2022年6月21日更新
「バイステックの7原則」とは?~介護施設運営に欠かせない信頼関係を築く考え方~
介護施設のスタッフ様は、ご利用者様とそのご家族が安心できるように、あるいはチームが円滑に業務を進められるように適切なコミュニケーションを図る必要があります。そこで取り入れたいのが、対人援助の基本原則とされる「バイステックの7原則」です。
今回は、バイステックの7原則を介護施設の運営で活用する際のポイントについて解説します。
バイステックの7原則とは
バイステックの7原則は、アメリカの社会福祉学者フェリックス・ポール・バイステック(Felix Paul Biestek)氏が自著「ケースワークの原則(1957年出版)」にて提唱したケースワーカーの行動原理です。
ケースワーカーは、クライエント(援助を受ける人)のもつ問題を解決できるよう援助します。よりよい解決へ導くためには援助関係の構築が重要であり、その際にケースワーカーの行動に影響を与え、行動の指針となるのがバイステックの7原則です。出版から60年以上経った今なお社会福祉業界で活用されている考え方であり、介護福祉士の国家試験に出題されることもあります。
また、バイステックの7原則は対人援助に関わる職業に活用できる考え方であることから、福祉施設で働く職員が、ご利用者様とよりよい関係を築くにあたって意識すべき内容となっています。
バイステックの7原則の活用ポイント
ここからは、バイステックの7原則の内容と活用するためのポイントをご紹介します。本来の7原則は、ケースワークの基本として広く認識されているものですが、ここでは介護現場でのご利用者様との関わり方を例にしてご紹介します。
1.個別化の原則
「個別化の原則」とは、ご利用者様をかけがえのない個人として捉えるという考え方のもと、個人に合った関わり方を探し、対応するものです。
性別や年齢などの属性で判断せず、ご利用者様自身と向き合い援助する気持ちが大切です。同じ性別、年齢、介護度であってもニーズは異なります。それぞれの状況や困りごとを踏まえ、かつ個人の意思を尊重して援助する必要があります。
2.意図的な感情表出の原則
「意図的な感情表出の原則」は、ご利用者様の自由な感情表現を認め、それができるよう介護者が意図的に対応するという考え方です。
ポジティブ・ネガティブを問わず、どのような感情でも表現できるよう、介護者は安心できる環境の構築に努めます。そのためには、ご利用者様の内面に寄り添う気持ちが大切です。特にネガティブな発言や感情は抑圧されてしまいがちです。何かを非難する発言があったとしても、介護者は「いけないこと」と諭すのではなく、その感情を認めて耳を傾けることに徹します。同時に、なぜそのような感情を抱いているのかを理解することで、これまで気がつかなかったニーズを発見できます。
ご利用者様と目線を合わせる、感情を表出するきっかけとなる質問を準備するなどして、日ごろから感情に寄り添い向き合う体制を作っておきましょう。
3.統制された情緒的関与の原則
「統制された情緒的関与の原則」は、ご利用者様が否定的な感情表現をした場合でも、介護者は自身の感情をコントロールし冷静に対処することを求めるものです。
例えばご利用者様が何かに怒っているとき、あるいは悲しみを抱いているとき、その感情に引きずられると介護者は正しい判断ができなくなってしまいます。
ご利用者様の問題を解決するためには、客観的な視点と冷静な判断が必要です。感情に寄り添うがあまり、その感情にのまれ客観的な視点を失えば、問題解決に時間がかかったり、かえって問題が複雑化したりすることがあります。
介護者という立場を超えてしまわないよう、常に感情をコントロールすることが必要です。
4.受容の原則
「受容の原則」は、ご利用者様のそのときの感情や態度、個性、特性を否定せずに受け止めるという考え方です。
人はそれぞれ異なる意見や価値観、人生観を持っています。介護者自身と異なる考え方を持つご利用者様と接することがあっても、意見を否定したり、「こうしなければならない」という考えのもと命令したりしてはいけません。
ご利用者様の発言・行動は「実際に起こったこと」と受け止め、どのような考えからその発言・行動に至ったのかを考えて適切な援助を行いましょう。
5.非審判的態度の原則
「非審判的態度の原則」は、介護者側がご利用者様の感情や行動を評価したり、善悪の判断をしたりしないというものです。
介護者の価値観や考え方で決めつけて判断せず、ご利用者様自身で判断できるよう導きます。ご利用者様がどのように生きていくのか、生活していくのかをサポートするのが介護者であり、何事も押しつけはいけません。
6.自己決定の原則
「自己決定の原則」は、どのような場面でも、自らの行動を決めるのはあくまでもご利用者様自身であり、介護者は自己決定をサポートする立場であるという考え方です。
「今日はどのご飯を食べよう」「何をして過ごそう」など、日常にある些細な行動でも介護者が決めるのではなく、ご利用者様自身が決められるようサポートします。そのためには、ご利用者様の意思を尊重する姿勢が重要です。
7.秘密保持の原則
「秘密保持の原則」は、ご利用者様の個人情報やプライバシーを他人に漏らしてはいけないという考え方です。
個人情報保護については、「社会福祉及び介護福祉法」においても「社会福祉士又は介護福祉士は、正当な理由がなく、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない。社会福祉士又は介護福祉士でなくなった後においても、同様とする。」と定められています。
介護者は、ご利用者様の人生に関わることから、個人的な問題や悩みにも触れることがあります。これらはご利用者様の尊厳を守るためにも、他人に伝わることがあってはなりません。
バイステックの7原則の本質は相手のニーズ
バイステックの7原則は、クライエントが持っている基本的ニーズに沿った内容になっています。ニーズと対応する原則をまとめたのが次の表です。7原則をテクニックとして利用するのみではなく、ご利用者様のニーズを意識し、相互のコミュニケーションによって適切な援助を行っていくことが大切です。
援助関係を構築するなかで、ケースワーカーとクライエントの間には相互作用が生まれるとされています。この相互作用は、態度と情緒によるやりとりであり、3つの方向性をもっているといいます。どのような相互作用が生じるのか、介護者とご利用者様の間にあてはめてみていきましょう。
【第1の方向】ご利用者様から介護者へニーズが発信される
ご利用者様は、自身の問題や悩みを介護者に伝えるとき、さきほどの表に示したようなニーズを抱いています。また、自らが抱える問題を打ち明けなければならず、それに伴う恐れや不安も抱いています。
【第2の方向】 介護者がご利用者様に反応する
ご利用者様のニーズを理解し、ご利用者様の思いを尊重して受け止め、反応します。反応は言葉だけでなく、態度でも示すことができます。
【第3の方向】ご利用者様が介護者の反応に気づく
介護者の寄り添う態度に気づき、言葉や態度、行動で反応しようとします。
この3つの作用が互いに響き合うように関連しながら進むことで、よりよい関係性が築かれます。ご利用者様との関係のみならず、スタッフ様同士でも同じことが言えると考えます。
バイステックの7原則は職場の人間関係にも役立つ
介護現場におけるご利用者様との関わり方に活用できるバイステックの7原則ですが、スタッフ同士のコミュニケーションに活用することで、良好な関係を築けるようになります。
公益財団法人 介護労働安定センターの「令和元年度 介護労働実態調査の結果と特徴」によると、介護関係の仕事を辞めた理由として「職場の人間関係の問題」が上位に挙げられています。職場での人間関係に悩んだとき、どう接すればよいのかわからないときには、バイステックの7原則を用いて相手を決めつけず、受け入れ尊重する姿勢で接してみましょう。研修で学ぶ機会を設けるなどして、バイステックの7原則を取り入れ、施設内で共通認識をもつこともよいと思います。
また、バイステックの7原則は人材採用の場面でも役立ちます。面接官が「個別化の原則」に基づいて、細かな配慮や準備をもって面接にあたれば、候補者は自分が個人として捉えられていることを感じ、自信をもって自分を表現できます。
まとめ
簡単にバイステックの7原則を見てきましたが、ご利用者様やそのご家族への対応、職場の人間関係の中で意識することにより、さらなる信頼関係を築くことができるでしょう。安心できる環境と質の高いサービスを提供するために是非お役立てください。
参考:
・Felix P. Biestek (原著) 尾崎 新 (翻訳)「ケースワークの原則」誠信書房社,2006
・e-GOV法令検索「昭和六十二年法律第三十号 社会福祉士及び介護福祉士法」
・公益財団法人 介護労働安定センター「令和元年度 介護労働実態調査の結果と特徴」
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