルタント、2013年4月よりあいおいニッセイ同和損保、同年5月末退社。2014年4月株式会社安全な介護を設立。
高齢者福祉施設や訪問介護事業者と一緒に取り組み、現場で積み上げた実践に基づくリスクマネジメントの方法論は、「わかりやすく実践的」と好評。各種団体や施設の要請により年間150回のセミナーをこなす。著書に「新版安全な介護(ブリコラージュ)」「完全図解 介護リスクマネジメント 事故防止編・トラブル防止編(講談社)」「介護事故対応パーフェクトガイド(日経BP)」など多数。

誤薬事故はご利用者様の命に関わる重大な事故であり、これをいかに防ぐかは介護現場のリスク管理において大きな課題の一つです。忙しい業務の中でミスが発生しないよう、薬の管理方法やチェック方法に頭を悩ませている看護職の方も少なくないようです。

そこで今回は、介護施設で発生した誤薬事故の事例を基に、誤薬事故の原因の分析方法や、具体的な防止対策について紹介します。

誤薬防止対策の基礎知識

ヒューマンエラー事故の防止対策の考え方

人為的なミスが原因で起こる事故は「ヒューマンエラー事故」と呼ばれ、どの業界でもその防止対策のセオリーが確立されています。誤薬事故も同様に、介護施設における典型的なヒューマンエラー事故であり、防止対策のセオリーが存在します。

ヒューマンエラー事故の対策は、「ミス・事故・損害」の3つに分けて考えます。すなわち、「ミスが原因で事故が起こり、その結果損害が発生する」という構造を踏まえ、それぞれに防止対策を講じます。誤薬事故の場合、「職員のミスで誤薬が発生し、健康被害につながる」と考えて、「ミスを防止する対策」「ミスを事故に発展させないための対策」「損害を防ぐ対策」に分けて取り組むことが重要です。

ヒューマンエラー事故の防止対策とその考え方

ヒューマンエラーの防止対策の考え方

誤薬事故の種類と防止対策の優先順位

誤薬事故にはさまざまな種類がありますので、しっかり区分し、優先順位をつけて対応しなければなりません。誤薬事故は大きく2種類に分類されます。自分の薬を間違って服用する「飲み間違え誤薬」と、他人の薬を間違って飲まされる「取り違え誤薬」です。さらにそれぞれ間違え方(・・・・)によって次のように細分化されます。

●飲み間違え誤薬(自分の薬を飲み間違える事故)
  • 飲むべきタイミング(食前など)で飲まなかった
  • 飲むべき薬の形状(錠剤・粉末など)で飲まなかった
  • 飲むことを忘れた(服薬忘れ)
  • 用量を間違えて薬を多く飲んだ(過量服薬)

●取り違え誤薬(他人の薬を飲まされる事故)
  • 薬を取り違えた
  • ご利用者様を取り違えた

自分の薬を飲み間違える「飲み間違え誤薬」は、度を越えた過量服薬を除けばほとんど身体に影響はありませんから、それほど重要ではありません。これに比べて他人の薬を間違えて服用させてしまう「取り違え誤薬」は、重大な健康被害を引き起こすリスクが高く、死亡事故も起きています。

したがって、まず重点的に対策を講じるのは「取り違え誤薬」です。そして、取り違え誤薬を「薬の取り違え」と「ご利用者様の取り違え」に区分して原因分析を行うことも重要です。間違え方によって対策が異なりますから、事故報告書上も区分しておいた方が良いでしょう。コラムでは重要度の高い「取り違え誤薬」の対策について詳しく説明します。

誤薬事故の原因分析―取り違え誤薬を例に―

誤薬事故防止対策は、原因を正しく分析することから始めます。しかし、どのように分析を行えば良いのか分からない方も多いのではないでしょうか。

ある法人で施設ごとに誤薬の事故の分析を行い、次のようなデータが得られました。しかし、この分析内容にはほとんど意味がありません。なぜなら、ミスをしたときに職員がどんな状態であったかを分析しても、具体的な防止対策に役立てることは難しいからです。

【原因分析の悪い例】

事故原因

件数(入所)

件数(短期)

「注意が散漫だった」

3件

5件


「与薬に集中していなかった」

3件

4件


「ほかのことに気を取られていた」

2件

5件


「時間が迫っていて急いでいた」

1件

7件


合計

12件

24件


誤薬事故の原因分析は、他の介護事故の分析方法とは異なり、どんな場面でどのように取り違えたのか、「取り違え方」を分析しなければなりません。前述のように、取り違え誤薬は「薬の取り違え」と「ご利用者様の取り違え」で起こります。

薬の取り違え

AさんにAさんの薬を飲ませたと思ったら、誤ってBさんの薬を飲ませてしまった。

ご利用者様の取り違え

AさんにAさんの薬を飲ませたと思ったら、誤ってBさんに飲ませてしまった。

上記のように区別して分析すると、どの場面のどの手順に原因があるのかを明確にでき、効果的な防止策を検討しやすくなります。そうした前提で原因分析表を作成すると以下のようになります。

【原因分析例】

事故の種類

事故原因

入所施設

短期施設

薬の取り違え

違う箱から取り出してしまった

1

2

薬の名前を読み間違えていた

2

1

変更後の処方が共有されていなかった

0

1


ご利用者様の取り違え

ご利用者様の顔と名前が一致していなかった

1

2

違う席に誘導してしまった

4

0


合計件数

8

6


上記の分析例を見ると、「違う席に誘導してしまった」ことが原因で「ご利用者様の取り違え誤薬」が多発していることが分かるため、席誘導時のフロー改善の検討が必要と言えます。

誤薬事故の防止対策

ここからは、ある誤薬事故を例に、具体的な防止対策について解説します。

▼施設タイプ
ショートステイ

▼発生した誤薬事故(1カ月)
  • ご利用者様の取り違えミス:3件(認知症のご利用者様を誤認)
  • 薬の取り違えミス:1件(薬袋のピックアップ時に誤認)

▼概要
  • 発生した計4件の事故のうち1件は誤薬に気付いたが、経過観察中にご利用者様が意識不明となり救急搬送
  • 法人本部が事態を重く見て、誤薬防止策の徹底を強く要求

▼施設の対応策
  • 薬のピックアップ時に、看護師と介護職員で薬袋をチェックする
  • 服薬前にご利用者様の氏名をフルネームで読み上げ、職員2名でチェックする

▼結果
翌月も「ご利用者様の取り違えミス」による誤薬が発生
→対策を徹底したにもかかわらず誤薬が再発したため、さらなる改善策が求められる状況となった。

冒頭の「ヒューマンエラー事故の防止対策の考え方」のセオリーに則って、「1.ミスを防止する対策」「2. ミスを事故に発展させないための対策」「3.損害を防ぐ対策」を検討します。次からそれぞれについて詳しく解説していきます。

1.ミスを防止する対策

「薬の取り違え」と「ご利用者様の取り違え」に分けて対策を講じます。

「薬の取り違え」の防止対策

本事例でも4件のうち1件は、薬袋を薬ボックスから取り出す際の取り違えによるものでした。なぜ間違えたのかを調べてみると、次のような「薬袋を間違えやすい条件」が揃っていました。

  1. 暗く狭い場所に置かれている

1.暗く狭い場所に薬ボックスが置かれている様子の画像

  1. 氏名が手書きかつ悪筆

2.氏名が手書きかつ悪筆で書かれた薬ボックスの画像

  1. 氏名の文字が小さい

3.氏名の文字が小さい薬袋の画像

このように、ミスは起こりやすい環境や条件が揃ったときに発生するため、これらをきちんと把握して対策を講じる必要があります。本事例では、具体的に「薬ボックスを明るい場所に置く」「薬ボックスの氏名の表示を読みやすくする」「調剤担当に依頼して薬袋の氏名を大きく印字してもらう」という対策を行いました。

  1. 明るい場所に移した

1.明るい場所に薬ボックスが置かれている様子の画像

  1. 氏名をラベルで表示した

2.氏名をラベルで大きく表示した薬ボックスの画像

  1. 薬袋の氏名を大きくした

3.氏名を大きくした薬袋の画像

「ご利用者様の取り違え」の防止対策

どの場面でご利用者様を取り違えたのかを調べてみると、3件ともご利用者様を食事席に誘導するときに取り違えていました。ご利用者様は名札を付けていないため、記憶だけで本人を確認していたことが誤認の原因です。このような状況では、取り違えが発生しやすくなります。

このミスの防止対策としては、以下のように食札にご利用者様の顔写真を貼付し、誘導時に照合できるようにする対策が有効です。職員が記憶に頼らずにご利用者様の確認ができ、取り違えのリスク低減につながります。

顔写真付き食札の作成例

顔写真付き食札の作成例の画像。氏名、性別、居室の場所、食事の種類が表示されている

2.ミスを事故に発展させないための対策

次にミスが発生しても、事故につながらない対策を考えます。たとえ薬やご利用者様を取り違えたとしても、服薬直前に薬の照合と本人確認によってミスを発見できれば、誤薬事故は防げます。

では、どのように薬の照合と本人確認を行えば、簡単にかつ確実にミスを発見できるでしょうか。本事例のショートステイでは、次のような「お薬確認シート」を作成し、ご利用者様の顔写真と薬の写真を照合することでチェック対策をとりました。

お薬確認シートの作成例

お薬確認シートの作成例の画像。氏名、性別、居室の場所、食事の種類、各食事後に服用する薬の名前と画像が表示されている

ご利用者様が固定されている入所施設では、次のように既存の食札ケースに写真を追加することで、簡単に確認シートを作成できます。

食札と一体型のお薬確認シートの作成例

食札と一体型のお薬確認シートの作成例の画像。氏名、性別、食事の種類、服用する薬の名前と画像が表示されている

3.損害を防ぐ対策

最後に「誤薬事故が発生したときの損害防止対策」の検討です。多くの施設では、誤薬事故で健康被害が出たという経験がないため、誤薬発生後に経過観察を行うケースがみられます。しかし、過去には誤薬発生後に看護師が経過観察と判断したのちに急変して死亡した事例があり、担当した看護師は業務上過失致死罪で刑事告訴されています。

したがって、誤薬が発生した場合には、施設の医療スタッフに速やかに報告するか、医療スタッフが不在の場合は医療機関を受診する必要があります。そもそも、誤薬による身体への影響を判断する行為は診断行為ですから、医師の判断を仰ぐ必要があります。

誤薬発生時の医療的対応を全職員が確実に実行するためには、施設全体での意識共有と仕組みづくりが求められます。具体的には、以下のような対策を実施すると良いでしょう。

  • マニュアルの改訂:「誤薬発生時は必ず医師の診察を受けさせる」ことを明文化し、対応の統一を図る
  • 定期的な勉強会の実施:誤薬発生時の適切な対応について、座学やシミュレーションを通して理解を深める
  • 新人研修での徹底:入職時から誤薬対応のルールを学び、現場で適切に行動できるようにする

まとめ

誤薬事故を防ぐ鍵は、「職員の意識」ではなく「事故が発生しない仕組みづくり」にあります。誤薬は最悪の場合、死亡事故に至る恐れがあるため、高い危機意識を持って防止対策に取り組みましょう。

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