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コラム

2018年12月26日更新

シリーズ:介護現場で役立つアンガーマネジメント(全3回)

【第3回】上手に怒ろう

著者プロフィール / 田辺有理子(たなべ・ゆりこ) 一般社団法人日本アンガーマネジメント協会シニアファシリテーター、横浜市立大学医学部看護学科講師

第1回では、「アンガーマネジメントとは何か」を紹介しました。アンガーマネジメントは、怒り(アンガー)と上手に付き合うための心理トレーニングです。第2回では、「怒りとは何か」、怒りの性質や怒りの元となる価値観について紹介してきました。怒りは自分の価値観と違う現実に対して生じる感情です。ほかの人の価値観を認めると怒るほどでもないと気づく場合もあります。
アンガーマネジメントとは、怒らないことではありません。不要な怒りに振り回されず、必要な時に怒りを表現できるようにすることです。最終回となる今回は、上手に怒りを表現して相手に伝える方法を考えていきましょう。

怒りを表出する際の注意点

「上手に怒る」とは、自分の価値観や規範から外れた状況に対峙したとき、冷静に事実や修正してほしい理由を伝えることです。
誰かに対して怒るとき、鬼の形相で声を荒らげたり、詰め寄ったりするようなイメージを持っている方もいるかもしれません。しかし、アンガーマネジメントの考え方に沿えば、怒ることは感情的に怒鳴ったり、罵声を浴びせたりすることではありません。怒りは、自分の価値観や期待と異なる現実に対して生じます。誰か相手がいる状況で怒っているのであれば、その相手に対して何か改善してほしいことがあるのではないでしょうか。
 
高齢者介護の現場には、年配者を敬う姿勢を持つ、個人の尊厳を守る、本人の意思を尊重する、安全安楽を提供する、施設としてのサービスや接遇を重視する、など、人それぞれの価値観や組織の規範があります。一緒に働いていても、同僚の対応に賛同できずいら立つことがあるものです。しかし、感情的になると怒っていることは伝わりますが、怒っている理由や改善してほしいことなど、本来伝えたいことが伝わりません。

入浴介助を嫌がるご利用者様への対応は?

ここで入浴への誘導場面を例に、介護職間のトラブルについて考えてみましょう。

・スタッフAさんは「本人の意向を尊重したい」と考えて、本人が拒否するときには入浴を無理に誘導しないことがあります。

・スタッフBさんは「清潔ケアを重視したい」と本人が嫌がっても何とか入浴してもらおうと誘導に時間をかけることがあります。

これは第2回で紹介した個人の価値観の違いで、どちらかが正解というものではありません。
 
しかし、お互いの介護の様子をみて、Aさんは、いつまでも入浴をすすめようとするBさんに対して「強引に誘導しなくてもいいのに」「本人の意向を軽んじている」と思っています。一方でBさんは、拒否されたらすぐに入浴をやめるAさんに対して「清潔が守れない」「入浴誘導の重要性を軽視している」と思っているかもしれません。

怒りのNGワード

上手に怒るためには、自分の感情に気づき、そして伝えることの練習が必要です。そこでまず、伝え方のNGワードを紹介します。皆さんは、怒ったときについ口をついて出てしまう言葉がありますか?人それぞれに口ぐせがあるものですが、ときにはそれが怒りを適切に伝えることを妨げている場合もあります。

(1)なんで?

「なんで?」と言う言葉は、言い方によっては相手を責めてしまうことがあります。
例えば、AさんがBさんに対して「なんであんなに強引なのかしら?」と言ったら、その言葉の裏には「強引にするべきではない」という価値観があります。BさんがAさんに向かって「なんでもっと工夫しないのよ!」と言えば、その言葉には「すぐに諦めるべきではない」という価値観が反映されています。これは自分の価値観を押し付けているともいえます。
 
介護の現場でミスや事故が起きたとき、理由を探り分析する作業は不可欠です。しかし、議論の進め方によってはとりあえず謝るか、言い訳するか、反論するかなど、不毛なやりとりに終わってしまうこともあるのです。

(2)いつも・絶対

「いつも」「絶対」という言葉が口ぐせになっている人も要注意です。
「Aさんはいつも入浴を拒否される」「Bさんは絶対強引に押し通す」などの言い方は、一方的に相手を決めつけてしまうので、言われた相手も「いつもじゃない」と反論したくなり、素直に意見を受け入れられないかもしれません。 また、その時の出来事が「いつも」とは限りません。
 
何事にも例外があることを念頭に置き、決めつけてしまわないように注意しましょう。「いつも」「絶対」とひとまとめにせず、今回の出来事だけに焦点をあてて話す心がけが必要です。

上手に怒るためのコツ

人が怒るのは、自分が期待していることや価値観と異なる現実に対峙したときです。その場面にはあなたの価値観が反映されます。怒って取り乱す前に、「私は何を大事にしたいのか」と自分に問いかけてみてください。「本人の意向を尊重したい」「清潔ケアを提供したい」など、自分が大切にしたいことがみえてきたら、それを伝えます。自分の気持ちを率直に伝え、改善してほしいことを具体的に提案するのです。
 
その際、命令するのでなく、相手にお願いする・リクエストするという言い方で伝えてみてはどうでしょう。例えば「しっかりして!」などと言われても、何をどう改善したらよいのかわかりませんから、具体的かつ小さな行動変容を提案します。
 
先のAさん、Bさんの例であれば、「入浴を拒否されても、すぐに諦めるのでなく時間をおいてもう一度誘導してみては?」「清潔ケアは大切だけど強引になり過ぎないようように、誘導の仕方についてカンファレンスをしませんか?」などです。
 
伝え方は練習すれば上達します。いろいろ試して、具体的に伝えるコツをつかんでいきましょう。
 
怒りやイライラが蔓延した職場も、一人ひとりが変われば、負の連鎖を断ち切ることができます。皆さんがイライラとうまく付き合えるようになって、イキイキと介護できる職場の輪を広げていきましょう。

参考書籍
田辺有理子:イライラとうまく付き合う介護職になる!アンガーマネジメントのすすめ(中央法規出版)
田辺有理子:イライラと賢くつきあい活気ある職場をつくる
介護リーダーのためのアンガーマネジメント活用法(第一法規出版)

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