コラム

2019年5月28日更新

シリーズ:介護現場で使える!コミュニケーション術(全5回)

【第3回】話し上手は聴き上手 相手の笑顔を引き出すために【前編】

著者/尾渡順子(おわたり・じゅんこ) 介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員、認知症ケア上級専門士、介護予防指導士

第3回は前後編に分けて、「傾聴」についてお届けします。
前編では、ご利用者様に寄り添って話を聴くことの効果と、その重要性をご紹介していきます。

自分の身に置き換えて、気持ちを推し量ろう

話し上手は聴き上手、とはよく言ったものです。聴き上手な人は相手から「この人は話しやすい人だ」と思われやすい、要するに「人から好かれやすい人だ」と言えるでしょう。ご利用者様と上手にコミュニケーションを取っていく上でも「聴き上手」になる必要があります。相手はあなたの「聴きたいんだ」という姿勢を受けて、あなたのことを「受け入れよう」と思うのです。さまざまなテクニックを知り学んでいきましょう。

介護現場には、伝えたいことをうまく表現できないご利用者様もたくさんいます。介護現場のコミュニケーションには、そんなご利用者様の「痛い、しんどい、痒い、つらい、いつもと何となく違う」を受け止め、医療職につなぐような「命と健康を守る」連絡の意味合いもあります。また、新しい人間関係やコミュニケーションに対して背を向けて「おしゃべりは嫌い、素直になれない、心を開けない」など頑なに心を閉ざすご利用者様の気持ちを解きほぐし、その場の雰囲気を和ませる意味合いもあります。

特に私たちは、トイレや入浴で介助をする際など、ご利用者様が見られたくないところを見たり、触られたくないところを触ったりする場面がたくさんあります。自分の身に置き換えてみてください。信頼していない人にそんな仕事を委ねるのは非常に切ないものです。信頼関係を築くために、上手にご利用者様の気持ちを引き出し、思いの丈を察する技術を身に付けていきましょう。

まず基本の基本。笑顔と挨拶

かつて心理学の世界では「感情が行動を促す」と言われていましたが、リチャード・ワイズマンという心理学者の研究により、「感情は行動によって生み出される」と考えられるようになりました。「As if(アズイフ)の法則」と言い、最新の医療機器使用や実験の結果、科学的に証明された研究です。

「人は楽しいから笑うのではなく、笑うから楽しいのだ」
「悲しいから泣くのではなく、ハンカチを渡され涙が出てくるのだ」
「怖いから逃げるのではなく、逃げるうちに怖くなるのだ」
という例でイメージが湧くでしょうか。

ちょっと乱暴な言い方ですが、笑っているふりをするだけで楽しくなれることもあるわけです。
「幸せなふりをしないと幸せになれない」――これは、しかめっ面で愚痴の多い人にも応用が効くと思います。

私はフロアに到着すると、まず満面の笑みで「おはようございます!」と挨拶をします。
「笑顔と挨拶」には人間性がにじみ出ます。ご利用者様は職員をよく見ているので、基本の笑顔と挨拶ができなければ「挨拶もできないような人間なんて!」「何だか怖い顔しているから近寄りがたいわ」と思われ距離を置かれてしまいます。

反対に、笑顔を見せると不思議なことに、つられて相手も笑顔になってしまいます。笑顔には「私は皆さんの味方ですよ。私を信じていいですよ」と言葉を使わず相手に伝える魔法が備わっているのです。また、相手まで笑顔にしてしまった上に「楽しくしてしまう」という副産物も生じます。フロアが落ち着いて穏やかなとき、もしかしたらそこには「笑顔の連鎖」が生まれているのかもしれません。

話を聴いてくれるだけで救われる

私たちも人に悩みを話すときに、「相手から何か答えをもらいたいと思っていない、実は自分の考えをまとめるために話している」ということがありませんか?

以前、娘が散々自分の愚痴を話して「あ~あ、すっきりした。もう寝る」とすぐ布団にもぐってしまったことがあります(笑)。そのとき、実は人間は、人に話を聴いてもらうだけで重い荷物を下ろすことができるのだと思いました。

施設内では、ご利用者様同士で仲良くなり、お互いに相談できる間柄であれば良いのですが、なかなか友達を作れない方もいらっしゃるでしょう。職員とならお喋りできるけれど、他の時間はいつも一人でポツンとしている、ご家族も忙しくてなかなか面会に来られない、あるいは面会に来ても忘れてしまい、寂しい思いをしている……。そんな方はいらっしゃらないでしょうか?

生活する上で助けてほしいこと、相談に乗ってほしいこと、思いを伝えたいことは山のようにあるはずです。しかし職員が忙しそうにしているのを見て「こんなことくらいで手を煩わせたくない」と遠慮してしまう人も多いのです。話だけでも聞いてほしい。そんな風に思っている人がたくさんいることを、私たちは忘れてはいけないと思います。そんなとき「傾聴ボランティア」という存在は、ご利用者の気持ちの救いとなってくれますよね。

傾聴とは人の話をただ聴くだけではありません。相手が話したい事、伝えたいことを汲み取って理解することです。「お話をじっくり聴くひと時」は私たちにとっても、相手から「この人ならわかってくれる」「私が身体をお任せしてもいい人だ」と思ってもらえる機会でもあるのです。忙しい手を止め、他の職員に一言「ちょっとAさんのお話を聴いてきますね」と声を掛けられる時間を作れるよう、職場内で話し合う必要があります。

あなたは聴き上手?

さあ、ここでクイズです。傾聴をする上でどのようなテクニックが必要でしょうか。□□の中には何という言葉が入るでしょう?

① □□ずく

② □□□□を打つ

③ くり□□□

④ □□換える

⑤ □□□□をする

⑥ □□らう

※□には平仮名が入ります。

①「うなずく」

聴き手であるこちらが無反応だと、話し手は「異論があるのかな」「理解できていないのかな」「興味がないのかな」と思ってしまいます。

②「あいづちを打つ」

①と同じ理由で必要なテクニックです。相槌は「私はあなたの話をちゃんと聴いていますよ」という肯定的な姿勢を伝えます。「はい」「ええ」「はぁ」「へえ」「ふーん」「ああ、そうですよね!」「うーん、そうですよねえ」「うんうん」「なるほど」「そうなんですか」などさまざまな相槌の言葉がありますね。相槌を打つことで相手は「受け入れられている」と感じます。
特に「楽しい!」「悲しい!」「不安だ!」という内容の場合は「聴いてほしい気持ち」が大きいわけですから、相槌を多めにすると相手は話しやすくなります。

言葉だけでなく、大きく目を見開いて「えー? 本当に?」と大げさに驚いてみたり、真剣に話しているときは神妙な顔つきで頷いたり、時に大きく膝を叩いてみたり、少し間をおいて「うーん」と唸ってみせたり、相手が楽しく話を続けられる工夫をしていくと、あなたは立派な「傾聴マスター」になれるはずです。

③「くりかえす」

例えば以下の会話のように相手が話したことを繰り返すことによって、相手の話をしっかり聴いていることが伝わります。

例)
ご利用者様 : 「朝の5時頃から痛みが出てきちゃってさ」
あ な た : 「朝の5時から痛みが? それは大変でしたねえ」

相手が言った言葉をそのままを繰り返すだけでも、満足してもらえることが多いのです。

④「いい換える」 ⑤「しつもんをする」

④も⑤も相手の話をきちんと聴いていないとできません。

例)
ご利用者様 : 「右手のね、指のところがなーんかじんじんしてね。真ん中の指ね。3日前から」
あ な た : 「3日前から右手の中指が痛いんですね。3日も前から?」

言い換え、質問をすることは、大事な情報をまとめてあげたり再確認したりすることにも役立ち、しかも「あなたの話をきちんと聴いています」とアピールをすることにもつながるわけです。

⑥「ねぎらう」

労う、褒めることは大事です。以下の例のように、相手の存在・価値を認める言葉を使うようにします。

例1)「苦労されたのに頑張ってこられたのですね」
例2)「女手一つでお子さんを大学に……素晴らしいですね」

些細な言葉でも、人は自己肯定感を抱きます。「ああ、話して良かった」と感じるものなのです。

意外と抜けちゃう「頷き、相槌」

例えば相手が夏祭りの話を始めると、「あ、夏祭りの会議は明日だったっけかな、何時だったっけかな?」なんて自分自身の用事を思い出したり、相手がキャンプの話を始めると、自分が去年行ったキャンプのことを思い出したり、あるいは会話の途中で次の喋る言葉を考えたりして、相手の話を聴かなくなることが多々あるものです。

前後の話で内容の辻褄が合ったとしても、相手からすると頷きも相槌もなくなるので「この人わかっているかな? 聴いているかな?」と不安になってきます。
人の話はきちんと聴くのが礼儀です。ましてや仕事をしながら相手の話は上の空、なんて態度だと、相手は話す気持ちが失せてしまいます。

前編では、傾聴することの大切さをご紹介しました。
後編では、より具体的な傾聴のポイントと、傾聴の「OK例」と「NG例」をご紹介します。

著者プロフィール尾渡順子(おわたり・じゅんこ)
介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員、認知症ケア上級専門士、介護予防指導士、介護教員資格等を所得。介護技術や認知症介護、コミュニケーションに関する研修講師も務める。
2014年、アメリカ・オレゴン州のポートランドコミュニティカレッジにて、アクティビティディレクター資格を所得する。2018年4月より医療法人中村会 老健あさひなに勤務し認知症介護レクリエーション実践研究会を立ち上げる。現場において高齢者に「人と触れ合う喜び」を伝え、介護従事者に「介護技術としてのレクリエーション援助」を広める一方で、介護情報誌やメディアにおいて執筆などを手掛けている。著作として「みんなで楽しめる高齢者の年中行事&レクリエーション」(ナツメ社)、「おはよう21増刊号 楽しい!盛り上がるレクリエーション大百科」(中央法規出版)、「介護現場で使えるコミュニケーション便利帖」(翔泳社)「介護で使える言葉がけシーン別実例250」(つちや書店/滋慶出版)「笑わせてなんぼのポジティブレクリエーション」(日総研)「DVDレク担さん必見!もう悩まない 笑顔を引き出す介護レク入門」(BABジャパン)などがある。

編集:花王プロフェッショナル業務改善ナビ【介護施設】編集部

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