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コラム

2020年11月17日更新

介護スタッフのスキル向上が期待できるリフレクションとは

著者 峯尾武巳氏のプロフィール写真

著者プロフィール/峯尾武巳(みねお・たけみ) 
NP0法人介護の会まつなみ 副理事長
大学卒業後、重度身体障害者療護施設等に勤務。2003年4月より神奈川県立保健福祉大学講師、2007年准教授、2013年教授を経て2018年3月同大学を退官。埼玉県介護支援専門員研修指導者、一般社団法人埼玉県老人福祉施設協議会での研修会講師を数多く務める。論文に「未来につながる介護職員育成への提言―介護リフレクションのすすめ」がある。
保有資格:社会福祉士・介護福祉士・介護支援専門員

公益財団法人 介護労働安定センターが公表している「令和元年度介護労働実態調査」によると、「職場での人間関係等の悩み、不安、不満等」をたずねたところ、施設系(入所型)で働く方の30.3%が「部下の指導が難しい」と回答されています。
 
介護施設では、他の業界から介護業界に転職された方や介護福祉士といった資格を所持されていない方など、さまざまな背景をお持ちの方が従事されているかと思います。そのような環境のなか、管理者様や介護リーダー様は職員全体のさらなるスキル向上を目指して、育成方法を検討していらっしゃるのではないでしょうか。

そこで今回は、介護スタッフのスキルをより高める方法として「リフレクション」をご紹介します。本記事は、リフレクション研修の講師をされている峯尾武巳氏に「リフレクションの基礎知識」や「具体的な実践方法」を解説いただきました。

 

リフレクションの基礎知識

「リフレクション(Reflection)」は、「振り返り」「反省」「内省」「省察」と訳されています。まずは、「リフレクションの歴史」と「リフレクションの必要性」をご説明します。

リフレクションの歴史

リフレクションは、1930年代にアメリカの教育学者ジョン・デューイが提示した「反省的思考」という考えが原点だといわれています。反省的思考とは、経験や知識を踏まえて、問題解決に主体的に取り組む学習法を指します。

デューイの考えはマサチューセッツ工科大学の元教授であるドナルド・ショーンにも影響を与えます。ショーンは実証科学を基礎として形成された「近代の専門職の職域や力量、その養成カリキュラム」に着目し、これらは科学的技術に基づいた実践場面への合理的適用を原則とし、そのことに熟達し習得することが専門性の内実を形成した、と考察しました。

一方でこのような技術的合理性モデルとは別に、看護師、ソーシャルワーカーといった複雑で複合的な問題に立ち向かう新しいタイプの専門家は、不確実で予測しがたい状況との対話を通して、自身の経験から蓄積された実践的認識論(※1)を踏まえた実践やリフレクションを繰り返すことでスキルアップしていく、と指摘しました。
 
そこでショーンは、リフレクションを基礎に自己の専門的力量を開発していく専門職のことを「反省的実践家」と位置づけました。反省的実践家には、もちろん介護スタッフも含まれます。

  • ※1
    実践的認識論…経験・知識をもとに、意識的または無意識に行っているその人の行動・行為を支えるものの見方・考えの枠組み。

リフレクションが必要な理由

以前から介護スタッフのスキル向上は、介護業界の課題として取り上げられています。介護マニュアルの整備や、チューター制度(先輩スタッフが新人スタッフの指導役・相談役などを担う新人教育制度)の導入といった工夫もされていらっしゃるかと思いますが、成果を出すのはなかなか簡単ではありません。中には、教える技術や方法論を持たない、「見て覚える、体で覚える」という職人気質の組織風土が根強く残る介護施設も散見されます。このような施設では、教える側も「見て覚える、体で覚える」という教育を受けた結果、教え方が分からないという悪循環が発生しているのだと考えられます。
 
介護実践は、基礎的な知識・技術を基にさまざまな状況に対応できる応用力が求められます。応用力とは、日々の経験を生かして次の介護につなげていく力のことです。しかし、経験を個人個人の中で完結していくと経験主義につながり、人によってケアの質に差異が生じる恐れがあります。
 
これを防ぐためには、介護スタッフ一人ひとりが自身の介護実践を話せる場・共有できる場が必要です。この中で、実践内容を言葉で説明することで、介護の根拠を考える習慣の習得やアセスメント力の向上が可能になります。また、原因を考えて改善につなげる振り返りの体験を共有することで、ケアの質の向上や一体感の醸成という効果が期待できます。このように、「介護実践のプロセスを丁寧に振り返る」「リフレクションを通した実践知(※2)の蓄積と共有化」が、介護スタッフのスキル向上には不可欠なのです。

  • ※2
    実践知…実践現場で、今までの経験や体験を基に適切な判断や行動することができる知識と能力。

 

リフレクションの具体的方法

リフレクションは特別なことではありません。介護スタッフは、介護をするときに無意識に考えながら実践しています。そして一日の終わりには、「今日はうまくいった」「次はどうしようか」と考えているかと思います。

リフレクションには、行為しながら考える「行為の中のリフレクション」、一日の仕事の後で考える「行為の後のリフレクション」、そして改めて時間をかけて検討する「行為についてのリフレクション」があります。「行為についてのリフレクション」には事例検討や事例研究があります。
 
介護スタッフは、「行為の中のリフレクション」と「行為の後のリフレクション」を無意識に行っています。つまりリフレクションとは、今まで無意識に行っていたことを、意識的に手順を踏んで振り返り、経験から身に付いた知識を次に生かしていくことなのです。
 
以下、「一人で行うリフレクション」と「複数人で行うリフレクション」をご説明します。

一人で行うリフレクション(自己リフレクション)

一人で行うリフレクションは、振り返りの基本です。頭の中にはさまざまな思いや感情、情報が渦巻いています。いったん立ち止まり、手順に沿ってこれらの感情を整理することで、自分自身を客観的に振り返ることが可能になります。自己リフレクションは、実践を鏡として自分自身を振り返ることです。先程述べたリフレクションの種類でいえば、自己リフレクションは「行為の後のリフレクション」に該当します。
 
リフレクションのプロセスはいくつか開発されていますが、今回参考にするのはアメリカの教育学者デビット・コルブの経験学習モデルです。経験学習モデルは「経験、リフレクション、概念化、実践」で構成されています。

自己リフレクションの流れを表した図。以下の4つの順で循環させる。実際に自分でやってみる、経験。経験した出来事を分析する、リフレクション。明日からの介護実践への教訓を考える、 概念化。教訓を生かした介護を実践する、実践。

  • David A. Kolb(1984)「Experiential Learning: Experience As The Source Of Learning And Development」を元に作成

以下、自己リフレクションの手順をご紹介します。

【自己リフレクションの実施手順】

順番

実施内容

実施時のポイント

【1】

体験した出来事を思い出して、その内容を書く。

  • 起こった出来事、自身のしたこと、相手の言動などを書く。
  • 自身の考えやその時の感想などは書かない。


【2】

そのときの自身の気持ちや介護内容に対するご利用者様の反応と、その理由を考える。

  • 自身を客観的に見る。
  • 感想や反省、分析はしない。


【3】

【1】【2】を基に、実践の結果を分析的に考える。

  • 何が良くて何が悪かったのか、その原因は何かなど、考えられる理由をできるだけたくさん書き出す。


【4】

【3】の結果を過去の経験や知識と比べ、明日からの介護実践への教訓として概念化して実践に移す。

  • 仮説を立てる。
  • 教訓を生かした介護を考え、実践する。


自己リフレクションは、以下のようなA4用紙を4等分したリフレクションシートを使って行います。

【表:リフレクションシート(記入例入り)】

リフレクションシートの準備ができたら振り返りたい出来事を思い出し、上記手順に沿って、一つひとつの枠内に一行でも問題ないので丁寧に記入するようにします。4つのプロセスを一巡したら再度手順に沿って振り返り、書いた内容と自身の思いに違いがないか納得するまで、これを繰り返すようにします。

複数人で行う対話によるリフレクション(リフレクションを生かした事例検討会)

自己リフレクションは自分自身との対話です。しかし、一人で行う振り返りには限界があります。そのため、他の介護スタッフと一緒に振り返る場としての事例検討会(カンファレンス)の開催が必要となります。

自己リフレクションと同様に、事例検討会で話し合う項目は「体験した出来事」「自身の気持ちや介護内容に対するご利用者様の反応と、その理由」「実践結果の分析」「介護実践への教訓」の4つです。
 
ただ自己リフレクションと違い、事例検討会ではホワイトボードを使います。あらかじめ4つの枠をつくったホワイトボードに、話し合いの内容を書き込み、今、何について話し合っているのかを参加者と手順を確認しながら進めます。ホワイトボードを使うと、話し合いの内容を共有できるのでおすすめです。この手法は、「会議の見える化」「ファシリテーショングラフィック」とも呼ばれています。
 
事例検討会を開催する際は、「司会者」「記録者」「発表者」の担当者を事前に決めておくと、スムーズに進むでしょう。事例検討会の実施時間は概ね90分(事前打ち合わせ時間は含まない)が目安です。

【事例検討会の実施手順】

順番

所要時間(目安)

実施内容

【1】

5分

司会者は開始前に、発表者と記録者と手順について打ち合わせを行う。


【2】

司会者は参加者に手順を説明、記録者はホワイトボードに4つの枠を記入する。



【3】

【2~4】
合わせて10分

発表者は「体験した出来事」「そのときの自身の気持ちや介護内容に対するご利用者様の反応と、その理由」を口頭で発表する。

  • 通常の事例検討会では事例紹介シートの作成や配布を行うが、リフレクションを生かした事例検討会の場合は当日口頭発表でも構わない。


【4】

記録者は発表者の報告内容を聞きながら、該当する2つの枠内に完結に記入する。


【5】

20分

司会者の進行で、「体験した出来事」について参加者から質問を受け付ける。

  • 発表者は質問への回答を通して、出来事の前後関係や出来事に影響を与えた背景に気づくことが可能となる。

【6】

5分

【4】で書き出した「そのときの自身の気持ちや介護内容に対するご利用者様の反応と、その理由」について新しい気付きがないか、司会者が発表者に質問する。発表者は気付きがあれば、報告する。


【7】

25分

その場で出た実践結果について参加者全員で検討する。


【8】

25分

「実践結果の分析」を基に「介護実践への教訓」について全員で検討する。
最後に、確認できた介護実践の仮説や教訓を司会者がまとめて、参加者全員で共有。
発表者が感想を述べて閉会する。


 

現場スタッフの教育を担う管理者やリーダーの皆さまへ

事例検討会は他のスタッフの「日々の介護実践の中で印象に残った出来事」「そのときに感じたこと」「実践を振り返って気付いたこと」などを知ることができる場です。そうした話に耳を傾けるだけでも、参加者は、自らの介護実践内容に対する内省がおのずと促がされます。
 
そして複数人で対話するからこそ、参加者は複数人に共通する実践知や課題の存在に気付くことができます。明日からの実践目標を、その場で共有できるようになるのです。
 
介護スタッフのスキル向上には、実践と内省を繰り返すリフレクションのサイクルに沿った事例検討会の開催と、お互いを認め合える組織風土づくりが求められます。そして、介護スタッフの成長と可能性を見守る、管理者の存在が不可欠になるのです。

参考資料:
建帛社「土筆

東めぐみ(2009年)『看護リフレクション入門』ライフサポート社

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