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コラム

2024年1月23日更新

ご利用者様の命を守る!介護施設の火災発生時に求められる初動対応とは

著者 山口泰信氏のプロフィール写真

著者プロフィール/山口 泰信(やまぐち・たいしん)
株式会社BCPJAPAN代表取締役
防災士・リスク診断士・事業継続管理者・防火防災管理者、介護労働安定センター研修の介護BCPの講師も務める。
長崎県雲仙市出身で1991年に雲仙・普賢岳の噴火を体験。1995年に阪神淡路大震災に遭遇し2日後には2,300名の避難所となった神戸生田中学に入りボランティア1号として避難所運営を支援。避難者に推薦され避難所代表として3カ月間陣頭指揮を執り、神戸市内で最初に授業再開した学校となる。2004年中越地震では、大阪市緊急支援一般車両第一号として支援。2009年2月「防災BCP」の会社を設立。2011年東日本大震災では、東北の工場でBCP策定指導中に被災し避難と点検など陣頭指揮を執り、その後、1年に渡り毎月被災地(宮城県石巻市)を訪問支援した。
現在、全国の商工会議所・商工会・法人会・工場・福祉介護施設、一般企業で研修会の講師やコンサルティングを行う。
著書は「スタッフ30名以下の介護事業の防災BCP」(セルバ出版)。

介護施設のご利用者様の中には素早い移動や自力での移動が難しい方が多くいらっしゃいます。その分、火災発生時は、通常の建物で火災が発生した時よりも迅速な初動対応が求められます。
 
今回は、火災発生時のスタッフ様の動き方と日頃から準備しておくべき設備と訓練について解説します。施設長や防火管理者を中心に、職員全体へ周知していきましょう。

介護施設特有の問題

火災時に円滑な初動対応ができるかどうかは、ご利用者様の安全に大きく関わります。特に夜間は人員が限られているため大事故に発展してしまうこともあります。これまでにも逃げ遅れたご利用者様が亡くなってしまったケースもあります。

▼過去の介護事業者の死亡火災事例と出火原因

発生年月

死亡者数

主な出火原因

2009年3月

10名

利用者様のタバコの不始末による発火


2010年3月

7名

ストーブ上への衣類接触による発火


2013年2月

5名

リコール対象の加湿器からの発火


迅速な避難に必須の準備

火災は炎よりも煙による一酸化中毒で死亡するケースが多いので、一刻も早く煙からの避難が必要です。避難は、発火から3分以内に完了することが理想です。安全な避難を可能にするために、特別養護老人ホーム(特養)、介護老人福祉施設(老健)では以下の設備設置が消防法で義務付けられています。
 
(1)自動火災報知器(火災による煙や熱を感知すると火災地区や管理室に警報ベルがなる)
(2)火災通報設備(ボタンを押すだけで119番に通報)
(3)消火設備(広さに応じて消火器・スプリンクラー・屋内消火栓などを設置)
(4)避難経路(非常口・内階段・外階段)
 
これら全ての設備について、スタッフ様全員が使用方法を理解しておかなくてはいけません。定期的に防災訓練を行い、新人スタッフ様が入った際は勤務初日に教える必要があります。

火災発生時の初動対応で行う3つのこと

火災発生時は「119番通報」、「避難誘導」、「初期消火」という3つの行動を迅速に、そして同時に行わなければなりません。次で詳しく紹介していきます。

「119番通報」は火災通報設備を使う

介護施設には火災通報設備が備えられています。電話による通報は時間がかかるため、ボタン一つで通報できる火災通報設備を優先的に使い、素早く通報します。消防機関から返信(逆送信)が来ても避難誘導などに追われて応答できない場合でも基本的には消防隊が駆けつけてくれます。定期的に最寄りの消防機関に対応方法を確認しましょう。
 
また、状況によっては携帯電話で通報する場面もあるかもしれません。火災を目の前にするとうまく説明できない恐れもあります。その際、地域によってはGPS機能を有効にして通報することが、迅速な場所の特定につながります。訓練の際はGPS機能の操作手順も確認し、施設共有の携帯電話と自分の携帯電話の両方で練習しておくことが必要です。
 
なお、介護施設では一刻も早く消防機関に到着してもらうため「119番通報」が最優先です。国の指針では市街地における消防隊出動から放水開始までを6.5分(うち走行時間4.5分、放水準備時間2分)を目指すよう整備しています。

「避難誘導」は優先順位を意識する

ご利用者様の避難で一番重要なのは「火元の利用者救出」であり、次は水平避難(非常口や各階の避難階段まで避難)です。煙からの避難を最優先させるため、一人ひとりを地上まで誘導する必要はありません。各階の外階段まで避難させたら、大声で「火事です助けてください!」と叫んで応援を要請し、とにかく各階の水平避難に徹します。
 
そうした前提の上、避難優先順位の例をご紹介します。下の図で紹介したように、2階で火災が発生した際は、「優先順位1位は火元階」、「優先順位2位は直上階と上の階」、「優先順位3位は火元階より下の階」です。この避難優先度が原則となりますので、訓練の際などでも意識して行うとよいでしょう。

▼避難優先順位の例

避難優先順位のイラスト

  • 「限られた人員による 入居者の円滑な避難のために」(消防庁)

    https://www.fdma.go.jp/mission/prevention
    /items/manual.pdf を加工して作成

避難時の注意点として、自力で避難できるご利用者様には「火事です!外階段へ避難してください」などと大声で知らせます。
自力避難が困難なご利用者様は、スタッフ様が腕で支えたり、ストレッチャーを使ったりして介助します。ご利用者様の状態や現場の状況に応じて臨機応変に対応し、車いすなどが渋滞して避難の支障とならないよう気をつけます。

「初期消火」は2分以内に行う

一般財団法人日本防火・防災協会によると、発火してから背の高さ以上の炎になる時間は2分前後で、2分30秒を超えると天井に届きますので、初期消火の目標時間は2分以内です。天井にまわった火は消火器で消火はできません。そうした状況の際は避難を最優先した行動を取ってください。 
 
消火器による初期消火は、炎の高さが自分の目線か身長までの場合とし、1本使用しても消火できない場合は避難しましょう。建物内で2本目の消火器を探していると、自身が一酸化炭素中毒となる恐れがあり危険です。その後、引き続き消火を行う場合は、できれば屋外消火栓のホースで行ってください。

火災発生時の初動対応例

紹介した3つの行動をポイントに、実際に火災発生時にどのように連携して行動すればよいのか、初動対応の動きの一例を紹介します。

▼介護スタッフAさん、Bさんの2名対応の場合

(1)Aさん:火災報知器の鳴動を確認する
(2)Bさん:火元を確認し、大声で「火事です!」と周囲に伝える
(3)Aさん:119番の通報ボタンを押す
(4)Bさん:火元近くの利用者を避難誘導する
(5)Aさん:消火器などで初期消火にあたる/Bさん:火元階利用者様を避難誘導する
(6)Bさん:周辺へ応援の要請と地上への避難誘導をする
(7)Aさん:消防車を誘導し、消防隊へ状況を報告する

上記はあくまで2名で対応するための一例です。皆さまの施設に合った初動対応のフローを計画してみてください。

消防設備点検・訓練時のポイント

特定防火対象物に分類される介護施設には年2回以上の消火訓練、避難訓練が義務付けられています。これらの定期的な訓練や新人スタッフ様の初日教育では、火災発生時の動き方に加えて施設の消防設備を確認することも大切です。ここでは、各設備の特徴とチェックしておきたいポイントを紹介します。

粉末消火器

粉末消火器は一般火災、電気火災、天ぷら油や灯油による油火災の消火や高所への噴射に効果を発揮します。施設の複数箇所に設置されているので、定期的な清掃サイクルの中に消火器の清掃を盛り込むのも有効です。スタッフ様全員が日常的に消火器に触れることで、持ったときの感覚を自然に覚えられます。「訓練なくして成功なし」「訓練前の練習」「練習前の心得」の意識も身につくので、火災による大変な被害を防ぐことにもつながります。

施設復旧がしやすい中性強化液消火器

中性強化液消火器は中性薬剤を使用しています。中にはお酢の成分と食品原料から作られたものもあり、ご高齢者様の多い環境でも使いやすい消火器です。薬剤の飛散による二次的な災害が少なく使用後の復旧が容易です。油火災の消火に適したものや、高所への噴射に向いているものなど製品によって特徴が異なるので、用途に合わせて選びましょう。

スプリンクラー

スプリンクラーは火災時に自動で初期消火を行い、煙の発生を抑制します。避難時間を確保することで、より安全に余裕をもって避難することにつながります。感知感度が高ければ、誤作動もあり得ます。誤作動時の対応と放水停止バルブの閉止方法を全員が覚えておきましょう。スタッフ様全員が知っておくべきことの一つです。

スプレー式消火具

火の不始末によるくずかごの火災など、比較的初期の火災に有効な消火具です。各居室と浴室、更衣室の壁にホルダーで固定配置するのがおすすめです。認知症のご利用者様の居室ではご利用者様が間違えて噴射することがないよう、手が届かない場所に設置するなど置き方に注意が必要です。消火器より使用期限が短いため定期的に使用期限を確認する必要があります。

防炎カーテン

燃えにくい素材でできた防炎カーテンは火災の拡大を防ぎます。開所当時は「防炎」素材になっていたはずのカーテンや間仕切りが、いつの間にか交換され防炎ではなくなっていることがあるので、定期的に確認しましょう。あわせて、全てのカーテン、じゅうたん、カーペットに油汚れなどが付いていないか確認します。油汚れは引火の原因になります。

屋内用消火栓

屋内用消火栓を使えば、初期消火能力と延焼を阻止する力が格段に上がります。
他の設備に比べて、より専門的な知識が必要なので、防災訓練を行う際はスタッフ様全員が、放水訓練を実施することが火災発生時に慌てなくなるためのポイントです。
 
特に消火栓のホースの長さは、伸ばして確認しておきます。消火活動時にホースが長すぎて絡まってしまうことで水が出なかったり、スタッフ様が足を絡めて転倒したりする問題も発生しがちです。使いにくい場合はホースの連結を外して使う方法もあります。設備によって若干仕様が異なるので平時に自施設の消火栓の仕様を確認しておいてください。

まとめ

初期対応で大切な3つの行動、「119番通報」「水平避難」「初期消火」を中心に紹介しました。知識として知っておくのはもちろん大事ですが、新人教育や日頃の訓練を通して、スタッフ様全員が共通意識を持つことが、いざという時の行動につながります。今回ご紹介したことを役立ててもらえれば幸いです。

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