2020年12月22日更新
シリーズ:どう対応する?認知症ご利用者様の「入浴拒否」
【第3回】入浴を拒むご利用者様に対して控えたい対応とは 認知症介護チェック表も紹介
著者プロフィール/阿部哲也(あべ・てつや)
認知症介護研究・研修仙台センター副センター長/東北福祉大学 総合福祉学部 社会福祉学科 准教授
日本大学文理学部心理学科卒。東京国際大学大学院社会学研究科応用社会学専攻修了 修士号(社会学)。社会福祉法人 至誠学舎 サンメール尚和 武蔵野・小金井・田無・保谷地域デイケアセンター 主任相談員や高齢者痴呆介護研究・研修仙台センター 研修研究員といった経歴を持つ。著書・論文に『認知症の人の行動・心理症状(BPSD)への介護技術指導』(共著)、平成19年度厚生労働科学研究費補助金(長寿科学総合研究事業)報告書「認知症における標準的なケアモデルの構築に関する研究」などがある。
入浴拒否される認知症のご利用者様に対して控えたい対応
入浴には「皮膚を清潔にし、細菌感染を予防する」「血行改善や代謝促進によって健康を維持する」「筋肉の緊張や疲労を和らげリラックスしていただくことで、精神面の安定を促す」という目的があります。
これらを全て達成できるケアが理想的ですが、認知症のご利用者様については、まず浴室へ誘導する段階でつまずく介護スタッフ様が少なくないのではないでしょうか。ただ、だからといって「強引に入浴へ誘導する」「ご利用者様の要望を最優先して入浴を避ける」という対応は控えたいものです。以下、それぞれについて簡単にご説明します。
ご本人の気持ちを無視して無理やり入浴させようとする
清潔を保つために「お風呂に入ってください!」と叱ったり怒鳴ったりする、不潔だからと傷つけたりいきなり服を脱がせたりする行為は、ご利用者様の意思を尊重した介助とはいえません。介護スタッフ側の都合だけで無理やり入浴させることは、ご本人の不快感を増し、自尊心を傷つけることになるため避けましょう。
このような対応でも清潔を保持することはできますが、強引に介助しようとした介護スタッフ様や入浴行為への不安や恐怖が増してしまい、介護スタッフ様や入浴自体が不安を起こす原因になってしまいます。一度入浴への不安や恐怖が印象づけられてしまうとますます入浴への拒否が強くなり、理由もなく入浴自体が嫌いになってしまい、以後は入浴へ誘導したり、入浴したりすることがより一層困難になります。結果的にリラックス効果や血行促進だけでなく本来の目的である清潔保持や疾病予防も難しくなり、ご本人の健康な生活を阻害することになります。業務を優先して考えるのではなく、ご本人の気持ちを優先するよう気を付けましょう。
ご本人の気持ちを優先しすぎて、十分な入浴ができない
「お風呂に入りたくないとおっしゃっているので、入浴への誘導はしない」といった介助はされていませんか。ご本人の気持ちや要求を優先しすぎたことで、清潔の保持ができず、健康を損ねるような対応は絶対に避けなければいけません。十分な入浴ができなかったことが理由で、皮膚病になる恐れもあります。気持ちや要求を尊重することはとても重要ですが、健康を損なうことはご本人にとっても本意とはいえないでしょう。
「ご利用者様の気持ちを尊重したケア」とは、希望を優先するだけでなく、ご本人にとって最も良い状態を考えてケアすることです。入浴を拒否する理由を丁寧に読み取り、その理由に対して最も適切な関わり方を検討しましょう。
入浴拒否されるご利用者様への適切な関わり方を考えるには?
認知症介護研究・研修仙台センターでは、2010年に全国の認知症対応型共同生活介護事業所の職員を対象に食事や入浴、排泄に関する介護の成功事例を調査しました。翌年、それらの結果を整理し、食事・入浴・排泄時に起こりやすい症状に対する考え方やケアの方法をチェックするための「介護チェック表」と「解説集」を作成しました。
ここでは「入浴拒否課題 介護チェック表」をベースに、入浴拒否されるご利用者様への関わり方を考えるにあたって押さえておきたいポイントを、順を追ってご紹介したいと思います。
▼「入浴拒否課題 介護チェック表」の全体像(一部抜粋)
【ステップ1】ご本人の情報や現場の状況を確認する
最初に、入浴を拒んでいるご利用者様の身体機能の自立度と認知症の重症度を把握します。あわせて、「入浴を拒んでいるときのご利用者様の様子(表情・発言の内容など)」「周囲の状況」「入浴方法」なども確認しましょう。入浴を拒んでいる理由は個々に異なりますから、できるだけ詳細に把握した方が、原因や関わり方を考える上で役立ちます。
【ステップ2】不適切な対応例と考え方を確認する
適切な関わり方を考える前に、「入浴介助時に控えたい対応」を確認しながら、現在行っているケアが不適切ではないか振り返ってください。上部でご紹介した「入浴介助時に控えたい対応」はもちろん、チェック表に記載している項目も活用いただければと思います。もしこれらに該当するケアを取っている場合は、ステップ3で紹介する「ケア方針」を参考に、すぐに改善する必要があります。
【ステップ3】ケアの方針を確認する
入浴拒否されるご利用者様への関わり方を考える上で踏まえておかなければいけないケアの方針を確認します。できればチーム全員の認識が共通化されるよう、カンファレンスでチームのケア方針を確認しましょう。
以下3つの方針は、拒否の原因や適切な関わり方を考える上で常に守らなければならないことです。全ての方針を念頭に適切なケアを考えましょう。
【ステップ4】原因を分析する(アセスメントを行う)
入浴を拒否する原因は、身体機能や疾患、認知機能や中核症状、心理や気分、性格、入浴方法、さらに介護スタッフ様や他のご利用者様との関係性といった人間関係など、多くの要素が複雑に関連しています。「体調不良」が入浴拒否の原因だと思っていたケースでも、認知機能や心理などが関連し合っているかもしれません。考えられる入浴拒否の原因を全て洗い出してください。
【ステップ5】ケアの方向性を確認する
原因と考えられる項目が明らかになったら、それに対するケアの方向性を決めます。認知機能の低下が原因であれば、そのご利用者様は自身の身体の異変を適切に伝えることが難しいので、介護スタッフ様がいつもと違う状態を見逃さないように小まめに観察する必要があります。
【ステップ6】取り組み例を参考に関わり方を検討する
ケアの方向性が決まったら、取り組み例を参考に現在行っている関わり方を確認したり、ご本人の状態や原因に応じたケアをしたりします。あくまでも例ですから、ご本人の状況に合わせてアレンジすることが大切です。
▼取り組み例
例えば、入浴拒否をされる原因として「今まで行ってきた入浴方法と現在の入浴方法が異なる」がある場合、いつもと違う出来事に対して混乱しているのかもしれません。このケースへの関わり方として「入浴方法の工夫」を検討するならば、今までの入浴習慣や意向を確認しながら、ご本人のペースに従ってケアすることが重要です。
具体的には「ご本人のやり方(こだわり)を聞きながら、必要な(できない)部分を支援する」「一つひとつ手順を説明し、ご本人が混乱しないようケアする」「いきなりお湯をかけるのではなく、ご本人に確認しながらゆっくりとお湯をかける」などがあります。
入浴拒否への関わり方を検討される際は、「入浴方法の工夫」のほか、以下6つの点を意識することも大切です。
【ステップ7】現在の状態を確認する
最後に、介護スタッフ様のケアがご本人にとって適切であったのかを評価し、今後の指針を決めます。
ケアする前と後でどのような良い変化があったのかを把握するには、日頃から入浴拒否の回数やご本人の表情・行動・しぐさを確認することが大切です。「入浴できるようになったか」だけでなく、「ご本人の気持ちが落ち着いているか」も忘れずにチェックしましょう。
もしご本人の状態が良くならなければ、【ステップ1】に戻り、不適切な対応やケア方針、原因、ケアを確認しながら改善していく必要があります。【ステップ7】は適切なケアを行う上で最も重要な項目ですので、入浴介助後は常に現在の状態を確認しましょう。
最後に
これまで3回にわたって、入浴拒否をされる認知症ご利用者様への関わり方を保坂氏と共に解説しました。適切なケアを行うには、原因を明らかにし、改善策を考えることが基本です。原因は複数の要因が関係していますから、複数の可能性を考え、複数のケアを行うことが求められます。
ご本人が持っている特性と認知症による認知機能の低下や中核症状は、変えることができないことを忘れないでください。指示したり、命令してご利用者様をコントロールしたりすることには意味がありません。むしろ環境や関わり方を見直し、ご本人の状態に合わせて関わることが重要です。ご利用者様の気持ちや気分を安定させることや意欲的に生活いただけることが、入浴への抵抗感を緩和する早道になるでしょう。
※本記事で紹介したチェック表についてくわしくは「初めての認知症介護 『食事・入浴・排泄編』・解説集(認知症介護チェック表付)」をご覧ください。
参考資料:
認知症介護研究・研修仙台センター「初めての認知症介護 解説集 食事・入浴・排泄編」、平成21年度老人保健健康増進等事業報告書、平成22年
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