コラム

2019年7月23日更新

身体拘束廃止に向けて~減算・取り組み事例・ご家族対応のヒントを紹介

介護施設における身体拘束を廃止するために設けられている「身体拘束廃止未実施減算」。以前は介護保険施設が主な対象でしたが、2018年度の介護報酬改定により減算対象が特定施設や認知高齢者グループホームにまで拡大され、基準も厳しく定められるようになりました。

今回は、身体拘束廃止未実施減算の改定後の基準をおさらいするとともに、実際に介護施設様が行った取り組み事例をご紹介します。

介護施設等における身体拘束の状況

全日本病院協会が2016年に公表した身体拘束に関する調査結果の報告によれば、下記に示す11の行為について「行うことがある」と回答した介護施設等は65.9%に上ることがわかりました。

※調査対象となった施設は介護老人保健施設介護老人福祉施設、特定施設(有料老人ホーム)、サービス付き高齢者向け住宅。有効回答数は312。

身体拘束禁止の対象となる具体的な行為

  1. 徘徊しないように、車いすやいす、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
  2. 転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
  3. 自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む。
  4. 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る。
  5. 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、または皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限するミトン型の手袋等をつける。
  6. 車いすやいすからずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型拘束帯や腰ベルト、車いすテーブルをつける。
  7. 立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるようないすを使用する。
  8. 脱衣やおむつはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる。
  9. 他人への迷惑行為を防ぐために、ベッドなどに体幹や四肢をひも等で縛る。
  10. 行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる。
  11. 自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する。

引用元:厚生労働省 身体拘束ゼロ作戦推進会議「身体拘束ゼロへの手引き」

また、2015年に全国抑制廃止研究会が9,225施設を対象に行なった調査では、「1人以上の身体拘束を行っている」と回答した施設が、全体の2割となる2,069施設に上ったという結果が報告されています。

※調査対象となった施設は介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設、介護療養型医療施設、医療療養病床、認知症グループホーム(認知症対応型共同生活介護事業所)、介護付き有料老人ホーム、サービス付き高齢者住宅。

2018年に見直された身体拘束廃止未実施減算

2018年度の介護報酬改定で「身体拘束廃止未実施減算」の減算対象が変更となりました。いま一度、変更点をおさらいしましょう(赤字が変更箇所です)。

2018年度介護報酬改定前後の「身体拘束廃止未実施減算」の比較

改定後のポイントは、身体拘束を行っていない施設でも、上記表で示した①~④の措置を講じなければ減算されてしまう点です。「身体拘束を行ったかどうか」ではなく、「身体拘束を防ぐための取り組みを行っているかどうか」が改定後の基準になっています。

なお、①~④の措置を講じなかった場合は、その事実が発覚した翌月から、少なくとも3カ月は減算が適用されます。
減算となる場合は、まず改善計画と減算を開始する届け出を行い、3カ月後に改善状況を報告する必要があります。その後、減算を取り下げる届け出を行う流れです。

身体拘束廃止の取り組み事例

ここからは、実際に介護施設様が実施した身体拘束廃止の取り組みをご紹介します。
以下で4つの拘束の行為(車いすベルト、ベッド柵、ミトン型手袋、介護衣)を取り上げ、それぞれ拘束に至った「経緯」、改善を目指した「対応」、その後の「変化」をまとめています。

事例1:車いすベルト

経緯

ご利用者様は歩行が不安定で普段は車いすを使用しているが、手をつなぐなどすれば自力で歩行が可能。ただし、急に立ち上がることがあり転倒が多く、事故が発生したこともあるため、車いすベルトを使用した。

対応

  • 車いすベルトを外し、重点的に見守りを実施した。
  • 足の訓練を兼ねて普通の車いすへの乗り換えを行った。
  • トイレに行く際は介助歩行を実施し、距離を伸ばしていった。
  • 気分にムラがあるため、本人のペースで取り組みを実施した。

変化

  • それまでの機械浴から、介助での一般浴が実現した。
  • 歩行状態が改善されたことで、外泊(ご自宅での生活)がしやすくなった。
  • 表情が次第に豊かになり、発語も増えた。

事例2:ベッド柵

経緯

ご利用者様がベッドから転落し、前頭部から出血(それまでも2度転落していた)。理由を尋ねたところ「泥棒が入ってきたので、捕まえようとした」とのこと。ご家族に相談し、ベッド柵を使用することになった。

対応

  • 転落がいずれも日中だったことから、その時間をレクリエーションやリハビリに充てた。
  • 衝撃緩和マットを購入し、臥床時はベッドの両脇の床に常時敷いた。
  • 見守りを強化し、日中と夜間の観察・巡回を増やした。

変化

  • レクリエーションなどでコミュニケーションの機会が増え、ご利用者様との距離が縮まった。
  • さまざまな工夫を行うことで職員側の不安が軽減された。

事例3:ミトン型手袋

経緯

ご利用者様は上半身の慢性的な湿疹で常に掻痒感があり、かき傷も多かった。また、挿入された経管チューブが不快なようで、自己抜去してしまう。かき傷の防止と経管チューブの自己抜去による事故を防止するため、右手に手袋を使用することになった。

対応

  • 機能回復が望めたため、摂食機能訓練を取り入れ、看護師や栄養士などが検討しながら続けた。
  • 摂食機能訓練の実施にあたっては、スタッフ一同で勉強会を行った。

変化

  • 摂食機能訓練から4カ月後には全粥、きざみ食が食べられるようになり、経管チューブを完全に抜去できた。
  • 経管チューブの抜去により誤嚥の危険が回避でき、身体拘束の廃止につながった。
  • 少しずつ食事を摂れるようになったことは、ご利用者様のADLや意欲向上にも大きく影響した。
  • 身体拘束を諦めていたご家族も、面会に来る楽しみが増えた様子。

事例4:介護衣(つなぎ服)

経緯

胃ろう部の抜去を防止するため、入所前から介護衣(つなぎ服)を着用していたご利用者様。入所後は着用せずにいたが、胃ろう部をいじる行為が頻繁に見られ、流入中は職員が常に見守りを行わなければならなくなった。そのため、ご家族の了承を得て介護衣の使用を開始した。

対応

  • 胃ろう部に意識が向かないよう、洗濯物畳みなどを手伝ってもらった。
  • 状況を見つつ経口摂取を進めた。

変化

  • 洗濯物畳みは、初めはすぐに飽きてしまっていたが、徐々に時間が延び、胃ろうを触ろうとすることが少なくなった。
  • 最終的に三食経口摂取となり、胃ろう部を触ったり気にしたりすることが少なくなった。

ご家族から拘束を求められた場合はどうする?

やむを得ず身体拘束を行う場合は、ご利用者様のご家族に対し、どのように拘束するのか、またその理由や目的などを十分に説明し、ご理解いただく必要があります。

一方、介護施設様への迷惑やご利用者様のケガなどを案じて、ご家族の側から身体拘束を希望される(解除を拒否される)ケースもあります。
このような場合に取るべき対応のヒントになる考え方と取り組み例が、「千葉県身体拘束ゼロ作戦協議会」より示されているので、以下に抜粋・要約してご紹介します。

ご利用開始時にこれまで受けてきたケア、生活履歴などの情報を収集し、以下の事柄について、ご家族が十分に理解できるよう話し合う必要がある。

  • 身体拘束は、原則的に禁止されていることを説明する。
  • 身体拘束をしないケアの具体的な取り組みの方向性を説明する。
  • 身体拘束をしないことによる事故の危険性について説明する。
  • 安全という名のもとに行われる身体拘束がもたらす弊害について説明する。

また、以下のような取り組みによってご家族とのコミュニケーションを良好なものにし、介護施設に対するご家族の信頼を高めていくことが必要と考えられる。

  • ご家族がケアの内容を確認できるよう、面接時間に制限を設けない。
  • ご利用者様の生活状況を日常的に伝える。
  • 他のご利用者様の身体拘束を解除した事例について説明する。
  • 拘束しないための代替方法を一緒に検討する。
  • 拘束を解除する際は安全性を確認しながら段階的に行い、ご家族に経過を見てもらう。

参考:千葉県身体拘束ゼロ作戦協議会「報告書『身体拘束の廃止に向けて』第2 介護保険施設等における身体拘束廃止に向けた取組を進めるために」

介護施設様としては事故のリスクやご家族からのクレームを憂慮し、身体拘束を受け入れることもあるかもしれません。そのような場合でも、ご利用者様の尊厳と安全を両立するために、ぜひ工夫ある取り組みを実施していただければ幸いです。

※「身体拘束廃止未実施減算」について、くわしくは各自治体の窓口にお問い合わせください。

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