コラム

2018年10月31日更新

シリーズ:介護現場で役立つアンガーマネジメント(全3回)

【第2回】 「怒り」って何だろう

著者プロフィール / 田辺有理子(たなべ・ゆりこ) 一般社団法人日本アンガーマネジメント協会シニアファシリテーター、横浜市立大学医学部看護学科講師

アンガーマネジメントは、怒り(アンガー)と上手に付き合うための心理トレーニングで、怒りにまつわる後悔をしないことです。不要な怒りに振り回されず、そして必要な時には適切に怒りを表現できることを目指します。
第1回では、「アンガーマネジメントとは何か」を紹介しました。さて、今回は「怒りとは何か」について考えていきましょう。毎日怒ってばかりという人も、「怒り」についてあらためて考えてみるとよくわからないこともあるのです。

「怒り」とは

怒りは、自分の身を守るための感情です。同僚や後輩に注意したら「相手の機嫌が悪くなった」「逆ギレされた」という経験はありませんか。「せっかく教えてあげたのに」と思うところですが、これは相手にとっての防衛反応、身を守るための対処行動かもしれません。反論してしまうのは、そうやって自分が傷つかないようにしている場合もあります。痛いところを突かれたときほど、攻撃的になったりするものです。
 
赤の他人ならたいして気にならないことも、家族に対しては怒ってしまう経験もあるでしょう。怒りは身近な人に対して強く感じやすい性質があります。
介護の場面では、移動や排泄、入浴など、身体に触れるケアが多くあります。また、利用者と関わる時間が長くなるにつれて関係性が深まり、家族のような親密さが生まれることがあります。その一方で、利用者への指導・注意と言いながら、相手を自分の思い通りに動かそうとする危険性があることを意識しておきましょう。
 
怒りは、上から下へ、強い人から弱い人へ向けられやすい傾向があります。怒りっぽい上司だとパワーハラスメントを起こす危険性があり、スタッフの立場では、職場の人間関係のストレスやプライベートでのイライラを、無意識に立場の弱い利用者へぶつけてしまうこともあります。それが虐待や不適切ケアにつながるのです。

怒りの正体は自分の価値観

同じ状況にあっても、イライラする人もいれば、さほど気にならない人もいます。例えば、利用者が何度も同じことを聞いてきて、自分はイライラが募っているのに同僚は穏やかに対応している、あるいは自分は気にならないことに同僚が苛立っているという経験はありませんか。どうして人によって、物事の受け止め方が異なるのでしょうか。
怒りは、「誰かに何かされた、言われた」などの出来事に起因するものではなく、実は自分のなかに引き金があります。自分にとって正しいと思っていること、心地よいこと、期待していること、すなわち「自分の価値観と違う現実」に対峙したとき生まれる感情です。
 
普段の生活ではあまり価値観を意識することがないかもしれません。しかし、怒ったときに「普通はこういうことをしないでしょ?」「確認するのが当然じゃない?」「常識的に考えたらわかるでしょ?」「すぐに報告するのは当たり前でしょ」と言いたくなることはありませんか。この「普通は」「当然」「常識」「当たり前」あるいは「~のはず」というのが、あなたの価値観です。
 
この価値観は、自分にとっては普通で当たり前のことなので、気付きにくいのです。たとえば、皆さんは自分がお風呂に入ったときに、どこから洗いますか?
Aさんは、最初に髪を洗い、次に身体を洗う。Bさんは、いつも左足から。Cさんは、まずは洗顔から……など、個人によってそのパターンはさまざまです。
 
私たちは無意識にいつも同じパターンを繰り返していて、それが「当たり前」になっています。今度、違う順番で身体を洗ってみてください。きっと違和感がありますよ。また、入浴だけでなく、洗濯の頻度や干し方、衣類のたたみ方も人それぞれですし、食事の場面では食べる順番も好みも違います。介助者にとっては当たり前のことでも、介助される側にとっては、思い通りにならないことが多くあります。この違和感が不快感や怒りに発展していくのです。介護は、その人がこれまで培ってきた多様な生活様式をどれだけ尊重して心地よいケアを提供できるかが問われているといえます。

価値観の境界線とは

以下の図は価値観を模式的に示したものです。出来事や相手の反応・行動などが、自分の価値観と一致している状態を、中央のマルとします。つまり、自分にとって心地よく、怒りのない状態です。一回り外のマルは、自分の価値観とは少し違っているけれど許容範囲内、そしていちばん外側は、自分とは違う許容できない状態です。

自分にとっての「こうあるべき」という考えが強固で、他の価値観を受け入れられないと、イライラしやすく自分を苦しめる場合があります。相手の価値観を知り、ほかの考えを認めることで、日常のなかで起こるさまざまな出来事に対して許容範囲が広がるのです。
 
自分の価値観から外れた場面に出会ったときは、「あり得ない!」ではなく「そんなことがあるのね」と言い換えてみてください。相手の価値観を否定するのでなく、その人がどんな考えなのかを知るきっかけにしてみてはどうでしょう。自分の考えと違っても怒るほどでもないと許容範囲を広げていくと、些細なイライラから解放されます。
 
怒りの元は、自分が大事にしている価値観ですから簡単には変えられませんし、無理に変える必要もありません。しかし、怒るか否かの境界線が曖昧なことが多いのです。基準が定まらないと、怒るほどでもない出来事に怒ったり、許容できない状況に何も言わなかったり、自分の怒りの感情にうまく対処できないということが生じます。
 
「自分の価値観とは違うけれど怒るほどのこともない」「これは許せない」というように、価値観についての境界線を明確にしましょう。そして、そのときどきの状況で、境界線が大きくなったり小さくなったりしないよう、安定させることが大切です。
また自分が許容できる範囲について、「せめてこうしてほしい」と限界を示すことも、不要な怒りを回避するためには有効です。
 
自分の価値観に照らして許容できる範囲の境界線がわかったら、そこから外れた許せない出来事に対して怒る場面を考えていきましょう。第3回では、上手に怒るコツについてご紹介します。

参考書籍
田辺有理子:イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ(中央法規出版)
田辺有理子:イライラと賢くつきあい活気ある職場をつくる
介護リーダーのためのアンガーマネジメント活用法(第一法規出版)

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