2021年1月19日更新
介護スキルを評価する「ものさし」に!キャリア段位制度とは
公益財団法人 介護労働安定センターが公表した「令和元年度介護労働実態調査」によると、「利用者及びその家族についての悩み、不安、不満等(複数回答)」として、施設系(入所型)で働く方の46.5%が「利用者に適切なケアができているか不安がある」と回答したことがわかっています。
介護施設の管理者様には介護スタッフの教育体制の整備が求められていますが、介護スタッフに必要な技術・知識は多岐にわたるため、ご利用者様に対するサービスの質の均一化・向上が図れるような教育を行うのは容易ではありません。
そこで今回は、介護スタッフの教育方法について悩んでいる介護施設の管理者様に向けて、「介護プロフェッショナルキャリア段位制度」をご紹介します。なお、同制度は人事評価にも活用できるため、「介護スタッフの職業能力をより公平に評価したい」と考えている管理者様もぜひご覧ください。
介護プロフェッショナルキャリア段位制度とは?
介護プロフェッショナルキャリア段位制度とは、これまで事業所や施設ごとに独自に行われてきた職業能力評価に、介護技術を基礎とした「共通のものさし」を導入することで、介護分野の人材の育成・定着を図ることを目指す制度です。
介護職員に求められる職業能力は、専門知識と現場での実践力の両方が重要であることから、介護プロフェッショナルキャリア段位制度では「わかる(知識)」と「できる(実践的スキル)」の両面から評価し、両方を満たすことでレベルが認定されます。
なお、実践的スキルを評価する際に活用する介護技術評価基準は、これまで難しいといわれてきた介護技術の明確化、明文化の研究成果(介護業務分類コードの開発、統計的分析に基づく「介護の見える化」)を受けて作成されています。評価項目は大きく「基本介護技術」「利用者視点での評価」「地域包括ケアシステム&リーダーシップ」の3つで、この大項目はさらに中項目と小項目、チェック項目に分かれています。
「評価基準」を活用することで介護職員の職業能力の向上を図ることが期待されています。
介護プロフェッショナルキャリア段位制度の創設背景
介護プロフェッショナルキャリア段位制度は、介護職員の人材定着を推進すべく、平成24年度に内閣府の「実践キャリア・アップ戦略」として創設された国レベルの施策です。「実践キャリア・アップ戦略」では「介護プロフェッショナルキャリア段位制度」のほかに、「カーボンマネジャーキャリア段位制度」と「食の6次産業化プロデューサーキャリア段位制度」も実施されました。このうち、介護プロフェッショナルキャリア段位制度は、平成27年度から厚生労働省の「介護職員資質向上促進事業(国庫補助事業)」として実施されています。
評価基準となる「レベル」は4段階に分けられる
「介護プロフェッショナルキャリア段位制度」の評価基準となる「レベル」は、エントリーレベルからプロレベルまで、「レベル1」「レベル2」「レベル3」「レベル4」の大きく4段階に分けられます。レベル4になると、「プロレベル」として認定されます。
レベル認定の実施状況
一般社団法人シルバーサービス振興会が公表した「介護プロフェッショナルキャリア段位制度新規レベル認定者誕生に関するお知らせ(2020年度11月審査分)」によれば、令和2年12月10日時点でレベル認定者の総数は6,912名。平成29年度の介護職員数(※)である約186万人と比べると、レベル認定者数は介護職員数の1%未満であるものの、平成25年度から平成29年度の新規認定者数は増加傾向にあります。平成30年度からは若干減少傾向にありますが、毎年度1,000人以上の認定者が誕生しています。人材育成にお悩みの介護施設様は、単なる知識の蓄積、技術の向上だけでなく、キャリア形成の手段として導入を検討してもよいかもしれません。
介護プロフェッショナルキャリア段位制度のしくみ
ここでは、介護スタッフがレベル認定を受けるまでの流れを説明します。まず、認定を受けるまでの流れを以下に図示しました。
レベル認定における「介護スキル」については、「アセッサー(評価者)」が評価を行います。アセッサーとは、OJT指導を行いながら自事業所・施設で働く介護スタッフの実践的スキルを客観的に評価する人を指し、一般社団法人シルバーサービス振興会が実施しているアセッサー講習を修了することで、その役割を担えるようになります。レベル認定を受けるには自事業所・施設にアセッサーを配置しなければならないため、アセッサーがいない介護事業所・施設様は、まずアセッサーの養成から取り組む必要があることを押さえておきましょう。
介護スタッフはアセッサーに実践的スキルを評価してもらい、レベル認定の基準に達した段階で、一般社団法人シルバーサービス振興会の事務局にレベル認定を申請します。申請後、一般社団法人シルバーサービス振興会の事務局がレベル認定委員会に付議し、レベル認定委員会の審議を経て、レベル認定を受けることができます。
なお、レベル認定を受けるには、以下に示す「知識」の評価基準を満たす必要があります。
レベル
「知識」の評価
レベル4
介護福祉士であること(国家試験合格)
レベル3
介護福祉士養成課程又は実務研修修了
レベル2
レベル1と同様
レベル1
介護職員初任者研修修了
レベル認定を受けるための費用
レベル認定を申請する際には手数料が発生します。
レベル4:9,000円(税別)
レベル3:8,500円(税別)
レベル2②:7,500円(税別)
レベル2①:7,000円(税別)
レベル認定を行う際は、アセッサー講習を修了した「アセッサー(評価者)」を配置する必要があるため、自施設にアセッサーがいない場合は、上記の手数料に加えアセッサー講習を受けるための受講料が発生します。講習の費用や内容については、「令和2年度アセッサー講習のご案内」をご確認ください。
レベル認定を受けるほど費用はかさみますが、同制度を導入することで介護職員等特定処遇改善加算を取得できる可能性もあります。そのほか、活用の仕方によっては助成金が出ることもありますので、くわしくは同制度のサイトに掲載されている「介護キャリア段位制度の導入支援策のご案内」をご確認ください。
介護プロフェッショナルキャリア段位制度を活用するメリットとは?
最後に、同制度を活用する主なメリットを3つご紹介します。
介護技術や指導内容の標準化が図れる
介護スキルを評価する際に活用する「介護技術評価基準」には、介護現場で求められるスキルの習得具合が客観的に判断できるようなチェック項目が148個示されています。チェック項目が細かく設定されていることから、同制度を導入すれば介護技術や指導内容の標準化を図ることが可能です。介護技術が自己流となりスキルに差が出ている、指導方法が異なる……といった悩みを解決する一助になるかもしれません。
OJTツールとして活用できる
介護技術評価基準には「バイタルサインの測定値を確認し、利用者へのヒアリング等による体調確認、意向確認を行い、入浴の可否について医療職等に確認したか」「バイタルサインや医療職の指示、既往歴などに基づいて、利用者の状態に応じた入浴方法が選択できたか」などと具体的にチェック項目が記載されているため、「できることと」と「できないこと」が明らかになります。何を重点的にレクチャーすればよいのか、教育方針を考える際の材料にもなる同制度は、OJTツールとしても活用できます。
人事評価に活用できる
公益財団法人 介護労働安定センターの調査によると、「労働条件等の悩み、不安、不満等(複数回答)」として、施設系(入所型)で働く方の半数以上が「仕事内容のわりに賃金が低い」と回答しています。このように介護スタッフの中には「賃金が低い」という悩みを抱えている方が多くいらっしゃることがわかります。
同制度を活用すれば公平な能力評価が可能になるため、昇給やボーナスを決める指標にすることができます。公正な判断がしやすくなり、処遇改善につながるかもしれません。
まとめ
介護プロフェッショナルキャリア段位制度の導入には、業務中に介護スタッフを評価するアセッサーの存在が必須になるため、アセッサーとなる方にとっては負担が増加する恐れもあります。しかし、より介護の現場に即した評価・人材育成に活用できる制度です。評価・人材育成のお悩み解消の一つとして、国が定めた「ものさし」を取り入れてみてはいかがでしょうか。
同制度についてくわしくは、シルバーサービス振興会「介護プロフェッショナルキャリア段位制度」をご確認ください。
参考資料:
一般社団法人シルバーサービス振興会「介護プロフェッショナルキャリア段位制度」
一般社団法人シルバーサービス振興会「介護プロフェッショナルキャリア段位制度|キャリア段位制度の概要」
一般社団法人シルバーサービス振興会「介護プロフェッショナルキャリア段位制度 被評価者手順書 平成24年度版(平成25年1月28日)」
「介護キャリア段位制度の進捗状況」
一般社団法人シルバーサービス振興会「介護プロフェッショナルキャリア段位制度新規レベル認定者誕生に関するお知らせ(2020年度11月審査分)」
一般社団法人シルバーサービス振興会「キャリアパスの構築と介護キャリア段位制度」
内閣府「実践キャリア・アップ戦略」
執筆:花王プロフェッショナル業務改善ナビ【介護施設】編集部
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