2022年5月24日更新
労災の防止でご利用者様も職員も守る!介護施設に求められるリスクアセスメントの進め方
介護職は食事・入浴などご利用者様の生活全体を支える仕事であり、身体的な負担が大きな業務もあります。令和2年度の中央労働災害防止協会「労働災害分析データ」によれば、社会福祉施設における労働災害の発生状況として「動作の反動・無理な動作」「転倒」が多くを占めています。スタッフ様が働けなくなるような事態を未然に防ぐためには日頃から労働災害に対するリスクアセスメントに取り組むことが重要になります。
そこで今回は、厚生労働省「社会福祉法人のリスクアセスメント導入促進マニュアル」を参考に、労働災害を防ぐためのリスクアセスメントの進め方について紹介します。介護事故の防止についてはコラム「ヒヤリ・ハット報告書の分析は十分?分析時に大切な視点とは」」で解説していますのでこちらもあわせてご覧ください。
職場におけるリスクアセスメントとは?
そもそもリスクアセスメントとは何か、なぜリスクアセスメントを行う必要があるのかについて説明します。
労働災害を防止するための取り組み
職場におけるリスクアセスメントとは、労働災害を未然に防ぐことを目的とした取り組みのことです。業務中に事故が発生した場合はヒヤリ・ハット報告書や事故報告書などに記録して再発防止につなげますが、リスクアセスメントは事故が発生する前に事業所内のあらゆる危険性を取り除き、そもそもの事故の発生を防止します。
リスクアセスメントを行う重要性
介護施設を含む社会福祉施設における、労働災害による死傷者数は年々増えています。厚生労働省の調査によると、2020年に発生した社会福祉施設における労働災害による死傷者は13,267人でした。*4年前の8,738人と比較すると約4,500人の増加となり、年千人率(1年間の労働者1000人あたりの死傷者率)も2%台から3%に上昇しています。
【2020年の社会福祉施設の死傷者数と死傷者率】
また、高齢化が進む中、介護施設で働く労働者も増えると見込まれており、現状よりもさらに労働災害が増加する恐れがあります。このような背景から、介護施設におけるリスクアセスメントが一層重要視されています。
リスクアセスメントの進め方
(1)管理体制を整備する
まずは施設長から事業所全体に対してリスクアセスメントに取り組む意思表明を行い、管理体制を整えましょう。統括管理は施設長が、現場のマネジメントは衛生管理者や衛生推進者などが担当します。衛生委員会などを活用し、スタッフ様や現場主任の方にリスクアセスメントに関する教育を行う機会を設けましょう。
リスクアセスメントを実施するタイミングは、設備や作業方法に変更があったときや労働災害が発生した際です。また、ヒヤリ・ハット事例(労働災害にはならなかった危険な事象)やKYK(危険予知活動)の事例、安全パトロール結果、類似災害情報などもリスクアセスメントの参考になるため、これらについて各作業者から報告してもらう仕組みづくりも重要です。
(2)危険性・有害性を特定する
リスクアセスメントの管理体制を整えた後は、業務内容や労働環境にどのような危険性・有害性があるのかを具体的に探します。通常の業務でスタッフ様が使用している作業マニュアルや手順書を用意し、危険がないか実際の作業を観察しましょう。労働災害につながるリスクを見逃さないために、観察する際は以下の13の視点で取り組みます。
危険性・有害性の特定に必要な視点
1
移乗介助時に腰などに負担がある動作はないか
2
入浴介助時に腰などに負担がある動作はないか
3
食事介助時に腰などに負担がある動作はないか
4
体位変換時に腰などに負担がある動作はないか
5
整容・更衣介助時に腰などに負担がある動作はないか
6
おむつ交換中に腰などに負担がある動作はないか
7
トイレ介助時に腰などに負担がある動作はないか
8
送迎者への移乗・移動(その逆を含む)時に腰などに負担がある動作はないか
9
階段、段差、スロープなどの通路に凹凸があって転倒するおそれはないか
10
階段、段差、スロープなどの通路が水、油などで濡れていて転倒するおそれはないか
11
居室などの電気機器やナースコールのコードに足を引っ掛けて転倒するおそれはないか
12
入浴介助中に浴室などで足を滑らせて転倒するおそれはないか
13
立ち上がり・起き上がり介助中にご利用者様が倒れかかってきて介助者も転倒するおそれはないか
また「機械や設備は故障する」「人はミスを犯す」という前提で、「万が一これが壊れたら?」「もしもこの作業を忘れてしまったら?」と想像しながら現場を見ることも重要です。
危険性や有害性が見られる業務を特定した場合、記録表などに書き出します。記録した内容は次の「リスクを見積もる」のステップで活用するため、どのように労働災害につながるリスクがあるのかわかるように記載します。
<記載のポイント>
「~なので、~して、~になる」の形で書いて因果関係を明確にする
例:居室の電気機器やナースコールのコードがスタッフの移動範囲にあると足が引っ掛かるので、バランスを崩して、転倒する。
(3)リスクを見積もる
危険性・有害性のある業務を洗い出したらリスクの大きさを見積もりましょう。ここでは初めての方にも取り組みやすい、2つの要素の組み合わせで見積もる「マトリックス法」を用いた方法をご紹介します。「負傷・疾病が発生する可能性はどれくらいか」「負傷・疾病の重篤度はどれくらいか」という2つの軸で考えます。
上記の2軸を以下のように掛け合わせることでリスクを見積もることができます。
Ⅰ~Ⅲはリスクレベルを表しています。数字が大きくなるほど取り組みの優先度が高いリスクとなります。
(4)リスク低減措置を検討する
上記で検討した結果をもとに、リスクが高い業務から順にリスク低減措置を検討します。リスク低減措置は設備の変更から個人の行動のレベルまでさまざま考えられますが、どれを実施するかは以下の優先順位をもとに検討します。
可能なかぎり優先順位が高いリスク低減措置を実施することが必要です。最初から個人用保護具などに頼るのではなく「危険な作業を根本からなくせないか?」「設備や管理体制を変えることでリスクが下がらないか?」と考えて本質的な安全策を検討します。
(5)残留リスクについて対策する
リスク低減措置が決まったら業務内に取り入れます。実施後は本当にリスクが下がったかを検討しましょう。設備上などの制約でリスク低減が難しい場合は「残留リスク」への対応が必要になります。スタッフ様にどのような残留リスクがあるかを周知し、暫定措置を実施して可能なかぎり当面の危険性・有害性を減らすことが重要です。設備改善などの根本的な対策については次年度の検討事項として安全衛生管理計画などに反映させましょう。
(6)実施結果を振り返り記録する
リスク低減措置を実施した後はリスクアセスメントの実施結果が適切であったか、措置の見直しや改善が必要かを検討し、次年度以降の安全衛生目標と安全衛生計画の策定に活用します。
リスクを見積もった作業やリスク低減措置などは実施記録としてリスクアセスメント実施一覧表に保存します。リスクアセスメント実施一覧表は厚生労働省指定の様式に整理する必要があります。
まとめ
リスクアセスメントとは、労働災害を未然に防ぐことを目的とした取り組みです。ご利用者様・スタッフ様両方の安全を守るためには「事故が起こってからでは遅い」という意識で定期的にリスクアセスメントを実施し振り返ることが大切になります。ヒヤリ・ハット事例などの情報からリスクを見抜き、事故を未然に防ぎましょう。
参考文献:
・厚生労働省「社会福祉法人のリスクアセスメント導入促進マニュアル」
・厚生労働省「令和2年労働災害発生状況」
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