コラム

2020年2月18日更新

介護ロボの導入はなぜ失敗する?原因と成功のヒント

著者 関口史郎氏のプロフィール写真

著者プロフィール/関口史郎(せきぐち・しろう) 
株式会社とげぬき 代表取締役
2010年の神奈川県事業をきっかけに介護ロボットの普及推進に関わる。以来、HAL、パロ、マッスルスーツなど20機種以上の導入を支援。介護ロボットの普及を目的にさまざまな活動を牽引してきた。

今、介護ロボットの活用に大きな注目が集まっています。その理由は大きく2つあります。
 
1つは介護分野の課題解決です。今後はさらなる人手の不足が予想される中、介護人材不足の解消をはじめ、業務に携わる人の負担軽減、それに高齢者の自立支援などにロボットの活躍が期待されています。
 
もう1つは新産業(ロボット産業)の育成です。「経済大国」と言われるまでに成長した我が国の製造業で培ったロボット技術を駆使すれば、介護分野の人手不足の解消になると同時に、大きな市場が創造されるという期待が寄せられているのです。
 
しかし、ロボットに限りませんが、新しいテクノロジーは、導入すれば上手くいくわけではないのです。そこで本稿では、施設の管理者様向けに介護ロボットの導入に失敗する原因と、成功のヒントとなる情報をお届けします。
 
なお、介護ロボットが活用される場所は大きく「在宅」と「施設」に分けることができますが、この記事では「施設」でロボットを導入・活用していくことを前提に話を進めます。

 

1.介護ロボットをめぐる現状

はじめに、国策として注力している介護分野におけるロボット開発・普及の取り組み状況をお伝えします。過去から現在に至るまでの流れを紹介いたします。

1-1.これまでの行政の取り組み

国や自治体では介護ロボットの普及に向けて、これまで支援や施策を次から次へと打ち出してきました。行政の支援や施策を個々に理解しようとすると全体の流れがつかめなくなりがちですので、ここでは大きなターニングポイントと思われる内容に注目して全体の動きを説明します。

1つ目は介護ロボットの普及に向けた政策のスタートです。それが平成30(2010)年度の神奈川県のモデル事業です。同県が国や他の自治体に先駆けて、介護ロボットの普及推進を図る事業をスタートさせました。当時から介護分野においては人材を取り巻くさまざまな課題がクローズアップされていましたが、その課題解決の一環としてロボット関連技術などを活かす、行政として最初の試みでした。

2つ目は、介護ロボットの開発支援の本格的なスタートです。これは「作り手」に対する支援です。平成25(2013)年6月に第二次安倍内閣が掲げる成長戦略で閣議決定されたのが「日本再興戦略」。そこには安価で利便性の高いロボット介護機器を開発するために「ロボット介護機器開発5ヵ年計画」が盛り込まれました。これを機に国が介護ロボットの開発支援に本格的に乗り出したのです。また、政府はKPI(Key Performance Indicator)を掲げ、令和2(2020)年に500億円の市場規模を目指すことにしました。さらに、介護ロボットの開発支援を行うための重点分野が定められました。当初は5分野8項目でしたが、平成29(2017)年10月の改訂により6分野13項目に拡張されました。

そして3つ目は、「使い手」に対する支援の本格化です。平成27(2015)年度厚生労働省補正予算の「介護ロボット等導入支援特別事業」では約52億円もの税金が投入され、補助率は10/10でした。全国が対象でしたので、これを機に介護ロボットの購入が全国に広がるようになりました。また、地域医療介護総合確保基金を充てた補助制度が都道府県単位で平成27(2015)年度から毎年実施されています。当初、補助の限度額は1台につき10万円でしたが、平成30(2018)年度にはそれが30万円に増額されました。

1-2.最近の大きな動き

上述の通り、平成25(2013)年から国が本格的に介護ロボットの開発を支援しているのですが、当初は「技術ありき」の製品も少なくなく、現場からの評価は決して良いと言えるものではありませんでした。
 
そこで、介護ロボットのシーズ・ニーズ協調のための協議会が全国に設置されるようになりました。目的は、開発前の着想段階から介護ロボットの開発の方向性について開発企業と介護現場が協議し、介護現場のニーズを反映した開発の提案内容を取りまとめることです。一方通行な開発ではなく、開発の初期段階から現場の声を反映させる取り組みが活発化してきたと言えます。
 
また、普及面の大きな動きについては「介護ロボットフォーラム」の開催が挙げられます。神奈川県、東京都、宮城県など各都道府県の高齢福祉部門がそれぞれに音頭を取って開催してきた介護ロボット関連のイベントと同じ内容ですが、厚生労働省の「介護ロボットの普及拠点事業」として全国47都道府県にて行われるようになったのです。

 

2.介護ロボットの導入が上手くいかない原因は?

介護ロボットには以前から「価格が高い」「使い勝手が悪い」といった問題が指摘されていましたが、これらについては少しずつ解消されつつあります。しかしながら、介護ロボットの導入が上手くいかないケースはまだ少なくありません。その主な原因は施設側にもあるので、探っていきます。

2-1.現場との共同作業になっていない

介護ロボットを導入しても上手くいかない大きな原因は、組織ができていないからです。例えば、「トップダウンで導入したが、現場と目標や目的などの共有ができていない」ということがよく見られます。トップが現場に対して「使うように!」と指示を出すのですが、それだけでは上手くいかないのです。導入に際しては周到な準備が必要であり、またトップから現場までをあらかじめ巻き込んでおく必要があるのです。

2-2.導入・活用の体制ができていない

組織ができていないという原因の一つでもありますが、導入に際して「担当職員を決めただけ」というケースがあります。現場への落とし込みが不十分なのです。そのため、担当者は表向きとは裏腹に「仕事が増えた!」「面倒だ!」「なぜ自分が?」と感じることになります。これでは、部下に何か新しい仕事を指示する際に、それまでの経緯や後の工程などを何も説明することなく、「これ、やっておいて!」と作業内容を断片的に指示するケースと同じで、上手くいかないのです。導入・活用するためには、きちんと体制をつくっておく必要があるのです。

2-3.目的と手段の履き違え

「目的と手段を履き違える」ケースが非常に多く見られます。介護ロボットの活用はある目的を達成する(課題を解決する)ための手段にすぎないのに、導入することが目的になってしまうのです。例えば、「補助金が出る!」との情報を得て、国や自治体の補助事業に飛びつき導入したものの、後に使わなくなってしまうケースです。「お得だから!」「県の人にすすめられたから!」などの理由で購入したものの、使わなくなってしまうのです。

 

3.介護ロボット導入成功のカギは、「現場」「体制」「仕組み」

介護ロボットの導入が上手くいかない原因についていくつか述べましたが、導入を成功させるためのカギは何でしょうか?
私は大きく3つのカギがあると考えています。

【介護ロボ導入成功の3つのカギ】
・経営陣と介護「現場」の共同作業
・導入・活用の環境(体制)を整える
・計画・目標設定や達成度を管理する仕組みをつくる

上記3つのカギを押さえることで、介護ロボットの導入・活用が成功したケースは多くあります。以下のサイトで事例をご紹介していますので、あわせてご参照ください。
 
参照:「介護ロボットの好事例

  • 介護ロボット経営実践会のホームページへリンクします。

3-1.経営陣と介護「現場」の共同作業

1つ目のカギは、経営陣と介護現場の共同作業です。経営陣が「やれ!」と指示し、職員が嫌々やるような方法では組織が動きません。一方、現場がいくら乗り気であっても経営陣が納得できなければ、ロボット購入の資金は出せません。トップダウンとボトムアップの調和が求められるのです。

3-2.導入・活用の環境(体制)を整える

組織の中で介護ロボットを使うということは、1人で使う、あるいは、気心の知れた家族のような間柄で使うケースとは異なります。異なる考えや価値観を持った人が集まる組織の中で活用していくことになります。このような環境で介護ロボットを使うためには、共通の目標を掲げ、それを職員たちと共有しなければなりません。その目標の実現に向けて導入・活用の体制を整える必要があります。
 
さらに、可能な限り「皆を巻き込む」ことがポイントです。法人や施設内の1人や2人だけが担当するのではなく、少しでも多くの人を巻き込んだ方が良いのです。職員だけではなく、ご利用者様やそのご家族まで上手く巻き込むのです。これについては、例えばロボットの名前を公募する方法があります。この方法なら「導入するので使いなさい!」と上から目線ではなく、「遊び心」を持ってソフトに職員やご利用者様を巻き込むことができます。

3-3.計画・目標設定や達成度を管理する仕組みをつくる

重要なことは、「現状」の課題を把握した上で「あるべき姿」を描くことです。どこへ向かおうとしているのかをしっかりと定義することです。同じロボットを使っていても、施設によって目指す道が異なることもあるのです。
 
そして、「あるべき姿」に無理なく到達するための手段の一つとして、ロボットの活用を検討することです。決して使うことや操作方法を習得することが目的ではないのです。活用することは、「あるべき姿」へ達するための手段にすぎないわけですから。
 
「あるべき姿」を描き、どうやってそこに達成すべきか? 同時に、どうやって途中経過を管理・把握するのか? こうしたことを組織の中で、仕組みとして回していくことが欠かせないのです。

 

4.介護ロボットの「導入」を目的にせず、経営力の強化に活かそう

施設が取り組むべきことは、興味本位でいきなりロボットなどを導入することではありません。目標(例えば2~3年先を見据えたもの)を掲げて、そこへ到達するために業務全体のプロセスを改善する計画を立案することです。その計画の中に、ロボットの導入・活用を組み込み、これを戦略的かつ計画的に行うのです。
 
日常的にPDCAサイクルを回しながら業務プロセス改善に取り組むことになるのですが、人手に頼ろうとするだけではなく、可能な業務についてはテクノロジー(ロボットなど)を活かしながら取り組んだ方が良いと考えています。どの業務にテクノロジーを使うべきかを見極めるためにも、日常的に業務プロセスの改善に取り組むことが不可欠なのです。
 
介護ロボットを単なる「業務お助けツール」と認識し、周辺業務や関連業務に目を向けないのではなく、せっかくなら「業務プロセス改善」「労働環境の改善」「PR」「人材育成」など複数の視点から目標を掲げ、経営力強化の機会として、介護ロボットの導入・活用を捉えましょう。経営視点から最大限に活かすことが理想です。
 
だからこそ、まずは導入・活用に際し「何を目指すのか?」といった目的や目標を明確にすることが重要です。そうでなければ「導入すること」や「使うこと」が目的になってしまいます。

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