コラム

2019年2月26日更新

シリーズ:介護現場で使える!コミュニケーション術(全5回)

【第2回】無意識に使ってない?ご利用者様を不安にさせる言葉がけ

著者/尾渡順子(おわたり・じゅんこ) 介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員、認知症ケア上級専門士、介護予防指導士

声がけのNG事例5選とフォローのポイント

第1回ではご利用者様と信頼関係を結ぶコツについて述べました。まずは「相手を知ろう」と意識してみてください。相手に関心を持つことがコミュニケーションの出発点です。共通点や意外性が見えてきたらしめたもの。心の距離が一歩近づきました。
関係作りは時間がかかるかもしれませんが、焦ってはいけません。私たちはご利用者様の生活を護る介護職。ご利用者様から「この人なら受け入れてくれる」と思っていただける存在になるために、少しずつ距離を縮めていきましょう。
 
しかし、距離を縮めている間に、慣れから来る無神経な言葉がけや思いもよらない誤解が、せっかく築いた信頼関係を壊してしまうことがあります。そこで今回は「これは絶対に使ってはダメ!ご利用者様を不安にさせる『NG言葉がけ』」について学びます。
さあ、幾つかのNG事例をご紹介します。あなたならどう答えるか、考えてみてくださいね。

■「汚いでしょ」

  • NG事例「汚いでしょ」を表す2コマの漫画。  1コマ目。衣類が排泄物で汚れてしまっている利用者に、職員が「Aさん、パッドを交換しましょうか」と声をかけるが、「まだきれいだからいいよ」と答えている。  2コマ目。職員は「でも濡れていますよ。ちょっと臭うし…汚いでしょ?」と発言。利用者は「いいって言ってるだろ!」と声を荒げている。

相手を嫌な気持ちにさせる言葉は使わない
汚い、濡れている、汚れている、臭う等、マイナスイメージの言葉は使わないようにしましょう。恥をかかされたと思い、余計かたくなに拒否をする方もいます。

【適切な対応は?】
ご利用者様の気持ちを傷付けないように、「さっぱりしますよ。すっきりしますよ」などプラスイメージの言葉を使います。あるいは「これから散歩に行きますから」「10時から音楽療法がありますから」など目的を伝え、「これからお出かけだから、トイレに行くとすっきりしますよ」などと言葉をかけましょう。
認知症等で介護拒否の激しい人は、すっくと立ち上がったときに、「ついでに寄っていきませんか?」とトイレ誘導するのも一つの手です。

■「はーい、シャンプーしますよー」

  • NG事例「はーい、シャンプーしますよー」を表す2コマの漫画。  1コマ目。入浴介助の場面で、職員が「はーいシャンプーしますよー。目をつぶってくださいね」と言いながらシャンプーを始める。  2コマ目。ご利用者様は「あっ目に入った!痛い痛い!」と訴えるが、職員は「痛くない痛くない、大丈夫!」と答えている。

確認と同意
全く、言語道断ですよね。でも実は入浴介助の失敗例としてよく聞かれる会話です。入浴介助に限りませんが、利用者に介助をおこなう際は、「~してもよろしいですか?」と聞くようにしましょう。

【適切な対応は?】
「シャンプーしますよー」と言って有無を言わせず介助に取り掛かってしまうと「今日は体調が悪いのに」「昨日、洗髪したばかりなのに」などの本音を伝えられず、断りたくても断れない場合があります。「シャンプーしてもよろしいですか?」と聞き「はい」と返事を得ることで、初めて相手に「確認」をして「同意」を得たことになります。

同じように、車いすを突然押すのではなく「押してもよろしいですか?」と尋ねる、トイレで「パンツを下ろしてもよろしいですか?」と確かめるなど、デリケートな介助は特に「相手に確認する」のが常識です。ご利用者様の身体を触ったり動かしたりするのですからね。特にシャンプーとなると目が見えない状態で頭上からお湯をかけられるわけです。入浴介助も慣れてくるとなかなかそういうことに気付かなくなってくるので注意をしましょう。

ただ、相手が完全に介助を受け入れていて確認をする必要がないのであれば「シャンプーしますね」と言っても良いと思います。

■(何も言わず)身体をごしごし

  • NG事例「何も言わず)身体をごしごし」を表す2コマの漫画。  1コマ目。入浴介助の場面で職員が「体洗いますねー」と声をかけるが、ご利用者様は無言。  2コマ目。職員は「えーと、前のほうも」と考えながら体の前側を触ろうとすると、ご利用者様に「そこは触るんじゃない!」と怒鳴られてしまう。

どこまで手伝うか確認
これも入浴の失敗例としてよく挙げられます。洗身の介助をする際、最初に「どこを手伝って欲しいか」「どこまでお手伝いをするか」を相手に聞くようにします。

【適切な対応は?】
人間、誰でも「触られたくないところ」はありますよね。「Bさん、前の方はご自分で洗いますか?それともお手伝いしますか?」と尋ね、陰部等はなるべく自分で洗っていただくようにします。洗えていないようなら、ここで初めて「手の届かないところをお手伝いさせてくださいね」と言うようにします。

■「Bさんまたのぼせますよ!」

  • NG事例「Bさんまたのぼせますよ!」を表す2コマの漫画。  1コマ目。ご利用者様がのんびり入浴している。職員は「Bさん、もう10分入ってますよ」と声をかけるが、まだ入っていたい様子。  2コマ目。職員が「Bさんこの間もひっくり返ったじゃないですか!またのぼせますよ!知りませんからね!」と声をかけると、「どうだっていいじゃないか!そんなこと!」と怒りだしてしまう。

相手を責めず自分の気持ちを言う
人間、自分が悪いと思っていても、相手に責められるとつい反発をしたくなってしまうことがあります。
その際は相手を責める言い方でなく、「私は」と自分を主語にして気持ちを伝えると「怒りの矛先」が相手に向いていないことがわかり、素直に受け入れてくれる場合があります。

【適切な対応は?】
相手を責めずに自分の気持ちを伝えましょう。
「Bさんがこの間みたいに具合悪くなっちゃったらと思うと、私、心配で……」この言葉で「そうか、悪いな」とすぐ湯船から出てくださった利用者さんもいました。
このテクニックは皆さんのご家庭でも応用出来ますよ。例えばお子さんが言うことを聞かないとき、「だからあなたはダメなのよ」と言ってしまった経験はありませんか。このようなケースでは「私」を主語にして「私はあなたの行動に悲しくなるの」と伝えます。「あなたはダメ」と言われてプイと2階に駆け上っていくようなお子さんが、あなたの言葉に耳を傾けてくれるかもしれません。

■「今忙しいから」

  • NG事例「今忙しいから」を表す2コマの漫画。  1コマ目。ご利用者様がナースコールで「毛布を持ってきてくれる?寒いの」と伝えるが、職員は「いまちょっと忙しいんです。少し待っててください」と答える。  2コマ目。5分後。ご利用者様が再びナースコールで「まだ?寒くて風邪ひきそうなんだけど…」と伝えるが、職員は「だから何度もコール押さないでください!わかってるんだから!」と怒りだす。ご利用者様は心の中で「もう信用できないな…」と感じている。

すぐに駆け付けられない場合は理由といつ行けるかを告げる
これも夜勤でよく見かけられるシーンです。少ないマンパワーなのに、複数のコールが一度に鳴りパニックになる経験をなさっている方もいらっしゃるのでは?
こういう場合、まずは「何故駆けつけられないのか」の理由を伝えてください。

【適切な対応は?】
「Aさん、今、Bさんが転んでしまってすぐに駆け付けられないんです。すぐ行けなくてごめんなさいね。5分経ったら毛布を持っていきます」と理由を伝えましょう。そうすれば、「そうだったの。わかりました。じゃあ次にお願いね」と快く待ってくださるかもしれません。もちろん必ず約束は守ってくださいね。
また、何度も何度もコールを押す方は、「不安」が強くて押している場合があります。コールを押す前に相手に安心感を与えるのが特効薬だったという話があります。こまめに居室へ顔を出して「大丈夫ですか?」「何か困ったことがありますか?」などと声をかけ、安心していただきましょう。

表現の一工夫でスムーズな会話に

さて、介護現場でよく見られる言葉がけの「NG言葉がけ』をご紹介しましたが、他にも相手に不安を抱かせる話し方が幾つかあります。

■質問攻めは尋問と同じ

例)「何故、音楽療法に参加されないのですか?」
一見、ていねいな問い掛けのように見えますが、この問い掛けは暗に「音楽療法に参加すべきだ」「参加しないのはおかしい」と相手を責めているように受け取られることがあります。
むしろ「午後はどのように過ごしたいですか?」と、音楽療法の時間に他にしたかったことがあるか?どのように過ごしたいか?を聞いた方がベターです。

■評価的な質問

例)「しばらくレクに出なかったけど、出てみたら楽しいでしょう?」
これも「レクに出るのが当たり前だ、出るべきだった」と暗に相手を責めているように聞こえます。こう聞かれてしまうと、つい「そんなに楽しくなかったよ」と答えたくなってしまいますね(苦笑)。
「レクは楽しかったですか?」と普通に聞けば、素直な返事が返ってくることでしょう。

■否定的な質問

例)「どうして立てなくなっちゃったんでしょうねえ」
これも「立てなくなったこと」を責めているように聞こえてしまいます。
「どうやってお手伝いしたら、立ちやすいですか?」と聞けば、「右足に力が入らない」等具体的に介助の仕方を教えてくれることも。

いかがでしたか?

今回は、自分では気付かないうちに相手に不安を与えてしまう言葉がけ、入浴やトイレ、居室、などさまざまな介護現場で繰り広げられる『NG言葉がけ集』についてお伝えしました。
さて、次回の「介護現場で使える!コミュニケーション術」では「『話し上手は聞き上手』-介護現場における傾聴」についてご紹介します。

著者プロフィール尾渡順子(おわたり・じゅんこ)
介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員、認知症ケア上級専門士、介護予防指導士、介護教員資格等を所得。介護技術や認知症介護、コミュニケーションに関する研修講師も務める。
2014年、アメリカ・オレゴン州のポートランドコミュニティカレッジにて、アクティビティディレクター資格を所得する。2018年4月より医療法人中村会 老健あさひなに勤務し認知症介護レクリエーション実践研究会を立ち上げる。現場において高齢者に「人と触れ合う喜び」を伝え、介護従事者に「介護技術としてのレクリエーション援助」を広める一方で、介護情報誌やメディアにおいて執筆などを手掛けている。著作として「みんなで楽しめる高齢者の年中行事&レクリエーション」(ナツメ社)、「おはよう21増刊号 楽しい!盛り上がるレクリエーション大百科」(中央法規出版)、「介護現場で使えるコミュニケーション便利帖」(翔泳社)「介護で使える言葉がけシーン別実例250」(つちや書店/滋慶出版)「笑わせてなんぼのポジティブレクリエーション」(日総研)「DVDレク担さん必見!もう悩まない 笑顔を引き出す介護レク入門」(BABジャパン)などがある。

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