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コラム

2019年8月27日更新

IAD(失禁関連皮膚炎)とは?ベストプラクティスを活用しよう!

介護の現場で働くみなさまは、IAD(Incontinence-Associated Dermatitis:失禁関連皮膚炎)をご存知でしょうか?
 
IADを発症したご利用者様は大きな苦痛を感じることから、現場で排泄ケアにあたるスタッフ様には、IADに関する正しい理解、予防・ケアの取り組みが求められます。
 
そこで今回は、一般社団法人日本創傷・オストミー・失禁管理学会によって編集された「IADベストプラクティス」に基づいて、IADの定義やアセスメント、予防・管理などについてご紹介します。

IAD(失禁関連皮膚炎)とは何か?

まずはIADの基礎知識として、定義と発生メカニズムについてご説明します。

IADの定義

IADとは、排泄物(尿/便/その両方)が皮膚に接触することで発生する皮膚炎です。IADに含まれるもの、主な皮疹、好発部位は以下の表に示すとおりです。

  • 大腿部などにも発生する可能性があるため、意識して観察することが大切。

IADを理解する上でポイントとなるのが、IADは特定の疾患を示す用語ではなく、複数の疾患単位が併存・共存している状態を示すものであるという点です。

IADの発生メカニズム

尿や便が皮膚に付着する頻度や時間の長さによって、角質細胞が膨潤・崩壊し、皮膚浸軟が生じます。それにより皮膚のバリア機能が低下し、尿や便の中に含まれる刺激物質が浸透、炎症が起こり、IADが発生します。
 
なお、近年ではIADは皮膚表面の角層だけでなく、より内部の真皮にも損傷を起こすことが疑われています。

 IADの発生メカニズムを表す図。水分、尿や便の付着、時間、回数がきっかけとなり、角質細胞の膨潤・崩壊・皮膚浸軟がおこり、TEWL上昇、pH上昇、角化細胞の損傷、サイトカイン放出、炎症、ヒスタミン遊離、炎症増加へとつながり、結果として皮膚障害(IAD)の状態となる。

 IADの発生メカニズムを表す図。水分、尿や便の付着、時間、回数がきっかけとなり、角質細胞の膨潤・崩壊・皮膚浸軟がおこり、TEWL上昇、pH上昇、角化細胞の損傷、サイトカイン放出、炎症、ヒスタミン遊離、炎症増加へとつながり、結果として皮膚障害(IAD)の状態となる。

 IADの発生メカニズムを表す図。水分、尿や便の付着、時間、回数がきっかけとなり、角質細胞の膨潤・崩壊・皮膚浸軟がおこり、TEWL上昇、pH上昇、角化細胞の損傷、サイトカイン放出、炎症、ヒスタミン遊離、炎症増加へとつながり、結果として皮膚障害(IAD)の状態となる。

一般社団法人 日本創傷・オストミー・失禁管理学会「IADベストプラクティス」 7ページ 図2 IADの発生メカニズムを参考に作成

IADのアセスメントについて

臨床現場でのIADのアセスメントに活用できるツールとして、日本創傷・オストミー・失禁管理学会が開発した「IAD-set(アイエーディ・セット)」という評価スケールがあります。
 
評価するのは「①皮膚の状態」と「②付着する排泄物のタイプ」の2点。①は「皮膚障害の程度」と「カンジダ症の疑い」を、②は「便」と「尿」を評価します。

①皮膚の状態

 ▼「皮膚障害の程度」の採点
 なし:0点、紅斑:1点、びらん:2点、潰瘍:3点
 ※1部位に複数の症状がある場合は、重症な症状を選ぶ。

 ▼「カンジダ症の疑い」の採点
 なし:0点、あり:1点
 ※診断前でも疑わしい場合は「1点」を選ぶ。

②付着する排泄物のタイプ

 ▼「便」の採点
 付着なし:0点、有形便:1点、軟便:2点、水様便:3点
 ※採点には便の形状を7タイプに分類した「ブリストルスケール」を用いて見解を統一する。

 ▼「尿」の採点
 付着なし:0点、正常:1点、感染の疑い:2点
 ※感染を疑う尿は、強い臭気を伴う尿(アンモニア臭)の有無を判断する必要がある。

「①皮膚の状態」は、肛門周辺、臀裂部、左臀部、右臀部、性器部(陰唇部/陰嚢・陰茎)、下腹部/恥骨部、左鼠径部、右鼠径部の8部位それぞれで観察します。
 
「①皮膚の状態」は、臀部の各部位(下図)の状態を評価した点数を以下のⅠの表に記入し、小計を求めて評価します。また、「②付着する排泄タイプ」は、排泄物のタイプを評価した点数を以下のⅡの表に記入して評価します。ⅠとⅡの小計を合計するとIAD-setの点数になります。この点数が高いほど重症、点数が下がることで改善したと判断できます。

「IAD-set(アイエーディ・セット)」という評価スケールを表す図。

「IAD-set(アイエーディ・セット)」という評価スケールを表す図。

「IAD-set(アイエーディ・セット)」という評価スケールを表す図。

一般社団法人 日本創傷・オストミー・失禁管理学会「IADベストプラクティス」 13ページ 図1 IAD-set を参考に作成

IADの予防と管理について

IADの予防・管理の指針を導くものとして「IAD-setケアアルゴリズム」(下図)があります。このアルゴリズムに従ってアセスメントを実施することで、排泄の自立度のケア、IADのアセスメント、皮膚のケア、排泄物のケアに役立てます。

 IAD-setケアアルゴリズムを表す図。

 IAD-setケアアルゴリズムを表す図。

 IAD-setケアアルゴリズムを表す図。

一般社団法人 日本創傷・オストミー・失禁管理学会「IADベストプラクティス」 19ページ 図1 IAD-setケアアルゴリズム を参考に作成

また、IADの発生リスクや重症化の可能性を判断するために、下記表に示す「全身要因・皮膚の脆弱化」「臀部・会陰部環境」の各項目をアセスメントします。一つでも該当する場合は、ケアの内容や頻度を考慮する必要があります。

IADの標準的スキンケア

IADの管理を行うための基本(標準的スキンケア)は、「清拭」「洗浄」「保湿」です。
なお、排泄物が軟便か水様便である場合、またリスクが高い尿の場合は「保護(撥水)」を加えます。
また、排泄物のタイプに応じて、排泄物の「収集」も行います。

スキンケアの具体例 有形便を管理する場合

ここからは、IADの標準的スキンケアを「どのように行うとよいのか」をご説明します。
具体例として、有形便(「付着する排泄タイプ」の点数が1点)を管理する場合を取り上げます。清拭、洗浄、保湿のそれぞれについて、ポイントを見ていきましょう。

【清拭のポイント】

  • 清拭は排泄ごとに行い、ウェットワイプで拭き取ります。
  • 皮膚への機械的刺激を抑えるため、強く擦らず、タオルなどの使用は控えます。
  • ウェットワイプで排泄物を除去するのが難しい場合は皮膚清拭剤を用います。
  • 皮膚清拭剤は拭き取りの際の滑りをよくし、機械的刺激の軽減が期待できるジメチコンやオイルが含有されたものを使用します。
  • 清拭だけで排泄物を除去するのが難しい場合は、ぬるま湯で洗い流します。

オイルやジメチコンを含有する皮膚洗浄剤の例

  •  「サニーナ薬用スプレー状おしりふき」の商品画像

【洗浄のポイント】

  • 弱酸性の皮膚洗浄剤で、1日1回、皮膚に付着した排泄物や垢を除去します。
  • 洗浄力の高い皮膚洗浄剤を用いる場合は、過剰に皮脂を除去しないよう慎重に使用します。
  • 皮膚への機械的刺激を抑えるため、スポンジやナイロンタオルの使用は控えます。
  • 泡状の洗浄剤を用いる場合は手指で優しく洗います。泡が立たないタイプは皮膚自体を強く擦らないようにします。
  • 洗い流す際はぬるま湯で、皮膚洗浄剤が残らないようにします。
  • 洗浄したあとに水分を拭き取る際は、擦らずに押さえ拭きをします。
  • たるみや肥満で皮膚が密着している場合は、皮膚と皮膚の間に排泄物が残るため、注意して洗浄します。
  • 皮膚洗浄剤で何度も洗浄すると皮膚が受ける化学的刺激が大きくなるため、排便回数が多くても、皮膚洗浄剤を用いた洗浄は1日1回とします。

弱酸性の皮膚洗浄剤の例

  •  「ソフティ泡洗浄料」の商品画像。

【保湿のポイント】

  • 保湿剤は1日1回、洗浄後か入浴後に塗布します。
  • 細胞間脂質(皮脂膜)を補強し、皮脂からの水分蒸散を抑えるエモリエント成分が主の保湿剤を使用します。
  • 皮膚(角層)に水分を与えるヒューメクタント成分を多く含む保湿剤は、浸軟がある皮膚には使用しません。
  • 皮膚バリア機能の向上と修復を図るため、セラミドや天然保湿因子(アミノ酸や乳酸など)を含む保湿剤が有効です。
  • 保護材は、排泄物が付着する可能性があるすべての範囲に使用します。
  • おむつは、日常生活自立度や身体のサイズ、失禁量を考慮して選びます。
  • 失禁後は有形便の皮膚への付着を防ぐためにできるだけ早くおむつ交換をします。便意を訴えるのが難しい場合は、失禁のタイミング・頻度・量などから判断します。

「IADベストプラクティス」の活用を

今回ご紹介した内容は、IADの概要説明にとどまります。IADに対する理解を深めていただくきっかけ、ケアについて考える第一ステップとして本コラムを活用いただければ幸いです。
 
なお、IADのケアを実践される場合は、日本創傷・オストミー・失禁管理学会が作成した「IADベストプラクティス」をご活用ください。本コラムの内容が詳細に、かつ分かりやすく解説されています。

 書籍「IADベストプラクティス」の表紙画像

「サニーナ」、「ソフティ 泡洗浄料」は一般社団法人 日本創傷・オストミー・失禁管理学会「IAD-setに基づくIADの予防と管理 IADベストプラクティス」(照林社刊)に掲載されています。
詳しくは書籍の紹介ページをご覧ください。

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