2019年7月23日更新
身体拘束廃止に向けて~減算・取り組み事例・ご家族対応のヒントを紹介
介護施設等における身体拘束の状況
全日本病院協会が2016年に公表した身体拘束に関する調査結果の報告によれば、下記に示す11の行為について「行うことがある」と回答した介護施設等※は65.9%に上ることがわかりました。
身体拘束禁止の対象となる具体的な行為
また、2015年に全国抑制廃止研究会が9,225施設※を対象に行なった調査では、「1人以上の身体拘束を行っている」と回答した施設が、全体の2割となる2,069施設に上ったという結果が報告されています。
改定前
改定後
減算の単位
入所者全員について
5単位減算/日
入所者全員について
基本報酬の10%減算/日
講じるべき措置
身体的拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の入所者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録すること
減算対象サービス
介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護、特定施設入居者生活介護、介護医療院、認知症対応型共同生活介護、介護予防特定施設入居者生活介護、介護予防認知症対応型共同生活介護
改定後のポイントは、身体拘束を行っていない施設でも、上記表で示した①~④の措置を講じなければ減算されてしまう点です。「身体拘束を行ったかどうか」ではなく、「身体拘束を防ぐための取り組みを行っているかどうか」が改定後の基準になっています。
なお、①~④の措置を講じなかった場合は、その事実が発覚した翌月から、少なくとも3カ月は減算が適用されます。
減算となる場合は、まず改善計画と減算を開始する届け出を行い、3カ月後に改善状況を報告する必要があります。その後、減算を取り下げる届け出を行う流れです。
身体拘束廃止の取り組み事例
ここからは、実際に介護施設様が実施した身体拘束廃止の取り組みをご紹介します。
以下で4つの拘束の行為(車いすベルト、ベッド柵、ミトン型手袋、介護衣)を取り上げ、それぞれ拘束に至った「経緯」、改善を目指した「対応」、その後の「変化」をまとめています。
事例1:車いすベルト
■経緯
ご利用者様は歩行が不安定で普段は車いすを使用しているが、手をつなぐなどすれば自力で歩行が可能。ただし、急に立ち上がることがあり転倒が多く、事故が発生したこともあるため、車いすベルトを使用した。
■対応
■変化
事例2:ベッド柵
■経緯
ご利用者様がベッドから転落し、前頭部から出血(それまでも2度転落していた)。理由を尋ねたところ「泥棒が入ってきたので、捕まえようとした」とのこと。ご家族に相談し、ベッド柵を使用することになった。
■対応
■変化
事例3:ミトン型手袋
■経緯
ご利用者様は上半身の慢性的な湿疹で常に掻痒感があり、かき傷も多かった。また、挿入された経管チューブが不快なようで、自己抜去してしまう。かき傷の防止と経管チューブの自己抜去による事故を防止するため、右手に手袋を使用することになった。
■対応
■変化
事例4:介護衣(つなぎ服)
■経緯
胃ろう部の抜去を防止するため、入所前から介護衣(つなぎ服)を着用していたご利用者様。入所後は着用せずにいたが、胃ろう部をいじる行為が頻繁に見られ、流入中は職員が常に見守りを行わなければならなくなった。そのため、ご家族の了承を得て介護衣の使用を開始した。
■対応
■変化
ご家族から拘束を求められた場合はどうする?
やむを得ず身体拘束を行う場合は、ご利用者様のご家族に対し、どのように拘束するのか、またその理由や目的などを十分に説明し、ご理解いただく必要があります。
一方、介護施設様への迷惑やご利用者様のケガなどを案じて、ご家族の側から身体拘束を希望される(解除を拒否される)ケースもあります。
このような場合に取るべき対応のヒントになる考え方と取り組み例が、「千葉県身体拘束ゼロ作戦協議会」より示されているので、以下に抜粋・要約してご紹介します。
ご利用開始時にこれまで受けてきたケア、生活履歴などの情報を収集し、以下の事柄について、ご家族が十分に理解できるよう話し合う必要がある。
また、以下のような取り組みによってご家族とのコミュニケーションを良好なものにし、介護施設に対するご家族の信頼を高めていくことが必要と考えられる。
参考:千葉県身体拘束ゼロ作戦協議会「報告書『身体拘束の廃止に向けて』第2 介護保険施設等における身体拘束廃止に向けた取組を進めるために」
介護施設様としては事故のリスクやご家族からのクレームを憂慮し、身体拘束を受け入れることもあるかもしれません。そのような場合でも、ご利用者様の尊厳と安全を両立するために、ぜひ工夫ある取り組みを実施していただければ幸いです。
参考資料:
厚生労働省「身体拘束ゼロへの手引き」
厚生労働省「平成30年度介護報酬改定の主な事項について」
公益社団法人 全日本病院協会「身体拘束ゼロの実践に伴う課題に関する調査研究事業報告書」
特定非営利活動法人 全国抑制廃止研究会「平成26年度 介護保険関連施設等の身体拘束廃止の追跡調査及び身体拘束廃止の取組や意識等に関する調査研究事業報告書」
相模原市「身体拘束廃止未実施減算について」
財団法人東京都福祉保険財団 高齢者権利擁護支援センター「身体拘束廃止の取組み事例集(第2版)」
宮城県「平成29年度 身体拘束廃止取組状況調査及び意識調査結果|別紙 身体拘束廃止の具体的な取組(例)」
千葉県身体拘束ゼロ作戦協議会「報告書『身体拘束の廃止に向けて』第2 介護保険施設等における身体拘束廃止に向けた取組を進めるために」
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