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コラム

2024年6月18日更新

技能実習制度が廃止!?新制度「育成就労制度」が与える介護業界への影響は?

監修者 小濱道博氏のプロフィール写真

監修者プロフィール/小濱 道博(こはま・みちひろ)
小濱介護経営事務所代表
C-MAS 介護事業経営研究会最高顧問
C-SR 一般社団法人医療介護経営研究会専務理事
日本各地で介護経営支援を手がける。全国で年間250件以上の介護事業経営セミナーの講師を務め、例年延べ2万人以上の集客実績をもつ。全国の介護保険課、各協会、社会福祉協議会、介護労働安定センター等の主催講演会での講師実績は多数。介護経営の支援実績は全国に多数あり。
著書:「実地指導はこれでOK!おさえておきたい算定要件シリーズ」第一法規、「これならわかる<スッキリ図解> 介護BCP」翔泳社、「これならわかる<スッキリ図解> LIFE」翔泳社、「これならわかる<スッキリ図解> 運営指導」翔泳社、「よくわかる実地指導への対応マニュアル」日本医療企画、「介護経営福祉士テキスト〜介護報酬編」日本医療企画、「これならわかる<スッキリ図解> 介護ビジネス」(共著) 翔泳社。
ソリマチ「会計王介護事業所スタイル」の監修を担当。

現在の技能実習制度については、政府の有識者会議(技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議)が行われ、現行制度を廃止し新制度「育成就労制度」を創設する方向で話が進められています。
医療福祉の分野で働く技能実習生は15,957人(厚生労働省発表・令和5年10月末時点)にのぼり介護業界にも関係が深い制度です。

そこで今回は、新制度に切り替える目的と制度の概要、介護業界への影響について解説します。 

  • 2024年3月時点の情報で記事を執筆しています。

育成就労制度に切り替えるのはなぜ?

新制度に移行する大きな理由は、現行の制度で指摘されている問題を解消することです。

現行の制度は「人材育成」を目的としていましたが、現場で人手が不足する業界を中心に技能実習生を「人材確保」の要員とみなす受け入れ機関も多く、「制度の目的」と「現場の意識」に隔たりがありました。加えて、過酷な労働環境や労働条件の実態を規制できておらず、国際的にも問題視されていた点も移行を促す要因の一つです。

新制度への移行には、外国人材の人権に配慮しつつ、地域社会を共に支える一員として適正な受け入れを図り、問題解決につなげる狙いがあります。その上で、日本で働く外国人が能力を最大限に発揮できる多様性に富んだ活力ある社会を目指しています。

なお、法案は2024年に国会に提出され、改正法の施行は2025年~2027年になる見込みです。

育成就労制度の概要。技能実習制度との違いは?

政府の有識者会議を踏まえた最終報告書が2023年11月に法務大臣に提出されました。介護業界への影響が考えられる、現行の技能実習制度との主な違いは以下の通りです。

 

技能実習制度

育成就労制度(新制度)

目的

人材育成を通じた国際貢献

人材確保と人材育成
(基本的に3年間の育成機関で特定技能1号の水準に)


対象分野

職種が特定技能の分野と不一致

特定技能制度における「特定産業分野」の12分野に限定
例)介護・建設・造船など


受け入れ見込み数の設定

受け入れ企業の規模に伴って上限あり

  • 対象分野ごとに受け入れ見込み数を設定
  • 設定した数は経済情勢の変化に応じて適宜変更する


転籍の在り方

原則不可

  • 「やむを得ない場合の転籍」の範囲を拡大・明確化
  • 「同一機関での就労が1年以上」などの要件を満たす場合、本人の意向による転籍が認められる(同じ分野に限る)


監理・支援・保護の在り方

  • 監理団体、登録支援機関、技能実習機構の指導監督や支援の体制面で不十分な面がある
  • 悪質な送出機関が存在

  • 技能実習機構や労働基準監督署などによる特定技能外国人への相談援助業務の追加
  • 「財政基盤」「相談対応体制」など監理団体の許可要件などの厳格化


日本語能力の向上方策

  • 1年目 A2相当以上の試験(日本語能力試験N4等)合格レベル
  • 2年目 B1相当以上の試験(日本語能力試験N3等)合格レベル

継続的な学習による段階的な日本語能力向上
例)就労開始前にA1相当以上の試験(日本語能力試験N5等)合格又は相当講習受講


人員配置基準

以下のいずれかに該当すれば職員等とみなしカウントできる。

  • 実習を開始した日から6カ月経過
  • 日本語能力試験のN2またはN1に合格

日本語の能力および指導の実施状況、事業所の管理者の意見等を勘案すれば、実習開始日から6カ月を経過していなくても職員等とみなしカウントできる。ただし、以下の条件を満たすこと。

  • 一定の経験のある職員とチームでケアを行う体制とすること
  • 組織的に安全対策を実施する体制を整備していること


介護業界への影響は?

労働条件によっては実習生の流出も

現制度は実習生の転籍を認めていませんでしたが、新制度では1年以上同じ事業所で働いた場合など一定の要件を満たせば本人の意向による転籍もできます。

現制度下では、実習生が自由に転籍できないことで、低賃金や残業代の未払い、ハラスメント、実習計画と異なる単純作業だけを任せるなど、過酷な労働環境に置かれているケースもあり問題視されていました。
これらの問題を解決するための新制度移行ではありますが、今後、いまは問題のない事業所であっても他の施設に比べて条件が悪いと実習生が流出する恐れがあります。

新制度では人材確保が目的の一つであるため、受け入れ人数枠の制限、支援体制の要件が適正化されます。育成就労制度を活用する際、介護事業所は情報収集に努め、自治体の補助金などを活用しながら、支援体制や受け入れ体制を見直すことが求められるでしょう。

依頼する監理団体の精査

介護業界では監理団体を通して技能実習を受け入れる「団体監理型」が主流です。本来、監理団体には実習生のフォローや受け入れ機関への指導をする役割があります。しかし現行制度下では、実習生のフォローなどをほとんど行わず、受け入れ機関への監査・指導も怠るケースが散見され、問題視されていました。
そうした問題の解決に向け、新制度では職員の配置、財政基盤、相談対応体制など、監理団体の許可要件が厳格化されます。

また、現在は受け入れ機関と密接な関係にある人が監理団体の役職員を兼務するケースも見られましたが、新制度では制限され、外部監視も強化されます。そうすることで独立性・中立性を確保する狙いがあります。

制度上は外部監視が強化されるものの、受け入れ機関となる介護事業所として監理団体を選ぶ際には、介護業界への実績、実習生へのサポート体制なども考慮するとよいでしょう。

人材の採用の幅が広がる

介護分野で技能実習生を受け入れる場合、日本語能力A2相当以上の試験(日本語能力試験N4等)合格が要件(第1号技能実習の場合)になっています。
一方で、育成就労制度では対象者条件が緩和されており、就労開始までにA1相当以上の試験(日本語能力試験N5等)合格レベルであることが要件になっています。制度上のハードルが下がり、事業所としては採用の選択肢として取り入れやすくなると言えます。
しかし、その分日本語能力の向上に育成コストがかかることが想定されます。また、前記したように「1年以上同じ事業所で働いた場合、一定の要件を満たせば転籍できる」ようになります。育成コストが無駄になることも考えられ、より条件のよい環境を求め、地方から都市部に人材が集中することも懸念されています。そうした理由から、受け入れに慎重になる事業所も増えるかもしれません。

新制度への対応に慌てないよう動向に注目を

介護業界への影響も大きい「技能実習制度」の廃止と新たな「育成就労制度」の創設。いざ新制度への対応が求められた際に慌てないよう、今から議論の動向に注目しておくことが大切です。


参考:
厚生労働省「「外国人雇用状況」の届出状況表一覧(令和5年10月末時点)

厚生労働省 第6回外国人介護人材の業務の在り方に関する検討会「改正法の概要(育成就労制度の創設等)
法務省 技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議「最終報告書(概要)
法務省 技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議「中間報告書(概要)

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