コラム

2017年9月11日更新

特別養護老人ホームの「内部留保問題」を考える

特別養護老人ホームの内部留保の金額が明るみになった際に、マスコミや諸方面より集中砲火を浴びた社会福祉法人ですが、この問題提起は、逆に、法人本来の在り方を考え直す好機ともなりました。地域福祉の担い手の要として期待される社会福祉法人が、内部留保の再投資先として、社会福祉事業としての新しいサービスや、公益性の高い地域事業にどのように着手するか、地域包括ケアシステムの深化が進む今後の社会において、その動向が注目されます。

 
社会福祉法人の在り方を考え直すきっかけとなった内部留保問題

4年ほど前に、特別養護老人ホーム(以下、特養と略)の内部留保が問題になったことを覚えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
平成25年の社会保障審議会介護給付費分科会で、特養の内部留保額を試算した資料が公表されたことがその発端でした。
特養1施設あたり平均約3.1億円、総額で約2兆円もの内部留保が存在するという数字が明らかになり、これを機に、すべての社会福祉法人の財務諸表の公表など、ガバナンスの強化が求められるようになったのです。
 
当時、マスコミを始め諸方面から特養を経営する社会福祉法人に対し、「もうけすぎではないか?」という疑念や批判が集中しました。
議論の前提に、「社会福祉法人とは何なのか?」「内部留保とは何なのか?」という共通の土俵、理解がなかったからです。
そもそも、社会福祉を目的とする社会福祉法人は、利益を目的とする営利法人(株式会社等)とは、法人の目的が違います。「埋蔵金」という短絡的な表現で集中砲火を浴びたことは、社会福祉法人としての在り方を考え直す大きな引き金ともなりました。

 

税金面で優遇され、助成金や融資も受けやすい

社会福祉法人は、もともと戦災孤児をはじめとして、戦争で傷つき大きな痛手を負った人々を対象に支援の手を差し伸べるため、昭和26年に制定された社会福祉事業法に基づき、民間法人として創設されました。そのため、創設当初より、社会福祉法人が行う社会福祉事業、公益事業には法人税が課税されません。また、収益事業についても課税はされるものの、低い税率が適用されてきました。保有する固定資産についても、固定資産税は非課税です。
こういった税の減免のほかにも、社会福祉法人は、国や地方自治体から助成金を得たり、独立行政法人の福祉医療機構から低利で長期の融資を受けるなど恩恵を受けてきました。
 
税金面で優遇されている、助成金や融資を受けやすい、といった恵まれた背景をもっている特養に多額の内部留保があるということが指摘されたことで、「国や地方自治体から手厚い保護を受けているにもかかわらず、内部留保をため込んでいるのはけしからん」というストレートな批判が集中したものと思われます。
 
しかし、一方で、社会福祉法人は株式会社とは違い、利益を株主配当という形で処分できませんから、内部留保が溜まりがちになる、あるいは運営上留保しないと経営が立ちいかないといった、致し方ない面も孕んでいたのは事実です。

 
改正社会福祉法では、再投資されるべき内部留保を俎上に法人の在り方を問うている

ここで、社会福祉法人の内部留保とは何を意味するのかについて触れてみたいと思います。
社会福祉法人における内部留保とは、法人の「貸借対照表」に記載されている「純資産」から「基本金」と「国庫補助金等特別積立金」を除いた「次期繰越活動剰余金」と「その他積立金」を合計した金額を意味し、その合計額が、1施設で平均3.1億円あると試算されたわけです。
 
改正社会福祉法では、内部留保を事業継続に必要な最低限の内部留保と、再投資されるべき内部留保に仕分けし、後者については再投資計画を策定して再投資されることになりました。つまり、社会福祉事業に活用している不動産、施設の建て替えや大規模修繕に必要な自己資金、必要な運転資金に相当する額の合計したものを、事業継続に必要な最低限の額(前者)とし、それを超える資金が留保されている場合は、社会福祉事業(施設の新増設、新たなサービスの展開、人材への投資等)、地域公益事業(社会福祉事業として制度化されていないサービスを無料または低額な料金で提供する事業)、その他の公益事業といった順で再投資されるべき(後者)であるとしたのです。

 
地域福祉の担い手としての重要な役割を担うには

こうした流れを汲みつつ、今後の少子高齢化社会を見据えると、社会福祉法人の役割が自ずと明らかになってくるのではないでしょうか。
地域福祉の担い手としては、ますます重責を担うようになるでしょう。
自治体が主導する介護予防・日常生活支援総合事業に積極的に関わることも課題のひとつです。また、普及が伸び悩んでいる定期巡回随時対応型訪問介護看護の提供、介護予防事業のさらなる展開など、営利法人ではなかなか参入できないけれども社会的には必要とされているサービスはまだまだ多いはずです。共生型社会の流れをからいうと、今後は高齢者向けサービスだけでなく児童福祉、保育サービスへのニーズも高くなるでしょう。
 
そんな社会背景を鑑み、社会福祉法人は今までの前例にとらわれることなく、積極的に地域福祉に取り組み、内部留保を再投資に向けてほしいと考えます。
 

*参考資料:
「社会福祉法人の地域福祉戦略」(生活福祉機構 全国社会福祉法人経営者協議会監修)
「社会福祉法人におけるガバナンス強化とは」(みずほ情報総研レポートvol10 2015)

監修:株式会社エス・エム・エス

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