コラム

2024年5月21日更新

介護業界に求められるコンプライアンスとは?違反事例と対策も紹介

監修者 中野秀俊氏のプロフィール写真

監修者プロフィール/中野 秀俊(なかの・ひでとし)
グローウィル国際法律事務所代表弁護士。早稲田大学政治経済学部卒。東京弁護士会所属。
大学時代、システム開発会社を立ち上げ、一時期は月商4,000万円以上を売り上げるIT企業を経営するも、契約トラブルなどの法律問題が原因で、事業に失敗。その後、弁護士へ。
IT企業を経営していた経験から、IT・ウェブ関係の案件を数多く担当し、その相談件数は2,000件以上。IT・ウェブ法務の知識を生かし、企業のSNS運用について、法律面のアドバイスも多数行っている。

介護施設でサービスを提供する際、遵守すべき法律や規制が数多く存在しています。ルールから逸脱すると、事業者には社会的・金銭的なペナルティーが科されるため、コンプライアンスは経営リスクの面でも重要です。

今回は、介護施設の経営者・管理者として知っておきたいコンプライアンスについて、違反に該当する具体的な事例と対策とともに解説します。

そもそもコンプライアンス(法令遵守)とは?

コンプライアンスとは「法律や条例の遵守」を意味し、近年は社会規範や道徳に従う意味も含まれています。そのため、社会生活上当たり前のルールや社内規則を守らなかった場合もコンプライアンス違反となります。

介護事業に当てはめてみると、介護保険法、労働基準法、高齢者虐待防止法、個人情報保護法など守るべき法令は多数あります。それらを守ることが安定した事業運営につながり、利用者・職員との信頼関係を築くことにもつながります。また、介護事業の主な収入源は保険料や税金を財源とした介護報酬であることを考えると、社会的にもコンプライアンスの徹底は求められると言えるでしょう。
これから介護事業者に関わる主な法令別に、コンプライアンスの内容を紹介していきます。

【法令別】介護業界で重視される主なコンプライアンスの例

介護保険法

介護保険法は、高齢者が尊厳を持って自立した生活を送れる環境を守るための法律です。そのため介護にあたる事業所では以下のような内容の遵守が求められます。

【介護保険法の遵守例】

  • 利用者の人格を尊重する
  • ケア業務を忠実に行う
  • 財務管理を適切に行う

具体例としては、プライバシーに配慮したケアを行うこと、施設の収支を複数人の職員でチェックし管理したりすることが該当します。

労働基準法(労働法規)

労働基準法は労働者の権利や労働環境を保護する目的で定められた法律です。介護職員を雇用する介護施設も使用者として以下のような内容の遵守が求められます。

【労働基準法の遵守例】

  • 残業代や深夜割増賃金を適正に支払う
  • 休憩・休日を確実に取得できるようにする
  • 過重労働による健康障害を防ぐ

具体例としては、一部の職員に偏りが出ないようにシフトを組むこと、職員の勤務時間を正確に記録することが該当します。

高齢者虐待防止法

高齢者虐待防止法は虐待を防ぐとともに、万が一発生した場合も早期発見・対応するための法律です。利用者の権利を守るために、事業者には以下のような内容の遵守が求められます。

【高齢者虐待防止法の遵守例】

  • 利用者に対して身体面・精神面を問わずいかなる虐待も行わない
  • 虐待行為を発見したらすぐに施設から自治体の担当窓口や地域包括支援センターに通報する

職員から虐待行為の報告があった場合は、事実確認ができ次第自治体などに通報する必要があります。同時に施設内でも該当職員への指導と再発防止策の検討を始めなければいけません。

個人情報保護法

個人情報保護法は個人の権利や利益を守るために、氏名や住所などの個人情報の取り扱いについて定めた法律です。介護現場でも利用者やその家族の個人情報を預かっているため以下のような内容の遵守が求められます。

【個人情報保護法の遵守例】

  • 個人情報を提供してもらう際は本人や家族に目的を伝え、目的外では使用しない
  • 情報漏えいを防ぐためにセキュリティ対策(セキュリティソフトを最新のものにする、パスワードを強固なものにする)を講じる

具体例としては、施設のパンフレットやSNSに利用者が写った写真を使う際は本人や家族に使用許可を得る、各種データのパスワードはそれぞれ違うものを設定することなどが該当します。

コンプライアンス違反の事例と対策

介護報酬の不正請求

【事例】
実際よりもサービスの提供回数を水増しし、不正に介護報酬の請求を行った。

このような場合、事業者の指定の効力の停止や指定取消などに加え、課徴金徴収の行政処分が下されます(介護保険法第77条など)。いずれの場合も事業者名が公表されるため、その後の信頼回復は非常に困難です。
ちなみに厚生労働省の資料*1によると、令和3年度の不正請求による指定の効力の停止は24件、指定取消処分は28件と、それぞれ最も多い事由となっています。

  1. *1
    厚生労働省 総務課介護保険指導室「全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料 令和5年3月」第7表、第8表

【対策】
不正請求は主に経営層が主導することが多いため、役員の数を増やして互いに監視する体制を整えたり、定期的に外部監査を依頼したりする対策が効果的です。

利用者への虐待行為

【事例】
「しつけ」と称して職員が利用者に暴力をふるったり、怒鳴ったりするなど、身体的・心理的な虐待を行った。

介護保険法では、介護職員は要介護者の人格を尊重し、利用者の立場に立って業務にあたることが定められています(64条の34第1項)。事業者にも同様の義務があり(同74条6項等)、違反すれば指定の効力の停止や指定取消の行政処分が下されます。

【対策】
利用者への虐待行為は、職員の過度なストレスに起因することもあるため、事業者には十分な介護人員の配置、定期的な職員へのヒアリング実施などの事前対策が求められます。

サービス残業の慢性化

【事例】
介護記録の記入は慣例的に退勤後に行うことになっているため勤務時間に含まず、その分の残業代を職員に支払っていなかった。

労働基準法では残業代は1分単位で発生すると定められ、過少申告させた場合は労働基準法違反となり(第37条)、事業者には労働基準監督署による行政指導が行われます。

【対策】
残業代の予算確保、勤務時間・残業時間の管理方法の周知、現場の実態をヒアリングするといった取り組みが必要です。

職員にコンプライアンスを徹底してもらうには?

マニュアルを設置する

コンプライアンスのためのマニュアルを設置し、施設で守るべきルールを明確にすることが大切です。職員が法令や規則の内容とその重要性を理解していない場合、違反行為に気付かず、繰り返す恐れがあります。
また、マニュアルで禁止行動や許容範囲を明確に示すことは、職員が迷わずに適切な行動を取ることにもつながります。管理者や現場リーダーも基準に基づいた指導や教育ができます。

定期的に研修を行う

倫理や法令、適切な判断については全ての職員が常に意識することが重要なため定期的な研修の実施は効果的です。
内容は介護保険法の勉強会や違反行為のケーススタディー、経営層向け研修など各施設がそのときに必要なものを実施しましょう。業務として研修の時間を確保することで、多忙な介護現場でも落ち着いて取り組めます。

内部監査の体制を整える

継続的にコンプライアンスを徹底するためには、法務部門や管理部門が中心となって違反が起きていないかチェックする体制が必要です。
新たに内部監査の担当者を設けて、定期的に施設の財務状況や現場の様子をチェックする方法があります。また、職員や利用者に勤務体制やケアの内容などについてアンケートを取ったり、社労士による労務監査を行ったりすることも効果的です。

相談しやすい環境を作る

職員がすぐに同僚や管理者に報告・相談ができる環境を整えると、問題を未然に防げるほか、万が一問題が起きてしまったときにも被害を最小限に抑える効果が期待できます。職員全員に対して定期的に面談の時間を設けたり、新人のスタッフにはメンター制度を導入したりする方法があります。

コンプライアンス徹底は安全で快適な施設づくりに必須

介護業界におけるコンプライアンスは事業者と利用者・職員の信頼関係を築くために不可欠です。さらに、法令やその他のルールを守ることは利用者と職員の安全を守ることにも直結します。マニュアルの整備や研修などを通して、職員全員にコンプライアンス徹底の意識を共有し、安全で快適な施設環境を強固なものにしましょう。

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