コラム

2021年8月31日更新

認知症ご利用者様の言動の裏にある「思い」とは

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著者プロフィール/橋本萌子(はしもと・もえこ) 
認知症介護研究・研修東京センター研修主幹 神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科保健福祉学専攻修了 修士号(社会福祉学)。日本赤十字社総合福祉センターにて介護福祉士として勤務後、2019年より現職。主に認知症介護指導者養成研修を担当。

認知症ご利用者様の言動は、ご本人の認知機能の低下によって意図の表現が難しくなり、ゆえに、言動の意図を介護者側が理解することが難しいことがあります。そのため、どのように対処したら良いか分からず困っているスタッフ様もいらっしゃるでしょう。

そこで今回は認知症介護研究・研修東京センターの橋本 萌子氏に、言動の裏にある認知症の方の思いや言動の原因、対処法を解説していただきました。現場でよく見られる5つのケース別にご紹介していますので、対処に困っている症状を選んで日々のケアにお役立てください。

ケース1:妻の浮気を疑うAさん

認知症の方の場合、「物を盗まれた」「悪口を言われた」など事実ではないことを本当に起きたと思い込んでしまうことがあります。具体例として、妻の浮気を疑うAさんのケースを紹介します。

現場の状況

Aさん(68歳・男性)は3年前に退職した直後にレビー小体型認知症と診断されました。自宅で妻と2人で暮らしていましたが、妻の介護負担が大きく、2日前からショートステイを利用し始めました。Aさんはスタッフ様に度々「妻は浮気をしているに違いない」と興奮した様子で訴えています。

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スタッフ様の気持ち:
配偶者様が浮気をしていると思い込んでいるAさんに対して「これはAさんの勘違いだ。奥様のことを悪く言うなんてひどい」と思っています。

ご利用者様の思い:
Aさんは「妻は俺を施設に入れて、俺の知らない所で浮気しているに違いない」と思っています。

症状が見られる原因と対応法

認知症の方が事実でないことを本当だと思い込む原因の一つとして、劣等感を抱くことが挙げられます。
 
劣等感を感じさせる要因としては下記のようなものが挙げられます。

  • 退職したことで家庭や社会における役割の喪失感につながり、劣等感を強くさせる。
  • 今まで自力でできていた、排せつ場面における衣類の着脱やオムツの交換などを配偶者に頼らざるを得なくなることで対等であった夫婦間に格差が生じて劣等感を感じる。

認知症の方は「配偶者が浮気している」などと信じることにより、劣等感を解消しようとする心理過程が働きます。さらに、判断能力の低下によって妄想がより強くなります。
 
妄想症状が見られるAさんへの対応法としては、まずAさんが施設での役割を見つけられるようにサポートすることが挙げられます。例えば、草木の手入れが得意であれば、施設の植物の水やりをお願いしたり、自宅では食器洗いをすることが役割となっていれば、施設でもその役割を担ってもらったりすると、劣等感を軽減することにつながると考えられます。
 
また、配偶者の方にAさんの症状やその原因として劣等感が関係している可能性を伝え、Aさんとのコミュニケーションを工夫していただくことも対処法の一つです。具体的には、配偶者の方の自宅での過ごし方をAさんに伝えていただいたり、配偶者の方がAさんに頼っていただいたりすることで、劣等感の解消につながることがあります。

ケース2:食事介助を拒むBさん

認知症の方の中には、「着替えを嫌がる」「薬を飲まない」などスタッフ様からのケアを嫌がる方もいます。具体例として、食事介助を拒否するBさんのケースを紹介します。

現場の状況

Bさん(80歳・女性)はアルツハイマー型認知症で、特別養護老人ホームに入所しています。スタッフ様が食事介助をしようとするとBさんは口を開けず、食べたくない素振りをされます。

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スタッフ様の気持ち:
食事介助を拒否するBさんに対してスタッフ様は「食べないと体重が減少してしまうのに」と焦り、「私はBさんに食べてもらえるような介護ができない」と自分を責めています。

ご利用者様の思い:
食事介助を拒否するBさんは「今は食べたくないからご飯を勧めないでほしい」と思っています。

症状が見られる原因と対応法

認知症の方がご飯を食べない背景には、以下のように様々な要因が考えられます。

  • 意欲の低下や興味の欠如により食べる意欲が湧かない
  • 睡眠が足りていない
  • 失禁して不快な状態にある
  • 周囲がうるさく落ち着いて食べる環境にない
  • 薬の副作用で食欲が低下している

食事を拒否される認知症の方をケアする際、スタッフ様には様々な角度からご飯を食べない理由についてアセスメントすることが求められます。また、ご飯を食べてもらうことだけが目的となっていないか、立ち止まって考えることも必要です。ご利用者様が食事を拒否することはスタッフ様に対するメッセージ(例えば不満)であると考え、そのメッセージの意味を理解した上でケアすることが基本となります。

ケース3:施設から出ようとするCさん

施設の中や外を歩き回る行動も認知症の方によく見られます。具体例として、頻繁に施設の外に出ようとするCさんのケースを紹介します。

現場の状況

介護老人保健施設に入所して3日目のCさん(78歳・男性)は、そわそわした様子でいることが多く、昼夜問わず施設から出ようと玄関を探して歩き回っています。Cさんに対してスタッフ様は「外は天気が悪いからここにいた方がいいですよ」などと言ってごまかしながら、施設から外へ出ないよう対応しています。

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スタッフ様の気持ち:
施設から外へ出ようとするCさんに対してスタッフ様は「危ないから外に出ないでほしい」と思っています。また、Cさんが玄関を探し回り、施設から出ようとするのを止める度に業務が滞るため、対応に困っています。

ご利用者様の思い:
Cさんは「なぜここにいるのだろう。知らない場所に来てしまった。帰らなきゃ」と思っています。

症状が見られる原因と対応法

認知症の方が施設の中を歩く背景には、以下のような原因が考えられます。

  • 記憶障害や見当識障害により、なぜ施設にいるのかわからなくなっている
  • 慣れない環境で過ごすことに対して不安を感じている
  • 服用している薬の影響やせん妄で気持ちが落ち着かない

Cさんに対しては、まずCさんがなぜ施設から出ようとするのか考えることが必要です。ご本人になぜ外へ出たいのか聞いてみて、Cさんをアセスメントし、チームで対応を検討することが求められます。Cさんが施設から出ようとする本当の理由を知らなければ、その場しのぎの対応となってしまうでしょう。
 
認知症の方がそわそわしている背景としてよくあるのは、「不安」の感情です。そのため、ご利用者様の不安な気持ちに寄り添い、安心できる居心地の良い環境を提供することで落ち着く場合があります。

ケース4:失禁した下着を隠すDさん

失禁で汚れた下着を着たままでいる、トイレ以外の場所に放尿するなど排泄に関わる行動は、認知機能が低下している認知症の方によく見られます。具体例として、失禁した後に下着を隠すDさんのケースを紹介します。

現場の状況

グループホームに入居しているDさん(83歳・女性)は、失禁して汚れた下着をタンスにしまうことが度々あります。スタッフ様はそれを見つけ、Dさんに気付かれないようにため息をついています。

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スタッフ様の気持ち:
失禁して汚れた下着を何度もタンスにしまうDさんに対してスタッフ様は「汚れたものはタンスに入れないで下さいってこの間言ったのに」と困り、「汚れたものはタンスに入れず、スタッフに教えてほしい」と思っています。

ご利用者様の思い:
Dさんは「また下着を汚してしまった。情けないし、恥ずかしい」と思っています。

症状が見られる原因と対応法

認知症の方は、失禁した恥ずかしさや失敗を隠したいという気持ちから汚れた下着をタンスに隠すことがあります。

スタッフ様は、汚れた下着をタンスにしまっているのを見つけてもご本人を責めず、認知症の方の自尊心に配慮した対応をすることが大切です。また失禁には、歩行に時間がかかり間に合わない、トイレの場所が分からず漏れる、動作をすると漏れるなどの様々な要因があります。ご利用者様がなぜ失禁してしまうのか考えた上で有効な対応を検討することも重要となります。

ケース5:家に帰りたいと怒鳴るEさん

ご利用者様がスタッフ様に対して怒鳴ったり叩いたりする行動も、認知症の方によく見られます。具体例として、スタッフ様に対して攻撃的な言動が見られるEさんのケースを紹介します。

現場の状況

4日前に介護老人保健施設に入所したEさん(84歳・男性)は、入所した日からスタッフ様に怒りながら「家に帰らせてくれ」と言い、帰宅しようとします。2名のスタッフ様でドアの前に立ってEさんが施設から出ようとするのを阻止すると、Eさんは「どけ!こんな所にはいたくない!」とさらに大きな声で怒鳴ります。

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スタッフ様の気持ち:
大きな声で怒鳴って施設から出ようとするEさんに対してスタッフ様は「施設の外に出ては危ないから強引にでも阻止しなければ」と考えています。

ご利用者様の思い:
Eさんは「知り合いが誰もいないからここに居たくない。家に帰らせてくれないなんて、ここは酷いところだ」と思っています。

症状が見られる原因と対応法

認知症の方に攻撃的な言動が見られる背景には、以下のような原因が考えられます。

  • 認知症の進行によって感情のコントロールが難しくなっている
  • 入所したばかりで不安を抱えているところに強引な対応をされることで、攻撃的になってしまう
  • 服用している薬の副作用によって怒りっぽくなっている

Eさんのように家に帰ろうとして怒鳴る認知症の方の場合、スタッフ様はご本人がなぜ家に帰りたいのか考え、怒りが現れないよう予防に向けた関わりが求められます。ご利用者様の行動を強引に抑えることは逆効果となるだけではなく、ご利用者様との良好な関係を築くことも難しくなってしまいます。
 
もしご本人の同意なしに施設に入所した場合、認知症の方が家に帰りたいと思うのは当然です。どうしても施設にいてもらわなければならない状況であれば、まずご本人の気持ちに寄り添い、共感することが大切になります。そして今いる場所が少しでも心地良い場所になるような工夫や施設での役割・仲間作りを行いましょう。

ご利用者様の言動の裏にある「思い」を想像しよう

認知症の方をケアする際は、ご本人の言動だけに着目するのではなく、なぜそのような言動が見られるのか、ご本人が望んでいることは何かなど、言動の裏にある「思い」を想像しましょう。そして認知症の方が持つ能力を活かしながら、ご本人が望む生活を実現していくことが大切となります。
 
認知症介護情報ネットワークでは、認知症介護に関連する基礎的な知識について、事例をもとに動画を視聴しながら理解することができるweb学習システムを公開しています。自己確認テストで理解度を確認することもでき、学習教材としても活用可能です。詳しくは「動画で学ぶ認知症『知ってなるほど塾』」をご覧ください。

参考文献:
熊本大学大学院生命科学研究部神経精神医学分野「認知症における嫉妬妄想 治療マニュアル」2015年10月

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