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コラム

2022年11月22日更新

介護施設に必要な研修とは?対象と目的を明確にして効果を得る

監修者 本間義昭氏のプロフィール写真

著者プロフィール/本間 義昭(ほんま・よしあき)
株式会社キャリアファクトリー21代表取締役/マスター講師
過去、金融市場の営業や外資系生保エージェントとして経験を積み、税務・財務・法務案件を解決するコンサルティング企業で、経営コンサルや医療コンサルの実務と知識を習得。2019年5月より2020年1月まで介護老人保健施設で理事長代行として職員の定着に尽力し、半年間に渡り離職者0を達成する。「中堅・管理職・リーダー育成等階層別研修」をはじめとした「階層別研修」「リーダーシップ」「経営業務改善」「意識改革」「コーチング」等のジャンルで指導を行い、幅広い年齢層の人材育成に力を注ぎ、公益財団法人等の諸団体をはじめ介護施設や企業等で指導・セミナー及び講演を多数行う。

経験も考え方も違う人たちが集まる組織では自分の役割を果たすために必要なスキルを習得するための研修が効果を発揮します。ただし研修対象者を明確にしなければ逆効果(ムダに)になることもあります。

そこで今回は、介護施設向けに数多くの人材育成研修を行っている本間義昭氏に、高齢者介護施設で行うスタッフ向け研修の目的や効果について解説していただきました。

人を定着させるために研修が必要な理由

組織を動かしていくために、共通の目標意識と目的意識を共有することが大切なのは、高齢者介護施設を管理運営されている多くの方が理解していると思います。同時に、共通の意識に向かうべく職員全員が同じベクトルを持つことも重要です。
しかし、人手不足からくる日常業務の忙しさに視点が据えられ、本来あるべき事業所の持つ目的にフォーカスされず、大切なことを見失う結果になっていることを時に見かけることがあります。

そこで効果を発揮するのが研修となりますが、当然、実施すればいいというものでもありません。どのような研修を行えばより効果的なものが得られるのか、自分たちが求めるものが手に入るのか、事業所の実態を精査し、研修プログラムを組み上げてから実施することが重要となります。
また、研修の目的は一人ひとりのスキル向上のみならず、事業所全体のモチベーションや外部からの評価にも大きくつながっていきます。効果的な研修を行うことは離職率や職員間のコミュニケーションにも関係してくるでしょう。

以前、あるスタッフから「良い事業所の基準とは何か?」という問いかけがありました。私なりの見解になりますが、良い事業所の基準とは「スタッフの一層の成長を促し、事業所の目指すべき方向を導き出せること」と考えています。
次からは、それを得るためのフレームづくりを解説していきます。

研修対象と目的を分けて効果を上げる

研修の目的はさまざまありますが、このコラムでは目的を大きく以下の3つに分けて考えていきます。

  • 人材の定着のための研修
  • 接遇マナーやコミュニケーションなどの研修
  • 各階層における階層別研修

人材の定着のための研修は管理者階層に

人材定着目的の研修にはリーダー研修や面談力を向上させる研修、メンタルケア研修などが挙げられます。こうした研修は主に施設の管理者からリーダークラスまでの管理者階層が受講すると大きな効果を得られるでしょう。

この研修で特に注視したいポイントは「相手の心理を知る」ことです。面談を行う際など、この意識がなければ人材定着にも影響してしまいます。また、リーダーシップとは何かという本来の意味を知り、マネジメント能力を培い、事業所運営を円滑にするための能力を高めるのにも効果を発揮します。

■リーダーシップとマネジメントは違う

私が研修に関わる中で、マネジメントはある程度知っていても、リーダーシップと混同している管理者の方も多々おられました。
マネジメントとは一定の業務サイクルを円滑に回すこと、リーダーシップは新しい形を生み出す際にその力を発揮することを主に置いています。例えるなら車の両輪の関係とも言えますし、その両方を会得することが管理者としてより成長できると考えています。
そのため、リーダーシップとマネジメントの違いを明確に把握し、研修に取り組むとより効果を得やすくなります。

■研修実施のタイミング

研修を行う時期については新任管理者の任命を行う3カ月前が目安です。すでに管理者階層で業務を行っているスタッフに対しては次年度の新入職員が入ってくる前の年明け1月から年度末が望ましいでしょう。研修の成果が表れるのは少なくとも数カ月を要します。そのためには事前の準備と計画が大切といえます。

接遇マナーやコミュニケーションなどの研修は全階層に必要

接遇やコミュニケーションに関する研修として、チームコミュニケーション、チームビルディング、アンガーマネジメントコミュニケーション、ご利用者様・ご家族様との信頼関係構築、他職種連携などが挙げられます。これらの研修は全階層が対象になりますが、施設全体での意識改革をテーマに据えて実施するのも1つの方法です。チーム力とは何か? 傾聴力、応答の技術やお互いに認め合うための褒めや叱りの技術など、個別のテーマに即した研修体制を組み上げることも大切です。

ここで挙げた研修は、一言でいえば人間力の向上を目的にしています。1つのテクニックを身に付けたとしてもそれが全てではありません。研修で得たさまざまなテクニックを上手に使うことで、人としての魅力が増していきます。

■研修実施のタイミング

全階層に対して研修を行う際は、大型のイベントが控えている時期は避けるべきでしょう。理由は、職員の意識が無意識のうちにイベントに向いてしまうためです。全階層に向けた研修は施設全体のスキルアップにつながります。そのため常に事業所の抱える問題点を分析・把握し、おおむね2カ月の間隔を空けながら研修を実施し、該当する問題点を改善していくのが望ましいといえます。
中には間隔を空けずに詰め込みで複数の研修を行う事業所もありますが、そうすると学んだことをアウトプットして身に付けることがおろそかになってしまいます。「研修を行うこと」が目的となってしまわないよう、実施するタイミングには注意が必要です。

階層別研修は方向性により対象者が異なる

階層別研修は、未経験から1年目では介護職員初任者研修、2年目から介護福祉士実務者研修といったようにキャリアパス制度をイメージして分けると分かりやすくなります。
経験を積むほどに認定介護福祉士やマネジメント職、ケアマネジャーなどの専門職へと成長していきますが、資格の取得をメインに置いているケースと事業所全体のボトムアップを期待するスタイルでは考え方は大きく異なってきます。
資格の取得をメインに置くのであれば対象者を絞ればよいですが、事業所全体のボトムアップを期待する場合、「マネジメント側から中堅クラス」までと「全職員」の2つに分けるくらいで良いでしょう。

階層別研修でも「人間力の向上」は注視したいポイントです。また、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)の意味や、サクセスフルエイジングの考え方をしっかりと共有することも忘れずに行いたいポイントです。

■研修実施のタイミング

階層別研修においては年に複数回ある面談後、1カ月以内に実施することをおすすめします。面談の中で今後の方向性を本人に出してもらい、その上で何が足りないのか、これから先どのようなステップアップを望むのか、本人のモチベーションを上げながら行うことが大切だと考えます。
事業所のルールで「何年目はこの研修を受ける」といった押し付けをしないこともポイントです。人は押し付けられた勉強は義務と感じ取りますが、自分自身で決めた事柄に対してはチャレンジ精神が発揮され、それがモチベーションとなります。

研修効果を上げるには事前準備も大切

研修効果を上げるために事前準備は非常に大切なことです。おおまかな流れを説明していきます。
まず施設長をはじめとした管理者側は、施設・組織の現状分析や課題認識を踏まえて、自施設において解決すべき課題を挙げていきます。
次に「課題を解決する」という観点で研修を受けるターゲット層を決めます。職種、役割、経験年数やスキルレベルなど、できるだけ具体化していきます。
最後に研修を外部講師に依頼するか内部講師で行うかを決めます。研修テーマに詳しい講師にお願いするのが一般的ですが、テーマによってはスタッフを講師にする方法もあります。その際の準備のポイントは次に述べます。

講師選びは慎重に

外部講師に依頼して研修を行う際は、課題や問題点の洗い出しを事業所トップが講師とともに精査し、個別のテーマを選別することでより高い効果を得られます。

スタッフを講師にすると教える側の成長にもつながりますし、介護技術であれば受講者はベテランスタッフの持つ経験値を習得できるので、現場により高い効果をもたらします。対人関係に視点をおいた研修会でもスタッフが講師を務められます。特に傾聴や接遇といった一般的な内容であれば、外部で研修も開催されているので、そこに参加したスタッフが講師として指導に回ることも可能です。

スタッフを講師にする際のポイントは育成と固定化

スタッフを講師にする際は指導スキルが問われる点に注意しなければいけません。
例えば外部で開催された研修で知った知識をテキストの棒読みで伝えるだけでは、他のスタッフが成長することはないでしょう。また、職員間という仲間内で行う内部研修では「なあなあ」な雰囲気を無意識のうちに作り出してしまうこともあります。

内部研修を進めたことはあるけれど、企画ややり方は講師役のスタッフにお願いした結果、上手く機能していないという意見をよく耳にします。
「指導は技術」です。もし今後、内部研修を積極的に進めていくのであれば、スタッフが指導するための技術を学んでいないということに着目し、内部講師を育てることから始めてみてはいかがでしょうか。例えば、内部講師の候補者は必ず研修会に同席させ指導技術の成長を促します。そしてプロ指導の下で内部講師の育成を行い、内部研修を実践していきます。
時間はかかるかもしれませんが、事業所にあった効果とスタイルを確立することが結果的に最短コースにつながっていきます。

人選に関して、経験値が高い人を選任することに越したことはありませんが、それ以上に、新しい技術の習得を継続して行っている人に講師を任せることをおすすめします。今までのやり方を踏襲した上で、新しい技術を浸透させやすくなります。
また指導スタッフは固定化することも効果的です。少なくとも技術系1名、対人関係スキル1名、全体を見通せるまとめ役1名の計3名体制にすると多少なりとも余裕のある体制で研修を進められるでしょう。

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